湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第12節(2002年11月10日、日曜日)

今回はジュビロの守備について・・(ジュビロ対レイソル=3-2、延長Vゴール!)

レビュー

 このところ、ジュビロに関するコメントでは、組織と個がうまくバランスした攻撃が中心でした。ということで今回は、ジュビロの守備にスポットを当てることにしましょう。

 とにかくジュビロのディフェンスは忠実でダイナミック。忠実さについては、一人の例外もなく、常にディフェンスでの仕事を探しつづけるという姿勢の維持を、その意味の中心に据えましょう。またダイナミズムについては、そんなアクティブな守備イメージを体現しようとする実際のアクション(強い意志)と規定することにします。

 ボールを奪い返されたとき、その直前の仕掛けにおいてフリーランニングで走り抜けた者は別にして、例外なく全員が瞬間的に守備へ切り替えていると感じます。もちろん実際のアクションだけではなく、意図を込めた様子見(イメージ構築)も含めて。攻撃から守備への転換の早さ。それがもっとも重要なポイントだということです。何といっても、守備への積極参加ほど、選手たちの強い意志を必要とするプレーはありませんからね。だからこそ、攻撃から守備へ切り替わる瞬間における選手たちの「姿勢」を観察していれば、そのチームの守備意識の高さを評価できるというわけです。

 その「切り換え」において、現在のJのなかでは、ジュビロに優るチームはありません。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイシングやチェック動作が素早く忠実なだけではなく、周りのチームメイトたちも、それを、次の守備アクションへのイメージ構築のための基盤にする・・。ちょっと分かりにくいですかネ・・。では、具体的に。

 こんなシーンがありましたよ。左サイドから藤田がドリブルで仕掛け、流れるような動作から横パスを出す。もちろん自分自身は、例によっての瞬間加速で「パス&ムーブ」のダッシュを仕掛けていく。でも、この横パスがカットされてしまう・・。そして、ボールを奪った相手選手が、前に空いたスペースへドリブルで突っかけていく・・。この瞬間です。横パスをカットされた名波が、まず爆発的な「チェイシング」に入ります。また最前線の高原もそれに参加してきます。また逆サイドからは福西が、そのサイドへ寄せ、その相手選手の前方スペースは、すでに服部が待ち構えている。

 ボールを奪い返してドリブルをはじめたのは、確かリカルジーニョだと思ったのですが、結局このシーンでは、前後左右からどんどんと寄せてくるジュビロ選手たちにパスコースを塞がれただけではなく、味方のパスを受ける動きが鈍いこともあって、リカルジーニョが、三人のジュビロ選手たちに「三度ウィッチ」にされてしまったという次第。

 いや、素晴らしく組織的な守備アクションでしたよ。とにかくジュビロの場合は、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェックが忠実で素早い・・、だから相手の攻撃がスピードダウンされてしまう・・、また前線からも、例によって素早く攻守を切り替えた味方が「追いかけて」きている・・。そして、忠実でクリエイティブな守備アクション(高い守備意識とハイレベルな発想!)と、彼ら本来の「ディフェンス技術の高さ」が相まった、素晴らしい組織ディフェンスが展開されるというわけです。

 もちろん、ボールを奪い返したら、その時点でチャンスがある者は、例外なく(そして後ろ髪を引かれることなく=守備意識に対する相互信頼!)攻撃に参加していく・・。そして、素晴らしいボールの動きをベースに、組織プレーと個人勝負プレーが高質にバランスした攻撃を展開していく。

 ここで、ジュビロについて、以前にサッカーマガジンで発表したコラムをご紹介します。

=============

(2002年9月11日に仕上げた、サッカーマガジン用のコラムです)

 ポジションなしのサッカーが理想だ・・。ボクのオリジンともいえる「闘うサッカー理論(三交社刊)」の冒頭でそう書いた。

 選手一人ひとりが、攻撃と守備の本当の目的を自覚し、今やらなければならないことを瞬時に判断し実行できれば、ゴールキーパーを除いて、チーム内のポジション(基本的なプレーゾーン)を決める必要などなくなるに違いない。とはいってもそれは理想型。実際には、選手たちのタイプや能力には特徴があり限界があるから、各自の基本的な役割とポジションを決めざるを得ない。それがシステムと呼ばれるわけだ。

 個々に相違する能力のなかで、理想に近づいていくためにもっとも重要な意味をもってくるのは、最終的にはインテリジェンスということになるだろう。瞬間的に変化する状況のなかで、目的を達成するためにもっとも実効あるプレーを積極的に模索(思考)し、実行していく意志のチカラとでも言い換えられるだろうか。もちろん、個々に描かれたプレーイメージはチームメイトのそれとリンクしていなければならないし、その共通イメージを仲間が実践することに対する相互信頼も重要なファクターだ。

 ジュビロ磐田のミッドフィールドは、そんなサッカーの理想型(その発想)に近づいていると感じる。その中心は、ポジションをクルクルと変えながら互いの位置を広く分散させて攻撃を演出していく名波、藤田、高原。また、右サイドのスペシャリスト西は、流れによっては中央ゾーンへも進出していくし、広くサイドまでカバーする守備的ハーフの福西、服部にしても、頻度は少ないが、ここぞ!という場面では、後ろ髪を引かれることなく最前線まで飛び出していく。それでも、攻守にわたって選手たちのポジショニングバランスに変調をきたすことがない。素早い攻守の切り換えから、全員が、状況に応じた実効ディフェンスを展開するのだ。優れたポジショニングバランスからの「集中勝負」を狙いながら。そこでは、必要とあらば、最前線の中山や高原でさえも「深く」ディフェンスに参加していく。抜群の運動量と高い守備意識を基盤に、全員の思考と実践のコンテンツが得も言われぬ美しいハーモニーを奏でる。見ていてほれぼれさせられてしまう。

 彼らのプレーイメージは、基本ポジションにとらわれ過ぎることのない柔軟なバランス感覚、そして攻守にわたり自分主体で仕事を探しつづける積極姿勢などと表現できるだろうか。ボール絡みでも、ボールがないところでも、攻守にわたって常に勝負シーンに絡んでいこうとする強い意志。攻撃と守備の目的を強烈に意識するインテリジェンスを感じる。

 「基盤」が整いつつあるジュビロ。基本的なポジションや役割の取り決めがまったくないサッカーはまだ無理にしても、彼らならば、例えばディフェンスブロックとオフェンスブロックが入れ替わっても全体のバランスが崩れることがないようなハイレベルサッカーを体現してくれるかもしれない・・。彼らのサッカーは、そんな期待さえ抱かせてくれる。(了)

================

 さて、レイソル戦に戻りますが、この試合では、前半24分に高原が挙げた同点ゴールが見事でした。左サイドでトントンとボールを動かしている間にも、大外から回り込むように服部がタテへ走り抜けている・・この状況で、仕掛けの起点になった名波から、タテに走り抜けた中山ゴンへのパスが通され、そこからダイレクトで落とされたパスが服部にわたる・・それを、これまたダイレクトで、後方から中央スペースに入り込んだ藤田へ回す服部・・そして最後は、その藤田が軽く持ち込み、中央で相手マーカーを抑えながらスッとニアポストスペースへ入り込んだ高原へのラストパスが通される・・。いや、鳥肌が立ちました。

 そんなアクティブなボールのないところでの動きをつづけながらも、相手にボールを奪われた瞬間には、ほとんど全員が、即刻発想を切り替え、全力でディフェンスに入る・・。強いはずだ。

------------------

 最後に名波について一言。

 素晴らしいリーダーシップを発揮しています。フォームもトップ状態に戻っている・・。ここではプレーを再現しませんが、彼が展開する、攻守にわたる目立たない実効プレーは感動ものでした。もちろんボール絡みの目立つプレーでも、例によっての優れたプレーのオンパレード。

 次のアルゼンチン戦で、日本代表の中盤リーダーになるとしたら、もう彼しかいない。昨日のコラムで、中田浩二の活躍を期待する・・と書きましたが、この二人の「攻守にわたるコンビネーション」も見所だと期待が高まりつづける湯浅でした。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]