湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第3節(2002年9月14日、土曜日)

明確な「ゲーム展開」だったからこそ面白く観戦できました(ジュビロ対レッズ=1-2)・・またガンバについても一言(ガンバ対エスパルス=2-1)

レビュー

 何てコメントしたらいいのか・・。ワンチャンスを次々とモノにし、それをベースに集中力が高まった忠実守備でガンバリ抜いたレッズ・・、それに対して、最後までツキに見放されたジュビロ!?

 マンオリエンテッドな守備プレーを基調にするレッズ守備。それが、何度かの「減退の兆候」を乗り越えて最後の最後まで持ちこたえた・・。

 この試合では、ファイブバックに二人の守備的ハーフ(内舘と鈴木)で構成されたレッズ守備ブロックは、最後まで「超」のつくハイレベルな集中を切らすことがありませんでした。というよりも、一度落ちかけた集中が「回復」してきたと表現した方が正確かもしれません。もちろん、集中レベル回復に貢献した心理的なバックボーンが、後半の早い段階で挙げた2ゴールだったことは言うまでもありません。

 前半の20分すぎから、徐々に、レッズの忠実マークに「弛み」が見えはじめていました。ジュビロ選手たちの、レッズの忠実マンマークに対する「攻めイメージ」が活性化してきただけではなく、そこには、レッズ守備ブロックの、ジュビロが魅せる素早く、広いボールの動きに、一瞬ボールウォッチャーになってしまうシーンが目立ちはじめていたというポイントもありました。

 そんな、心理的に衰弱しはじめた状況に、後半立ち上がりの、永井と田中コンビによる「これこそワンチャンス!」という二つのゴールが、どれほどの勇気を与えたことか。レッズの守備ブロックに、「よしっ!」と、気合いが入り直したことを明確に感じましたよ。

 レッズの守備は、決してオールコートマンマークというわけではありません。中盤の高い位置までは、動きまわるジュビロ選手たちをどんどんと受けわたします。そして、素早く忠実な、相手ボールホルダー(パスレシーバー)へのチェックアクションを「イメージ基盤」に、その時点で決まってくる「次のボールホルダー(パスレシーバー)」へのマークをタイトにしていく。もちろんこの時点で、最前線の中山ゴンと高原に対するマークも決まってきます(坪井、室井は、サイドチェンジを繰りかえすジュビロツートップに対するマークを臨機応変にチェンジしていた)。そして一度決まったマークを、ジュビロの「攻撃ユニット」が一段落するまで決して離すことがない。そんな守備のプレーイメージが徹底しているのです。

 前節のベガルタ仙台とのゲームでも、ゲームの流れを牛耳るためのベースである「忠実な守備プレー」が抜群の機能性をみせていました。まあ攻めについては、前回コラムに書いたとおり、まだまだ課題山積ですが、そんなレッズのサッカーを観ていて、やはり守備がチーム戦術の基礎にあるという普遍的なコンセプトを再認識していた湯浅でした。

 そしてジュビロ戦。この試合での「唯一」の観戦テーマは、レッズの守備が、「あの」ジュビロ攻撃にどのくらい耐えられるのか・・というものでした。そして、前半の半ばを過ぎたあたりから「これでは難しいな・・」と感じはじめ、逆に、後半にみせた彼らの「回復」に、やはりサッカーは本物の心理ゲームだとな再認識させられたというわけです。

 それにしても、(前節の仙台戦と同様)中盤の内舘と鈴木のディフェンスは素晴らしかったですよ。彼らこそがヒーローでした。

 何度も、何度もボールがないところでマークを振り切られそうになったり、素早いパスワークでアタックアクションを外されてしまう内舘。それでも、決して足を止めることなく、間髪を入れずに「次」へ向かったり、たまには、タイミング良く相手の身体を抑えることでジュビロの攻めの流れを断ち切ったりします(もちろんファールですがネ・・)。また前後左右に動きまわって、相手ボールホルダーへのチェックや、ボールがないところでの忠実マークを繰りかえす鈴木。

 そんな「守備のイメージ起点」があるからこそ、他の中盤パートナーたちだけではなく、最後尾でマンマークに集中する坪井と室井、カバーリングに徹する井原にしても、「ねらい所」をうまく絞り込むことができたと思っている湯浅なのです。

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 ここまでのレッズは、ストッパーの坪井と、中盤のユーティリティープレーヤー平川という優秀な新人を「実戦チーム」に組み込んだこと、そして明確なコンセプトをベースに守備ブロックを安定させることで全体パフォーマンスを上げてきました。どんな守備のチーム戦術でも、とにかく全員の「イメージ」が統一されたときには、そこそこの「実効」を発揮するということです。

 「選手全員に共通するピクチャー」を、少なくとも守備では大きく発展させたハンス・オフト。良い仕事をしています。とはいっても、忠実さが前面に押し出される守備システムだからこその「マイナス面」も否めない事実です。それらの「バランス」を、これからどのようなカタチで取っていくのか・・。

 守備と攻撃における「チーム戦術的な最良バランス」は、もちろん、身体的なもの、技術的なもの、戦術的なもの、インテリジェンス的なもの、心理・精神的なものなど、様々なファクターを内包する「人」によって決まってきます。だからこそ、コーチの、選手個々の「能力・特徴」などを評価する「眼」が問われてくるというわけです。

 サッカーの歴史のなかでは、本当に数え切れないほどの「チーム作りドラマ」が展開されてきました。最初から「コイツらは、出来ないから・・」と、発展への期待を抱くことさえできない後ろ向きのピクチャーばかりが強調されるケースも多いですし、逆に「期待し過ぎて」墓穴を掘ってしまうコーチもいる・・、はたまた、隠された「安定策(バランスプレーヤー)」をベースに、他の選手たちには、攻守にわたるリスキープレーに積極チャレンジさせることで徐々にチームを発展へ導いていくコーチもいる・・等々。

 守備をコアにチームの基盤を固めつつあるハンス・オフト。これからの「発展の方向性」に注目することにしましょう。

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 ジュビロについては、プリントメディアも含め、これまで様々なところで文章を発表しているし、この試合でも、彼らの特徴が活かされたサッカーを展開できていたから、特別に書くことも・・。レッズの「忠実ディフェンス」に苦労したことについても、ゲームのなかで選手たち自身が微調整し(福西と服部が参加するタテのポジションチェンジをより積極的に繰り出したり、ポジションチェンジに対する意識の覚醒などですが、このことについては別の機会に・・)、確実に改善していましたからネ。まあ「西と高原の発展」という特筆ポイントもありますが・・。

 とにかくジュビロについては、選手たちの「自分主体で考えつづける姿勢(=インテリジェンス≒集中力≒協調性と責任感あふれる自己主張・・等々!?)」が素晴らしいレベルにあること、そしてそれこそが、彼らの強さの根元だというに止めましょう。

 あっと・・一つだけ。彼らの場合、サブのレベルが上がっていないことが懸案事項かもしれませんネ(川口を除き、選手交代が、明確なパフォーマンスアップにつながるというケースは希!?)。一つのユニットとしての、(固定された)先発メンバーの素晴らしい「あうんのイメージシンクロ」。それも、二つ以上のポジション(選手)が代わった場合には、目立って機能性が減退してしまう・・。まあ仕方のないことですが・・。

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 さて、ジュビロには申し訳ありませんが、彼らの敗戦でリーグが面白くなってきたことも事実です。

 明日は、国立競技場でのヴェルディー対アントラーズの観戦。セカンドステージで湯浅が大注目しているヴェルディーが(クラブ体質を改善しつつある彼らが!?)、どこまで「プレーイメージ」を統一させられているのかに視点を集中させることにしましょう。

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 なかなか興味深いコンテンツだったので、ガンバのサッカーについても一言。

 選手たちのチーム戦術的イメージは、たぶん・・守備ブロックの5人(木場、宮本、山口が組むスリーバック、遠藤、ファビーニョの守備的ハーフコンビ)は、相手を押し込んで、ブロック全体が上げている状態、またカウンターや、中盤の高い位置でのボール奪取チャンス以外、流れのなかでは攻撃の最終シーンまでは絡んでいかない・・両サイドの新井場と森岡は、限りなく、中盤サイドアタッカーのイメージでプレーする(もちろん遠藤とファビーニョが後方をカバー!)・・二列目の二川は、攻撃では、新井場と森岡と組む「トリプルの二列目」を意識する・・このセカンドアタッカー・トリオは、互いのポジションチェンジまでイメージしてプレーする(新井場と森岡は、頻繁にセンターゾーンにも顔を出す!)・・トップの吉原は、マグロンの「衛星プレーヤー」として、セカンドアタッカーコンビに融合する・・最終勝負は、マグロンのアタマが使えるシーンでは「必ず」クロスを入れる(特にサイド!)・・守備では、とにかくポジショニングバランスに対する明確なイメージを持ってプレーする・・そして、決定的な相手フリーランニングへの忠実マークも含め、相手パスコースを抑制しながら勝負所で集中する・・等々。

 ガンバの場合、セカンドアタッカーの三人「だけ」が、攻守にわたって自由にプレーするというイメージでしょう。もちろん新井場と森岡は、インテリジェンスあふれる強固な守備意識を備えていますから、彼らの「自由度」が、これ以上ない程の「実効」を発揮するというわけです。

 ガンバ先制ゴールは、素晴らしかったですよ。右サイド浅いところでボールを持った森岡。そのとき既に、最終勝負のイメージが固まっている・・と感じました。そして迷うことのないアーリークロスを、エスパルスゴール前へ上げます。ターゲットは、もちろんマグロンのアタマ。そしてもう一人、その「シンクロ・イメージ」に乗った選手がいました。二川です。彼は、森岡のアーリークロスが蹴られた瞬間には、大外を回ったフリーランニングをスタートしていたんですよ。もちろん、マグロンとの「アイコンタクト」を基盤にしてね。そして、まったくフリーになった二川へ、マグロンからのヘディング・ラストパスが送り込まれたというわけです。胸でのワントラップシュートを確実に決めた二川も含め、とにかく素晴らしいイメージシンクロゴールでした。

 そして後半になって、ケガから復帰したマルセリーニョが登場します。単独勝負ばかりではなく、組織プレーにも抜群のセンスを発揮する天才プレーヤー。さて・・。

 結局マルセリーニョは、フリーキック以外、見せ場を作り出すことはできませんでした(それにしても、右足アウトサイドのキックは破壊力抜群!)。とにかく運動量が、絶対的に不足しています。

 同じ外国人では、素晴らしいバランスプレー(カバーリングやインターセプト等々)や、クリエイティブな攻撃の起点プレーなど、中盤のファビーニョの攻守にわたる貢献度の高いこと。素晴らしい「重心プレーヤー」ですよ。

 試合は、結局ガンバが、マグロンの延長Vゴールで勝利をおさめました(もちろんヘディングシュート!)。ガンバもまた、チームとしてポジティブに成熟してきているということですが、「運動量を欠く天才の復帰」が、今後の彼らの発展プロセスにどのような影響を与えていくのか・・。ちょっと興味が湧いてきた湯浅でした。では明日また・・



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