湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第6節(2002年9月28日、土曜日)

(またまた)いろいろと考えさせられるゲームでした・・(レッズ対エスパルス=2-1、Vゴール!)

レビュー

「湯浅さん・・レッズは勝ってはいるんですけれど、あのサッカーは何とかならないんですかネ・・」。ビジネスミーティングの席で、例によっての「導入部のサッカー談義」。そこで、埼玉在住のクライアントの方から、そんな発言があったのですよ。

 たしかにカメルソンに良いカタチでボールが入り、ドリブル勝負の状況に入れば胸が躍る・・また平川や山田、はたまた田中の単独勝負も可能性を感じさせてくれる・・それでも、攻撃の組み立てがなく、単独勝負ばかりでは限界があるのでは・・というのが、その方の「印象」だというわけです。

 まあ、いつも書いているとおり、レッズの「数字的な成績」のベースは、忠実さが前面に押し出されるディフェンスにあります。その忠実さが、これまでのハンス・オフトの一番の功績だというわけですが、そんな「後方の安定性」をベースに、ツートップと、交互に上がってくる両サイド(山田と平川)『だけ』が仕掛けていく・・というサッカーが、専門家ではない人々にとって魅力的ではないということなんでしょう。

 この試合では、攻守にわたる中盤の「ダイナモ」、鈴木啓太と、最前線での仕掛け人、田中達也が、アジア大会によってメンバーに入っていません。そのことが、「穴」として明確に感じられます。特に、中盤の「ダイナモ」がネ・・。いなくなって初めて、その存在の大きさを実感する・・。彼のボールのないところでの忠実&クリエイティブな守備・・ボールを奪い返したところからはじまる、しっかりとした組み立てプレー・・。彼のいない「穴」を感じます。

 希望を抱かせてくれるような「組み立て」。その「コア」になるのが、クリエイティブなボールの動きと、それを演出するための労を惜しまない「ボールのないところでの動き」にあることは言うまでもありません。それがないから(特に前半!!・・ハンス・オフトも十分に意識していたようです)、堅いディフェンス(選手たちの裁量権を限りなく狭める守備システム)と、攻撃での個人勝負ばかりが目立ってしまうというわけです。まあ、もう何度も繰りかえして書いてきたことではありますが・・。

 ボールを持った味方に、本当に「誰も」寄っていかないというシーンが、あれほど連発するのでは、選手たちの「プレーイメージ」の何かが狂っている・・と考えたくなるじゃありませんか。もちろん、観ている方もフラストレーションがたまりますし、気持ちのいい現象じゃありません。

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 対するエスパルス。調子が悪いですね。久しぶりに観て、ちょっとビックリ。守備はまあまあなんですが、特に攻撃が・・。まあ簡単に表現してしまえば、「忠実なレッズ守備ブロックだからこその穴」をまったく突くことができていない・・ということになるのですが・・。

 相手が忠実なマンマークをベースにしているのだから、最前線で「基点」ができた状況で(できそうな状況で)、タイミングのよい後方からの押し上げ(バックアップ)が出てくれば、もう少し可能性が感じられるような攻撃を展開できるのに、そんな大きな動きが出てこない。だから、完全にマークされている前線のボールホルダー「周辺ゾーン」にレッズ選手たちが集中してしまうことで、簡単にボールを奪い返されてしまう・・。

 そんなことを思っていた後半の12分。澤登と交代して、アン・ジョンファンが登場してきます。そしてすぐに魅せます。中盤で、うまい「守備フェイント」からパスをカットし、そのまま最前線の右サイドで決定的フリーランニングをスタートした平松へロングタテパスを決めたのです。平松が勝負し、最後は、レッズゴール前で待つ三都主へ・・。トラップフェイントからのフリーシュート! 惜しくもバーを越えてしまいましたが、それは、この試合でエスパルスが作り出した「最初のビッグチャンス」でした。

 そんなチャンスを演出できれば、選手たちのモラルアップ(自信の発展)につながる・・。その後のエスパルスのペースアップに、「これは・・」なんて思っていたのですが、やはりというか、守備が基調のチーム戦術を徹底するレッズですから、そんなに「振り回される」ことなく、またまた膠着状態に陥ります。そんな展開がつづいていた後半27分。カウンター気味の攻撃から先制ゴールを挙げたのはエスパルスでした。

 中央ゾーンでボールを持ったアン・ジョンファンから、三都主へとボールが回り、ここしかないというタイミングで、左サイドの大外から回り込んだ高木へラストパスが通されたのです。これで、レッズは攻め込まなければならなくなった・・。そして直後の30分、福田に代えてトゥットが登場するのです。

 そこからレッズの攻撃にダイナミズムが出てきます。とはいっても、ブロックを厚くして守るエスパルス守備を崩しきるところまではいけない・・なんていう展開のなか、後半38分に、二度目のイエローを受けたエスパルス斉藤が退場になってしまうのです。その1分後でした、レッズが同点ゴールを入れたのは。スコアラーは石井俊也。

 石井は、土橋に代わって登場したのですが(後半22分)、そこからレッズの中盤に、攻守にわたる「勢い」が戻ってきたと感じました。

 まず中盤ディフェンスですが、石井によって、そこでの「分断力」が増幅していった・・なんて表現できますかネ。「次の勝負所」を抑えながら、エスパルスが攻め上がりたいゾーンを「抑制」する・・。もちろん、「人」をマークする守備プレーを主体にしてネ。また、彼が入ったことで、攻撃でも大きな効果が生まれます。それまで、中盤でボールを奪い返しても、「タテへのエネルギー」がまったく上がりませんでした(要は、ボール奪取ポイントからの効果的なタテパスが出なかった!)。それが、石井によって(もちろん状況に応じてではありますが)、「タテの変化」を演出する上下のボールの動きが出てきたと思うんですよ。そしてチームメイトたちの、仕掛けに対する意識も高揚していく・・。

 この同点ゴールは、そんな石井俊也の「良い仕事」の正当な報酬ではありました。

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 その後、エスパルスがバロンを投入します。平松との交代。その彼が、抜群に実効あるプレーを展開します。最前線での確実なポストプレー。そして、その「確実性」に刺激され、アン・ジョンファンと三都主のプレーも活性化していきます。

 たしかに延長に入ってからのエスパルスはシュートまでいけませんでした。それでも、決定的チャンスの「芽」という視点では、互角だったといっても過言ではありません。一人足りないにもかかわらず・・。ここのところ調子を大きく崩しているエスパルス。何か復調の「芽」が見えてきたような・・。

 でも最後は、永井からのパスを受けた山田が魅せた素晴らしい「揺さぶりプレー」からトゥットが決勝Vゴールを挙げ、レッズが貴重な勝ち点「2」をゲットしたというゲームでした。

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 最後になりましたが、ハンス・オフトの「お仕事内容」について一言。

 彼は、いまのところは「安全に・・確実に・・」というキーワードの「チーム戦術」を徹底させていると感じます。以前のコラムで酷評した福田ですが、たぶん彼は、「山田やエメルソンたちが勝負に入ったら、追い越したり近寄ったりするな・・その後ろで、彼らが前に詰まったときのバックアップをやったり(ドリブル勝負に詰まったときのバックパスレシーバーになる!)、相手カウンターに備えた守備ポジションに入れ・・」と指示されているのでしょう。

 だからこそハンス・オフトは、勝負をかけなければならない状況になったら、福田を「仕掛け要員」と交代させ、攻撃に、よりダイナミズムを注入するのです。要は、ハンス・オフトは、福田のことを攻撃の仕掛け人としてではなく、あくまでも、経験ベースの「汗かきバランサー」としてしか考えていないということです。

 とはいっても、いまの福田のプレーを見ていると、彼が、そんな指示を「免罪符」と考えているフシが目立ちます。「できない」のではなく「やらない」という姿勢が目立ちに目立つ・・。観ていて不快でなりません。彼には、まだまだ「やれば出来る能力」があるからこそ、私は、そんなプレー姿勢に憤っているのです。これでは、「悪いイメージ」ばかりが先行して引退へ向かってしまう。今まで彼が為してきた功績を思えば、残念で仕方ない・・なんて思っているのです。フ〜〜ッ!

 ということで、ハンス・オフトが描くゲームの展開イメージは、まず「落ち着いたゲームペース」を維持し(守備を厚くして、最前線と両サイドの一発勝負に賭ける!)、攻撃にダイナミズムを注入しなければならなくなったら福田を外して勝負をかけていく・・というものだろうと考えている湯浅なのです。

 これは前回も書いたことなのですが、ハンス・オフトは、「いまの戦力では多くを望むことはできないから、まず「負けないサッカー」をと考えているに違いありません。そして、攻撃と守備の「やり方」をシンプルに明確化した(戦術的な制限範囲を広げた)ことが結果につながっている。

 とはいっても、それが「理想のサッカー」へ近づくための効果的なステップになるかといえば、大いに疑問(たしかに勝っていることは大いなる価値ではあるのですが・・)。私は、レッズが、攻撃のダイナミズムを演出しながらも、「汗かきバランス」プレーも十二分にこなせる選手を抱えていると思っています。チャンスを見計らって「仕掛け」ていきながらも、自分主体の判断で、状況に応じた「バランスプレー」もこなせる・・。そんなプレーイメージを高揚させることこそが、監督・コーチの仕事であり、それがなければ、決してチームが発展することはないのです。

 「負けないサッカー」で降格圏から脱出しつつあるレッズ。ここから、どのように、「攻守にわたるクリエイティブなプレー」をベースに、周りが大いなる期待を抱くことができるような、「次の段階と表現できるような進歩へ向けた変化」へつながけいくのか。「お手並み拝見」!

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 追伸:このところ、エメルソンの「組織プレー志向」を気に入っています。自分がダメならば、周りを使う・・そんな意識が顕著に見えるようになっているということです。まあ、周りの味方に対する信頼が高まってきているということなんでしょうがネ。だから、自分がオトリになるようなラストパスプレーも、しっかりとイメージしていると感じるのです。さて、これからの彼のプレーも楽しみになってきた・・。



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