湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第12節(2002年8月3日、土曜日)

色々なことを考えてしまいました・・ヴェルディー対ジェフ(1-2)

レビュー

 ドイツ出張から帰国しました。ドイツの全体的な雰囲気は、「ドイツ代表の活躍で、久しぶりにナショナル・プライドを感じることができた・・」、「やはりサッカーほどのナショナル・アイデンティティー媒体は存在しない・・」といったポジティブなものでした。

 これは、友人たちの間での一般的な評価。サッカー関係者のなかでは、「とにかく、よくあそこまでいった・・」、「徹底した戦術プランがうまく機能した・・」、「それでも、今回は優勝しなかった方がよかった・・」等々といったものが主流でした。でもまあ、現ドイツ代表コーチ、エアリッヒ・ルーテメラーは、「たしかに、次を強く意識したり明確な目標をもつという意味ではそうかもしれないけれど、それでも現場のオレたちは、決勝まで進出したら、絶対に勝ちたいのは当たり前だぜ。戦術的な準備が功を奏したから、内容でも100パーセントのチャンスがあったしな」なんてネ・・。

 そしてドイツ代表は、9月からはじまる「2004ヨーロッパ選手権の地域予選」へ向けての準備を進めているといった具合でした。

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 さて「J」。今回は、ヴェルディー対ジェフの観戦です(後半の最初の頃までは時間を追ったレポートです)。

 立ち上がりの15分は、両チームともに、ボールの動きが緩慢で、またタテのポジションチェンジも見られないことで、変化の少ない攻撃に終始します。まあ逆に言えば、両チームの守備ブロックがうまく機能しているから(最初は慎重に、守備を安定させてから・・という心理!)・・ということなんでしょうがね。

 唯一、何かやってくれそうな雰囲気をかもし出していたのは、やはりエジムンド。彼が起点になった最終勝負へ向けた仕掛けは迫力満点です。ドリブル(動的なタメ)、ワンツー、スルーパスや、相手を引きつけてのラストパス。見ていて、やはりレベルの違いを感じるじゃありませんか。それでも全体的な展開といえば、沈滞そのもの・・

 ・・なんて思っていた前半17分。ジェフがやってくれました。チェ・ヨンス。中西と羽生が、素晴らしい前段階でのお仕事をこなしたのです。中盤で、増田からの横パスを受けた中西。その瞬間に、最前線の羽生が、横方向へのファウンデーションの動きから、ズバッとタテへ抜け出します。そして彼が向かうタテの決定的スペースへ、タメていた中西から、絶妙の浮き球スルーパスが放たれたというわけです。

 そのボールを、迷わず、強烈なクロスで折り返す羽生。そしてそのボールが、ファーサイドにいたチェ・ヨンスにピタリと合ったというわけです。チェは、まったくジャンプしませんでしたよ。そしてズバッと、ヘディングゴールを決めました。ヴェルディーが最終ラインがウラを突かれたのは、その直前の、右サイドからのチェ・ヨンスの突破が初めてでした。私は、そのチェ・ヨンスの「ウラ突きドリブル」が、周りの味方の「最終勝負の仕掛けイメージ」を強化したと思っています。「そうだ、やはり飛び出さなければ!!」。

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 私は、この試合では、ジェフの阿部勇樹に注目しています。日本を背負って立つ一人になるに違いない才能。たしかに高いキャパを備えた選手です。

 この試合では、中盤にエジムンドが下がってくること、そして小林大樹など(後半ではマルキーニョスや櫻井など)と頻繁にタテのポジションチェンジをすることで、はたまた怪我が完治していないということで中盤の底にいる時間帯が多かったわけですが、インターセプトを意図したクレバーなポジショニング(相手にパスを出させるポジショニング)、競り合いからのボールの奪い方、ボールホルダーと正対したときの(相手のプレーのクセに合わせた!)優れたディフェンスプレー、そしてボールを持ったときの落ち着き(周囲の状況把握能力)と正確な展開パスなど、たしかに高い能力を備えた選手だと感じます。

 44分。ジェフが追加ゴールを上げます。セットプレーの後の右サイドからの攻め込みから阿部勇樹へボールが流れます。そしてそこからのサイドチェンジ気味の鋭いクロスボールが、ヴェルディーのディフェンダーのミスもあって、逆サイドで、まったくフリーになっていたミリノビッチにわたったというわけです。これでジェフの「2-0」。

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 後半10分。ヴェルディーが、エジムンドの迫力満点の突進から、最後はこぼれ球を田中が決め、「2-1」となる「追いかけゴール」を奪います。さて、ここからだな・・なんて思っていました。そんな状況から、ジェフがどのようなサッカーをやるのかに興味があったのです。

 そこまでのジェフのサッカーは、本当に優秀。特に守備での全員の「バランス・イメージ」が素晴らしい。そして何度か、カウンター気味の鋭い攻撃を繰り出していきます。

 「この試合は、我々にとっては戦術ゲームだったということだ。気候的な制約もあったから・・」。試合後、ベングローシュ監督が言っていました。要は、ヴェルディーの攻撃力を封じるという発想をベースにしたゲーム戦術で臨んだということです。まあ、いまのヴェルディーの調子を考えれば、自然な流れともいえるゲーム戦術ではあります。

 でもその発想が、どうも「過度」に意識されてしまったようで・・。

 ヴェルディーは、追いかけゴールを奪った後、すぐに、守備的ハーフの小林(慶)に代えてフォワードのマルキーニョスを投入し、平本、櫻井、マルキーニョスによるスリートップ気味の布陣にしてきました(エジムンドが二列目に下がるシーンが続出!)。そのことで、一人多いにもかかわらず、ジェフの中盤が下がりすぎてしまったのです。そして、ボールを奪い返しても、カウンターに飛び出していく選手が出てこなくなってしまって・・。

 そのことについては、ベングローシュ監督も、もちろん分かっていました。「カウンターのチャンスになったら、2-3人は飛び出していかなければならないのに・・」と、ちょっと落胆気味に語っていたものです。もちろん、「とはいっても、とにかくこの時期には、勝ち点3を取ることの意味は大きいからな・・」と、最後まで、彼らの守備ブロックがソリッドなプレーを展開したことに対するポジティブ指摘も忘れない・・。サスガに歴戦のプロ監督です。

 たしかにジェフのディフェンスブロックは、うまくバランスがとれていました。ポジショニング・オリエンテッドな守備のやり方。しっかりとしたボールへのチェックを基盤に、互いのバランスを重視したポジショニングから、次の「勝負所」を探ります。決してボールホルダーへの安易なアタックを敢行するのではなく、まず相手の攻撃をしっかりと遅らせ、次のパスレシーバーに対するアタックを狙いつづける・・、もちろんボールがないところでのマークは忠実そのものです。守備に対する全員のイメージが、しっかりと確立していると感じます。

 それでも、後半の中盤過ぎからの「下がりすぎ」は問題。

 私が、そんな状況での阿部勇樹のプレー(中盤でのリーダーシップ)に注目していたことは言うまでもありません。それでも、彼がカウンターをリードするというシーンは、ほとんど出てきませんでした。そこのところを、ベングローシュ監督は、「彼も、もう一人の守備的ハーフ武藤も、怪我で万全のフォームではなかった」と、述べてはいましたが・・。

 そこなんですよ、微妙なサッカー的ファクターが隠されているのは。もしジェフが、カウンター状況で攻め上がる選手が一人でも多くなったら(もちろん、チャンスの芽が出来そうな雰囲気までは演出する必要はありますが・・)、ヴェルディー選手たちに与える心理的な影響が大きいということです。「あっ・・。ちょっと前後のバランスを考えなければ・・」なんてネ。そして「ゲームの流れ」が落ち着いてくる・・。逆にそれが、ジェフ選手たちの確信レベルを押し上げ、(中盤でのよりダイナミックな守備をベースに)今度はジェフがゲームの流れを掴むようになる・・。何といってもジェフは、一人多い状況でプレーしているのですからね。

 そんな現象こそが、サッカーにおける「攻めこそが最大の防御なり」のコノテーション(言外に含蓄される意味)なんですよ。まあ、サッカーが、本物の心理ゲームだということです。

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 一人足りなくなった後のヴェルディーのダイナミックな攻撃ですが、もちろん中心はエジムンド。それでも、「最終勝負へつながるアクション」が起きなければ、どうも周りの動きが鈍い。彼の効果的なアクションに頼る最終勝負シーンが目立ちすぎる・・ということです。効果的なアクションとは、中盤の高い位置で相手をドリブルで抜き去るなど、誰が見ても「あっ、チャンスになる!!」というもの。本当は、そんな「効果的アクション」を明確なイメージした(つまり、相手ディフェンスの予想を超えたタイミングでの)「早めの動き出し」こそが大事なのに・・(もちろん、そんな周りの動きさえ出てくれば、エジムンドのプレーリズムも、それに適応して変わるはず!!)。やはりサッカーにおける成功のキーワードは、「攻守にわたる、クリエイティブなムダ走りの積み重ね」ということです。

 それでも、相手守備にとっての「狙い目」が明確であるにもかかわらずチャンスを作ってしまうエジムンドは、たしかに大したものではあるのですがネ。

 とにかくヴェルディーの攻撃は、個人のチカラが高いこともあって、迫力満点ではあるのですが、やはり「強引」としか言いようがないのです。何せジェフは、あれだけの人数を揃えて守備ブロックを作っているし、その一人ひとりが、(ボールあるなしにかかわらない)ハイレベルなイメージでプレーしているのですからネ。

 エジムンドだけではなく、櫻井にしても平本にしても、はたまたマルキーニョスにしても、とにかく「個」ばかりで仕掛けていこうとして・・(それも中央へ、中央へと・・)。ボールがないところでの動きをベースに、もっと「仕掛けの前段階」でボールを動かせば、相手の守備を振り回すことで、意図的に相手守備ブロックに「薄い部分」を作り出したり、そこを突いた余裕を持ったクロスを上げたりロングシュートを打てるチャンスだって作り出せるのに・・なんて思っていました。要は攻撃の変化のことなんですが、それを演出する手段が「個」ばかりでは・・。そこが、天才エジムンドが一緒にプレーしていることの「光と陰」といったところですかネ。

 「組織と個のバランス」。それは、「個のレベル」が高くなればなるほど重要になってくる発想です。もちろん全てのスタートラインは「個のチカラ」なのですが、それを主体に「組織プレーと個人プレー」を高いレベルでバランスさせることを、チーム全体のコンセプト(目標イメージ)にしなければならないということです。

 個に偏りすぎたり、やればもっと表現できるのに、個を「抑え過ぎ(戦術を重視し過ぎ)」で組織プレーに偏りすぎてしまったチーム。世界中には、本当に様々な悩みを抱えたチームがあります。いや、世界中の全てのチームが、常に「アンバランス」だと言っても過言ではありません。

 もちろん、数ヶ月前までのフランスやアルゼンチンなど、最高の「バランス」を達成したチームもあります。でも、そのバランスを「高め」で維持するのは本当に大変な作業なのですよ。サッカーチームは、本当に多くのファクターが、ものすごく微妙な「バランス」の上に乗っかっている「様々なパーソナリティーの集合体」ですからね。

 ということで、久しぶりに「J」を観て、色々なことに思いを巡らせてしまった湯浅だったのです。



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