湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第3節(2003年4月13日、日曜日)

またまたグランパスの組織サッカー(イメージ)に対するシンパシーが高まりました・・グランパス対アントラーズ(1-0)

レビュー

 本当に、楢崎は日本のエースGKだね。

 確実なハイボールの処理・・それも、ギリギリのタイミングにも、味方を吹き飛ばしてでも絶対にボールに触る・・ゴールから飛び出したら絶対にボールに触るという強烈な意志を感じる・・飛び出しでのミスはゼロ・・もちろんセービングは確実そのもの・・そして一対一での飛び出しでも、タイミングの良さと勇気を感じる(平瀬のフリーシュートへの飛び出しは秀逸! それがあったから平瀬のシュートミスを誘発した!)・・等々。

 以前クリストフ・ダウムと、そのことでディスカッションしたことがあります(あっと・・ドイツサッカーについての彼との対談記事についてはナンバーWEBを参照してください)。クリストフは、「GKの能力を判断するとき、オレは危急状態での落ち着きを見ることにしているんだ・・」と言っていました。アグリーです。危急状態でも決してバタつくことなく、落ち着いて「勝負アクション」に入ることができる。自信をもった飛び出し。相手シュートの瞬間での、しっかりと地に足をつけて構え。そのベースは、もちろん体感ベースの「確信」なのです。

 楢崎のキーワードは、安定。このゲームでのプレーも素晴らしかったですよ、どうして楢崎から書きはじめたかって? それは、グランパス勝利に対する楢崎の貢献度がものすごく大きいと思ったからです。

 さてゲーム。「個」の単純加算としてのチーム総合力では、たしかにアントラーズに軍配が上がります。でも、内容自体は「ガップリ互角」・・というよりも、組織プレーという視点では、明らかにグランパスの方が優っていました。グランパスについては、第一節から3連続でレポートすることになったのですが、特に前半が素晴らしかったアントラーズとの試合を観ていて、エスパルスとの第一戦で魅せた「有機連鎖サッカー」を思い起こしていました。

 この試合では、エースのウェズレイが怪我で欠場。代役の原は頑張りましたが、やはり代役というイメージを超えることはできません。そのこともあって、そう簡単には決定機を作り出すことはできないグランパス。それでも彼らは、攻守にわたって組織プレーに徹する爽快なサッカーを展開してくれました。スリーバックの前に位置する四人。両サイドの酒井と滝澤。そして中央ゾーンの「ムラムラ・コンビ」、中村と吉村。彼らが、攻守にわたって素晴らしくダイナミックなプレーを展開したのです。

 やはりダイナミズム(迫力・活力・力強さ)のベースは、組織的な中盤ディフェンスにあります。グランパスは、この中盤の四人だけではなく、二列目の藤本や、前線のヴァスティッチ等も積極的に守備参加し、互いに協力してボールを奪い返すのですよ。それこそ、互いに「使い・使われる」というメカニズムに対する深い理解そのものです。そして攻撃に移ったときの、ボールがないところでの活発なサポートランニングをベースにした、素早く広いボールの動き。爽快です。たしかに最後のところでは、堅いアントラーズ守備ブロックを崩し切るところまでは簡単に行けませんが、それでも彼らの「互いの意図が有機的に連鎖するコンビネーションサッカー」は、観ていて楽しいことこの上ありません。

 特に「ムラムラ・コンビ」が良かった。忠実でクリエイティブなディフェンスは言うに及ばす、攻撃での彼らのタイミングの良い飛び出しにも目を奪われたものです。決勝ゴールも、中村の、三列目からの飛び出しによって生まれましたからね。

 前節のレッズ戦では、固められた守備ブロックを崩し切れませんでした(良さを抑制され徐々に足も止まり気味になってしまった・・)。それでもこの試合で彼らが展開した、イメージが高質にシンクロするシンプルプレーの積み重ねに、またまたシンパシーが高まったモノです。まあ、とはいっても、ヴァスティッチの、フィジカル面でのパフォーマンスダウンはちょっと心配ではありますが・・。

 全員が参加するダイナミックな守備をベースに、ボールのないところで動き、素早くシンプルに、そして広く(サイドチェンジ!)ボールを動かして攻め上がるサッカー。それは、ジェフ市原にも共通していると感じます。

 ジェフですが、昨日の神戸戦では、不運が重なったことで「0-3」という大敗を喫してしまいました。それでも内容では決して負けていませんでしたよ。いや、むしろ内容ではジェフの方が優っていたといっても過言ではない。彼らもまた、攻守にわたる組織的なダイナミックサッカーを標榜している。それを見ながら、感嘆すると同時に、オシム監督の「確かなウデ」を感じていました。

 とにかく、全員守備、全員攻撃というコンセプトを基盤に、理想型である「ポジションなしのサッカー」へ近づいていく彼らに注目しようと思っている湯浅なのです。

 「規制と解放」のハイレベルなバランス。オーソドックスには、規制ファクターを基盤に、状況を見計らって解放方向へ振っていく・・というアプローチなのですが、彼らを見ていると、攻守にわたる十分な運動量のみが最低のルールで、それ以外は、限りない(自分主体の)解放プレーによって、選手たち自身が、主体的に規制(戦術)ファクターを探しつづけている・・なんてことまで感じてしまいます。

 さて最後にアントラーズ。守備ブロックは相変わらず堅いのですが、どうも、攻撃でのボールの動きで見劣りしてしまって・・。中田浩二や小笠原が展開する力強いクリエイティブプレー、名良橋の機を見た爆発オーバーラップなどは、たしかに見応え十分ではあったのですが・・。

 アントラーズの場合は、「個のプレー(イメージ)」が偏重・・?! パスをするタイミングが遅れ気味だと感じるのです。だから周りの足も止まり気味になってしまう。もちろん、中盤で「個の能力」を活用したタメを演出し、そこから、空いたスペースへの後方からのフリーランニングに合わせるとか、最前線での決定的スペースへのフリーランニングに合わせる等、急激なテンポアップで崩していこうという仕掛けイメージは分かるのですが・・。

 もちろんエウレルがサイドで(1対1の状況で)ボールを持ったり、中田浩二が後方からドリブルで押し上げてきたり、はたまた名良橋がフリーでオーバーラップしてきたりなど、彼らの「イメージのツボ」にはまったときは、攻撃も抜群の破壊力をみせはするのですが・・。

 チーム総合力では、リーグのなかでも明らかにトップエンドなのですから、もっとハイレベルなサッカーを目指して欲しい・・。そう思っているのは私だけではないのでは・・。



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