湯浅健二の「J」ワンポイント


2000年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第15節(2000年11月26日、日曜日)

またまた、総合力で一歩先んじていることを証明したアントラーズ・・アントラーズvsレイソル(0-0)

レビュー

 「オレたちは、たぶん90%は達成できるけれど、日本チームはまだまだだね。守り切るための集中が、最後まで続かないから・・」

 以前、浦和レッズでプレーしていた「ギド・ブッフヴァルト」が、私にそう言ったことがありました。ドイツのチームだったら(まあ彼はドイツ代表チームのことをイメージしていたのかもしれませんがネ・・)、守り切ろうと思えば、多くのケースで、その「目的」を達成できる(その自信がある!)・・、ただ日本チームには、それを達成するだけの「集中」が最後まで続かない・・、彼は、そのことを言っていたのです。

 たしかにそうだな・・、当時の私も、彼の発言に全く「アグリー」といったところでした。でも、この試合を見て、考え方がかなり変わってしまったりして・・

 こんな「極限のテンションが充満した」エキサイティングゲームは、本当に久しぶり。特にアントラーズは、素晴らしい集中力で、最後まで相手にチャンスらしいチャンスを作らせずに守り切りました。日本のチームでも、これほどの素晴らしく「安定した」ゲームを展開できる・・。このゲームをスタジアム観戦した方々は、本当に満足して(充実した気持ちで)帰路につかれたに違いありません・・もちろん「悲喜こもごもドラマ」も含めて・・

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 試合は、前節のガンバ戦同様、アントラーズが、「総合力」での一日の長を誇示した・・というものでした。

 立ち上がりから「勝たなければならない」レイソルは、アクティブな中盤守備をベースに、グラウンド全体を支配し、攻め込もうとします。ただ、まったくといっていいほど、アントラーズ最終守備ラインの「ウラスペース」を突くような決定的チャンスを作り出せないのです。もちろんそれは、何といっても、アントラーズの守備が強固だから・・

 ツートップだけではなく、渡辺光輝、平山の両サイドバック、チャンスメイカーの大野、交代しながら、たまに押し上げてくるボランチの明神、萩村などが攻め込もうとはしますが、決定的スペースでフリーになるような状況を生み出すことが出来ないのです。

 攻撃の「目的」は、シュートを打つこと・・、ただ、そこまでのプロセスでは、「まず」スペースで「ある程度フリー」でボールを持つ「最終勝負の起点」を作り出さなければなりません。そのために、フリーランニングでスペースへ入り込んでパスを受けたり、ドリブルで眼前の敵を抜き去ったりするのです。ただレイソルは、アントラーズ守備陣の「忠実&クリエイティブ(読みベース)」なディフェンスに、「最終勝負プロセス」をうまく機能させることができません。

 ゲームの立ち上がり3分。まだアントラーズ選手たちの「意識」が、100%、試合の流れに乗っていなかった時間帯。そこで、レイソルにとっては、この試合では数少ない、「試合の流れのなか」におけるチャンスが生まれます。それは、北島からパスを受けた右サイドの渡辺光輝が、素早いタイミングでのセンタリング(決定的なサイドチェンジパスといったほうが正しい表現かも・・)を上げ、逆サイドの平山が決定的なシュートまでいったシーンです。でもモノにできず・・。また延長後半早々の「0分」におけるカウンターチャンスでは、右サイドの砂川から送り込まれた、早めの「サイドチェンジ気味のセンタリング」を、逆サイドのファン・ソンホンが、決定的なヘディングシュートを放ちます。ただそれもアントラーズGK、高桑のファインセーブで防がれてしまって・・

 レイソルでは、「試合の流れ」のなかで、アントラーズ守備陣のウラを取って(マークからフリーになって)作り出したチャンスはこの二本くらい(前半37分の、CKからの萩村のヘディングシュートは惜しかったですが・・セットプレーからのチャンスもそれくらい・・)。あとは、たしかにシュートまではいきますが、それも「打たされた」ような可能性を感じさせないものがほとんどでした。

 それに対しアントラーズは、前半35分、ビスマルクの、ヘディングでの「スルーパス」から抜け出した(ヘディングする前の段階からスペースへスタートしていた)柳沢がシュートチャンスを作り出したのを皮切りに(このシーンでは、引っかけられて潰された?!・・でも岡田主審はホイッスルを吹かず仕舞い・・どちらにしても、レイソル守備陣がウラを突かれたことは事実!!)、続く41分には、名良橋がタイミング良くシュートまでいき、後半4分には、左サイドを切れ込んだ相馬のセンタリングから、ビスマルクが決定的シュートを放ち(レイソルのディフェンダーがギリギリで触ってコーナーキック!)、後半15分には、ワンツーで抜け出した名良橋のセンタリングから、逆サイドの鈴木が、続く22分には、ワンツーで抜け出した中田浩二が、「決定的なカタチ」でシュートを放ちます。

 延長に入っても、前半10分には、名良橋のセンタリングを、レイソルゴール前でまったくフリーになっていた鈴木がヘディングシュートを見舞っただけではなく(鈴木の完璧なヘディングミス!)、延長の後半8分、10分と、立て続けにレイソルの守備ブロックを崩したチャンスを作り出します。

 レイソルは、この試合に勝たなければならず、「リスク」を冒してでも攻め上がったことで、逆にアントラーズに「カウンターチャンス」が生まれた・・という見方もできますが、私は、攻撃の「クオリティー(発想と個人の能力)」では、アントラーズに明らかに軍配が上がると思っているのです。

 仕掛けの組み立てが稚拙なことで、いつも「詰まった状態」でのアバウトな攻撃(単発な攻撃)をくり返すレイソルに対し、アントラーズは、どんどんと「素早く、広く」ボールを動かすことで、レイソル守備ブロックに「薄い部分」を作り出し、最後は、その「ウラ」を突いていこうとするのです(そんな『クリエイティブな意図』が明確に見える!)。もちろんレイソルの守備陣も堅牢ですから、そうそう簡単にはチャンスを作り出すことはできませんが、基本的な「攻撃の発想」自体に、かなりの「差」を感じていた湯浅でした。

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 この試合では、とにかくアントラーズ選手たちの「ハイクオリティーな守備意識」が目立ちに目立っていたことにも触れないわけにはいきません。その代表が、ボランチの熊谷と中田浩二。とにかく彼らの「バランス」を意識した、『攻守にわたる』効果的なプレーは見応え十分。彼らを見ているだけで、入場料にオツリがくる(?!)・・

 また、(前気味の)小笠原、ビスマルクも、攻撃だけではなく、中盤守備でも大車輪の活躍。私の「メモ」にも、彼らの素晴らしい守備参加がいくつかノートされています。たとえば、後半34分。アントラーズのカウンターの場面で、右サイドの柳沢から、左サイドのスペースを全力で駆け上がる小笠原へ、ダイレクトでのサイドチェンジのパスが飛びます。ただそのパスは小笠原に届かずに相手に奪われてしまいます(さて、パスカットしたのは誰だったのか・・後でビデオで確認しましょう・・)。その瞬間、小笠原が、爆発的な「守備アクション」をスタートします。急速ターンし、そのまま攻め上がるレイソルの選手に、しつこく、本当にしつこくマークして戻り、結局最後には、「自ら」ボールを奪い返してしまったのです。その、素晴らしい「守備意識」にため息しきりの湯浅でした。

 またビスマルクは、たまに中田浩二と熊谷が攻撃の最終シーンまで絡んでいった場面では、確実に「次の効果的な守備プレー」に参加していました。もちろん小笠原も・・

 これだけ、「中盤選手」たちが、グラウンド全体を見渡すような、ハイレベルの「(グラウンド全体を俯瞰するような)状況把握能力」を備えているのですから、中田浩二、熊谷のボランチコンビだけではなく、両サイドの名良橋や相馬にしても、チャンスを見計らった(最終シーンまで積極的に絡んでいく・・または最初から自らのシュートを意識した)攻撃参加を、「後ろ髪を引かれることなく」繰り出すことができて当然といったところではあります。

 最後にもう一度・・。とにかくこの試合では、アントラーズの「ボールがないところでの守備」の堅実さは、もう感動モノでした。もちろん、ホン・ミョンボを中心にした(彼をスイーパーにした)「従来型のスリーバック」と両サイドバック、そして萩村&明神の堅実なボランチコンビで構成される、レイソルの守備ブロックも堅牢ではあります。それでも、前後左右に「ポジションチェンジ」しても「守備ブロックのバランス」が崩れないアントラーズと、ほとんどブロックのメンバーに「変化」がない(前後のポジションチェンジに消極的な)レイソルとでは、やはり、ちょっと差がある感じた湯浅だったのです。

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 全体的なチーム力では、「まだ」僅差が残る両チーム・・。とはいっても、着々と「実効あるチカラ」をつけているレイソルも、シーズンを通して「立派な戦い」を披露し、ガンバとともにリーグ後半戦を盛り上げてくれました。彼らに対し、心の底から「感謝!」なのです。

 さてこれで、「来シーズン」も、もっと面白いリーグ戦が展開されるに違いない・・。そこには「トトカルチョ」もありますしネ・・。でも逆に言えば、各チームのチカラの格差の縮小が、「予測をより難しく」することも事実です。私も、ドイツ留学時代には、「トトカルチョ」で大いに楽しませてもらったモノですが、アチラのリーグの「予測」の難しいこと・・。まあそれも「本場」の証明といったところなのですが・・。

 とにかく、「トト」の予測が難しくなればなる程、リーグのレベルが上がっていることの証・・という考え方もあるってえことが言いたかったんですよ。

 さて夜中には、アンダー19の決勝があり、二日後にトヨタカップ、そして来週末には「チャンピオンシップ」・・楽しみで仕方ありません。乱筆、失礼・・。ではまた・・



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