湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第12節(2000年11月11日)

あまり内容のない沈滞ゲーム・・でも発見はアリ・・マリノス対ジェフ(1−0)

レビュー

 この試合では、まずマリノスの中村俊輔、そしてスペイン帰りの城彰二、そして「降格リーグ」に片足を突っ込んでいるジェフの「内容」を見ようと思ってワクワクしてスタジアムへ着いたのですが・・

 「とにかく、いまの駒では、戦術的に大きくパフォーマンスをアップすることは叶わない・・どちらかといえば、心理的、精神的な部分で選手たちを奮起させなければ・・」

 ジェフ市原、ベルデニック監督が、力なく記者会見で話していました。インタビューでは、急に「馴染みの言葉」が聞こえたのでビックリ・・。彼のドイツ語は、母国語ではないので(アクセントを聞けぱすぐに分かります・・)、どこの国の人なのかな・・なんて思っていたものです(もし知っている方がいれば教えてください・・調べればすぐに分かるのですが・・)。

 たしかに彼の言葉通り、ジェフのチーム総合力はトップクラスではありません。ただ彼らは、持てるチカラを最大限発揮したギリギリの闘いを展開していたわけでもありません。私の目には、「もっと出来る! もっと闘える!」と映っていたのです。ベルデニック監督は、カウンター狙いだった前半とは違い、リードされている後半は、中盤でのプレッシャーを厳しくすることで、なるべく高い位置でボールを奪いかえして攻め込もうとした・・と言っていたのですが、その「高い位置でボールを奪いかえす」というチームの意図が完璧に機能していたとは言い難い・・というのは事実でした(たしかに、林のドリブル勝負などの決定的チャンスはありましたが・・)。

 前半に比べれば、たしかに後半の方が「中盤守備」はアクティブになりましたが、それでも、まだまだ・・。

 中盤守備は、『複数の選手たちのディフェンス意図が、有機的に連鎖』しなければなりません。また、一人でも「考えること」をサボったら(=集中力の欠如!)、効果的な中盤プレスは機能しません。最前線からの「チェイシング」をスタートラインとし、それに呼応した、「次」、「そのまた次」の選手たちの効果的なプレス守備参加が生命線。常に、マリノスのボールの動きに対し、「先回り」していなければならないのです。それが・・

 また、中盤プレス守備の「目的(目標)意識」にも課題が見え隠れしていました。プレス守備を仕掛けていくときの「ベース」は、中盤の高い位置でボールを奪い返したあとの「素早い攻撃」までも明確に意識していることです。中盤でボールを奪いかえす・・、いや、ボールを奪い返せると「確信」した時点で、周りが、「次の素早い攻撃」のために動き出す・・、そんな「連続したイメージ」を持っていることがもっとも重要なのです。

 それに対しジェフの選手たちは、「プレス守備から攻撃へのスムーズな流れ」に対して、あまり明確なイメージをもっていないと感じました。つまり彼らにとっては、「ボールを奪いかえす」という現象だけが「意識的な目標」になってしまっているということです。積極的なプレス守備が、「次の、素早く相手守備ブロックの穴を突いていくためなのだ・・」というイメージ(発想)を持たなければならないのに・・。明確な、『連続的プレーイメージ』を持つ・・。それは監督の仕事のもっとも重要な部分であることは言うまでもありません。

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 さて、対するマリノスですが、彼らの出来も感心したものではありませんでした。例によって、オジー・アルディレス監督が、ユーモアたっぷりに、「今日の試合内容については、あまり質問しないでくださいネ・・。皆さんがご覧になったとおり、質問に値する内容もあまりなかったですから・・」なんて牽制していましたが・・

 この試合は、両チームともに、とにかく「ボールの動き」がカッタるくて・・。ボールの動きが緩慢なのは、もちろん「ボールがないところでの動き」がアクティブではないからです。「選手たちは疲れているんでネ。身体的にだけではなく、心理・精神的にもネ。だから来週の水曜日まで、トレーニングを休みにしたんだ・・」。オジーがそう言っていました。たしかにそうかもしれません。この「試合内容」では、セカンドステージの勝者と争う「チャンピオンシップ」が思いやられてしまう・・

 それでも「休み方」に関するコメントはサスガ・・。「特に中村など、国際試合に出ていた者たちの疲れが目立つから、彼らには、とにかくサッカーのことをまったく考えないように、リラックスして休養するように・・って言ったんだヨ」・・

 ということで中村ですが、この試合唯一のゴールとなった素晴らしい直接フリーキックゴールは、もう「天賦の才」としかいいようのないものでした。さて出来について・・。前半は、周りの沈滞した流れに乗るだけでミスも多く本当に不満でした。でも後半は、自身でも「これじゃいかん!」と思ったに違いありません。プレーの質が格段に持ち直しました。攻守にわたる「アクション・ラディウス(行動半径)」も格段に向上していましたしネ。

 中村には、この二ヶ月間で「感覚的に得た」良いプレーに対するイメージを、『常に』維持、発展させることにどん欲であってほしいと願わずにはいられません。そのためには、とにかくリーグの試合において、自分が攻守にわたる「コア」になる・・という強い意識を持ち続けなければなりません。彼ほどの才能は「希有」ですし、他の多くの「才能あふれる選手」たちがたどった(そして「才能の墓場」へ直行してしまった・・)「失敗ルート」には絶対に乗らないで欲しいのです。

 後半の出来からは、広い行動半径をベースに、しっかりとチームの中心になるなど、「まだ」彼が、良いイメージをベースにプレーしていると感じました。ただ、まだ守備が・・。「発展する」という意味では、もっと「予測ベース守備」のチカラを伸ばさなければなりません。インターセプトを狙っているのはいいのですが、まだまだ「当たりにいくタイミング」が悪く、アタックも緩慢なのです。もっと厳しく当たればボールを奪い返せるのに、相手とぶつかったらすぐに「エネルギー・レベル」を落としてしまったり・・。それでも、守備意識が「格段」に向上したのは素晴らしいことなんですがネ。

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 最後に、マリノスの木島選手について・・

 この選手は初めて見るのですが、最初から、「アッ、コイツは自信をもって効果的なプレーをしている・・」と感じました。しっかりとした技術、自信あふれる「対人プレー」などなど、積極的で実効ある攻撃参加はインプレッシブそのもの・・。守備にはまだ課題をかかえてはいますが、もしかしたら本物の「良い選手」になるかも・・なんて感じたものです。

 この選手についてのオジーのコメントからも、木島に対する強い「思い入れ」を感じました。「たしかに私が来た頃の彼のプレーには問題があった・・それでも、しっかりと正しい道を歩んで伸びている・・私も彼の発展が楽しみなんだヨ・・」。

 「前節の試合も良かったんだけれど、とにかく彼が良いプレーを披露できて、ホッとしているんだ。最初のころは、ボリビア人・・なんてニックネームをつけてしまうくらいに問題あったがネ・・。アッ、これは書かないでくれよナ。ボリビア大使館からクレームがつくかもしれないから・・」

 私も、南米の友人たちから、アルゼンチン、ブラジルなどでは、組織プレーがうまく出来ない、典型的な「ボールプレイヤー(パスをせずに、常に自己中心的なプレーをする選手たち)」のことを「ボリビアン」なんて呼ぶことを聞いて知っていましたから、オジーの言葉に笑ってしまって・・。アハハ・・

 マリノスの「木島良輔」選手。彼は一見の価値がありますヨ・・というメッセージで、今回のコラムを終えることにします。ではまた・・



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