湯浅健二の「J」ワンポイント


2002年J-リーグ・セカンドトステージの各ラウンドレビュー


第9節(2002年10月19日、土曜日)

またまた「粘勝」のレッズ・・(レッズ対グランパス=2-1、延長Vゴール!)

レビュー

 ウィニング・コンセプト・ネバーチェンジ・・。ということで、この日のレッズも「スリートップ」で試合に臨みます。ただ、ケガの永井雄一郎に代わり、この試合では、アジア大会帰りの田中達也がスリートップの一角を占めます。

 対するグランパスは、アウェーということで、また「自分たちのサッカー」に確信を持っているリーグトップのレッズが相手ということで(レッズのサッカーがものすごく明確だから)、完全に「対処ゲーム戦術」に徹しています。要は、グランパスのいまの調子では、「仕掛けていく」よりも、レッズの良いところ(スリートップの突破)を確実に抑え、カウンターを狙うというゲーム戦術の方がよりチャンスを大きくする・・とベルデニック監督は考えたということです。まあ、いまのレッズと相対するには、至極当たり前のゲーム戦術ではありますが・・。

 そして試合は、両チームともに人数をかけた仕掛けを繰り出していかないことで、現象的には、あまり動きのない展開になります。とはいっても、「細部でのギリギリの闘い」は熾烈を極めていた・・。スリートップに対する完璧なストリクト・マンマーク(エメルソン対大森、トゥット対古賀、田中達也対酒井)。そして両サイドで繰り広げられる、平川と岡山、「やっと」日本代表に選出された山田暢久と平岡のせめぎ合い。少なくともそこには、ギリギリの緊張感がありました。

 そんな「構図」の結果として、残りのミッドフィールダーが、ゲームを「動かす」カギを握ることになります。レッズでは、守備的ハーフコンビの鈴木啓太と福田。グランパスでは山口素弘と中村直志(中村直志は、頻繁にヴァスティッチとポジションを変えていましたが・・)。でも彼らの「攻めへの絡み方」が、ものすごく注意深い・・というか、常に様子見というプレー姿勢なんですよ。だから、どうしても中盤でのダイナミズムが低迷してしまうことで全体的な試合の流れが「静」になってしまうというわけです。そして、局地的な競り合いという見所以外は「見所」が乏しい展開に陥っていきます。

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 攻撃ブロックと守備ブロックを明確に分けるというチーム戦術のレッズには、勝負を仕掛けていくための「オプション(選択肢)」は、そんなに多くはありません。強いて言えば、両サイドの平川と山田暢久の押し上げをもっとアクティブに意識付けするとか、フレッシュな選手を(前述した)中盤のキーポジションに入れるくらいですかネ。サイドの押し上げについては、スリートップの誰かが、常にサイドゾーンを埋めていますから、彼らとの「コンビプレー」ということになります。とはいっても、そのコンビネーションについては、まだまだ「イメージ」がシンクロしていないようで・・。

 また例によって、中盤選手たちのダイナミズム(運動量やリスクチャレンジ姿勢など)が低調だから(そのように意識付けされているから!?)、組織的に組み立て、仕掛けていくというシーンも出てこない・・。

 それでも、やはりレッズ最前線の「個の突破力」はレベルを超えています。これだけハードなマークを受けていながら、二度、三度と「ブッちぎる状況」を作り出してしまうのですよ。もちろんそれが、レッズの基本的なチーム戦術ではあるのですがネ。フムフム・・。

 レッズの場合、どんなに攻めが詰まっても、得点が入らなくても、選手たちの「最後は何とか・・」という確信が薄れることはありません。だから、守備での集中力も最後まで途切れることがない・・。もちろんその期待は、スリートップが発揮しつづけている「一瞬のスキを突いた突破力」に集約されます。結果がついてきているからこそ、ハイレベルな集中力を維持できている(どんどんと確信レベルが高まっている)というわけです。

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 グランパスでは、中村直志とヴァスティッチが、頻繁に「前後」に入れ替わります。後半に入ると、完全にヴァスティッチと中村直志が「二列目コンビ」。そして、「薄い」ながらも、ここ一発のカウンターを狙いつづけます。もちろんワントップは、重戦車ヴェズレイ。三度くらいでしたかね、まったく一人で、何人ものレッズディフェンダーをかわし、シュートまでいってしまいましたよ。そのうちの一本が先制ゴールにつながったというわけです。まあ、突破力ではエメルソンの方が上でしょうが、少ないチャンスをゴールへ結びつけるという「特異な能力」では互角以上かも・・。

 さて、一点を追うレッズ。相変わらず、攻めるエネルギーが目立って増大することはありません。しっかりと「マンマーク主体」で守り、スリートップの突破力に賭ける・・。「前後が分断したチーム戦術(基本的な発想)」が深く浸透していることで、状況に応じて攻め方を変えるという柔軟性に欠ける・・というマイナス面が目立っていた時間帯でした。繰り返しになりますが、彼らには、攻めと守りについての「オプション」が少ないということです。もちろんそれは、次の段階へ進むための「発展性に限界がある」という意味も含まれます。

 サッカーの攻撃における「普遍的な部分」。攻守にわたり、「組織と個」がバランスしたプレーこそが、理想へ向かうための(発展の可能性を秘めた)唯一の道・・ということです。

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 この試合、結局レッズが、例によっての「粘勝」をおさめました。

 一時は、グランパスが展開する「ゲーム戦術」に完全にはまってしまった・・という感が強く、このまま・・という雰囲気が支配していたのですが、残り11分というところで同点ゴールを奪い、そして延長がはじまった早々の1分、レッズが一発カウンターを見事に決めてしまうのです。もちろん最後は、トゥットとエメルソンのコンビ。その演出家は、中盤で、抜群の忠実ディフェンスに徹しつづけた鈴木啓太でした。

 中盤で、ヴァスティッチからボールを奪い返した鈴木啓太から、左サイドへ流れたトゥットへパスが回され、そこから中央のエメルソンへラストパスが通されたのです。最後の最後の瞬間に、大森のマークが「遅れ」、無理な体勢でのアタックでエメルソンに置いていかれてしまって・・。またパナディッチのカバーリングも及ばず・・。

 それは、忠実なディフェンスをベースに(できる限り高い位置で)ボールを奪い返し、前線へボールを供給するという「レッズのカタチ」が完璧にツボにはまった決勝Vゴールでした。

 (ここからは前回コラムの最後の部分を、ちょっとリバイスしてもう一度・・)

 選手たちのプレーイメージがガッチリと固まり、例によっての粘勝でトップを維持したレッズ。たしかに「発展性」という視点では課題山積みのチーム戦術ですが、もうここまで来たら、戦術コンセプトのレベル云々なんてシーズンが終わってから考えればいい!? とにかくいまは「このまま」突っ走るしかない。かれらが展開しているのは、ナビスコカップや天皇杯という一発勝負トーナメントにも最適なチーム(ゲーム)戦術ですからね。さてどこまで彼らの快進撃がつづくのか・・。



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