湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第1節(2002年3月2日)

いや、FC東京が素晴らしいサッカーを展開しましたヨ・・FC東京vs鹿島アントラーズ(4-2)

レビュー

 あ〜あ・・。別に、ゼロックススーパーサッカーでの、私のアントラーズ評がどうこうというわけじゃありませんが、この試合を見ていて、まだ中盤での課題が克服できていない鹿島・・という構図が、より鮮明に見えてきたと湯浅は感じていました。

 たしかにこの試合では、アントラーズ中盤のクリエイティブジェネレーター(創造性発電器)の一人、中田浩二が出場停止でした。それは、たしかに大きなマイナス要素。とはいっても、攻撃における「コア」が不在・・そのこともあってアクションが有機的に連鎖しない・・そして足が止まって相手ディフェンスの思うつぼにはまり、タイミングの良いカウンターを決められてしまう・・というこの試合内容は、アントラーズの課題を、よりクリアにしたとすることができるでしょう。

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 もちろんこの試合は、FC東京の出来が抜群だったからアントラーズのマイナス面が増幅された・・という見方も忘れてはいけません。FC東京の全員が魅せつづけた高い守備意識。それも、攻守にわたって自分主体にプレーしていることの証左。実に爽快なサッカーじゃありませんか。

 原監督は、前任の大熊監督が作り上げた「心理ベース(戦術的な発想ベースも!?)」を評価し、その良い部分を確実に継承することから仕事をはじめているということでしょう。見事なゲーム展開ではありました。

 特に、四人で構成する「ボックス型ミッドフィールド」は、素晴らしくインプレッシブ。小林成光、佐藤由紀彦、三浦文丈、そして宮沢正史。私は、三浦文丈と宮沢の守備的中盤コンビが素晴らしいと感銘を受けていました。たしかに最終ラインも堅実ではあります。それでも、中盤の「献身的&クリエイティブ&ダイナミック」なディフェンスによって、最終ラインの「読み」が、いかにサポートされていたか・・。

 もちろん、アントラーズが展開する中盤でのボールの動きが緩慢なこともあるのですが、とにかく、FC東京のミッドフィールダーたちが、まさに一人の例外なく、中盤での忠実チェック(チェイシング)からのダイナミックディフェンスを展開するんですよ。だから、停滞気味の「起点」から繰り出されるアントラーズの「勝負パス」のタイミングが明確に読めてしまう・・。何度、東京の最終ラインが、クリエイティブな「最終勝負のラインコントロール」を成功させ、アントラーズ最前線の飛び出しをオフサイドに陥れてしまったか・・(もちろん、アントラーズの勝負タテパスを出させなくするという効果も含めてネ!)。いや、拍手、拍手です。

 そして攻撃となったら(特にカウンターの状況!)、ケリーとアマラオを「アクセント」に、もの凄く切り換えの早い三浦、宮沢、小林成光、佐藤由紀彦たちが、それこそ、脇目もふらずに「ボールのないところでの勝負アクション」を最後までつづけるのです。まさに、チームとしての「イメージシンクロ」が発展しつづけているFC東京・・ってな具合。

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 対するアントラーズ。疲れ・・!? いや、もうここまできたら、フィジカル要素は焦点にはなりません。彼らについては、まず、一週間前の「ゼロックス」について上げたコラムを参照していただけますか。私は、本山だけに非を負わせようなんて決して思っていません。とにかく、彼と小笠原に対する期待度が高いからこそ、その沈滞プレーに焦燥感ばかりがつのってしまうんですよ。

 サッカーは、イレギュラーバウンドや、足でボールを扱うなど、不確実な要素が満載。だからこそ、互いのプレーを有機的に連鎖させるという「強い意志」を維持することが最重要ファクターになってきます。

 そんな強い意志が、どこからでも、誰からでもいいから、表現されれば、何とか「心理的な悪魔のサイクル」から抜け出すためのキッカケを掴めるものです。要は、ムダに終わったとしても、「自分主体」で、どんどんとボールのないところでの爆発的なフリーランニング(パスを『呼び込む』動き!)をつづけたり、「アクション連鎖」に参加しようとしないチームメイトに対して文句をいったり、はたまた、次の守備での爆発的なチェイシングをつづけたり・・。そんな、アナタ任せではなく、責任を強烈に自覚した自分主体の積極プレー(姿勢)が、チームにとっての刺激になり、蔓延した消極ビールスに打ち勝つためのキッカケが見えてくるものだということです。

 とにかく、この試合でのアントラーズは、強い意志を前面に押し出すようなプレーが単発なことで、全体的には「心理的に受け身」になってしまいます。そして、そんな雰囲気を打破するような「個の積極性」も見えてきません。「動いても、どうせパスはこない・・」とか、「前にスペースはあるけれど、次の守備に備えておいた方が・・」なんていう消極姿勢。そしてボールを持っても、リスキーな仕掛けにチャレンジするのではなく、単に「つなぐ」だけの、相手にとってまったく怖くない展開に終始してしまう・・。

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 ちょっと厳しすぎますかネ。私は、アントラーズの「潜在キャパ」の高さを十分に知っているつもりです。だからこそ、彼らの「機能不全」に不満がたまるんですよ。誰でもいいから、リーダーシップを発揮して(仲間を叱咤激励して!)自分たちのサッカーを「再び」見つめ直さなければ・・。

 たしかにこの試合では、ほとんどといっていいほど「かみ合い」ませんでしたが、それでも、時折みせるプレーからは、彼らのキャパの高さを存分に感じていた湯浅なのです。

 とにかく今は、選手たち同士の「本音のコミュニケーション」が大事。それでなければ、本当に手遅れになってしまう・・。何といっても、アントラーズは、Jの主役になるべきチームなんですから・・。

 この「厳しいプロセス」を超えれば、そこでの、様々なファクターを含む「体感」を通して、一回り大きく成長するはずです。でも時間が・・

 とにかく、トニーニョ・セレーゾの「ウデ」に注目しましょう。

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 最後に、この試合でもっともインプレッシブだった、FC東京が挙げた先制ゴールのシーンを「五秒間のドラマ」風に・・。

 そのとき、ケリーからタテパスを受けた佐藤由紀彦の脳裏には、完璧なイメージが構築されていた。ゴールラインに平行に並ぶようにポジショニングしているアントラーズ最終ラインの二人の間を、後方から全力でフリーランニングする小林成光が抜け出すことを・・。そして佐藤は、自らのイメージをなぞるように、ゴールラインに平行にラストパスを出した。例の「トラバースパス」である。ボールは、正確にアントラーズGK、曽ヶ端と、最終ラインの二人の「間隙スペース」へ向けて糸を引いていった。

 このとき、鹿島の二人のディフェンダーだけではなく、GKの曽ヶ端も、完全にボールウォッチャーになっていた。彼らは、後方から全力疾走してくる小林には、まったく気付いていなかったのである。そして最後の瞬間、青と赤に彩られたカゲが、突如として彼らの眼前に出現し、ボールが消えた。勝負はボールのないところで決まる・・。そのときボクは、サッカーにおける普遍的なテーマを反芻していた。

 ・・ってな具合ですが、いかが。とにかく、佐藤と小林のイメージが完璧にシンクロ(同期)した先制ゴールは、世界レベル。このゴールが、その後の東京のサッカーに大いなる自信を与えたことは言うまでもありませんよね。今シーズンのFC東京は、大暴れしそうな予感が・・



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