湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第9節(2000年4月29日)

マリノスvsガンバ(4−1)

レビュー

 ガンバは一体どうしてしまったのでしょうか。今シーズン第一節の、対ヴェルディー戦では、(結局負けてしまったとはいえ)積極的で優れたサッカーをやっていたのに・・

 この試合では、ガンバ選手たちの、サッカーをやる上での基本的な「プレー姿勢」に問題があると感じました。それは、チーム戦術、システム云々以前の問題です。

 攻撃では、各ステーション(パスの受け手)で常にボールの動きが停滞してしまう・・、守備でも、まったく相手のプレーに対応するだけ・・

 攻撃でのボールの動きの停滞ですが、彼らには、「組織プレーと個人勝負プレーの優れたバランス」という発想自体がない?! それでも言い過ぎではないと思います。というのも、まずボールをしっかりと動かさなければならない組み立て段階で、ボールをもった選手の「ボールを動かす」という意識が低すぎるだけではなく(彼らのトラップを見ていれば、次を意識していないことが一目瞭然!!)、ボールがないところでの周りの選手たちのアクティブな動きに対する意識もなさ過ぎると感じるのです。

 これでは、マリノス選手たちにとってはまったく怖くない・・。ガンバ攻撃では、「次の選手(パスの受け手)」が、常に明確に「見えてしまう」のですからネ。ボールを持つ選手が、「詰まった状態」でしかパスをしようとしないのですから、それもアタリマエですが・・。

 その傾向は、相手のフィールドプレーヤーが「たったの」8人になっても変わりませんでした。人数だけは多いのですが、「ボールがないところでの勝負の動き」を仕掛けていく選手がほとんど出てこない(イメージ・シンクロプレーがほとんどなく単発の単独勝負ばかり・・)。これでは、基本的なサッカーの発想自体に問題アリ・・とされても仕方ない?!

 また(特に中盤での)守備にしても、ボールが「来てから」対応するという、後手後手ディフェンス。相手のボールホルダーに一人がチェックにいき、周りは「次」を狙う・・、もっといえば狙ったゾーンに(意図的に)パスを出させてしまう・・、そんな守備の原則的なコンセプトをイメージしたプレーをしているとは到底思えないような、ガンバ選手たちの「受け身・消極」守備ではありました。

 またゴール前の守備にしても、最後の勝負の瞬間でのマーク(勝負の瞬間での集中力=考える姿勢)に問題ありと感じます。そこが一番大切なのに・・。彼らは、ゴール前でも「マークの受け渡し」ができるとでも考えているのでしょうか。

 ちょっと厳しい(厳しすぎる?!)コメントになってしまいましたが・・。第一節以降ガンバの試合を見ていなかった湯浅は、ここ二試合、かなり調子を上げてきていると聞いていたもので、かなり期待して横浜国際競技場へやってきたのですが・・

 次にマリノスですが、二人退場になっても、彼らの「落ち着いた守備プレー」が目立っていました。それは、ガンバの攻撃リズムでは、ほとんど「自分たちのウラ」を突かれない・・という自信があったからに他なりません。スタンドから見ていて、マリノス守備陣が、簡単にガンバの攻撃を「読んで」ポジショニングしてしまうのがはっきりと見て取れるのです。それほどガンバの攻撃に、「相手の予測をあざむく(サッカーはダマシ合いのボールゲーム)」という発想がなかった?!

 たとえば後半がはじまってすぐの典型的なシーン・・。

 中盤でボールを受けた小島が、チェックにきたマリノスの選手二人をハズして振り向き、そのまま、マリノス最終守備ラインへ向けてドリブルで進む・・。この瞬間、周りで反応し、タテの決定的スペースへ飛び出そうとした選手は皆無。結局、止まってパスを要求した山口にボールを預けてしまう・・。山口は、完璧なタイミングで、マリノス最終守備ラインのウラスペースへ走り込める状態だった!!

 このシーンで山口がタテへ抜け出せば、(山口が完全にマークされていたとしても)ボールを持つ小島の「次の仕掛け」のオプションは無限に広がります。山口にラストパスを通すのか、ドリブルで突破するのか、タメるのか、はたまた他の選手とワンツーで抜け出るのか・・等など。ただ山口が、小島の「次のスペース」を潰してしまったために前へのドリブルに詰まってしまったのです。

 また、そのすぐ後には、左サイドで稲本がドリブル突破を成功させた場面がありました。彼にはハードなマーク(小村)が「追いついて」きています。ということで、稲本には、ラストパスしか選択肢が残されていません。ところが、中央にいた小島は、その場に立ち尽くして状況を眺めているだけ。どうして、一歩でも二歩でも、自分をマークするマリノスディフェンダーの「眼前のスペース」へ入り込まないのか!! そして結局は、案の定そこしかないスペースへ出た稲本のパスが簡単にカットされてしまいます。

 勝負所でのイメージがシンクロしないガンバ。これからもっと苦労することになりそうな予感が・・・。アッ、またまたガンバのことになってしまいました。

 才能溢れる若手を多く抱えるガンバには、本当に頑張って欲しいんですよ。ただ、サッカーは「本物のチームゲーム」ですから、一人でも、本当に一人でも「アクティブなマインド」を失ったら、その「消極ビールス」が、すぐにチーム全体に蔓延してしまい、全員の足が止まってしまう「心理的な悪魔のサイクル」に陥ってしまいます。そんな「悪魔のサイクル」を断ち切るためには、それこそ大変なエネルギーが要るのです。

 願わくば、「ヤング・タレント」たちだけでも、ギリギリの仕掛けプレーをくり返して欲しい・・。それをキッカケに、チーム全体の「プレー姿勢」が活性化するに違いないと期待する湯浅なのです。ガンバレ稲本、ガンバレ小島・・

 最後にマリノスについて・・

 シーズン当初は大きな問題を抱えていたマリノスですが、ここにきて「内容」が段違いに充実してきていると感じます。中盤守備と、「ボールを活発に動かす」という意識に問題を抱える永井を外したオジー・アルディレス監督。私は、マリノス選手たちの「組織プレーと個人勝負プレーに対するバランス感覚の向上」は、それがもっとも大きなキッカケだったと思っています。

 ところがこの試合では、ユー・サンチョルが大けがをし、波戸、松田が退場になってしまって・・。次のサンフレッチェ戦は、かなり苦労するでしょうが、この試合で彼らが魅せた、人数が足りなくなった後の、格段にアクティブになったクレバープレーを見ていて、まあ大丈夫だろうナ・・と感じました。逆に、主力の欠場が、彼らの意識を高め、よりダイナミックなサッカーを展開するのでは・・なんて期待を抱いてしまうようなマリノスの見事な「出来」ではありました。

フロンターレvsエスパルス(0−2)

レビュー

 次に、等々力で行われた、素晴らしくエキサイティングだったフロンターレ対エスパルス戦を短くレポート・・

 前回の川崎ダービーでの沈滞サッカーに比べ、この試合でのフロンターレは、「積極性(意識の高い仕掛けの姿勢)」という意味では数段上のサッカーを展開しました。

 奥野を「スイーパー」にする従来型の「スリーバック」。それに、中盤から、人を中心的に見る「マン・オリエンテッド」タイプのチーム守備システムです。それが最初の頃はうまく機能し、エスパルスが少し押し込まれる展開から試合がスタートします。ただそれも15分間くらい。徐々にエスパルス本来の、ボールを素早く、広く動かすハイレベルサッカーが機能しはじめます。

 必死に食い下がるフロンターレ。ただ、いかんせん守備での「読み」がまだ不徹底。どうしても、勝負所に、うまいタイミングで集中することができずに、エスパルスの素早い展開に、守備ブロックが振り回されてしまうシーンが続出してしまいます。これでは・・

 マンオリエンテッド守備システムでも、「読み」は基本中の基本です。それがあってはじめて、「人を見る」守備戦術が生きてきます。ボールホルダーに対する厳しいチェック、そして周りにフリーな相手がまったく出てこない状況から、制限された(つまり予測通りの)相手のパスの受け手に爆発的なアタックを仕掛ける・・というイメージなのですがネ・・

 ただ攻撃では、仕掛けに対する積極性が見えてきています。前回の川崎ダービーでは、攻守ともに「流され」た消極プレーに終始していましたからネ・・。

 それでも、やはりエスパルスは強い。安永、久保山のツートップに、縦横無尽に澤登が絡んでいくだけではなく、大榎が、サントスが、両サイドの市川、アレックスが、はたまた守備の重鎮、森岡が、どんどんとタテのポジションチェンジで攻め上がってきます。それに対応し切れないフロンターレの「マン・オリエンテッド守備」。

 また、エスパルスの守備は、まさに円熟の境地といったところでした。攻め込まれる状況では、五人の最終守備ブロックの前に、サントス、大榎、澤登の三人の壁が立ちはだかり、そして最前線では、ツートップの二人が積極的にチェイシングします。しっかりとバランスのとれた「ファジー・ポジショニング」から、読みをベースに、勝負所では、時には三人のエスパルス選手たちが集中してボールを奪い返してしまうのです。素晴らしい・・

 たしかに基本的なチカラ(個人の能力と戦術的なコンセプトに対する理解度)が違う・・

 それでもフロンターレは、(特に後半に魅せた)アクティブ&ダイナミックなサッカーを(積極的な仕掛けの姿勢)を維持、高揚させていければ、またマジーニョ、ペドリーニョがフルコンディションで帰ってくれば、必ず結果がついてくると確信します。この試合で見せた彼らのサッカーは、少なくても正しい路線には乗っていると思う湯浅でした。

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 ところで、この試合で「面白いモノ」を見ました。後半25分、トップの安永に代わって、守備の遠藤が入り、左サイドのアレックスが、最前線へ上がったのです。さて・・

 評価からまずいきましょう。それは・・、彼は、最前線でスペースを狙ってどんどんと動き、後方からパスを受けて展開しながら勝負所に絡んでいくという「トップのプレー」には、まだまったく慣れていない・・、だから活躍できない(うまくボールに触れない、パスを受けられない)・・というものでした。

 左サイドバックのポジションでは、前を向いた状態でパスを受け、そのまま自然な流れで(ボールを受けたら、すぐに)仕掛けていけるという、比較的シンプルな攻撃プレーができます。ただトップの場合、何度も、ボールを動かす組み立てに絡みながら、最終勝負を仕掛けられる状況を作り出さなければなりません。まだ彼は、最前線にいて、後方からのパスを受ける動きと「次のスペース活用」をうまくイメージできていないようです。もちろん何度もトップのポジションを経験すれば、彼ほどの才能なのですから効果的なプレーができるようになるに違いありませんが・・。それでも、与えられたポジションに合わせたプレーができないのは、サッカーに対する基本的な理解が不足しているから・・といわれても仕方ありませんがネ・・

 彼は、「2002」へ向けて、日本の中核的存在になり得る能力を十二分に備えています。いまのうちから多くのポジションを経験し、(考え続け、工夫し続けることで)それぞれの「ポジション的な特性」をアタマの中の「イメージ・タンク」に蓄積しておいて欲しいモノです。

 彼の日本への帰化が待ち遠しい湯浅でした・・



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