湯浅健二の「J」ワンポイント


2001年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


第6節(2001年9月22日、土曜日)

「小野後」の方向性が見えてきた!?・・レッズvsアントラーズ(1-2)

レビュー

 あ〜〜あっ、一体どうなっちゃうの・・。前半を見ていて、そんなことを思っていました。これじゃ、テーマなんてまったく見つけられないじゃないか・・。今夜(2500時)、テレビ埼玉の「レッズナビ」でも何かを話さなければならないというのに・・。

 前半のレッズ。まったくサッカーになっていませんでした。たしかに、井原を「スイーパー」にする、コンベンショナルな「スリーバック」は、ある程度は機能していました。とはいっても、下がり気味で受け身。忠実さだけが目立つばかり。またアントラーズの攻撃も、「早すぎる時間帯(前半5分)」で鈴木が先制ゴールを奪ったことで(!?)、全体的には沈滞気味になってしまいましたから・・。

 下がり気味のレッズ最終ライン・・、だから「高い位置」での中盤守備がうまく機能しない・・、だから「良いカタチ」でアントラーズからボールを奪い返すことができない・・、(低い位置で)ボールを奪い返しても、いたずらな「こねくり回し」からの安全な横パスをつなぐばかり・・、そのうちに、最前線のトゥット、エメルソンの「飛び出しエネルギー」も減退してしまって・・。

 そんなレッズのサッカーが、後半に阿部が登場してから、ガラッとイメージチェンジします。ポジションは守備的ハーフ。そしてレッズが、ゲームをコントロールしはじめます。彼によって、レッズのサッカーが生き返ったのです。

 数年前、当時レッズに所属してた「堀」について、「一人の選手がゲームの流れ逆流させた・・」というコラムを書いたことがあります。忘れもしません。1997年シーズン、セカンドステージ第二節、マリノス対レッズ。足が止まり、心理的な悪魔のサイクルに陥っていた前半のレッズ。ただ後半、チームプレーの権化ともいえる「堀」が登場し、抜群のダイナミズムで攻守に活躍しはじめたことで、レッズのサッカーが生き返ったのです。

 たしかに阿部は、堀とはタイプが違います。それでも「チームに対するレベルを超えた刺激」という意味では、同じような「現象」だったと思います。とにかく阿部。中盤でのアクティブ守備を「スタートライン」に、ボールを奪い返したら、今度はゲームメーカーとして、抜きんでた「実効性」を発揮します。彼が入ったことによって、それまで停滞していたレッズのボールの動きが、格段にダイナミックなものへと変身したのです。それまでまったく出てこなかった「タテのスペースをつなぐ仕掛けのパス」、「サイドに開くパス」、「ワンツーパス」といった、素早く、広いボールの動きが、彼を中心に演出されるようになったというわけです。

 そしてレッズの攻撃が、俄然「危険な臭い」を放ちはじめます。何といっても前半は、ボールを奪い返しては「ドカン!」と前への放り込みをくり返すばかりでしたからネ。後は、トゥットとエメルソンの突破力に期待しよう・・ってな具合。そんな攻めで、強固なアントラーズ守備ブロックを崩せるはずがない・・

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 後半7分の素晴らしい攻めのシーン。右サイドでタテパスを受けた阿部が、鈴木にボールをあずけ、そのまま左サイドへ走りつづけます。そして今度は左サイドで路木からパスを受け、彼との「ワンツー」を決めます(パス&ムーブが素晴らしい!)。そして、タテのスペースへ抜け出した城定への、絶妙な「ロビングパス」。城定は、それまま持ち込み、逆サイドへ決定的な「ラスト・サイドチェンジ・センタリング」を上げます。まったくフリーでヘディングシュートを放つエメルソン(正直すぎ、相手ディフェンダーにはね返されてしまう!)。

 後半14分。中盤で「基点」になりつづける阿部。中盤でボールを持ち、一瞬の「タメ(ルックアップ)」の後、アントラーズゴール前の(ちょっと左サイドの)決定的スペースへ、正確なラストロングパスを通します。そこに、(阿部のパス能力を信頼する!?)トゥットが走り込んでいたことは言うまでもありません。完璧にフリーのシュートチャンスでしたが、結局はミスになってしまって・・。それでも私は、相手の一瞬のスキを突く「一発ラストロングパス」に、「そうだ、それだよ! そのパスがまったく出なかったんだヨ!」と、思わず声を張り上げてしまった次第。

 また後半18分。阿部からのパスを受けたトゥットが左サイドでボールを持ち、「タメのドリブル」から、エメルソンへ決定的スルーパスを通してしまいます。そこからのセンタリングがアントラーズゴール前を抜け、逆サイドの早川にわたったのですが、結局は、早川のシュートミスになってしまって・・(サイドネット直撃!)。ただ私が見た、そこでの特筆シーンは、トゥットが、「中」へ、タメのドリブルで入っていき、エメルソンがタテのスペースへ爆発ダッシュを仕掛けた状況で、トゥットにパスを出した阿部は、左サイドのスペースへ、トゥットを「追い越して」走り込んでいたことです。いや、素晴らしい。

 そんな、本格感のあるレッズの攻撃がどんどんと繰り出されてきます。対するアントラーズは、レッズの「実効ある勢い」に押され気味で、単発の攻撃をくり返すばかり。これは、いつかは・・なんていう期待が高まってしまって・・。そんな「本物の期待」を抱けるのは、数試合ぶりかもしれないな・・なんてことを思っていた次第。何といっても、ここ数試合は、覇気のないレッズのサッカーにうんざりさせられていましたから・・

 ただそこはアントラーズ。やっと、レッズの「前への勢い」をしっかりと受け止めるだけではなく、組織的オフェンスも繰り出せるようになってきます。そしてゲームが、「ダイナミックに拮抗」したエキサイティングな展開に・・(後半36分には、アントラーズも決定的なチャンスを作り出します)

 そんな展開のなか、後半も残り15分というタイミングで、ピッタ監督が動きます。アドリアーノに代えて、永井を投入したのです。永井がトップに入り、トゥットが二列目に下がります。そしてレッズの攻めが、またまた「数段」活性化していきます。これぞエキサイティングサッカー!!

 38分には、その永井が、最前線でダイナミックな「チェイシング」。左サイドの端から、右サイドの端まで・・。そんな積極プレーに、周りのチームメイトたちが呼応しないはずがありません。結局、永井のチェイングと、周りの「連動したディフェンスアクション」が、アントラーズのミスパスを誘います。レッズサイドのスタンドから大きな拍手が・・

 そして後半も残り3分となったところで、レッズが、ドラマチックな同点ゴールを挙げるのです。キッカケは、中央でボールを持った鈴木の中距離シュート。それが誰かの足に当たり、こぼれたボールを拾った永井が、落ち着いてシュートを決めたというわけです。それは、本当の意味で「自ら奪い取ったゴール」ではありました。

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 アドリアーノについてですが、ピッタ監督は、彼と心中するつもりなんでしょうか。たしかに才能はあります。でも、単に「うまい」だけの典型的な「ボールプレーヤー」。運動量が絶対的に少なく、また守備にはまったく絡まないことで(アリバイ守備は、味方を惑わせるだけ!)、彼の能力は、チームプレーに全く活かされていません(もちろんマラドーナのように、常に一人で決定的チャンスを作り出してしまうんだったら誰も文句は言えませんがネ)。

 決定的なシーンは、前半に一本だけ通ったトゥットへのスルーパス、流れの中での一本のシュート、また一本のフリーキックくらい。それ以外は、単なる「安全パスのつなぎ役」。それだけあれば十分じゃないか・・って!? いやいや、私は、彼の存在が「チームプレーのブレーキ」になつていると思っていますから、彼の「一発能力」と相殺しても、大きく、本当に大きく「マイナス」に振れてしまうと思っているんですよ。

 「あのプレー」は、完全に「心理的なネガティブビールス」。一人でもそんな選手がいたら、確実に「チーム全体のダイナミズム」は落ち込んでしまいます。前半に守備的ハーフコンビを組んだ石井と鈴木ですが、ボールを奪い返しても、前に「消極的な壁」がいることで、前へのエネルギーを「有機的に連動」させることに四苦八苦していました。後半に入った阿部は、「後方」から、彼を介さずに「ゲームを組み立てて」いましたから、ゲームの流れに支障をきたすことはありませんでしたが・・

 まあ、(もう既に半年以上もプレーしつづけている!)アドリアーノが、「チームの発展」にとってブレーキになっていることについては、(これまでのゲームも含め)この試合の「内容」も確かな証明だということです。

 とにかく、負けたとはいえ、内容的に「小野後」の明るい材料(どのようにチームを構成したらよいか・・チーム全体で小野の穴を埋める方向性)が見えたことで、ちょっと安心した湯浅でした。

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 最後に、アントラーズについて一言。

 見事な「勝負強さ」でしたが、全体的な「出来」については、不満足(このことは選手自身が一番身にしみているでしょう)。小笠原の「穴」がちょっと目立ってしまって・・。

 それでも、守備はある程度は機能していましたし、延長に入り、相馬も戻ってきました(出来もまずまず・・逆に、あの長いブランクにしては驚異的なプレー内容!?)。

 ちょっと中田浩二の「攻撃への絡み」が消極的だと感じたのですが、よく見ていたら、ガンガン上がるアウグストと熊谷のカバーを意識していたからに他ならないと分かりました。それでもこの試合では、アウグストにしても、熊谷にしても、攻撃ではあまり良いシーンを演出できていませんでしたから、中田ももっとも上がっても良かったのでは・・なんて感じていました。それにしても中田浩二の「バランサー感覚」は素晴らしい!

 この試合では、ちょっと鈴木と柳沢が孤立する場面が目立ちすぎていたと感じた湯浅でした。とはいってもそこは「あの」アントラーズ。延長前半での決勝Vゴールは、見事の一言ではありしまた(ゴール正面からの、シュートを決めた本山とアウグストとのスーパー・ワンツー!)。

 これで、ジュビロが「勝ち点3差」で、トップのアントラーズに迫ってきました。まだまだパフォーマンスが「高みで安定」していないアントラーズのこと。10月13日の第8節、静岡スタジアム・エコパでの「頂上対決」までには、ベストパフォーマンスに戻して欲しいモノです。ちょっとアントラーズに関するレポートが短くてゴメンなさい。今度は、彼らを中心に書きますから・・。では・・



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