湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第3節(2002年3月16日、土曜日)

アントラーズの順当勝利でした・・ジェフ市原vs鹿島アントラーズ(0-2)・・また、エキサイティングだったFC東京vs横浜マリノス(1-1)についてもショートコメントを・・

レビュー

 「後半は、違ったチームになれ! もっと動き出しを早くし、もっと運動量を上げ、もっと闘え! 次にロッカールームへ戻ってくるときは、疲れて入ってこい! 結果はどうでもいい。しっかりと闘って欲しい・・」

 これは、ジェフのベングローシュ監督が、ハーフタイムに飛ばした「檄」です。たしかにあの前半の内容では、怒り心頭に発するのも道理。もちろんそれは、監督の「試合前の意識付け」がうまく機能しなかったことの証でもあるわけですが・・。

 ジェフの選手たちは、「相手は強いアントラーズだから、まず確実に守り、ここ一発のカウンターを狙おう・・」という意識だったんでしょう。まあそれが、ジェフの基本的なチーム戦術なのでしょうが、でも実際は、その「確実に・・」という後ろ向きの意識が強調されすぎたことで、逆に、心理的なダイナミズムを減退させてしまったということです。心理的にも「有機的に連鎖」するサッカー。本物の心理ゲームだということの証明!?

 この試合は、開幕二連勝をかざったジェフ市原を中心に観ようと思っていました(特に阿部を・・)。でも前半の内容に、完璧にモティベーションがダウンしてしまって・・。

 ジェフは、ミリノビッチを「スイーパー(リベロではありません!)」に、茶野と中西が最後尾のストッパーとして、また守備的ハーフの阿部と武藤が「前のストッパー」として機能します(アントラーズのシステムに合わせたゲーム戦術!)。要は、かなり強い「マン・オリエンテッド守備システム」だということ。またミリノビッチが、早めに、カバーリングやパスカットのために下がるから、どうしても中盤が広がってしまい、集中プレスもままなりません。オールドファッションな守備戦術・・。うまく機能すれば、確かに「堅実」ではありますが・・。

 たしかに堅実な守備戦術ですが、そのために、ボールを奪い返した後の「攻めへの意識の転換」が閉塞気味。ジェフの攻めからは、(クリエイティブに前後のバランスをとりながら!)十分に人数をかけることでのみ演出できる中盤のダイナミズムが出てきません。中盤でボールを持っても、寄ってくる味方が少ないことで、またボールがないところでの動きが緩慢なことで、はたまたアントラーズの守備が強力なことで、どうしてもボールの動きが停滞してしまうのです。

 2-3回くらいでしたかネ、サイドからの仕掛けがシュートチャンスへつながりそうになった場面は・・。また、前半の終了間際には、最後尾のミリノビッチから、最前線のチェへ、素晴らしい「一発・勝負ロングパス」が飛び出し、最後は、抜け出したチェが、フリーシュートを放つ場面がありました。昨シーズンから培ってきた「あうんの呼吸(イメージシンクロ)」が、うまく機能しかけたシーンではありました。でも・・

------------

 たしかにアントラーズは、ポジティブに「漸進」しています。とはいっても、まだまだ。あれほど優秀な選手たちを揃えているアントラーズですから、当然「期待値」も高くなりますし、何といっても、もし彼らが優勝争いに加わってこなかったら、リーグは、フタを開けて一晩おいたビールのように「気抜け」なってしまうではありませんか。

 アントラーズのプレーリズムですが、前半の立ち上がりは、よかったですよ。とにかくボールの動きが軽快でした。忠実に「人」を見るジェフの守備ですが、最終ラインが下がり気味(=中盤でのスペース拡大!)ということで、中盤でのマーク(インターセプトや、パスレシーバーへのタイミング良いアタック等)がままならず、アントラーズの素早いボールの動きに翻弄されてしまうのです。それでも15分を過ぎたあたりからは、小気味よかったアントラーズのリズムが、またまた、前節までの「停滞サッカー」に落ち込んでいきます。

 その後の前半の展開は、まさに「ボーアリング(退屈!)」。何度あくびが出そうになったことか・・(前半21分に、セットプレーからのこぼれ球を、本山が、ここしかない!というファーポストゾーンへラストセンタリングを送り、それを柳沢がヘッドで押し込んだことで、前半は、1-0とアントラーズリードで終了)。

-------------

 後半は、(1点リードされていること、またベングローシュ監督の檄が効いたようで)ジェフのサッカーが、少しダイナミックになっていきます。もちろん負けじと押し返すアントラーズ。ちょっとゲームに活気が戻ってきます。

 それでも、「さて、ここからだな・・」なんて期待がふくらんでいた後半9分、小笠原のスーパーフリーキックが決まってしまって・・(アントラーズのリードが2点に広がる!)。その後はもちろんジェフの勢いが増幅していったんですが、結局は、攻めが単調なことで、どうしてもアントラーズの守備ブロックを崩すところまでいけない・・。

 やはり今のジェフでは、「あの」アントラーズを押し込んで守備ブロックのウラを突く・・というの攻めを展開できるまではいけない。何といっても、攻撃の「変化」を演出できる選手がいませんからネ。まあ、そのことはアントラーズも同じなのですが、彼らの場合は、二点リードということで、相手の押し上げの「穴」を突くカウンターだけをイメージしていればよかったわけですから・・。まあ、ゲーム展開が、まさにアントラーズのツボにはまってしまった・・っちゅうことです。

------------

 アントラーズは、ジェフのチェや大柴、はたまたムイチンの「プレーのクセ(要は、彼らのプレーイメージ)」を良く研究していると感じます。どんなカタチでチェや大柴、はたまたムイチン等がタテパスを受けるのか・・、最前線での「タメ」状況で、どのように両サイドや守備的ハーフたちが「追い越しフリーランニング」を仕掛けるのか・・等々。

 さて、「攻撃の変化の演出」でまだまだ課題を抱えているアントラーズ。その変化演出の中心的な存在になるべき小笠原は、もっと、もっと中盤でのイニシアチブを握らなければいけません。もう彼しかいないんですよ、ゲームメーカー(チャンスメーカー=攻撃リズムの演出家)は・・。

 「タメ」や中盤からの突破ドリブルチャレンジ等々、もっともっと「自己主張」しなければいけません。彼は、小さく「まとまる(まとまらざるを得ない)」レベルの選手ではありませんからネ。もちろん、前線の柳沢や鈴木、また本山との「コンビネーション・イメージ」を大事にしていることは、良く分かるのですが、「それだけ」ではなく、自分主体の「リスク・チャレンジ」にもトライしなければ変化を演出できないし、本当に「小さくまとまって」しまう・・。

 ちょいと心配な湯浅なのです。まあ、そのことは本山にも言えます。彼は、もっともっと、中盤で動きまわらなければいけません。なんといって「かなり自由にプレー」してよいポジションを与えられているのですから・・。

 どんどん動いてパスを受け、シンプルにダイレクトパスを回して「次の動き」を爆発スタートする・・そうすれば、彼の特徴が最大限に活きる「勝負シチュエーション」に、より頻繁に入り込めるものです。とにかく彼の場合は、なるべく多くボールに触ることが大事なのです。もちろん、初めから「次のパスレシーブ(=パス後の動き)」を明確にイメージしてネ。また、小笠原やツートップと、どんどんとポジションチェンジしたり、両サイドバックの名良橋とアウグストが、後ろ髪を引かれることなく、どんどんとオーバーラップできるようなクリエイティブなプレーをしたり(彼らを前へ行かせるクレバープレー=カバーリングポジション!)。そんな、「オレが攻撃の中心になってやる!」という姿勢を前面に押し出すプレーにチャレンジしていれば、彼の「才能」は、確実に次のステップへと発展するに違いないのですが・・。まあ、トニーニョ・セレーゾの、心理マネージメントも含む「ウデ」に期待しましょう。

 とにかく今の彼は、「前後のポジションバランス」なんて考えず、積極的に、ダイナミックに仕掛けていくこと「だけ」を意識して欲しいと思う湯浅なのです。もちろん、仕掛けが失敗した後の「瞬時の守備スタート」までも明確にイメージしながらネ。何といっても、彼ほどの才能は、そうそう出てこないことは確かな事実なのですから。

 さて、湯浅はこれから、国立競技場を後にして、調布の東京スタジアムでの「FC東京vs横浜マリノス」の試合を観戦に行きます。何か「発見」があれば、書き足しますので・・。

=============

 さて、その「FC東京vs横浜マリノス」を簡単に・・なんて思っていたんですが、とにかくものすごくエキサイティングなゲームになってしまって・・。

 全体的には、マリノスが押し気味にゲームを進めるという展開!? ただそれは、あくまでも「全体的な流れ」のこと。攻撃における実際の危険度からすれば、同格に近かった!?

 とはいっても、押し気味ではあるけれど、流れのなかでは、決定的なウラ突きチャンスを作り出すことが出来ないマリノス。それに対し、堅牢な守備から繰り出されるFC東京の攻めには、より具体的にシュートに結びつくような危険な雰囲気があります。攻めに、「太い幹」が通っていると感じるのですよ。要は、ボールの流れと、ボールのないところでの動きが、実効ある「有機性(イメージシンクロ)」を魅せているということです。

 そのコアは、何といってもアマラオとケリー。彼らのタテのポジションチェンジ、シンプルなパス交換、そして意図が満載されたボールがないところでの動きは見応え十分です。特にアマラオ。もう35歳ですよ。いや、素晴らしい。脱帽です。

 それでも、松田、中澤、ナザ、波戸、ドゥトラ、上野、奥、そしてタイミング良く参加してくる中村俊輔で構成されるマリノスの守備ブロックも堅い、堅い。メンバーを再認してみたら、ナルホドと頷けますよね。そして徐々に、東京の攻めから、危険なニオイが薄められ、両者ガップリ四つという展開になっていきます(たしかにシュート数では、マリノスが凌駕していましたがネ・・)。

 そして延長・・。まさに、お互いに秘術を尽くした・・という表現がピタリとくるエキサイティングサッカーが展開されます。とはいっても、決して「ノーガードの・・」という低次元なものではなく、しっかりと攻守のバランスを取りながらの仕掛け合いなんです。見応え十分じゃありませんか。この試合は、確実に、日本のサッカー文化の深化に貢献した! そして、中村俊輔が演出した、セットプレーからの絶対的チャンスなどのエキサイティングシーンを経て、タイムアップのホイッスルが吹かれました。いや面白かった・・。

-------------

 それにしても中村俊輔のセットプレー。本当に危険そのものです。流れのなかでチャンスができないことを補って余りあるキックじゃありませんか(とはいっても、ウィルが挙げた先制ゴールでのピンポイントアシストは見事の一言でしたがネ・・)。フリーキックやコーナーキック。もちろん、直接だけではなく「間接」的なチャンスメイクでも・・。そのたびに、東京の守備ブロックに、これ以上ないという危機感が広がっていったと感じます。

 特に「間接アプローチ」。そこでは、周りの味方の、「俊輔キック」に対する抜群の信頼を感じます。コーナーキックでもフリーキックの場面でも。それは「最終勝負のフリーランニング」ということになるわけですが、その「勢い」が違うのです。全力でピンポイントへ!

 中村俊輔ですが、「プレーリズム」が格段に発展していると感じます。攻守にわたって、自分自身で「仕事を探す」という姿勢が、すごく伸びていると感じるのです。特に守備。それまでは「アリバイ的」な守備参加姿勢が目立っていたのに、ここにきて(もちろんワールドカップに標準を定めて・・という意味ですよ)、その守備参加に「本物の実効」が伴ってきていると感じるのです。また攻撃でも、何度もドリブル突破にチャレンジしたりと、「変化の幅」も大きく発展しています。それまでは、はじめからパスを狙っている態度がアリアリというプレーが多かったのが、勝負パスを狙うばかりではなく、味方をうまく使ったワンツーで抜け出したり、自分自身で持ち込んだり、はたまた、中盤での「スペースをつなぐドリブル」を頻発したりと、見ていて楽しいこと。以前感じていたフラストレーションを相殺してくれる、頼もしささえ感じるダイナミックプレーでした。

 またジュビロから移籍した「奥」。彼もまた、「積極的に仕事を探す」という姿勢で、大きくイメチェンしてしまって・・。「やっぱり出来るんじゃネ〜〜か!」なんて、「出来るヤツが、やらなかったこと」に対する怒りが先に出てきましたが、それでも、そのメリハリの効いたプレーを見ていて、新たな希望がわいてきたものです。

 これって、やっぱり「ワールドカップの心理パワー」ということですかネ・・。このことについては、一晩寝てから、また考えることにします。

 最後に、FC東京の三浦文丈について。ケガで、かなり長期間の離脱になってしまいました。アントラーズとの開幕戦、次のレッズ戦と、宮沢という良きパートナー(守備的ハーフコンビ)を得て、攻守にわたって素晴らしい積極プレーを展開していたから、本当に残念でなりません。もちろん、彼の代わりに入った浅利も堅実なプレーを展開していました(とにかく守りが堅い)。それでも、攻守にわたる全体的なチームダイナミズムへの貢献度という意味では、三浦文丈の穴が、FC東京にとってもの凄く大きいと感じるのですよ。とにかく、早い回復を祈ることにしましょう。

 長くなってしまいました。それでは、本日はここらへんで・・



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]