The Core Column


The Core Column(23)_監督の姿勢こそが・・真のバランス感覚と、「アンバランス」なバランスの取り方・・(2014年2月4日、火曜日)

■以前のコラムを読み返してみたら・・

以前のコラムで、2013年「J」シーズンの最終順位と得失点差をピックアップし、攻守のバランスと、そのキーファクターとしての「意志」についてディスカッションを展開した。

そのコラムだけれど、とんでもなく冗長に過ぎた!?

まあ、筆者の、ストーリーをまとめる構成力に問題アリということか。フ〜〜ッ・・

ということで今回は、言いたいこと「だけ」を、分かりやすく、そして短くまとめられれば・・と、キーボードに向かったのだけれど・・。

テーマは、理想サッカーを目指す「べき」監督の姿勢・・。

■まず、ディスカッションテーマを簡単にまとめておこう・・

・・(以前のコラムの繰り返しになるけれど・・)我々コーチにとっての永遠のテーマは、(攻守にわたる)積極的で攻撃的なサッカーで「美しく勝つ」という理想型へ近づいていくこと・・

・・(もういっちょう繰り返し!・・)その理想サッカーへ近づいていくために、絶対的な動きの量(運動量)をアップさせるのと同時に、走りの質(中身)も洗練させていく・・

・・そこで目標とすべきは、攻守にわたって、できるだけ多く、『数的に優位な状況』を作りだすこと・・

・・そして・・理想サッカーを目指すべく、監督・コーチは、どのようにチームをリードしていくべきかという今回のメインテーマへ入っていく・・

■美しさのバックボーンは・・

このテーマについては、友人のブラジル人コーチの言葉も含め、「以前のコラム」で書いた。

要は、(人とボールの)動きの優れた量と質によって演出される、攻撃的な組織サッカーこそが、美しさの大前提になるということだ。

もちろん、組織サッカーの流れのなかに、「動き」をスムーズにリンクする美しいトラップやボールコントロール、(トット〜ンというリズムの二軸動作も含 む!)フェイントによる創造的なボールキープ、そして、観ている誰をも興奮させる、レベルを超えたドリブル突破などといった「個人プレー」も、効果的に ミックスさせていくことは言うまでない。

逆から見れば、局面での実効ある(創造的な!)個人プレーがミックスされるからこそ、相手守備のウラ(決定的スペース)を攻略する最終勝負コンビネーション「も」、より危険で、美しいモノへと進化させられる・・とも言える。

あっと・・、またまた冗長になってしまいそう・・

とにかく、サッカーにおける美しさの絶対的ベースは、優れた(積極的で攻撃的な!)組織プレーにあり・・ということが言いたかった。

■また、数的に優位な状況の演出・・

そんな、攻撃的で美しい組織サッカーの機能性をアップさせるためには、攻守にわたって、できるかぎり多く、数的に優位な状況を作りだしつづけるという目標イメージを持たなければならない。

そして、そのためにも、人とボールの動きの量と質をアップさせていかなければならないわけだけれど、そこには、もう一つ、重要な視点がある。

そう、リスク・チャレンジ・・

「前線」での人数を増やしていくために、チーム全体が、より積極的に押し上げていかなければならないという視点だ。

それは、同時に、次のディフェンスでの、人数とポジショニングをバランスさせるのが難しくなるという「リスク」をも意味する。

だからこそ、今回コラムの骨子テーマである「監督の姿勢・意志」が、もっとも重要なKFS(キー・ファクター・フォー・サクセス)になるのである。

■監督の意志・・それを伝える言葉・・

テーマは、リスクを恐れない、監督の強い意志。

その姿勢・意志こそが、「そもそも」のスタートラインなのである。

監督の考え方(意志)、そして心理マネージメントの内実(パーソナリティーを基盤にしたコーチングのウデ)によって、チームが、まったく違うグループに生まれ変わってしまうことは、歴史が証明する事実なのだ。

グラウンドは(そこで展開されるサッカーは!)、監督(その姿勢)を映す鏡・・。

選手たちは、監督の「意志」を、より増幅されたカタチで理解し、それをベースにプレーする。

そう、監督が発する「言葉」は、より「先鋭化」された(選手の)イメージとして、グラウンド上に現出するものなのだ。

だから、その言葉(意志の放散)が、脅威(問題)を増幅させることもあるし、逆に、機会を拡大させることもある。

とにかくここでは、その言葉のなかに、チームを(一つのユニットとして!!)動かせるだけの強烈なスピリチュアルエネルギー(影響力)が内包されていなければならないということが言いたかった。

監督は、(まあ、ほとんどの場合という注釈はつくけれど・・)チームの最終意志決定者であるだけではなく、チーム内でぶつかり合う多くのパーソナリティーを(その意志とイメージを!!)調整し、チーム全体として進むべき方向を指し示さなければならないのである。

■監督の、リスクへもチャレンジしていく意志と勇気・・

(またまた・・!?)回りくどい論旨の展開になってしまったかもしれない。

フ〜〜ッ・・ご容赦アレ・・

とにかく監督は、常に、リスクへチャレンジしていく「基本」姿勢でチーム作りに臨まなければ(励まなければ)ならない・・ということが言いたいのだ。

ちょっと乱暴だけれど、ここで、監督のチーム戦術的な基本マインドを、大きく「二つのベクトル」に分類してみることにする。

一つは、パッシブな方向性。

ボールを奪い返して攻めに入っても、後方に「残る」人数とポジショニングバランスを、できる限り「整えつづける」という考え方だ。

そう、「石橋を叩いて渡る」ような注意深いチーム(ゲーム)戦術。

ただそれでは、仕掛けの人数が足りなくなることで、攻撃に「危険なニオイ」を充満させられないだけではなく、サッカーの「魅力」自体もダウンしてしまうに違いない。

それに対して、アグレッシブでダイナミックな方向性がある。

今回コラムのテーマである、(リスキーな!)全員攻撃、全員守備という発想だ。

そこまで考えて、ハッと気が付くのである(気付くのが遅くてスミマセン・・)。

今回のディスカッションが、ボールを失ってからの「次の守備」を、どのように効果的に機能させられるのか・・というテーマに集約されることを。

パッシブな方向性では、最初から、「次の守備」をイメージした攻めを展開するわけだから、それを安定させるのは容易だ。

それに対して、アグレッシブな方向性では、ボールを失ったら、間髪を入れない攻守の切り替えをベースに、全員が協力して(!)前線からダイナミック守備をブチかましていく・・という強い意志がなければ、うまく機能しない。

目指すところは、チャンスを見出した誰でも、攻撃の最終プロセス(シュートシーン)まで絡んでいっていいという、より積極的で攻撃的なチーム戦術を機能させることなのだ。

そして、それをベースに、美しく勝つというテーマを追求するのである。

そして、もちろん「そこ」には、大きなリスクが伴う。

それでも、「攻撃的・積極的な姿勢・意志」を貫こうとする監督は、そんなリスクチャレンジに躊躇(ちゅうちょ)しない。

そして、そんな監督の攻撃的なマインドは、(それが強烈であるが故に!?)すぐにチーム全体に波及し、選手の意識と意志を、ダイナミックに活性化していくのである。

■イビツァ・オシム・・

彼が作りあげた(当時の)ジェフ市原。

そのダイナミックなフルパワーサッカーには、誰もが感動させられたじゃないか。

ある攻撃シーン・・

・・何でアイツが、あの最終勝負シーンに顔を出しているんだ??・・

ある守備のシーン・・

・・アイツは、直前の攻撃シーンで、相手ゴール前にいたんだぜ・・そんなアイツが、何で、もう自分のゴール前でディフェンスに入っているんだ??・・

コンセプトは、明快だ。全員守備、全員攻撃。そう、トータルフットボール。

「それ」は、積極的な押し上げ・・素早い攻守の切り替え・・必死に戻る姿勢(意志)・・等など、サッカーの基本を、強い『意志』をベースに積み重ねていくことで「のみ」達成できるものなのだ。

そしてイビツァ・オシムは、口癖のように、こんなフレーズで、日本サッカーが目指すべき方向性を示唆するのである。

・・リスクチャレンジのないところに進化もない・・

■リヌス・ミケルスの言葉・・

そういえば、このテーマについて、オランダの伝説的スーパーコーチ、故リヌス・ミケルスに対して、こんな質問を投げたことがあったっけ。

「ミケルスさんが作りあげたトータルフットボールは、本当に素晴らしかったし、それが世界サッカーの潮流を変えたと思います・・でも、誰でも攻め上がっていいというコンセプトだったら、次の守備で問題が発生するという不安はなかったのですか?」

「攻め上がり過ぎて、次の守備での人数が足りなくなったり、組織が整わなくなる危険は、確実に増しますよね?」

「そうだよ・・だからこそ、選手たちの守備意識を極限までアップさせる努力をしたんだよ・・そして選手は、素早く攻守を切り替え、必死で相手ボールホルダーを追いかけたり、攻め上がる相手を最後までマークしつづけるために全力で戻るんだよ・・」

「監督は、安易な妥協をしちゃダメなんだ・・あくまでも、限界まで要求しつづけなければならないんだよ・・」

「選手たちが無理だと感じていたとしても、それに対して、必ず乗りこえられるという確信を与えられなければならないんだ・・それは、監督のウデに掛かっているということだな・・」

「監督が躊躇(ちゅうちょ)したり確信を失ったら、選手は、その何倍も臆病にプレーするようになってしまうからな・・」

「とはいっても、もちろんたまには、臨機応変に、現実的なゲーム戦術をつかうことだってあるさ・・でも、そのことを知っているのは限られたヤツらだけなんだよ・・フフフッ・・」

もう本当に昔のことだけれど、ヘネス・ヴァイスヴァイラーとかリヌス・ミケルスと話した(教えを受けた!)、「フフフッ・・」も含めたニュアンスについては、その都度メモに残しておいた。

そこには、見直すたびに、新しい発見がある。

それは、本当に凄いことだと思う。

■最後に、どうしても確認しておかなければならないコトがある・・

ここまで、「理想」を追い求める姿勢を前提にディスカッションを展開したけれど、もちろん私も、現場の経験から、そこでのリアリティーを知っている。

プロチームの日常が、妥協の積み重ねだということはしっかりと理解しているつもりなのだ。

だからこそ、このことだけは言っておきたかった。

リスクチャレンジという理想型イメージを、しっかりと追い求めながらも(仕方なく!?)妥協するチームと、現実的なリアリティーサッカーという発想しかない(理想の目標イメージがなく、勝つことだけを追い求める!?)チームとの間には、雲泥の差がある・・。

「真のバランス感覚」は、理想と現実の「せめぎ合いメカニズム」を、しっかりと理解しているチームだけが、自分のモノにできるのだ。

現実に引っ張られ過ぎる「アンバランスなバランス感覚」では、本当の進化は望めないのである。

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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