湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第10節(2002年10月23日、水曜日)

いくら「局面」で上手くてもネ・・(ヴェルディー対ガンバ=0-3)

レビュー

 まあ、こんな両チームのプレー姿勢じゃ、ゲームのダイナミズムを高揚させることなんて出来るはずがないな・・。選手たちの動きとボールの動きが連動することでのみ高揚するゲームダイナミズム。それがなくては、局面の勝負を見所にするしかない・・。

 身を乗り出して観戦する気にさせられないんですよ、このゲームは。「足許パス」と、攻守にわたる局面勝負のオンパレードですからね。たしかに最初の10分間は、ガンバが「流れのあるサッカー」を感じさせてくれはしましたが、それが徐々にヴェルディーのペースに巻き込まれてしまって・・。

 ダイナミックに選手の動きとボールの動きが連動するのではなく、攻守にわたる局面勝負が「ブツ切り」に繰り広げられるサッカーなんて表現できますかね。それでも、本当に「確実なチャンスになりそうな状況」のときだけは、両チームともに、ボールがないところでの大きな動きが連鎖する「最終勝負のダイナミズム」は演出します。よしチャンスになる!と感じたとき「だけ」はネ・・。でも、組み立て段階では、とにかく互いのポジショニングバランスと確実パスに気を遣うばかり。そして、足許への「確実パス」をつなぐことでボールをしっかりとキープしながら、「局面」の最終勝負タイミングを探る・・。

 まあ、そんな展開だったら、「個」のチカラで上回るヴェルディーのものです。たしかに決定的チャンスを作り出すところまではいけませんが、攻守にわたる「局面勝負」ではヴェルディーが優位に立っていますから、全体としては、彼らがゲームペースを握るという展開になってしまうんですよ。

 ヴェルディーの選手たちが「クリエイティブなムダ走り」という発想を持てば、彼らのサッカーが何倍にも「魅力的」なものになるのに・・。本当に残念で仕方ありません。

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 それでも、後半の立ち上がりに、「マグロンのアタマ(注釈:スミマセン・・マグロンを「バロン」と間違えて書いてしまいました!)」を使ってガンバが二点を先行してからは、俄然ゲームに「張り」が出てきます。もう行くしかなくなったヴェルディー。「局面サッカーの王様」なんて呼びたくなる小林慶行に代えて、ダイナミックプレーが持ち味の桜井を送り込みます。

 あっと・・、後半の最初から登場してきたガンバの天才マルセリーニョについても書いておかなければ・・。以前のコラムで、ケガ上がりで活動量が落ちた(プレーのダイナミズムが減退した)天才を再びチームに組み込むのは大変な作業だ・・なんて書きました。そんな彼が、やっと、物理的、心理・精神的にフィットしてきたのです。

 ボールがないところでのクリエイティブなムダ走りにも鋭い感覚を発揮するマルセリーニョ。彼が入ったことで、後半立ち上がりのガンバのサッカーに(特に攻撃に)、格段にダイナミックな流れが出てきたと感じました。組み立てるところと仕掛けるところが有機的に連鎖したダイナミズム。それです。

 ガンバの二点目は、右サイドを数10メートルは全力疾走で上がったマルセリーニョにパスが通り、そこからのラストクロスを、マグロンが決めたゴールでした。いや、久しぶりに、組織プレーと個人勝負プレーがハイレベルにバランスした天才のプレーを楽しませてもらいました。

 さてゲームですが、やはり・・というか、ヴェルディーのペースが上がりません。あれだけ「局面サッカー」をやっていた彼らが、すぐに、ボールのないところでの動きが連動するような「ダイナミックサッカー」に転換できるはずがない・・。要は、選手たちのアタマに深く浸透している「基本的な発想」がすべてだということです。そして逆に、ガンバが仕掛ける危険なカウンターに振り回されてしまう・・(三点目のゴールまで決められてしまいましたよ)。

 セカンドステージが立ち上がった当時は、高木成太、小林大悟、山田卓也というスリーボランチが、実に効果的に機能していました。もちろん中盤での「汗かきディフェンス」だけではなく、天才エジムンドとツートップ、はたまた両サイド(田中隼磨と相馬)の「個の能力」を活かすための攻撃での汗かきプレー(積極的なフリーランニングや、次の守備に備えたカバーリング)も含めてね。それが・・。

 まあ、マルキーニョスや高木成太のケガ、田中隼磨、小林大悟等の代表チーム(U23、U19)参加が大きく響いたということです。それによってチームを「組み替え」ざるを得なくなり、彼らのサッカーが、元の「ダイナミズムに欠ける局面サッカー」に終始するようになってしまった・・。それでも負けなかったことで、チームを変えずにここまで引っ張ってきた。そして今、そのことのツケを払う状況に陥ってしまった!? 私はそう思っています。

 選手たちの「タイプ」が、上手い選手で固められたことの弊害・・とでも表現しましょうか・・。ここでもう一度(先日、別のコラムでも引用したのですが・・)、数週間前にサッカーマガジンで発表したコラムを「再度」掲載しておくことにします。テーマは「上手いだけの選手と、本当の意味で良い選手の違い・・」。

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(10月2日に仕上げたコラムです)

 「ここだ!」。中田英寿が、全力ダッシュでアタックを仕掛けた。セリエの第4節。ユーヴェントス対パルマ、後半35分のことだ。攻め込んでいるユーヴェントスが、パルマのペナルティーエリア際を、右サイドから左サイドへと横パスをつないでいく。中田英寿は、その最後の横パスを「読み」、パスレシーバーへ向けて爆発アタックを敢行したのである。

 中田が動き出したのは、最後の横パスが蹴られる寸前。その寄りの動きが、パスを受けるユーヴェ選手の目に留まらないはずがない。トラップが微妙にズレる。その瞬間だ、中田が爆発したのは。素晴らしいボール奪取だった。そこからの迷いのない直線的なカウンタードリブル。例によって、背筋をピンッと伸ばしたルックアップ姿勢を維持する。そして相手を十分に引きつけ、左サイドでフリーになったムトゥーへ丁寧なファウンデーションパスを通したのである。最後は、ムトゥーから、タメにタメたラストパスがアドリアーノへ通されてパルマの追加ゴールが決まった。中田英寿が演出した完璧なカウンター。ため息が出た。

 この試合でも中田英寿は、ソリッドにまとまりはじめた新生パルマの骨格となるべき存在であることを証明した。そのバックボーンは、攻守にわたる明確な「意志」。それは、何度も繰りかえされた、攻守にわたるボールがないところでの全力ダッシュという現象に明確に投影されていた。そのダッシュこそが、自らが描く目標イメージを達成しようとする積極的な「意志(意図)」の現れなのである。

 特にミッドフィールダーについて、本物の良い選手と、単に上手いだけの選手との「差」が明確に見えてくるのは、ボールがないところでの動きの「質」。それも、実効ある全力ダッシュにあることは、フットボールネーションでの不文律だ。

 攻撃の目的はシュートを打つこと。守備のそれは相手からボールを奪い返すこと。得点を挙げたり、自軍ゴールを守るというのは結果にしか過ぎない。ポジションを修正しながら、常に攻守にわたる「勝負所」を強烈に意識する。そして、ねらい所のイメージにはまった瞬間、勝負を賭けた全力ダッシュをスタートする。直接的に「目的」を達成できないまでも、そんな意図が満載された全力アクションは、「次」への効果的なファウンデーションになるものだ。

 中田英寿は、攻守にわたり、強烈な「意志」が迸る(ほとばしる)全力スプリントを繰りかえしていた。相手ボールホルダーや次のパスレシーバーに対する鋭い「寄り」ばかりではなく、ここだ!と確信したときのスペースへのフリーランニング。冒頭のシーンでは、ボールを奪い返した後のカウンターシーンまでもが鮮明に脳裏に描かれていたに違いない。素晴らしい。

 自分主体で描く「明確なイメージ」を象徴する全力ダッシュ。今度「J」を観戦するとき、特にボール扱いに優れたミッドフィールダーたちについて、本物の良い選手と、単に上手いだけの選手との違いを観察してみるのも面白いだろう。(了)

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 さてヴェルディー。ここからどのように立て直していくのか。ロリ監督のウデに期待しましょう。また三位に浮上してきた(またマルセリーニョが、本当の意味で機能しはじめた)ガンバにも大注目です。

 レッズが負けるなど、ホンモノの混戦に突入した「J」。これからの血わき肉おどるドラマを心から楽しもうじゃありませんか。



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