The Core Column
- The Core Column(24)_バイエルン(その2)・・進化をつづけるボールの動きと、ペップの戦術イメージ・・(2014年2月11日、火曜日)
- ■バイエルンの進化プロセス(その続編)・・
バイエルン・ミュンヘンは、ペップ・グアルディオーラに率いられ、継続的に進化している。
そのバイエルンにスポットを当てた「以前のコラム」では、ペップ・グアルディオーラが秘める「ストロングハンド」のバックボーンだけじゃなく、人とボールの動きが進化しているというテーマも取りあげた。
そしてコラムの最後を、「これからも、バイエルンとペップの幸福な出会いを、とことん楽しむつもりなのであ〜る」と、締めた。
ということで今回は、学習機会としてのバイエルン進化の内実を追いかけ、分析しつづけている筆者の中間報告ということになる。
内容としては、ちょっと退屈かもしれない「動きのメカニズム」から入り、(これが面白いはずだけれど・・)中盤と前線での、選手タイプの組み合わせや機能性について、ペップが志向する「イメージ」を取りあげる。
■進化する「動き」と次の発展ステップ・・
以前のコラムでは、ペップの「ストロングハンド」から始め、組織サッカー(≒パスコンビネーション)の内容が進化しているというストーリーを展開した。
そう、効果的な人とボールの動き・・。
それは、言うまでもなく、スペース攻略という当面の目標を達成するところから、シュートという最終ターゲットへ至るまでを、より実効あるカタチでつないでいく手段だ。
いつも書いているように、スペース攻略とは、(決定的な!?)スペースで、ある程度フリーでボールを持つ(パスを受ける)こと。
彼らは、空いた(空きそうな)スペースのイメージを共有している。だからこそ、抜群のパス・コンビネーションを繰り出せる。
いまのバイエルンは、局面での美しい個人プレーにも裏打ちされた、素早くシンプルな「リズム」の組織サッカーが、とても魅力的に進化しつづけていると思うのだ。
表現をもっと深めれば、いまのバイエルンでは、パスを受ける前から、周りの(スペースを狙うパスレシーブの!)動きをイメージできている・・とも言える。
そう、プレイヤーがアタマに描写する仕掛けイメージの「かみ合わせ性能」が向上しつづけているのである。
そして、だからこそ、リベリーやマリオ・ゲッツェ、トニー・クロース、トーマス・ミュラーといった個の才能連中も、より有利なカタチでパスを受け、危険な必殺ドリブルをブチかましていけるというわけだ。
ペップの「ストロングハンド」が、本領を発揮しているじゃないか。
そのことは、彼が志向するサッカーをグラウンド上に投影しようとする選手たちの強い意志からも如実に感じられる。
■ペップが描く、「中盤の底」の機能性イメージ・・
もちろん、細かなポジショニング(調整)バランスとか選手同士の間合いなどといった、詳細で具体的な「動きや機能性のイメージ」などは知る由もない。
まあ、ここは、ペップが常々いっている、「シンプルにプレーする・・」というコンセプトからイメージを膨らませていくしかない。
ということで、今回は、「中盤の底」というポジションの機能性イメージと、前線プレイヤーたちの仕掛けの機能性タイプについて、少し突っ込んでディスカッションしようと思う。
まず、中盤の底。
守備的ハーフ・・ボランチ・・センターハーフ・・リンクマン・・後方のゲームメイカー・・等など、その機能性の内容(プレーイメージ)によって、呼び方は様々だ。
要は、監督のイメージによって、最終守備ラインの前でプレーする選手たちの役割(タスク)は、大きく異なってくるということだ。
ペップが描くイメージ・・。
それを考えはじめたら、どうしても絶好調時代のバルセロナへと向かってしまうじゃないか。
そう、セルヒオ・ブスケッツという「アンカー」と、「後方のゲームメイカー」シャビ・エルナンデスとの関係だ。
ペップは、バイエルンでも、まず「ブスケッツ」を探したはず。とにかく、この「アンカー」が、彼のチーム戦術のなかでは、とても重要なタスクを担うのだ。
ペップにとって「アンカー」は、汗かきのチェイス&チェックからカバーリングまでこなす中盤守備の要(かなめ)というだけではなく、攻守(前後)の人数&
ポジショニングの「バランサー」、後方のゲーム(&チャンス)メイカーであるシャビ・エルナンデスへ(良いカタチで!)ボールを供給する「リンクマン」等
などの複数タスクを兼ねて担わなければならない存在なのである。
でも、バイエルンでは、その第一候補になるはずだったハビ・マルティネスとバスティアン・シュヴァインシュタイガーは、怪我(手術など)のために、パフォーマンスが安定しなかったり長期離脱を強いられている。
ただ、そこで、ペップの優れた観察眼が真価を発揮するのである。そう、サイドバックのフィリップ・ラームを、中盤の底に置くという斬新な「アイデア力」だ。
そしてそれが、殊の外うまく機能するのである。
「いまは、あのポジションで最高のパフォーマンスを発揮できるのはフィリップだ・・」
前回コラムでも述べたように、ペップを高く評価するドイツメディアが、その決断をネガティブに書くことはなかった。そして実際にフィリップ・ラームは、素晴らしいプレーを魅せつづけるのである。
またペップは、その「中盤の底の相方」として、バルセロナのカンテラとトップチームで教え子だったチアゴ・アルカンターラを配置した。
そう、バルサが、最高のサッカーで世界を魅了していた頃のシャビ・エルナンデスのように・・。
これで、中盤の機能性イメージは整った。
■ペップが描く、前線の機能性イメージ・・
次は、前線プレイヤーたちの機能性イメージだ。
これまた絶頂期のバルセロナを見てみよう(例えば2011年UEFAチャンピオンズリーグ決勝)。
その頃のバルサでは、ブスケッツを「アンカー」に、(守備的ハーフの役割もこなす!)シャビとイニエスタを配することで、マジック・トライアングルを構築していた。
そして前線に、ビジャ、ペドロ、万能のメッシを送り出す。
このバルセロナの前線グループにおいて、もっとも特徴的なことは、スピアヘッド(純粋センターフォワードタイプ)がいなかったということだ。
そう、ゼロトップ。
一時期、ズラタン・イブラヒモビッチに代表される純粋ストライカー(センターフォワード)も所属したが、うまく機能しなかった。まあ、そこでは、イブラヒモビッチのパーソナリティーも障害になったのだろうが・・。
そしてバルサは、前線プレイヤー全員が、縦横無尽のポジションチェンジを繰り広げるだけではなく、全方位から、パスコンビネーションと勝負ドリブルを変幻自在に繰り出していくような「変化」に富んだ仕掛けをブチかましていくのである。
ペップは、そんなバルセロナ絶頂期のイメージを、バイエルンでもトレースしようとしている・・!?
まあ、実際のところは分からない。
それでも、バイエルンの進化プロセスを観ていると、中盤の底における機能性イメージと同様に、前線プレイヤーの「タイプの組み合わせと機能性」でも、絶頂バルサを彷彿させられるのは私だけではないに違いない。
マンジュキッチも含め、マリオ・ゲッツェ、トーマス・ミュラー、フランク・リベリー、トニー・クロース、シェルダン・シャキリ、アリエン・ロッベン等など、彼らは、万能型のプレイヤータイプではないか。
えっ・・!? ロッベンは攻守の「汗かきハードワーク」が不十分だろ〜って!? まあ・・ネ・・。だからこそ、彼の変化もまた、魅力的な学習機会なんだよ。
■最後に、バイエルンの進化を支える守備についてもちょっとだけ・・
バイエルンの進化は、守備にも、如実に現れている。
まず何といっても、素早い攻守の切り替え、前線からのチェイス&チェックや協力プレス、最後まで追いかける忠実マーキングなどに代表される守備意識。本当に、素晴らしい。
そう、これもまた、絶頂期のバルセロナ。
こんなシーンがあった。
それは、「あの」ワントップタイプのマンジュキッチが、自軍ゴール前まで全力で戻ってスライディングタックルを仕掛けたシーン。
別に、彼が「そこ」まで戻らなくても、タテにマークを受け渡せば済んだシーンだった。
にもかかわらずマンジュキッチは、猛然と、相手のフリーランナー(バスレシーバー)をチェイスし、そして最後は、その相手選手への勝負パスを、それも最終ライン裏の決定的スペースにおいて(!)スライディングでカットしてしまったのだ。
そんな積極ディフェンスに対する「意志」は、リベリーも含め、前線プレイヤー全員に当てはまる。それもまた、「ストロングハンド」の為せるワザなのだ。
まあ、守備に関するディスカッションは次回へゆずることにしよう。とにかく、バイエルン進化プロセスの内実は、この上もなく魅力的な学習機会なのである。
そのことが言いたかった。
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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。
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重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。
追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。
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ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。
タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。
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