湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第6節(2000年4月8日)

ヴェルディーvsマリノス(1−3)

レビュー

 「才能があるヤツらを、100パーセント闘わせるのは、本当に難しい仕事だよナ・・」

 以前、現レーバークーゼン監督、クリストフ・ダウムと、「才能マネージメント」について話したことがあります。「オレは、才能よりも、やる気を優先する場合の方が多いかな。なんといっても、サッカーはチームゲームだし、全員のモラル(雰囲気)レベルを高く保っておくことの方が大事だからナ・・」。クリストフが、そんなふうに言ったことをおぼえています。

 サッカーはチームゲーム。一人ひとりの能力が、チーム総体として「相乗パフォーマンス」を発揮できるようにマネージするのは、監督の重要な仕事です。その意味で、常に「100パーセントの力を発揮しようとしない才能」は、チームにとって邪魔な存在以外のなにものでもありません。いくら「部分的」に良いプレーをしたとしても、結局は、彼らによって、「モラル」という意味も含めたチーム全体のパフォーマンスが下降してしまうことは、サッカーの歴史が証明してますからね。

 私が誰のことをいっているのか・・、それは後で・・

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 まず試合全体の印象から。

 前半は、両チームともに、サッカーをやっていませんでした(マリノスの方が"モアベター"ではありましたが・・)。スタンドからは、「何だ、もっと一生懸命やれヨ。本当に、イライラするな・・」。そんな声が聞こえてきたモノです。それほど、ひどい試合内容でした。ワクワクさせてくれない「プロサッカー」なんて・・

 選手たちの動きが緩慢で、ボールがまったくといっていいほど走らない。両チームともに持ちすぎが目立つ中盤での「ガチンコの競り合い」ばかり(まわりが動かないから素早くパスを回せない!!)。何だいったいこれは・・。怒るというよりは、呆れかえって声が出ない湯浅でした。

 ただ後半は、かなり改善されます。前半に一点リードされたマリノスが、試合全体のペースを握ります。前半と比べたら格段に良くなったボールの動きをベースに、彼らのサッカーが見応えのあるものに変身したのです。あ〜〜よかった・・、前半だけで帰らなくて・・

 そして後半6分、ヴェルディーGK、本並の信じられないキャッチミスから(マリノス三浦のフリーキック)、上野が同点ゴールを決めます。この試合での上野の出来は上々。中盤守備のバランスをうまくコントロールするだけではなく、攻撃でも、シンプルなパス回しを基調に、かなり目立った「(ボールがよく動く)クリエイティブな攻めの基点」になっていました。

 その後、ヴェルディーも押し返そうとはするのですが、どうしても、アクティブなボールの動きが「局面」でしか見られず、全体としては「ボールの動きの停滞」が目立ちます。彼らのアタマのなかでは、「スロー、スロー、クイック」という、勝負所でのプレーテンポの急激な変化をイメージしているんでしょうが、実際には「停滞サッカー」そのものでした。

 そしてその元凶の一人が、前述した「才能」、岩本です。いつも立ち止まり、「オレの足元にパスをよこせ!」ってな具合の怠慢なプレー態度はいつものとおり。そして、ボールキープからパスを出しても、まったくといっていいほど「次」へ動こうとしません。そして、その場に立ちつくすか、テレテレとジョギングするだけ・・。動くとしたら、確実に「決定的なパス」が出そうな状況だけです。つまり、ボールを素早く、広く動かすためのステーションの一つとして、忠実に機能しようとする姿勢が(チームプレーに対する姿勢が)まったく見られないということです。それでは・・

 いったい何を考えているんでしょう。私は、本当に腹が立って仕方ありませんでした。『結果としての』無駄な動き(ボールに多くタッチしようと、頻繁に動くことも含む・・)は、彼にとっては、本当に「ムダなこと・・」なんでしょう。だから、やらない・・。良いサッカーは、「クリエイティブなムダ走り」を積み重ねなければ決して実現できないのですがネ・・。そんなプレーが許されるのは、全盛期のマラドーナだけです。

 守備でもいい加減そのもの。自分が「やりたいとき」だけ、全力で追いかけはしますが、一度ハズされたら、もうそれっきり・・。左サイドで上がってくるマリノスの永井だけをマークしていればそれでいい・・なんて思っているんでしょうネ。それでは、守備ブロックにとっては、本当に「邪魔な存在」以外の何ものでもありません。

 なぜ邪魔かって?? それは、守備ブロックのメンバーは、ワンプレーにおいて守備参加した選手は、そのワンプレーの「最後の勝負の瞬間」まで、守備に参加し続けるのが原則だと考えるものだからです。いったん守備参加した選手が、相手にハズされて動きを止めてしまい、その後のカバーリングに戻ろうとしない。また、マークしているはずの選手を、自分が「ボールウォッチャー」になったことで簡単に前のスペースへ「フリー」で走り込ませてしまう・・。これでは、守備ブロックのメンバーがアタマにくるのもアタリマエです。そんな選手が一人でもいたら、チームのモラルは、地に落ちてしまうのです。

 私は本当にやりきれない思いにかられていました。「才能の墓場」・・(岩本の局部的なプレーからはハイレベルな才能を感じるから、惜しい!)。たしかにフットボールネーションでも、潰れてしまった才能の例には事欠きません。それでも、「心理環境」も含め、才能が潰れる確率は、日本と比べたら低いに違いありません。わがままな「才能」に物言えず、甘やかし放題にしてしまう体質・・それでは・・

 また、「有り余る才能」に恵まれたマリノスの三浦・・。彼が吹っ切れたプレーをすれば、現在の日本代表の選手も含め、かなう選手はあまり多くはないと思うのですが・・(たしかに後半はかなり良くなってはいましたが・・)。一度でもいいから、「オレが中心のサッカーを!!」という気概をもち、試合が終了したときには両足ともつってしまう・・なんてくらい走り回ってみたらどうでしょうか。彼ほどの才能ですから、100パーセントの力を発揮してプレーしさえすれば、良い「結果」が自然とついてくるに違いないと思うのですが・・

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 試合レポートそっちのけで、気になったこと、残念に思うことを夢中で書きつづってしまいました。

 試合は、後半に「変身」したマリノスが、目の覚めるようなスーパーゴール(=二点目の勝ち越しゴール・・上野の素晴らしいスルーパスから、ユー・サンチョルがゲット! 上野は、一ゴール、一アシストの大活躍!)も含め、本当に「圧倒」といった内容で、今は昔の「ゴールデンカード」を制しました(観客=12682人・・)。ちなみに、両チームのシュート数は、ヴェルディーが「9本」、マリノスが「19本」でした。

 アッ、そうそう・・、最後にもう一つだけ。主審をつとめたベルコーラ氏のことですが、久しぶりに「グッド・ホイッスル」を聞きましたヨ。私が、心のなかで「ファール!」と叫んだ瞬間に、例外なく「ピッ、ピ〜〜!!」ですからネ。久しぶりに「世界レベル」の笛を聞き、心地よいことこの上なかった湯浅だったのですが・・

 それでは今日はこのへんで・・



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