湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第14節(2002年11月23日、土曜日)

この吹っ切れたサッカーが、もっと早くから出来ていれば・・(サンフレッチェ対レイソル=2-0)・・「内容」満載のエキサイティングマッチでした・・(ジュビロ対ヴェルディー=1-0、延長Vゴール!)

レビュー

 すごいですね、本当に。サンフレッチェの見事な闘いのことです。まさに彼らは、サッカーが心理ゲームだということを如実に証明した・・。

 サンフレッチェでは、ビロングがいない、藤本がいない、服部がいない、はたまた試合の途中では、久保とのグッドコンビネーションを魅せていた大木も肉離れで戦線離脱。それでも、ゲーム全体のペースは下がるどころか、どんどんとアップしていった・・。とにかく彼らが魅せつづけた全員でのディフェンスが印象的。もちろん、下がって「受ける」のではなく、とにかく前で、前で、勝負を仕掛けるのです。

 全員の守備意識が高まっていることは当たり前なのですが、その「気合い」に、どのように相手からボールを奪い返すのかという明確なディフェンスイメージがうまく接着剤になっていると感じます。下がり過ぎる選手は一人もいない。もちろんボールに「追い越された」前の選手たちも、脇目もふらずに全力で戻ってきます。一人の例外もなく、次、そのまた次という「読みイメージ」をベースに、守備でのリスクにチャレンジしつづけるのです。後ろと前からのサンドウィッチ守備シーンが続出。それこそダイナミック守備じゃありませんか。

 前節のアントラーズ戦(アウェー)では、攻め込まれる時間帯が多かったのですが、そこでも、特にボールがないところでの守備に抜群のねばり強さを感じました。抜かれても、外されても、絶対に足を止めずに次のディフェンスへ参加しつづける・・というか、とにかく次に自分ができる守備プレーを探しつづけるのです。どうして「最初」から、そんなアクティブプレーができなかったんだ!?

 やはり良いサッカーの基本はディフェンス・・。彼らのサッカーを観ながら、そんな普遍的なコンセプトを噛みしめていましたよ。ボールを奪い返さなければ攻撃を始めることさえ叶わない・・また次の守備に対する互いの信頼がなければ、効果的な押し上げなど、人数をかけた攻撃もできない・・。「J」の完全優勝間近のジュビロの強さの秘密も、まさにそこにあるのです。極限まで高められた自分主体の守備意識・・。

 ここで(ちょっと唐突ですが)、ジュビロの強さの秘密について書いた、今週号サッカーマガジンの連載文章を紹介します。

==============

(11月14日に仕上げたサッカーマガジン連載用の原稿です)

 すごいね、本当に・・。ジュビロ選手たちが魅せつづける忠実でクリエイティブな組織ディフェンスに感嘆の溜息が出てしまう。

 例えばこんなプレー。第12節、柏レイソル戦の後半5分。自陣内の左サイドでフリーキックを得たレイソルが、ボールを置くなり、すぐにタテパスを出した。この時点で、そこにいた二人のジュビロ選手が置き去りになってしまう。しかし、すぐに反応した他の選手たちがいた。そのフリーキックスポットの近くにいた服部、名波、そして藤田。

 まず服部が、タテパスを受けたレイソル選手をチェイスすることでタテへの突破を阻止する。仕方なく、フリーで中央ゾーンへ上がってきたサンパイオへ横パスが出る。ただそこには、名波が、全力で戻ってきていた。サンパイオは、これまた仕方なく切り返し、今度は右サイドにいるエジウソンへパスを回す。彼には、山西がしっかりとマークに入っている。この状況で、その右側をオーバーラップする選手がいた。レイソルの砂川。エジウソンが、山西を引きつけながら、砂川が抜け出そうとするスペースへ柔らかなタテパスを出したことは言うまでもない。しかし、その砂川さえも、タテパスを読んだ藤田にしっかとりチェックされていた。藤田の迫力ある寄せが目に入ったのか、砂川が送り込んだクロスは、僅かに狙いを外れてしまう。

 この一連のプレーで、服部、名波、そして藤田が魅せた、長い距離を全力で戻るディフェンス参加。それこそが、ジュビロに深く浸透した高い守備意識を象徴していた。特に藤田。彼がスタートしたポイントは、最初のフリーキックスポットのすぐ横だった。そこから逆サイドのゴールライン付近まで斜めに走り切り、砂川の前に立ちはだかったのだ。

 セカンドステージ第12節が終了した時点で、ジュビロの年間総合ポイントは「63」。二位のアントラーズは、やっと「50」だ。また、それよりも目立つのが得失点差。ジュビロは「+37」。二位につけるガンバが「+27」だから、その突出ぶりが分かろうというものだ。それでも失点数だけを比べればマリノスにトップを譲るし、三位のガンバとも一点差にしか過ぎない。要は、ゴールと失点のバランスが素晴らしいということだ。

 このバランスが内包する意味が大きいのである。決して彼らは守備を重視したチーム戦術をとっているのではなく、あくまでも前へのチャレンジを基調に、その時点で戻れる者が、効果的なディフェンスを展開するのだ。リスクを避ける「消去法」的な発想ではなく、あくまでも積極的に仕掛けていくことを基調にした発展的な発想。戦術という規制と、自分主体の自由プレーとが、これ以上ないというほどハイレベルなバランスを魅せる。

 日本サッカーの将来を示唆するイメージリーダーといっても過言ではないジュビロ。後ろ向きの規制サッカーではなく、全員の高い守備意識をベースにする解放されたリスクチャレンジサッカー。それこそが、創造的な発展のための唯一の道なのである。(了)

============

 素晴らしい闘いを展開したサンフレッチェ。この試合でのMVPは、疑いもなく、ベテランの沢田謙太郎でしょう。彼が魅せつづけた攻守にわたるダイナミックプレー。それがチームメイトにとって、これ以上ないという刺激になったことは確かな事実だと思うのです。

 前半と後半に爆発した思い切りよいシュート。両方とも、レイソルGK南によって、ギリギリのところで防がれてしまいましたが、それは、サンフレッチェが挙げたゴールの序章でした。そして、彼自身による先制ゴール。また追加ゴールのシーンでも彼が起点になりました。ダイナミックな守備をこなしながらの決定的な押し上げ。素晴らしく爽快なプレーを展開した沢田に乾杯!!

 さて、ギリギリの降格サバイバルリーグ。まず仙台が抜け出しました。残るは、サンフレッチェ、ヴィッセル、そしてレイソル。それぞれのチームの、第14節を終えた段階での勝ち点と得失点差の状況です。

 レイソル(勝ち点29、得失点差-12)、ヴィッセル(勝ち点28、得失点差-14)、そしてサンフレッチェ(勝ち点26、得失点差-14)。最終節での対戦相手は、レイソルがガンバ(ホーム)、ヴィッセルがエスパルス(ホーム)、そしてサンフレッチェがコンサドーレ(アウェー)。

 もうここでは、数字的な状況や、これまでのゲーム内容ベースで有利、不利を論じるのはやめましょう。とにかく最終節は、まさに「神様演出」のギリギリのドラマになります。

-----------------

 さて優勝のかかったジュビロ対ヴェルディー。内容のある、これ以上ないという素晴らしいエキサイティングマッチになりました。

 もちろん背景は「意地のぶつかり合い」。特にヴェルディー。今シーズンでは、最高レベルの統一感あふれるサッカーを展開しました。守備においても、攻撃においても。

 ヴェルディーが、技術的には、リーグでトップレベルにあることは衆目の認めるところ。それでも彼らが、持てるチカラを最大限に活かした進歩を目指しているとはとても思えない。特にボールがないところでサボる(様子見になる)シーンが目立つから(相手を甘く見る姿勢が目立つから!?)、あるレベル以上に発展しない・・だから観ている方もフラストレーションがたまってしまう・・相手のチカラに合わせ、なるべく楽して・・なんていう斜に構えた姿勢が見えてくる・・等々。

 それでもセカンドステージに入ってからは、守備的ハーフを三人にすることで、またエジムンドを二列目に置いて攻撃を演出させることで、安定したダイナミックサッカーが展開できるようになっていきました。ところが、好調を維持していたマルキーニョスのケガ、中盤の「汗かき」として実効あるプレーを魅せていた高木のケガ、U19、U21の代表に、田中隼磨、田中大悟を取られてしまう等々のことが重なり、またまた斜に構えるプレー姿勢というヴィールスがチーム内の雰囲気を侵食しはじめていきます。そして、上手いけれど、ボールがないところでの動きが緩慢で、急激なペースアップばかりを狙うサッカーに落ち込んでしまう・・。これでは、発展のキッカケさえ掴むことさえできないと、彼らに対する興味が冷え込んでしまったものです。

 そんなヴェルディーですが、この試合では、中盤守備が忠実&ダイナミックになったことで、全体的なゲーム内容が大きく好転したと感じます。とはいっても攻撃では、まだまだ「足許パス」が多い。いつものリズムを急に変えることは難しいし、イメージリーダーのエジムンドも、緩急のリズム変化を狙っているから、まあ仕方ない。とにかく、可能性ではリーグトップレベルにあるのだから、可能性のある限り「高質なサッカー」を目指すことがプロとしての彼らの責務だと思っているのは私だけではないに違いありません。

 対するジュビロ。例によっての「優れたサッカー」を展開していました。アクティブ(流動)守備をベースに、しっかりとボールを動かしながら相手守備の薄い部分を突いていく攻撃。中山ゴン、高原に代表されるボールのないところでの動きだしタイミングは素晴らしいし、それに絡んでくる三人目、四人目の決定的フリーランニングも健在(もちろん素早いボールの動きも連鎖する!)。それでも、この試合でヴェルディーが展開したクレバーな守備は堅い、堅い。だからウラを突くシーンを作り出すことがままならならない。また何度かの決定機も、ヴェルディーGKの攻守などもあってゴールに結びつけることができない。

 そして、これは引き分けで総合優勝決定かな・・なんて思いはじめた延長後半のタイムアップ直前。福西が決勝Vゴールを奪います。粘り強いアタックでボールを奪い返した金沢に拍手! そしてそれを、冷静にゴールへ結びつけた福西にも拍手!

 前掲したサッカーマガジン記事で書いたように、彼らは「J」最高のチームでした。まあそのことは先シーズンにも言えますが・・。だからこそ、このVゴールでのスッキリしたファースト&セカンド完全優勝の決定が、殊のほか嬉しかったのです。まあそれは、私だけではないでしょうがネ。

 前掲したサッカーマガジン記事の最後の部分をもう一度・・。

 『日本サッカーの将来を示唆するイメージリーダーといっても過言ではないジュビロ。後ろ向きの規制サッカーではなく、全員の高い守備意識をベースにする解放されたリスクチャレンジサッカー。それこそが、創造的な発展のための唯一の道なのである』



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]