湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第3節(2002年9月15日、日曜日)

素晴らしいコンテンツ満載のエキサイティングマッチ!・・(ヴェルディー対アントラーズ=2-3)

レビュー

 第一節でコメントしたように、ヴェルディーのチームパフォーマンスが「本当の意味」で上向いているようです。前節のヴィッセル戦でも良いサッカーを展開したみたいですし、この試合でも、強固な守備ブロックと、善戦での明確な役割分担をベースに、そのパフォーマンスアップが本物だと感じさせてくれましたよ。

 「本当の意味で・・」と書いたのは、選手たちのプレーに、攻守にわたるクリエイティブなムダ走りに対する積極姿勢が明確に見えてきているからです。攻守にわたって、ボールのないところで勝負が決まる・・。それがサッカーですからネ。まあ、ヴェルディーマネージメントの「改革に対する強い意思表示」が、選手たちに(チームの体質的な雰囲気に!)ものすごくポジティブな影響を与えたということなんでしょう。「サッカーは、効率的に、ムダを省いてプレーすべきなんだ・・」なんていう、低レベルの「斜に構える姿勢のビールス」が一掃された!? とにかく「ロリ監督」のウデに期待が高まります。

 国立競技場が満杯になることはありませんでしたが、スタジアムの雰囲気は、「J」開幕当時に近いモノがあると体感している湯浅です。盛り上がり方がいいんですよ。観客の皆さんもまた、この試合が、ものすごく面白くなることをよく分かっているということです(実際に、何人かの観客の方々と話しましたよ・・)。嬉しいですよね。サッカーを語り合う方々が目に見えて増えていること(サッカーが異文化接点としての機能性を向上させていること!)を実感できるんですからネ。当時のヴェルディー対アントラーズのように、素晴らしい「コンテンツ」でリーグを大いに盛り上げて欲しいモノです。

 ヴェルディーは、マルキーニョスを除いて「ウィニングチーム(ウィニングチーム戦術)ネバー・チェンジ」という原則を踏襲します。エジムンドを「唯一の」チャンスメーカーに、その周りを、ツートップと、トリプルの守備的ハーフの五人が「衛星」のように動き回る・・。

 あっと・・、エウレルとファビアーノを欠くアントラーズが、チーム戦術(選手たちのタスク・バランス)をマイナーチェンジしたことをチェックしておかなければ・・。要は、ツートップを柳沢と本山の構成にし、二列目コンビを、小笠原とアウグストに任せるという布陣に変更したのです。このことはもう何度も書きましたが、とにかく本山と小笠原の二列目コンビは、うまく機能していませんでしたからネ。さて、これで見所がもう一つ増えた・・。

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 さて、ヴェルディー対アントラーズ。期待に違わぬ「本物の」エキサイティングマッチ! あ〜、来てよかった。

 縦横に「自由」に動きまわるエジムンド。ボールは、彼がどこにいようと、しっかりとそこまで回されてきます(ヴェルディーの技術の高さがうかがえる・・)。その起点プレーと、しっかりと有機的に連鎖する「前後の五人組」。対するアントラーズも、二列目コンビが、しっかりと攻撃のダイナミズムを演出していると感じます。これは、本当のグレートマッチになるに違いない・・なんて思っていた前半13分、平本、桜井、エジムンド等が演出した夢のようなダイレクト・コンビネーションから桜井が抜け出し、そのままドリブルシュートまで行こうとしたところを引っかけられてPK! そこまでの展開からすれば、疑いもなく「勝ち取ったPK」でした。

 アントラーズですが、前の「四人」に、彼らの伝統とまでいえる、縦横無尽のポジションチェンジを基盤にした「決定的スペースへのダイナミズム」が出てきたと感じます。前の柳沢と本山、二列目のアウグストと小笠原。この四人による自由自在のポジションチェンジが、しっかりと、シュートチャンス演出の基盤になっていると感じるのですよ。もちろんその「カルテット」に、後方からは中田浩二が積極的に絡んでくる・・(本田泰人は決して上がってきませんし、右サイド名良橋のオーバーラップも目立ちませんがネ・・)。全体的には、アントラーズの「選手オーダーのマイナーチェンジ」がうまく機能しているということですが、久しぶりのアントラーズのダイナミックな攻撃に、「この試合は、決してこれでは終わらない・・」と確信していた湯浅です。

 ということで、アントラーズの「マイナーチェンジ」。基本的には、ファビアーノとエウレルを欠いたことでのエマージェンシー(危急対策)ということなんでしょうが、もしかしたら「怪我の功名(監督の明確な意図もあるはずだから、この表現が的確とは言えませんがネ)」ということになるかも・・。

 ヴェルディーのエジムンドは、常に「相手マークから消える」ことをイメージしている・・。前線の二列目に貼り付くのではなく、前後左右の「アクションラディウス(行動半径)」を広げようとする姿勢が明確に見えるのです。もちろん守備には参加しませんから、カバーするために「トリプルの守備的ハーフ」がいるというわけですが、それでも、たまには「中盤の底」ポジションまで下がり、高木成太や小林大悟を、「おい、オマエ行け!」ってな具合に、自分より前のゾーンへ送り出すのです。そんな状況で、途中でボールを奪い返されたら、もちろん「あの」エジムンドでも守備に就く・・。まあ彼がボールを持ったら、「イヤなカタチ」でボールを奪われる状況に陥ることは希ですがネ。

 この試合での柳沢、小笠原は、吹っ切れたダイナミックプレーを披露していましたよ。特に小笠原は、自分がイメージするタイミングでパスを受けることができるから、どんどんとボールのないところでのアクションも活性化していったと感じます。また柳沢にしても、例によっての前後左右のフリーランニングをベースに、ストライカーとして危険なプレーを連発します(中から外へ・・そしてそこから再び中へ・・また、前から後ろへ・・そこからまた決定的スペースへ・・という大きな動きが素晴らしい!)。それには、アウグストの、パスプレーとドリブル勝負がうまくバランスした「陰の実効プレー」も見逃せませんがネ。あっと・・、本山も、この試合では、ボールがないところでの動きも含めて、全体的なプレーが活性化したと感じさせてくれましたよ。

 そんなエキサイティングな展開がつづいていた前半40分のことです。最前線で抜群のフリーランニングを繰りかえしていた柳沢に、ピタリという決定的中距離パスが入ります。ボールを受けてヴェルディーゴールへ向かう柳沢。ところが、マークしていた田中隼磨が、柳沢を後方からの接触で倒してしまいまったのです。一発レッド!! ファールしなければ確実にシュートチャンスへ行けるという状況でのプロフェッショナルファール・・というレフェリーの判断なのですが・・さて・・。私は、その判定に対して大いなる疑問符を付けたのですが、試合後のロリ監督も、開口一番、レフェリーに対する批判を繰り広げていましたよ。まあ、その怒りは分かるのですが・・。

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 さて後半。どんどんと押し込んでいくアントラーズ。そんな展開のなかで、中田浩二の中距離シュート、柳沢の完璧なヘディングシュート、フリーキックからの池内のヘディングシュート等々の決定的チャンスが飛び出します。ここまでは「ツキ」もあるヴェルディー・・。

 これは、本当は難しいことなのですが(普通のチームだったら、心理ダイナミズムが減退してしまう!?)、アントラーズは、一人多いという「数的に有利な状態」を本当にうまく活用していたと感じていました。それも、中盤のダイナミズムが向上したからに他なりません。これまでだったら、確実に「パフォーマンス減退」を招いたに違いないと思うんですよ。危機感・・!? まあ明確には分かりませんが、とにかくアントラーズの面々が、本当の意味で覚醒しつつあることだけは確かなことです。

 18分。アントラーズのセレーゾ監督は、守備的ハーフ本田に代えて、トップの長谷川を投入します。正しい交代です。そして、前へのエネルギーが増幅していくアントラーズ。さて・・。

 それでも後半21分、ヴェルディーが、これぞカウンターという見事な攻めを成就させてしまいます(アントラーズが、タテのバランスを欠いた攻撃を仕掛けてしまった!)。抜け出した桜井から、右サイドの太平洋スペースへフリーランニングした平本へタテパスが通り、そのまま平本が、例によっての抜群の迫力のドリブル突破を仕掛けてフィニッシュまでいってしまったのです。いや、その突破ドリブルの迫力は、もう完全に日本人離れしていますよ。そしてこぼれたボールを、エジムンドがドカン!!

 ツキにも恵まれたヴェルディーですから、「このまま・・」なんていう雰囲気が出はじめていた後半の25分。やっとアントラーズが、チャンスをゴールへ結びつけます。ちょっと守備ブロックの人数が足りない状態がつづいていたヴェルディー。そんなスキを突き、本山が、後方からの「ここぞ!!」の走り込みを魅せてヴェルディー最終ラインをすり抜けていきます。素晴らしい決定的フリーランニング。そこへ、左サイドの内田からのラストセンタリングがピタリと合ったのです。目の覚めるような「追いかけゴール」でした。

 ここでヴェルディーのロリ監督は、疲れのみえはじめた桜井に代えて(前後のバランスを回復させるために)、守備的ハーフの小林慶行を入れます。これで、またまた守備的ハーフトリオが結成されます(高木成太は、退場になった田中の代わりに、右サイドに入っていましたからネ・・その関係で、桜井が守備ハーフに回ったのですが、どうも前へ引っ張られ過ぎで後方を空けてしまう!)。そしてヴェルディーが、少しペースを盛り返しはじめるのです。本当にエキサイティングな展開だ。

 でも結局、後半の36分には、素早いパス回しからボールを持った小笠原からの、素晴らしいタイミング&コースの斜めのラストスルーパスを、長谷川に、ドカン!とダイレクトで決められ(同点ゴール!)、つづく43分には、コーナーキックから、ファーポストで胸でトラップしたアウグストが、粘り粘ってボールを「つつきシュート」を放ち、それが決勝ゴールになってしまうのです。

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 ヴェルディー田中の退場は残念でしたが、全体としては、優れたコンテンツ満載の本当にハイレベルなファンマッチでした。

 負けたヴェルディーにしても、この三試合で、彼らもまたセカンドステージの明確な優勝候補であることを証明しましたし、アントラーズにしても、攻撃のダイナミズムが戻ってきましたからね。

 マリノスの「ダウン」は残念ですが、グランパス、レッズ、ジュビロ、アントラーズ、ヴェルディー、ガンバ等々、リーグ展開がエキサイティングな兆候をみせはじめたではありませんか。さて面白くなってきた・・



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