The Core Column


The Core Column(54)_ディフェンスの連動性・・本物のチェイス&チェックと「後ろからの足音」こそが・・(2016年3月22日、火曜日)

■またまた文句をブチかまされてしまった・・

「何やってんだヨ〜〜・・次のパスを読んでなきゃダメだろ〜っ!!」

ドイツ留学時代のことだ。

当時プレーしていたクラブのリーグ戦で、前方にいたチームメイトが、相手の「パスレシーバー」へ向けて全力のチェイス&チェック(寄せアクション)を仕掛けたんだ。

もちろん私も、そのアクションの意図は分かっていた。

・・あのチェイスの勢いだったら、相手のパスレシーバーは、たぶんオレの目の前にいる仲間にダイレクトでパスを回すだろう・・

そこまではイメージできていた。でも結局、アクションを起こせずにインターセプトのチャンスを逃してしまったのだ。

チェイス(ハードワーク)を仕掛けたチームメイトから強烈な文句が飛ぶのも道理だった。

そのとき私は、無様なボールウォッチャーに成り下がっていたのである。

その瞬間のことは、文句を言われて顔から火を吹いたことと、足を動かせなかったことに対する悔しさから、強烈な印象として、いまでも事あるごとに思い出す。

とはいっても、その悔しい体感が、「連動ディフェンス」を機能させるメカニズム(イメージ描写と意志!?)に思いを巡らせるキッカケになったのだから、やはり失敗は成功のもとということか。

とにかく、その出来事が、組織(連動)ディフェンスを機能させるというテーマへの思い入れの原点だった。

■連動ディフェンスのスイッチ・・その「実効バックボーン」はイメージの共有だ・・

ここで言う「スイッチ」だけれど、その入れ方は、チーム戦術によって、かなりカタチが異なる。

そのことも含め、ここでは、代表的な状況とプロセスを設定し、それを基に、ボール奪取アクションの「連動性」についてディスカッションしていこうと思う。

相手にカウンターをブチかまされるような、守備組織のバランスが崩れている「危急状況」では、おのずとやるコトが決まってくる。

だからここでは、組み立てベースで仕掛けてくる相手からボールを奪い返す組織的な連動ディフェンスをテーマにしようと思うわけだ。

スミマセンね、(いつものように)ディスカッションの設定条件が多くて。でも、攻守にわたる様々なコトが、同時に、そして複雑に絡み合っているのがサッカーだから・・サ。

へへっ・・

ということで、スイッチ。

「そんな状況」での、もっとも典型的な「具体的スイッチ」は、なんといっても、誰もがハッと息を呑むほどシャープな爆発的チェイス&チェックでしょ。でも・・

ここでテーマにしたいのは、そんな「物理的」なスイッチが入る「前段階」で、チーム全体がシェアしていなければならない「重要エッセンス」なのだ。

簡単に言えば、それは、ボール奪取の勝負を仕掛けていく「状況とプロセスのイメージ」を、チーム内でしっかりと共有できていること・・と表現できるかもしれない。

そう、相手の次のプレーに対する「読みイメージ」が、チーム内で統一できている(そのイメージをシェアできている!)ということだ。

それが整理されていれば、相手ボールホルダーの局面プレーだけじゃなく、彼らの全体的な人とボールの動き(その傾向!?)に対しても、チーム内で「同質のピクチャー」を描けるはずなのだ。

その「イメージ描写」だけれど、例えば・・

・・アイツがボールをもったら、かならずトラップするし、そこでボールの動きが、ちょっとスピードダウンするはず・・その動きの停滞が、協力プレス守備を仕掛けていくチャンスだ・・

・・とか・・

・・アイツは、多くのケースで、ダイレクトの横パスを回し、そのままパス&ムーブでタテの決定的スペースへ走り抜けようとする傾向が強い・・

・・ヤツ等は、中央ゾーンで活発にボールを動かすことでオレ達をそこに「おびき寄せ」、そして空いたサイドエリアにボールを運ぶ・・

・・等など。

そんな、相手の「クセ」を、チーム全体でしっかりとシェアしていることが、チェイス&チェックをスタートラインにする連動ディフェンスを効果的に機能させるうえで、とても重要な意味をもってくるのである。

そして、だからこそ、コーチ(監督)がクレバーに編集したビデオを駆使しながら、相手の「サッカーのやり方」を具体的にイメージさせ、チーム内のボール奪取プロセスのピクチャーを統一させることが重要な意味をもってくるというわけだ。

■ここで、ちょっと脱線してイメージトレーニングについて・・

コーチ(監督)が、「どのようにボールを奪い返すのか・・」というテーマについて、チーム内イメージを統一し、共有させようとするとき、言葉で表現するだけでは不十分なケースが多い。

たしかに、言葉の使い方(様々なタクティカル表現!)を工夫し、それをグラウンドで効果的に表現させることは、コーチにとって、とても大事な「創造的作業」ではある。

でも、言葉によって表現されたプレーイメージの理解をチーム内で統一させ、それを実際のアクションに結びつけていく作業は、とても難しい。

だからこそビデオを駆使したイメージトレーニングなのである。

もしそこに、とてもスマートに編集されたビジュアル素材があれば、チームは、ボール奪取へ向かう連動ディフェンスについて、「同質のピクチャー」を描けるようになるに違いない。

そう、相手プレイヤー個々の特長や、全体的な人とボールの動きの傾向などについて、より具体的で効果的なアクションイメージを描けるようになるのだ。

百聞は一見にしかず・・である。

そして、そんな具体的「イメージバックボーン」があれば、誰がチェイス&チェックに入ろうと、周りのチームメイトたちは、次、その次のボール奪取勝負アクションに、よりスムーズに、そして効果的に入っていけるようになるに違いない。

■ということで本題・・連動ディフェンスの絶対的スタートライン、チェイス&チェック(寄せ)・・

繰り返しになるけれど・・

選手たちは、状況によって、チームメイトの誰かが、全力チェイス&チェックに入っていくことを、事前に「感じて」いなければならない。

そんな共通の(同質の)アクションピクチャーを描けるからこそ、よりスムーズに、ボールを奪い返すための、連動する「先取りアクション」にも入っていけるというわけだ。

ということで、全力チェイス&チェック(効果的な寄せ)というテーマに入っていくわけだけれど・・

■チェイス&チェックの目標イメージ・・

攻撃の目的はシュートであり、「ゴール」は、単なる結果にしか過ぎない。

その、シュートへ至るまでの当面の目標が、決定的スペースを攻略すること・・という基本的な考え方については、もう何度も書いた。

それに対して、守備。

その目的は、言うまでもなく、相手からボールを奪い返すことだ。「ゴールを守る・・」というのは、単なる結果にしか過ぎない。

そして、そのプロセスにおいて、チェイス&チェックがもつ「当面の目標イメージ」というテーマに入っていくわけだ。

私は、その目標を、次の組み立てを簡単にイメージできないように、相手のプレーから「余裕」を奪い去ること、と定義する。

断っておくけれど、もし、その(最初の!)チェイス&チェックでボールを奪えれば、そりゃ、理想的なショートカウンターチャンスにつながるのは自明の理だ。でも、ここでの状況設定は、組織的な連動ディフェンスだから・・さ。

ということで、相手ボールホルダーに余裕を与えないというテーマ。

要は、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へ勢いよくチェイスする(寄せる)ことで、ドリブル突破への「意志」を殺いだり、アイコンタクトなどの意思の疎通をさせないということだ。

それがうまく機能すれば、相手の人とボールの動きを「停滞」させてパスコースを限定できるし、次の勝負スポットでのボール奪取の可能性を大きくアップさせられる。

このテーマは、とても重要だ。

そう、チームメイトが、より有利なカタチでボール奪取(連動)アクションを仕掛けられるように、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)の余裕を奪い去るチェイス&チェック(寄せ)である。

■だからこそ、「ぬるま湯」のチェイス&チェックが大問題なのだ・・

よく、緩慢に、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へ寄せていく選手を見掛ける。

それでは、相手に「余裕」を持たれてしまい、「次の連動アクション」を狙おうとするチームメイトにとっては、まさに「邪魔」なだけの「アリバイアクション」ってなコトになってしまう。

何せ、チェイス&チェックが緩慢なことで、相手は、ドリブル勝負だけじゃなく、余裕のアイコンタクトで危険な仕掛けコンビネーションをブチかませるのだから。

そんな緩慢な(やる気のない!?)守備への入り方は、周りのチームメイトたちにとって、まさに邪魔なだけの「アリバイ・アクション」なのだ。

たしかに本人は、「パスコースは切っているよ・・」なんて言うんだろうな。

でも、爆発的な勢いが乗っていない場合、前述したように、相手に、「余裕」というチャンスを与えてしまうことになるんだよ。

そして、みっともないことに、切ったはずのコースへ(逆を突かれて!)パスを通されてしまったりする。そりゃ、チームメイトにとって迷惑以外の何モノでもないじゃないか。

だからこそ、チェイス&チェック(守備ハードワーク)では、相手がビビるほどのフルスプリント(爆発的な勢い!)が、重要な意味をもつんだ。

でも・・

もちろん中には、ものすごくスマートなワナとして、そんな「緩慢な寄せ」を利用しちゃうような「才能」はいる。

ラモス瑠偉(ここからは愛称=カリオカと呼ぶ)。

もちろん状況に応じてだけれど、たまにカリオカは、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へ、まさにやる気なさそうに寄っていくことで、その相手が、「あっ、カリオカは本気でアタックにこない・・」なんて勘違いさせるんだ。

そして、余裕をもった相手は、味方とアイコンタクトをしたり、ボールをコントロールしたりと、一瞬でも、カリオカから目を離してしまう。

でもカリオカにとっては、それこそが「してやったり」のチャンスというわけだ。

そして、相手が自分から目を逸らした次の瞬間、爆発する。そう、全力スプリントのチェイス&チェックをブチかますんだ。

急に迫ってくるのが「あの」カリオカだからね、爆発チェイスをブチかまされた相手は、完璧にパニックに陥り、気付いたときにはボールを奪われた後・・ってなことになってしまうのが常だった。

もちろんカリオカは、そのままの勢いで、ショートカウンターをブチかましていく。

あっと・・

そんな例外的な、「ワナ」としての緩慢アクションもあるわけだけれど、でも実際は、「意志」のないアリバイ・アクションというケースがほとんどなのだ。

ここで言いたかったのは、そんな「ぬるま湯アクション」こそが、連動ディフェンスを機能させようとする「チームの意志」を殺いでしまう「ネガティブ・ビールス」になり得るということだった。

■そして締め・・だからこそ「後ろからの本気の足音」が・・

それは、前戦プレイヤーたちが戻りながら(相手ボールホルダーを追いかけて!)ブチかますチェイス&チェックのことだ。

もちろん全力スプリントの寄せ。

その勢い(意志のオーラ!?)は、背後から迫られる相手ボールホルダーも明確に感じるだろうし、実際に、その足音が聞こえたりするモノなんだ。そして、焦り、余裕を失う。

だからこそ、後ろ(背後)からの足音。それも、本気の・・。

この「後ろからの足音」という発想のベースは、攻守にわたる局面勝負に、「より多くの人数をかけられるかどうか・・」という、チーム戦術的な視点だ。

サッカーにおける「外郭的」な目標イメージは、局面での「数的優位」の演出なのである。

余談だけれど・・

だからこそ、特に現代サッカーでは、走ること(≒ショートスプリントの積み重ね!)が基本中の基本であり、才能レベルが高ければ高いほど、「走りの量と 質」によって、より大きく自分の「価値」をアップさせられるという「評価メカニズム」が、しっかりと機能しているのである。

「後ろからの本物の足音」・・というテーマに戻ろう。

レスターの岡崎慎司やレッズの武藤雄樹。

もちろん彼ら以外にも、多くの「実効」ハードワーカーはいるけれど、私がイメージできる最も親しい選手をピックアップしてみた。悪しからず・・

彼らの、前線から戻りながらのチェイス&チェックが、ホントに素晴らしいんだよ。

そのお陰で、守備ブロックは、ヴァイタルエリアに「穴」が空いてしまうような危険な状況を、より確実に回避できるというわけだ。

もちろん、彼らの「守備ハードワーク」によって、効果的な「タテのサンドウィッチ協力プレス」だって頻繁にブチかませるようになるだろう。

繰り返しになるけれど、その「後ろからの足音アクション」は、決して「ぬるま湯チェイス」であってはいけないんだよ。

それは、守備ブロックにとっての「迷惑アクション」に他ならないというわけだ。

そうではなく、たまには自チームの最終ラインまでをも「追い越して」しまうほどの勢いに乗ったチェイス&チェックこそが、チームに、次の効果的な連動ディフェンスを呼び起こす「勇気リソース」になるのである。

これからは、そんな視点でも、前線選手たちの「ディフェンス参加」を観察してみよう。

その「内実」と、様々な意味合いを内包する、選手パフォーマンスに対する、正しい「エキスパート総合評価」が、驚くほどリンクしていることに気付くはずだ。

まあ、その「総合評価」は、多くのメディア論調とは相容れないのが常だけれど・・ね。

へへっ・・

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■蛇足だけれど、過去の守備コラム(守備意識や守備センスなどのテーマを扱ったコラム!?)にもリンクボタンを張っておきます・・

ルーズな混戦を制する、意志のディフェンスアクション・・

読みディフェンスのエッセンス・・フランコ・バレージ・・

守備意識こそが・・リヌス・ミケルス・・

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「The Core Column」の全リストは、「こちら」です。

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 重ねて、東北地方太平洋沖地震によって亡くなられた方々のご冥福を祈ると同時に、被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。 この件については「このコラム」も参照して下さい。

 追伸:わたしは”Football saves Japan”の宣言に賛同します(写真は、宇都宮徹壱さんの作品です)。

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 ところで、湯浅健二の新刊。三年ぶりに上梓した自信作です。いままで書いた戦術本の集大成ってな位置づけですかね。

 タイトルは『サッ カー戦術の仕組み』。出版は池田書店。この新刊については「こちら」をご参照ください。また、スポーツジャーナリストの二宮清純さんが、2010年5月26日付け日経新聞の夕刊 で、とても素敵な書評を載せてくれました。それは「こちら」です。また、日経の「五月の書評ランキング」でも第二位にランクされました。

 





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