湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第5節(2001年4月14日、土曜日)

ヴェルディー対レイソル(1-0)、そしてレッズ対FC東京(1-3)

レビュー

 さて、まずヴェルディー対レイソルから。この試合をどのようにコメントしましょうかネ。両チームともに、リベロをおいたスリーバック(つまり典型的なファイブバック)に、ボランチを二枚おいていますから、守備「だけ」は、本当に安定しています。そして素早いカウンター気味の攻めを狙う・・。フム・・

 そんな背景もあって、両チームの「展開力のなさ」だけが目立ってしまって。「展開力」というのは、もちろん最終勝負を仕掛けていくための「ファウンデーション」、つまり、いかに効果的に、攻撃の最終段階において「勝負の起点(フリーでボールをもつ選手)」を作り出すかということです。

 例えば、一方のサイドで「ショート&ショートのパス」つなぎながら相手守備を引きつけ、機を見計らって勝負のサイドチェンジパスを出すとか、一度落ち着いた場面から「勝負」のバックパスを出し、そこからダイレクトで勝負のスルーパスが出るとか(もちろん勝負のフリーランニングとの組み合わせですよ・・言うまでもないことでしょうが・・)・・。そんな「クリエイティブな仕掛けの意図」を感じたい湯浅なのですが、とにかく両チームともに、ボールの動きが単調&緩慢で・・

 何度、「ここだ!」と叫びそうになったことか。例えば「安全な横パス」が回されるシーン。その横パスを受ける選手は、完璧な「ルックアップ」をする余裕は十分なのに、結局は「単にトラップ」するだけにおわってしまう。私は、ダイレクトでの勝負パスをイメージしていたのに・・

 たしかに、逆サイドや最前線の味方が「勝負の反応(フリーランニングのスタート)」をみせる気配がないから仕方ないのですが、そんな、「試合の流れのなかでのエネルギーのタメ」という「発想」をまったく感じないのは、寂しい限りではありませんか。

 要は、ボールの動きが「単調」に過ぎるということです。それぞれのステーション(ボールホルダー)での「ボールの停滞」が、周りの「ボールのないところでの動き(それに対する積極的な意志)」を、心理・精神的に後退させてしまう・・

 前述の「安全な横パス(つまりファウンデーションのパス)」のシーンですが、逆サイドや最前線の味方が勝負のフリーランニングを仕掛けていなくてもいいじゃありませんか。とにかく、「まず」勝負パスを出してやるんですよ。もちろんミスパスになってしまうんですが、そこで「パスを出した選手」が、大声で文句を言う・・、そして「超」大げさなアクションで悔しがる・・。そんな「演技」ができる選手さえいれば、味方にとっての大いなる「刺激」になるものなんですが・・

 とはいっても後半は、少しはゲームが「動き」はじめたと感じました。そして34分、ヴェルディーが先制ゴールを挙げます。カウンター気味の状況から、左サイドの永井にパスが通り、レイソルゴール前の「混雑」を避けるような「バックパス気味のラストパス」が、ピタリと西田に会合ったのです。ドカン!と中距離シュートが、レイソル左角に決まります。レイソル守備ブロックを完璧に「引きつけた」永井のクレバーなプレー。永井からの「ラスト・バックパス」をイメージしてポジションに入ってきた西田・・。フム、素晴らしい。

 さて、ここからのレイソルのプレーですが、私は、雰囲気が「ガラッ」と変わることを期待していました。何といっても、このままでは負けてしまうんですからネ。でも結局は、その期待が肩すかしを食らってしまって・・。彼らのプレーから「中盤でのダイナミズムの高揚」を感じることは、まったくなかったのです。

 ボールの動きが沈滞気味であることに変化が見られません。また、「チャンスの芽」が具体的になりつつある状況になっても、後方から、最前線を追い越してしまうくらいの勢いで上がってくる「サポートの動き」がまったく見られない。そんな「ダイナミズム」が出てくれば、「攻撃の変化」を演出するためにもっとも効果的な「タテのポジションチェンジ」も頻繁に出てくるはずなのですが・・

 そして結局は、そのまま試合終了・・。あ〜〜あ、何て見所のない試合だったんだろう・・。こんなことを書いたら、両チームのファンの方々からブーイングを浴びそうですが、たぶんそれは、見られていた方々すべてに共通する「印象」だったのでは・・

 それにしてもレイソル。たしかにヴェルディーの二倍のシュートは放ちましたし、そこそこのチャンスは作り出しました。それでもチャンスの「コンテンツ」が、「偶然要素」にちょっと毛が生えた程度だと感じます。もっと、最終勝負に対する「ボールがないところでの鋭い意図」を感じさせて欲しいと思った湯浅でした。

 もしかしたら彼らは、「ボール扱いがウマイ」ヴェルディーに対してコンプレックスを抱いているのかも・・。たしかに先シーズンは、中盤でチンチンにやられた試合もありましたからネ。

 それにしても、各ステーションでの「停滞」が目立ったカッタるい試合。私にとってこのゲームの観戦は、「フラストレーション」以外の何ものでもありませんでした。

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 さて、試合後すぐに東京スタジアムを後にし、浦和の駒場スタジアムに向かいました。混んではいましたが、調布スタジアムを出れば、すぐに高速道路の入り口がありますし、何といっても単車ですからネ。45分くらいで駒場に到着したというわけです。

 ・・ってなわけで、何ともコメントのしにくかった駒場のゲームを簡単に。

 前半は、内容的にはレッズのものでした。特に「小野」のプレーに、意識改善の兆しを感じ、本当に嬉しく思ったものです。

 小野のプレーですが、特にボールをもったときの、そのまま「突っかけていく」プレーが出てきたことが目立っていました。これまで、安全パスをつないでは足を止め、次のパスをスタンディングで待つ・・、勝負所ではスルーパス「しか」狙わない・・、それもスタンディングからのダイレクトばかり・・これでは・・なんて、何度も、何度も書いてきたのですが、このゲームでは、かなり様変わり。

 パスを受けるために、しっかりと「ボールのないところ」で動いている・・、ボールを持ったとき、そのままドリブルで仕掛けていくシーンが、かなり目立つようになっている・・、もちろんシンプルパスはつなぐが、そこから素早く「次」へ動き、積極的に攻撃の「起点」になろうとする・・、また守備でも、実効あるアクションを「続ける」ようになった・・等など、嬉しい限りではありませんか。とにかく、この「アクティブなプレー姿勢」を、今後とも、どんどんと発展させて欲しいと願っているのは、私だけではないに違いありません。

 試合ですが、前半のレッズが良かったとはいっても、まだまだ「前線の三人だけ(トゥット、アドリアーノ、そして小野)」で攻めている・・という印象は拭えません。たしかに、「前気味のストッパー」としての石井の活躍をベースに最終守備ラインが安定し、その前のドニゼッチ、阿部の「2.5列目」も、守備ではうまく機能していることで中盤を制したレッズが、全体的には試合をコントロールしてはいるのですが、そんなアクティブサッカーが「攻撃の最終シーン」までつながらないのです。結局は、アドリアーノ、トゥット、そして(この試合では)小野の「単独勝負」ばかりが目立ってしまって・・

 それでも実際にゴールに結びつけてしまうのですから、トゥットの突破力は本当にスゴイ! レッズ先制ゴールのシーンのことです。左から、どんどんとドリブルで東京の守備ブロックを抜き去ってシュートまでいってしまう・・。それが東京ゴールの左ポストに当たって跳ね返ったところを、詰めていたアドリアーノが押し込んだというわけです。でもその後がいけなかった。一枚イエローをもらっているアドリアーノが、ゴールの後、看板を乗り越えて喜びを表現してしまったのです。もちろんイエロー。それも二枚目・・(もちろん退場!)。もし彼が、ゴールの後に、グラウンドの周りの看板を飛び越えたらイエローという「ルール」を知らなかったしたら・・、またもし彼が、そのことを知っているにもかかわらず、やってしまったとしたら・・フム・・

 この退場劇が、後半のレッズの「物理的・心理的」なバランスを崩し、逆に、東京を勇気づけてしまったことは確かなことです。後半の東京は、もちろん負けているということもあるのですが、中盤のアクティブ守備をベースに、後方の選手もどんどんとリスクにチャレンジしていく攻撃を展開するなど、とにかく吹っ切れたサッカーを展開しました。その積極的なプレー姿勢と「数的に有利な状況」とが相まって、FC東京が、試合を完全に牛耳ってしまいます。

 後半早々の同点ゴールは、見事の一言。中盤でケリーがボールをもった瞬間、最前線の呂比須が脱兎のごとくターンして決定的スペースへ抜け出ます。マークしていたレッズのディフェンダーは、完全に振り切られてしまって・・。その呂比須へ、ケリーから、ここしかないというロビングのラストパスが飛んだのです。それにしてもレッズ最終ラインのカバーリング機能が・・

 二点目は、ケリー自身がドリブルで持ち込んで叩き込み、三点目は、交代した戸田のヘディング一発。

 レッズは、これからアントラーズ、ジュビロと、強豪との試合が続きます。踏ん張りどころなのですが、とにかくまず、守備ブロックをもっと安定させなければ・・。選手たちが自信をもってくれば、おのずと攻撃の「組織的なダイナミズム」も活性化してくるはずです。ということで本日は、こんなところで・・



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