湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第11節(2003年7月5日、土曜日)

またまた、「規制と解放のバランス」という普遍的なテーマです・・レッズ対トリニータ(2-1)

レビュー

 膠着した前半。しっかりと守備ブロックを固め、機を見計らった(勢いのある)カウンターを仕掛けていくトリニータ。人数をかけ過ぎることなく、チャンスとなったら(両サイドや中央ゾーンを)なるべく直線的に仕掛けていく・・もちろんレッズが全体的に戻れば(守備組織をつくったら)、人数をかけた組み立てから、しっかりとボールを動かすことを基調に、クロスやコンビネーション、はたまた単独ドリブル勝負や(ロドリゴの)タメの演出など駆使して「変化のある」最終勝負を仕掛けていく・・。アウェー用のゲーム戦術がうまく機能するトリニータ。やはり、よくトレーニングされたチームだ・・。

 それに対し、個人能力を単純に加算した「選手の総計力」では明らかにトリニータの上をいくレッズ。ホームの彼らは、たしかに全体的なボールキープ率はトリニータに優ってはいるものの、例によっての「前後分断サッカー」ということで、攻めの変化を演出することがままならない・・これでは、組織されたトリニータの守備ブロックをうまく崩していけないのも道理・・何といってもトリニータ守備ブロックは、エメルソンと永井のドリブル勝負しかないというレッズの仕掛けを明確にイメージできているのだから・・。

 何度ありましたかネ、長谷部だけではなく、鈴木啓太や内舘に対しても、「いまだ! スペースへ押し上げろ!!」なんて声が出そうになったシーンが。そんなタイミングのよいサポートアクションをミックスさせていけば(そこを中継して、より活発に、前後にもボールが動けば)、エメルソンと永井のドリブル突破の危険度を何倍にも増幅させられるのに・・。ミエミエの「単独勝負」ほど効率のわるい仕掛けはありません。もちろんその背景に、相手守備ブロックを引きつけてラストパスを送り込むという(組織プレーの)意図があれば、そのドリブルが、効果的な「勝負のタメ」に変容するわけですが・・。

 全体的にゲームを支配しているけれど、どうも決定的なカタチでの(相手守備ブロックを崩しきった状態からの)シュートではなく、苦し紛れのシュートしか放つことができないレッズ。それに対し、数は少ないけれど、実効レベルでは優るとも劣らないチャンスを作り出すトリニータ。

 そんな展開のなか、トリニータが先制ゴールを奪ってしまいます。カウンターではなく、組み立てから、横方向の「揺さぶりパス」をくり返すことでレッズ守備ブロックを完璧に「振り回した」末に奪ったゴール。梅田から、逆側のファーサイドでフリーになっていた高松への見事なサイドチェンジ(気味の)パスと、高松から吉田への、見事な「折り返しのヘディング・ラストパス」でした。

 先制ゴールを奪われてもなお、ペースを上げられないレッズ。完全に、規制サッカーの虜(とりこ)になってしまっていると感じます。とにかく組織的な攻めがまったく噛み合わず(組み立て場面で、前線に人数をかけないのだから当たり前!)、最後は、エメルソンと永井による「袋小路への単独ドリブル勝負」をくり返すレッズ・・といった構図なのですよ。フ〜〜。

 彼らがボールをもったときのサポートの動きを活性化させれば、そこを経由するボールの動きによってトリニータ守備ブロックを分散させられるのに(=スペースをうまく作り出せるのに)・・そうすれば、前述したように、個の才能をもっと実効あるカタチで活かすことができる・・。たしかにそんなサポートアクションは、(一時的にバランスが崩れるという視点で)リスキーではあります。でも、それがなければ、絶対に「次のステップ」を踏むことができないのも確かな事実なのです。

---------------

 後半もサッカーの内容がまったく変わらないレッズの体たらくに、「ハンスは、まったくやり方を変えようとしない・・こんな、過度に、勝つことだけを意識した規制サッカーじゃ、選手たちの能力(戦術イメージ)が発展するはずがない・・いや逆に、減退してしまう可能性の方が大きい・・鈴木啓太や、ジーコジャパンでデビューした三人が、代表チームで伸び伸びとプレーしているのもよく分かる・・」なんてことを思っていました。

 そんなだらしのないレッズでしたが、もうどうしようもないところまできたところで、ハンス・オフトが動きます。守備的ハーフの(ケガ上がりで、まだ100%ではない?!)内舘に代えて、田中達也を投入したのです。これで、エメルソン、永井、そして田中のスリートップ。昨シーズンもありましたよネ(ハンス・オフトが描く、数少ない成功イメージ?!)。

 ということで長谷部はやや下がって、鈴木と守備的ハーフコンビを組むというイメージ。もちろん両サイドの山田、平川も、より前へ重心を移していったことは言うまでもありません。数字で表すのは嫌いな湯浅ですが、ここでは分かりやすくするために(便宜的手段!)、ここからの彼らが「3-4-3」という基本的なポジショニングバランス(選手たちのタスクイメージ!)になったということだけは書いておきます。つまり、中盤の「4」が、山田、長谷部、鈴木、平川ということになります。

 あっと、長谷部ですが・・。内舘と田中が交代するまでの彼は(基本ポジションを下げるまでの彼は)、はじめから二列目スペースを「埋めて」しまうという稚拙なポジショニングに終始していました。「前線のフタ」になってしまっていたというわけです。だから後方からの押し上げもままならなかった・・?! もう何度も書きましたが、山瀬功治だったら、どんどんと下がってボールに触り、「そこ」にスペースを作り出すだけではなく、鈴木や内舘を前線へ「送り出して」いたことでしょう。タテのポジションチェンジの演出家、山瀬・・ってなわけですよ。もちろん、そんなタテのポジションチェンジを心理的に支えている基盤は、山瀬の高い守備意識(もちろん実際のディフェンスの上手さも含めて!)に対する信頼であることは言うまでもありません。

 さてスリートップになったレッズ。押し上げのエネルギーが明らかに倍増していきました。もちろんそれは、選手たちが、スリートップにするという「ハンス・オフトのメッセージ」を明確に意識したからに他なりません。そして、エメルソンのフリーキックが決まり、素晴らしい田中のドリブル突破からの永井のシュートが決まる・・。それは、本当にエキサイティングな逆転劇だったのですが、私は、ちょっと考え込んでいました。

 「たしかにトリニータ守備ブロックが心理的に押されて下がってしまったから(心理的な悪魔のサイクルに陥ってしまい、守備で足が止まってしまったから!)、レッズは、前へのエネルギーを何倍にも増幅させることができたし、相手を押し込みつづけることができた・・でも実際には、最前線に三人が張り付くようになっただけで、前後分断という攻めのイメージ傾向が大きく改善したというわけではない・・あんなに全員の前への心理エネルギーが充満していたのだから、攻撃の変化にチャレンジする(選手たちのイメージを発展させる)大チャンスだったのに・・やはり彼らが、本当の意味で(バランスのとれた)解放サッカーの方向へいくためには、ハンス・オフトの思い切りが必要だな・・」。

 この試合では、ハンス・オフトの「注意深い賭」が功を奏しました。それでも、「規制と解放のバランス」という視点では、まだまだ・・。要は、(ハンス・オフトの功績である)守備意識の高揚をベースに、今度は、より攻撃に変化をつけていくことにもチャレンジしなければ(もちろんそれはリスキー要素!)、選手たちは絶対に発展しない・・。

 とはいっても、山瀬功治が復帰したら、5月末のリーグ中断前のように、選手たちが主体になった「解放プロセス」が大きく進展するかもしれません。その「解放ムーブメント」がうまく回りさえすれば、いくら監督のイメージとは異なるサッカーでも、ベンチは文句を言えないというわけです。要は、後方からのサポートを活性化させることで、前後にも活発にボールをうごかすような組織的な仕掛けにもチャレンジできる創造的サッカーのことです。

 そのことで、組織的なパスプレーによってだけではなく、エメルソン&永井&田中といった「個の才能」も駆使して攻撃の変化を演出することができるでしょうし、その「個の突破力」を、より効果的に発揮させられるようになるに違いない(数的不利な状況でのゴリ押しのドリブル突破チャレンジではなく、できるかぎり一対一の勝負場面を演出!)。もちろん、選手たちのアクティブサッカーイメージが善循環をはじめれば、そんな人数をかけた活発な攻めを展開しながらも、次の守備でのバランスが、崩れ「過ぎる」ことはない・・。

 とにかく自分のなかで、これからのレッズの(発展?! それとも衰退?!)プロセスに対する興味が限りなく高揚していくのを感じます。それもまた、とことんサッカーを楽しむための「ストーリー」の一環というわけです。どちらに転ぶにせよですよ・・もちろん・・。

 (勝つための)チーム戦術的な「規制」。そして、(選手たちの創造性の発展と、サッカーの美しさを追求するための)戦術からの「解放」。その二つの要素の、ハイレベルなバランスという普遍的なテーマ。いま私は、そんなロジックベースを底流にしたストーリーを練っています。

-----------------

 ところで、いまは土曜日の深夜「2355」時。これから「TV埼玉」で放送される「レッズナビ」に出演するために(2540時スタート!)、その近くにあるファミリーレストラン「ロイヤル・ホスト」でこの原稿を仕上げました。

 ここに着いたのは、2200時ころだったでしょうか。このレストランは初めてだったのですが、既にそこには、多くのレッズファンの方々(ユニフォームや雰囲気で、明らかにそれと分かります!)が歓談していました。もちろん気持ちよい勝ち方でしたからネ。食事も美味しいし、会話も弾むでしょう。本当に埼玉の方々はサッカーを知っているし、その楽しみ方を知っている。そこには、まさにフットボールネーションの雰囲気がありました(それこそ、日常生活に深く浸透しているサッカー文化!)。耳に入ってくる内容にも本格感がありましたしネ。また、「湯浅さんですか?? あっそうか・・これからレッズナビですものネ・・」なんて声をかけていただいて・・。こちらのモティベーションも盛り上がろうというものです。レッズには、本当に素晴らしいファンの方々が付いている・・。そんなことを体感していた湯浅でした。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]