湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第13節(2001年11月10日、土曜日)

最後まで集中を切らさず、「現状でのベストゲーム」を展開したマリノスだったのに・・ジュビロ磐田vs横浜Fマリノス(1-0、延長Vゴール!)

レビュー

 さて、今節も「リーグ終盤ドラマの主役カード」になりました。優勝争いチームと、降格リーグチームが相まみえる、肉を切らせて骨を断つ闘い・・。

 そして結末は、マリノスにとって非常に厳しいものになってしまう・・。粘りのディフェンスブロックは、最後まで集中を切らすことなく耐えつづけ、ゲームの終盤には、ジュビロ中盤守備の戻りが鈍重になってきたこともあって、攻撃にも「危険な鋭さ」が見られるようになってきたのに・・

---------------

 このゲームがどんな展開になるのかについては、まあ最初から見えていましたよネ。ジュビロが試合全体を牛耳りながら攻め上がり、マリノスがしっかりと守って「ワンチャンス」を狙う・・。何といってもマリノスは、左サイドの仕掛け人、ドゥトラだけではなく、最前線でのフィニッシャー、ブリットも欠いていますからネ。

 とはいっても、前半から後半の半ばにかけてのマリノスの攻めには、カウンターを決めるゾ・・というチーム内で統一された意識に欠けていると感じていました(こんな試合展開になることは、選手全員が分かっていたはずなのに!)。中村俊輔がボールを持っても、ちょっとこねくり回し過ぎ(周りのサポートがない・・俊輔自身も持ちすぎ!)・・、カウンターのチャンスがあっても、二列目の選手たちの思い切りよい「飛び出し」が見られない・・、、そして最前線の「動き」にしても、一発で決定的スペースを突くというフリーランニング・タイプではない・・

 そんな展開でしたが、後半20分を過ぎた頃から、(前述したように)マリノスの攻めに「鋭さ」が出てきます。要は、「もしかしたら、ジュビロ最終ラインを破れるかも・・」と実感できる勢いが出てきたということです。

 その「心理的なキッカケ」は、中村俊輔が放った「惜しいフリーキック」だったのかも・・(後半20分前後!?)。そのフリーキックは、ゴール前の「人垣」を越え、直接、ジュビロGK、ヴァン・ズワムに襲いかかったのですが、ギリギリのところで、ズワムが「足」でクリアします。ズワムは、眼前で、両チーム入り乱れたヘディングの競り合いが行われていたために、ボールの動きを確認できなかったのです。それにしても、素晴らしいズワムの「反応」ではありました。そしてこの「決定的チャンス」が、マリノス選手たちに「元気」を与えたというわけです。

 マリノスに感じられるようになった「攻めの鋭さ」。その背景は、もちろん、ジュビロ中盤のディフェンスが「甘く」なったことです。そのために、中村俊輔が、「よりフリー」でボールを持つことができるようになった・・、マリノスの攻めに絡む「人数」が増えてきた・・。そして、中村俊輔のプレーの「実効度」も格段に向上し、崩しの前段階として効果のあるボールキープや展開パスだけではなく、何度か、決定的スルーパスも出るようになります(坂田へ出されたスルーパスは秀逸! あれは決めなければ・・)。

 ジュビロの攻撃は、相変わらず「危険」なのですが、そのボールの動き(最終勝負ゾーンを明確にイメージしたクリエイティブな展開!)をしっかりと意識しているマリノスの守備ブロックは(最終ラインの三人とサイドバック、そして遠藤と永山の守備的ハーフ)、崩されそうになりながらも、粘り強く(高い集中力と忠実さで)耐えつづけるのです。そしてボールを奪い返してからは、(ジュビロ全員が前へ重心がかかり過ぎているために)うまくカウンターのカタチを作り出すことができるようになった・・というわけです。

 それでも延長に入ってからは、ジュビロも「前後のアンバランス」を改善してしまいます。福西と服部のプレーゾーンが、再び安定してきたのです。やはり、試合全体の「流れ」を決めるのはミッドフィールド・・、特に「底」に位置する選手たちだということです。

 それまでは中盤守備ブロックが安定していることで、最終ラインも安定して「上げる」ことができていた・・、だから中盤ゾーンを狭めることで、組織ディフェンスもうまく機能していた・・、ただ中盤が上がり気味になり(戻りきれずに中盤守備ブロックが薄くなったことで、最終ラインも上げきれず)、俊輔を中心にしたマリノスの組み立てに「危険なニオイ」が出てきたことで、注意深くなった最終ラインが「もっと」下がってしまった・・っちゅうことです。本当に「微妙な関係」ですよね。そんなところもサッカーの見所の一つなんですよ。でも、延長に入ってからは、「守備的ハーフ」の押し上げを「安定」させることで修正したジュビロ。鈴木監督に拍手ではあります。

 そして延長前半4分、中盤でボールをもったマリノス遠藤からの「不正確」なバックパスを、ナザがトラップミスし、そのこぼれ球が、「常にチャンスを狙いつづける」中山ゴンの眼前に転がっていってしまったという次第(松田のウラを取る、絶妙のスルーパスになってしまった!)。「これまでの集中は、一体なんだったんだ・・」という表情でうなだれるマリノス選手たち。

 この時点で、まだヴェルディーの結果は分かりません。マリノスには、とにかく最後まで、自分たちが納得するゲームを展開して欲しいものです。そう、ナビスコカップ決勝も含めて、ここ数試合で彼らが魅せつづけている「最高の集中力」をベースに・・

----------------

 ここからは、「個別ポイント」について気付いたことを短くレポート・・。

 まず、ジュビロの大岩。守備プレーが「落ち着いてきた(心理的な余裕が出てきた)」と感じます。前半のことです。マリノスの坂田が、田中との競り合いで「うまく(偶発的に)」抜け出した状況で、バックアップした大岩が、ドリブルシュートを狙う坂田をチェックにいきます。一度、坂田が「シュート・フェイント」をかけますが、大岩は「まったく」動ぜず、坂田のシュートアクションを正確に予測して、本当に見事なタックルで防いでしまったのです。自分自身も、そのディフェンスアクションに納得していたのでしょう、「よし!」とガッツポーズ。それ以外でも、全体的なプレーは安定しています。彼の「心理的・戦術発想的」な成長を感じていた湯浅でした。

 その他では、例によって、中盤から最前線にかけての「縦横無尽のポジションチェンジ」が目立つジュビロ。右の西は、タッチライン沿いのオーバーラップに徹しますが(何度も決定的なカタチで、右サイドを崩してしまう!)、逆サイドの奥は、どんどんと「中」へ入り込んできます。もちろんこの二人の積極的な攻撃参加については、服部と福西に対する信頼があればこそ・・というのは言うまでもありません。

 とにかく、守備でのスーパー・ユーティリティー・プレーヤー、服部の忠実&ダイナミックな中盤ディフェンスには、日本代表のことも含めて、本当に「心から」深い信頼を感じている湯浅です。そして、その「忠実ディフェンス」をうまく活用して、クレバーな中盤守備を魅せる福西。「あうん」のコンビネーションではあります。

 攻撃では、何といっても中山ゴン。彼の、フリーランニング(ボールのないところでのクリエイティブプレー!)に対する「途切れない集中力」には、もう脱帽。前半20分くらいだったでしょうかネ、ジュビロが、左サイドでタテにボールを展開したシーンで、既にゴンは、最前線で、右サイドから左サイドのスペースへ「全力ダッシュ」を仕掛けていました。

 そこへ、中継に入った藤田からパスが飛んだことは言うまでもありません。もちろん藤田は、そのまま「パス&ムーブ」。そして最後は、ゴンの「粘りのセンタリング」から、タイミング良く上がってきた藤田が、決定的シュートを放ちます(マリノスGKがギリギリのところで手に当てて防ぐ!)。このゴンからのセンタリングは、ニアポストスペースへ入り込んだ清水をイメージしたものだったのですが、松田にうまくクリアされ、その「こぼれ球」が藤田の足許へ転がってきたというわけです。まあ、その「こぼれ球」までイメージして、バックアップのフリーランニングを止めなかった藤田の「ボールのなところでのプレー」が、そんな「戦術的な発想」が、今のジュビロの「強さの源泉」ではあるのですが・・。

 あっと、マリノスの松田が登場したので、彼についてもコメントを・・。この試合では、最終ラインのセンターに入った松田。とにかく、素晴らしいカバーリング、忠実マーク、そして球際の競り合いでの強さを魅せつづけます。足の速さは折り紙つきなのですが、それに「確実な読み(次の展開に対する確固たるイメージ!)」が加わった(読み能力が格段に向上した!)・・。

 まあ彼のカバーリングアクションが目立っていたのは、マリノス最終ラインのナザや、左サイドに入った古賀のポジショニングが(特に前半)中途半端ということもあったのですが(意識的なマークからの勝負所が明確ではない!)、そんなところまで「意識」してプレーをつづける松田に、これまた日本代表のことも含めて、頼もしく思っている湯浅なのです。

 ちょいとここで、前述した「守備での不安定さ」についてショートコメント。我々コーチにとって、ディフェンダーを評価するポイントには、もちろん身体能力の高さ、一対一の強さ(球際の強さ!)、ヘディングの強さなどの「個人能力」は大前提なんですが、それ以外にも、「ポジショニングバランスに対する鋭い感覚」や「ボールのないところでの守備アクション」などの戦術的な発想レベルがあります。決定的な場面での「忠実で実効あるマーキング」、そしてその時点でマークする相手を放り出しての「クリエイティブなカバーリング・アクション」等々のことです。

 決定的なパスが出されそうな状況での、最終フリーランニングを仕掛ける相手に対する忠実なマーキングポジション(決定的パスをインターセプトできるクレバーなポジショニングも含めて・・)等々、要は、どこでボールを奪い返すのかという明確でクリエイティブなイメージを持てているかどうかということですかネ。まあ「ディフェンダーに対する評価ファクター」は、かなり複雑ですから、今度、改めて書くことにしましょう。

---------------

 ちょっと中途半端ですが、本日はこれくらいにします。何とっても、これからワールドカップ予選の「プレーオフ」、ウクライナ対ドイツの試合を見なければなりませんしネ。この試合については、(スポナビも含め)明日にレポートしますので・・



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]