'97ファーストステージ・データ分析速報


まず最初は、各チームの「勝ち点勝率」と「指数(ゴール数/失点数)」から


このグラフでは、棒グラフが「勝ち点勝率」、折れ線グラフが「指数」です。

勝ち点勝率ですが、勝ち数だけを比べた場合「勝ちの内容」まで言及することができないため、(全てのゲームを90分以内で勝った場合の)最高勝ち点数と実際の勝ち点数を比較することにしました。また指数ですが、この、総ゴール数を総失点数で割った数字は、基本的には「得失点差」と同じ性格のものですが、それでも試合数が多くなれば、単純な得失点差ではあらわしにくい「得点/失点のバランス」から、そのチームの傾向がつかみやすくなります。

例えば、同じ試合数で「A」チームが150ゴールを挙げ、100失点したとします。それに対し「B」チームは100ゴールに50失点。この両チームの「得失点差」はともに「+50点」ということになります。ただ、それを指数であらわすと、「A」チームの「1.5」に対し、「B」チームは「2.0」。このことで、「B」チームの方が、攻守のバランスの良いチームだということが一目瞭然。つまり、得失点差が、単なる「数字の差」のみを表すのに対し、「指数」は「攻守のバランス」を表現できるということです。それに「一試合平均ゴール・失点」を合わせれば、より詳細で正確な分析ができるというわけです。「得失点差」は「成績」を決めるための「数字」。それに対し、ゲーム内容の分析に必要なのが「ゴール/失点・指数」というわけです。

普通、勝率と指数はほぼ比例します。ただ、ファーストステージの結果は、少し違っていました。二位になったフリューゲルスの指数が、チャンピオンのアントラーズを上回っていたのです。まあこの差は「誤差レベル」ですが、今回の優勝戦戦が非常に拮抗したものだったことの証明といったところです。また、6位だったジュビロの「指数」が、4位、5位だったベルマーレ、マリノスのそれを大幅に上回っていることも目立っています。それは、ジュビロの負けが僅差であり(ガンバ戦を除き、すべて1点差負け)、勝つときは大勝(2点差ゲーム=3試合。それ以上の点差勝ちゲーム=2試合)だったことによります。内容ではいいところを見せたのですが「勝負」で負けてしまったというところでしょう。

とにかく、勝つためには「攻守のバランス」が重要だということが一目瞭然ですよネ。ゴールを量産しても、失点が多ければ上位にいけないし、その逆も同様の結果になるということです。ただ私は、どちらかといえば「優れた守備」が成功のための出発点だと考えています。これについては、オンライン・マガジン「2002 Japan」、8月8日号に掲載した(される)私のコラムを参照してください。

つぎには「一試合平均ゴール数」と「一試合平均失点数」を比較してみましょう。


「一試合平均ゴール数」&「一試合平均失点数」比較


ここでは、「結果」としての、ゴールと失点を比較します。「結果としての」といったのは、例えばゴール数ですが、それは「シュートを打った結果」だからです。失点も同様、相手に打たれた被シュートの結果だということです。もちろん、この「一試合平均ゴール数」「一試合平均失点数」によって、各チームの「最終順位」が「ほぼ」決まってくるわけですが、それらは、各チームの「攻撃力」「守備力」を直接的にあらわす数字ではないということです。攻撃力、守備力を直接的にあらわすのは、それぞれ「シュート数とシュート決定率」、また「被シュート数(相手に何本シュートを打たれたか)と被シュート決定率(そのうち何本決められたか)」なのです。

さてグラフを見てみましょう。左から「最終成績」にもとづいて各チームを並べました。また、棒グラフの青が「ゴール数」、赤が「失点数」です。そこでは、チャンピオンのアントラーズよりも、フリューゲルス、レイソルの方が多くゴールを決めています。ただ逆に、失点数では、最終成績のランキング通り、アントラーズ、フリューゲルス、レイソルの順です。このことだけで、前述した「優れた守備が成功のための出発点」ということの証明にはなりませんが、それでも、しっかりとした守備を「出発点」に、積極的な攻撃を展開したアントラーズに軍配が上がったという事実は残ります。また5位になったマリノスですが、その失点の多さが目立ってしまいます。井原、川口がいるにもかかわらずです。それは、「中盤守備の核」、守備的ハーフのサパタが抜けた後の調整にとまどったということです。確かに野田は良いプレーを続けてはいますが、サパタが抜けた穴は予想以上に大きかったといえそうです。またジュビロのゴール数の多さ、失点の少なさからは、彼らの「ツキのなさ」を見て取れます。全体としては、ゴール、失点のバランス(つまり『指数』のこと)が最終成績にリンクしていることが一目瞭然だと思います。

さて、次は、各チームの「攻撃力」、「守備力」をはかる基準である、「シュート数・決定率」、「被シュート数・被決定率」の比較です。


「シュート数&シュート決定率」比較


攻撃の目的は「シュートを打つこと」。前述したとおり、「ゴール」は結果にしか過ぎません。つまり「シュート数」が、各チームの攻撃力のシンボルというわけです。

ここでも、グラフのチーム順は「最終成績」に準じます。さていかがですか。ファーストステージで最高の攻撃力を見せたのは、チャンピオン、アントラーズ。また、エジウソンを擁するレイソルも、素晴らしい攻撃力を発揮しました。ただ準優勝のフリューゲルスだけは、シュート数ランキングで10位と低迷してしまっています。にもかかわらず、前述した「ゴール数ランキング」ではトップ。その秘密は、シュート決定率にあります。ご覧になったとおり、フリューゲルスは、決定率でダントツのトップなのです。もちろん、(心理面など)色々な要素の「複合体」である「シュート決定率」も攻撃力の要素のひとつ。総合的には、フリューゲルスの攻撃力はトップクラスだというわけです。

それにしても、フリューゲルスのシュート決定率は高いですね。それもそのはずです。シュートを二桁以上打った7人のうち、3人も、決定率「30%」前後なのですからね(サンパイオ=30.8%。バウベル=29.8%。服部浩紀=30.8%)。また、シュート6本で、2ゴールを決めた原田武男(33.3%)、3本で1本を決めた埜下荘司(33.3%)も決定率アップに貢献しています。それでも、シュートが少ないということは、決定的な場面にしかシュートを打たない?!、またシュートを打てる場面をクリエイトする「力」に問題あり?!、というようなネガティブ分析につながる、というのが原則。フリューゲルスがもっとシュートを打つ(打てる)ようになれば優勝間違いなし・・・?!。それとも、それにつれて「決定率」も下がってしまうのでしょうかネ。どちらにしても、ジーニョが抜けるセカンドステージには、「全員」での安定守備をベースに、多くシュートにトライするような積極的な攻撃を展開しなければ、非常に苦しい戦いになるに違いありません。ジーニョの穴は「全員」で埋めるしかないのです。


「被シュート数&被シュート決定率」比較


守備の目的は「相手からボールを奪い返すこと」。前述したとおり「失点」は結果にしか過ぎません。とはいっても「相手からボールを奪い返す頻度」などの数字データはありません。ですからここでは、便宜上、相手に打たれたシュートの数を「守備力」のシンボルと考えようと思います。

ここでも、グラフのチーム順は「最終成績」に準じます。また、棒グラフが「被シュート数」、折れ線グラフが「被シュート決定率」。ということは、被シュート数、被シュート決定率ともに、小さい方が優秀ということになります。チョット、分かりにくかったですかね・・。さて分析ですが、ここで目立つのは「失点数」で3位のレイソルが、被シュート数ランキングで12位にまで落ち込んでしまうことです。レイソルの場合、前のフリューゲルス同様、「被シュート決定率」がトップであることに助けられているというわけですが、この、「相手にシュートを打たれる危機的状況における、GKの能力も含めた守備力」を象徴する「被シュート決定率」も守備力の要素のひとつだとすることができます。ということで、総合的な守備力では、レイソルもトップクラスということになります。それでも、相手に打たれたシュート数がこれほど多いということは、レイソルの守備には問題がありそうです。ケガや出場停止、代表チームのゲームなどで、選手が揃わなかったという事情もあったのでしょうが、とにかく、セカンドステージでの優勝を目指すためには、このことも課題の一つだとすることができそうです。

最後に、「被シュート数」では、ダントツのビリだったセレッソについて。ただ、彼らの「被シュート決定率」は、大躍進して、レイソルに次いで2位です。前述しましたが、被シュート決定率は、危機的状況における守備力によって決まってきます。そしてその「危機的状況での守備力」を代表するのがゴールキーパーというわけです。セレッソには、元ブラジル代表のジルマールがいますからネ。この「被シュート決定率」ですが、歴代の最高記録は、1993年ニコスシリーズのエスパルスが打ち立てました。その時の記録は「5.00%」。もう信じられない数字です。相手に20本シュートを打たれて初めて失点するという計算になるのですからね。ちなみに、今年のファーストステージのトップ、レイソルの記録は「8.5%」でした。その当時のエスパルスにも優秀なゴールキーパーがいました。「あの」クモと異名をとったシジマールです。確かに、優れた被シュート決定率は、ゴールキーパー「だけ」の貢献によるものではありませんが、それでも、普段はあまり目立たない存在のゴールキーパーを評価するための「数字」の一つだとすることが出来るように感じています。



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