湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第2節(2002年3月10日、日曜日)

徐々に盛り上がり、最後はエキサイティングドラマになりました・・東京ヴェルディーvsジュビロ磐田(2-3)

レビュー

 「まあ、両チームともに前半は抑えて、後半に勝負をかけようっていうんだろ。全般的に、日本のリーグ戦はその傾向が強いよな・・。自分から仕掛けていって、逆にカウンターを食らうのが怖いのさ。まあ、中盤のバランサーに対する信頼がまだ十分じゃないということかな・・」

 この試合は、オーストリアの友人と一緒に観戦しました。その彼が、前半のサッカーを観て「動きがないネ・・」と一言。それに対して、私がそう答えたというわけです。もちろんドイツ語で・・。

 そして、いろいろと話しているうちに、彼が、「Es gibt zu wenig Idee...」と一言。日本語になおすと、「とにかくアイデアがないよね・・」というふうになりますかね。その瞬間でした、動きのない前半のサッカー(中山への一発タテパスは別!)を観ていたことで、半分「睡眠状態」に陥っていた私のアタマが急回転をはじめたのは。

 「そうなんだよ、アイデアだよ。ところでアイデアって何だ? それこそ、相手ディフェンスを騙すための攻撃の変化のことじゃないか。その目的は、相手のウラスペースを突くことだよな。たしかにマラドーナのような天才がいれば、ボールホルダーが、次の仕掛けアイデアを創造する中心的な存在になるだろうけれど、でもそんなレベルを超えた天才なんて、もういやしない。やはり、パスレシーバーの動きが、アイデア創造の中心にならなければ・・」。話し出したら、もう止まらない湯浅なのです。

 「何てったってさ、サッカーの基本はパスゲームだよな。だから、クリエイティブなムダ走りが、次の仕掛けアイデアを明確なものにするんだよ。パスを受けようとしている選手が、同時に別のゾーンでフリーランニングをスタートする味方の動きを意識している・・。それがあってはじめて、崩しのアイデアがうまくシンクロするというわけさ。もちろんマラドーナだったら、チョン、チョンと、数人の相手を翻弄してタメを作り、そこから、彼が中心になってアイデアが創造されるんだろうけれどな・・。とにかく前半のサッカーでは、ボールのないところでのリスキーな動きが、ほとんどなかったということだよ・・」。そんなことを一気にまくし立ててしまって・・。

 とにかく前半は、両チームともに、安全に・・安全に・・というサッカーをやっていたということです。ボールのないところでの「勝負フリーランニング」が少ないから、両チームともに、守備ブロックが不安定になるようなシーンも皆無・・。でも後半は、立ち上がりから、ゲームが激しく動きはじめます。

 やっと積極的になってきたんですよ。「パスを呼び込む」ボールがないところでの動きが。あっと・・ここでは、その動きのことを「アイデア創造フリーランニング」と呼ぶんでしたっけネ。

 例えばこんな仕掛け。ジュビロの中盤で福西がボールを持ち、そこへ向けて、トップの高原が(マークする相手を引き連れて)戻り気味にフリーランニングしてきます。前半では、同じシーンで、高原の足許にパスをつけたところで潰されてしまのがほとんどだったのですが、ここでは違いました。同時に、福西と同じ「高さ」にいた左サイドの金沢が、福西のパスが出る「前のタイミング」で、ズバッと、高原が戻ったことで空いたタテのスペースへ超速ダッシュをスタートしたんです。ボールが、福西から高原へ、高原から福西へのダイレクトバックパス、そして再びダイレクトで、福西から金沢へとつながります。美しいタテのポジションチェンジ(もちろん高原と金沢のポジションチェンジですよ!)。

 その金沢のフリーランニングこそ、次の仕掛けアイデアをクリエイトする、パスを呼び込む「ボールがないところでの動き」だったというわけです。

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 そのように、ジュビロ主導で、どんどんと「動き」が出てきた後半の立ち上がり。とはいっても、そこは、クレバーなヴェルディーですから、しっかりと守りながらも、次のカウンターを狙いつづけます。一度などは、攻め上がろうとするジュビロ選手たちの「前への重心移動」の逆手をとり、カウンターから、ジュビロゴール前に「4対2」という状況をつくり出してしまいます。

 そんな危険なカウンターを仕掛けられた場合、どうしても心理的に「不安定」になり、今度は下がり気味になってしまうものなのですが、そこは、自分たちのサッカーに対する確固たる確信に支えられるジュビロですから、福西を中心に中盤ブロックのバランスをとりながら、しっかりと仕掛けつづけるのです。主力が三人も欠けているにもかかわらず、攻守にわたって、全員のプレーイメージが連鎖しつづける安定したサッカーを展開するジュビロ。やはり彼らは強い・・なんてことを思っていた後半11分、やってくれました、大岩が。鈴木からの横パスを、うまく回り込んだマルキーニョスにかっさらわれ、そのままドリブルシュートを決められてしまったのです。フ〜〜。

 ただ、その後の17分、ヴェルディーの長田が二枚目イエローで退場させられてしまいます。逆転ドラマの予感・・だったのですが、直後の23分には、再びマルキーニョスが、ものすごい突破を魅せ、GKまでの三人を抜き去ってフリーシュートを放ちます。「アッ、やられた!」と思った瞬間、ボールは、ポストに弾かれていました。そして次の瞬間には、「これは本物のドラマになるゾ・・」なんて確信した次第。そして本当に・・

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 後半30分、まずジュビロが同点ゴールを決めます。ゴンからのタテパスを受けた藤田が、ヴェルディーゴール前へ「トラバース・パス」を送り込み、それが抜けた逆サイドから、今度はジヴコヴィッチが再びゴール前へ。それを高原が左足で押し込んだゴールでした。

 そしてその5分後には、高原からのパスを受けた藤田がドリブルで切れ込みシュートを打ちます。そして、相手ディフェンダーにあたってこぼれたところを、タイミングよく走り込んでいた金沢が押し込んでジュビロの逆転! でも、その2分後には、ヴェルディーの左サイドバック、杉山からのセンタリングを、マルキーニョスがヘディングでシュートを放ち、ジュビロGKのヴァン・ズワムが弾いたボールが大岩に当たってゴールイン! またまたゲームは、ジュビロのオウンゴールで振り出しに戻ってしまいます。いや、エキサイティング!

 でもその2分後(84分)には、盛り上がったエキサイティングドラマが終演を迎えてしまいます。左サイドを破ったジュビロが攻め込んでシュート! ただそのボールが、ヴェルディーのディフェンダーの手に当たったことで(手でシュートを止めたことで)「PK」を宣告されてしまったのです。冷静に決める藤田。そしてドラマの幕が下りました。

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 二連敗になってしまったヴェルディー。立ち上がりはよいペースだったのですが、試合が進むにつれて、守備でも攻撃でも、まだまだ「個」が前面に押し出されすぎだと感じられるようになってきます。要は、攻守にわたって、「組織と個」のバランスが崩れているということです。

 守りでの「読み」は、いつものようにハイレベル。ジュビロのボールの動きが、少しでも停滞気味になったら、必ずといっていいほど、次のパスレシーバーはタイミングのよいアタックの餌食になってしまう・・。守備プレーの目標は、インターセプト。彼らには、クリエイティブディフェンスに対する高い意識が浸透していると感じます。それでも、特に「ボールがないところでの忠実マーク」に課題が見えます。タテ方向の「マークの受けわたし」ほど難しい守備プレーはないですからネ(タテに走り抜けた相手を『行かせて』しまうシーンが目立つ!)。勝負所では、最初にチェックした者が、最後まで付いていくのが大原則なんですよ。また、相手にパスを出させる「ワナの間合い」にしても、どうもうまく機能せず、間合いを空けすぎていたことで、実際にパスがきても追いつかず、逆に走り抜けられてしまう・・というシーンを、何度目撃したことか。多くのケースでは、パスが来なかったから助かった・・ということでしたが、そこら辺りの「決まり事」を、徹底的に見直さなければ・・なんて感じていました。クリエイティビティーと「忠実さ」のバランスに、まだ課題が見える・・。

 また攻撃でも、特に「組み立て段階」において、ボールを持ってからの「停滞」が気になります。まあ彼らのイメージでは、ドリブルによる中盤からの積極的な仕掛け、はたまたタメとか、クリエイティブなキープといった「表現」になるのでしょうがネ。それだから、選手たちの「ボールがないところでの動き」も、絶対的なチャンスになる状況だけにしかダッシュしないとか、三人目の動きに対する発想自体が感じられない等、まさに「単発」に終始してしまうんですよ。全員が、オレが中心になって仕掛けていくゾ・・という意識が強すぎる!? このことについては、長田の退場によって攻撃が一人足りなくなったという状況とは関係なく、基本的な「戦術的な発想」の部分だけをベースに評価していますので・・。

 組み立て段階における素早く、広いボールの動き。それは、現代サッカーでは、どんなレベルのチームにおいても、もっもと重要視される「戦術的な発想」のスタートポイントなんです。基本的な発想さえチーム内で統一されていれば、基本的な能力が高い彼らのことですから、必ず、ワンランクもツーランクも上のサッカーを展開できるはずです。

 ということで、ヴェルディーの発展プロセスにも興味がわいてきたものです。



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