湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第5節(2003年4月26日、土曜日)

 

セレッソとジェフのサッカーにシンパシーを感じます(共感します)・・セレッソ対レッズ(6-4)・・ジェフ対マリノス(3-1)

 

レビュー

 

 まずは、セレッソ対レッズ戦のショートインプレッションを・・。

 集約した印象は、セレッソが本当によくトレーニングされたチームだということ。西村監督に拍手です。たしかに守備ブロックは不安定な立ち上がりでしたが、最初の10分で3点もぶち込まれたことで、そのフォーメーション変更してからは(ハーフタイムインタビューでの西村監督の弁)、それも、ある程度は安定するようになりましたしね。

 西村監督のウデですが、それは、選手たちの、攻守にわたるプレー発想に如実に現れていました。立ち上がり10分を過ぎてからは、素早く戻る前線選手たちが積極的に参加する組織ディフェンスもうまく機能するようになったのですが、何といっても彼らが展開する魅力的な攻撃コンテンツが特筆モノでした。とにかく、よくボールが動く。

 相手を引きつけるような足許への鋭いパスばかりではなく、とにかくパス&ムーブがものすごく忠実なのです。だから、マンマークのレッズ選手たちを振り回してしまうような素早いボールの動きを演出できる。そして1対1の勝負を仕掛けられる状況へ持ち込み、大久保や徳重、はたまた久藤や西澤等が、強烈な意志をぶつけるようなドリブル勝負にチャレンジし(自信レベルが尋常じゃない・・これもトレーニングの賜?!)、多くのシーンで競り勝ってしまう。もちろん、素早いコンビネーションをベースにした仕掛けでは、森島に代表される二人目、三人目のボールがないところでの勝負の抜け出しも健在です。

 守備ブロックのフォーメーションを変更したことによって、両サイドバックの徳重と久藤の「戦術イメージ」をより自由に、そして攻撃的にした西村監督の機転は、本当に素晴らしい効果を発揮しました。スリーバックと、その前の守備的ハーフの二人(布部と廣長)は、基本的には「後方でのバランサー」として残り、その前の徳重、森島、久藤、大久保、そして西澤の五人が、本当にクルクルとポジションをチェンジしながら、シンプルにボールを動かしつづけるのです。

 レッズはマンマーク。忠実に付いていこうとはしますが、小さなエリアで、素早く、シンプルにボールを動かされるだけではなく、その後の「パス&ムーブ」の動きが忠実で素早いことから、うまくボールを奪い返せないばかりか、どんどんとマーカーが置き去りにされてしまう。ボールの動きが(ボールがないところの動きが)緩慢なチームの場合は、次のパスが読めるからマンマークもうまく機能するでしょうが、セレッソのように、どんどんとタテ方向の足許パスをつなぎ、そこから間髪を入れないダイレクトパスやワントラップパスをつながれ、忠実な「パス&ムーブ」をくり返されたら・・。

 とにかく、攻守にわたる戦術的な発想レベル(サッカーの基本的な発想に忠実で、それをしっかりと実践している!)という視点で、セレッソに対して大いなるシンパシーを感じます。全員守備・全員攻撃サッカーという発想・・規制と解放のバランス・・攻守にわたる選手たちの発想のレベルアップ作業・・等々。それについては、昨日アップした、チャンピオンズリーグに関するコラムも参照してください。

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 そしてもう一チーム。その戦術的な発想に対して同様にシンパシーを感じているジェフの試合を見るために市原まで遠征してきました。

 ジェフは、昨シーズンまでのベンゲローシュ氏、そして今シーズンのオシム氏など(もちろんベルデニック氏も・・)、ヨーロッパの現場レベルで高い評価を受けている監督を招聘してきました。現場レベルでの高い評価の背景は、戦績や、彼らが外部に対して発する戦術的な発想(ノウハウ)のコンテンツばかりではありません。ハイレベルな戦術的発想を選手たちに対し効果的に植え付けていく「ウデ」とか、優れたパーソナリティーとか、外部の人間には簡単には見えてこない部分での評価(内部評価の口コミ)も高いということです。

 その意味で、ジェフマネージメントが発揮してきた監督人選の「ウデ」も相当なものだと高く評価している湯浅なのです。

 もっと「走れば」いいサッカーをやることができる・・。そんな内容をこともなげに記者会見で話してしまうオシム監督。この試合の後でも、「走ったって負けることはあるけれど、走らずに負けるよりはまし・・」なんてネ。いいじゃありませんか。彼の自信と、プロコーチとしての「能力の深さ」を感じます。まあ、あれほどの実績を残した監督だから言える発言なわけですがネ。

 そういえば、かれこれ4年前のことになりますか、バンコクで行われた親善試合で、プレミアリーグの強豪アーセナルが、タイ代表に3-4で敗れたことがあります。そのゲーム後の記者会見で、アーセナル監督のベンゲル(元名古屋グランパス監督)が、こんなことを言ったとか。

 「こんなに点を取られたのはいつのことかって? 分からないな。ずいぶん昔のことだろう。ちょっと簡単に点を取られ過ぎた。タイ代表が自信を持つのはいいことだけれど、『おれたちは世界一。明日からはランニングしなくてもいい』なんて思わないでもらいたいね・・」(1999年5月25日付け読売新聞)。いや、これまた含蓄があるじゃないですか。サッカーは走るボールゲーム・・。だからクリエイティブな無駄走りが重要だと言われるです。クレバーなサッカーをやれば、あまり走らず、効率的にプレーできる・・なんて公言する輩は、先が見えている二流だということです。

 さて試合が始まりました・・(ジェフ対マリノスのことですよ!)。

 興味深いコンテンツが満載されたゲームでした。全体的な印象をまとめると、攻撃の変化を演出できず、常に相手守備ブロックにコントロールされてしまうマリノスが、ジェフの術中にはまった・・というものでした。

 この試合でのジェフは、豊富な運動量とシンプルなボールの動きのダイナミズムよりも、ステディー(着実)な方向性のゲーム戦術の方が目立っていました。もちろん運動量は例によって高いレベルにあるのですが、それよりも、マリノスの攻撃をまず抑えるというイメージでゲームを展開していたという印象なのです。

 ワントップの久保には斎藤がピタリと付き、二列目センターの奥には、もう一人のストッパー茶野がマンマークにつく。そして決定的スペースは、「スイーパー」のミリノビッチがピシャリとフタをしてしまう。もちろん最終ラインがうまく機能したのは、阿部勇樹と佐藤勇人で組む守備的ハーフコンビ、そして村井と坂本の両サイドバックが展開する中盤ディフェンスが素晴らしく機能したからに他なりません。もちろん羽生やサンドロも、柔軟に、そして積極的に守備に参加してくる!

 そしてボールを奪い返した瞬間にはじまる、シンプルなボールの動き(もちろんボールがないところでのダイナミックな動きがベース!)にサイドチェンジを織り交ぜたジェフ劇場・・ってわけです。

 前線の三人(チェ・ヨンス、サンドロ、羽生)のキープ力は十分。そこが機能するから、縦横のシンプルパスも機能するし、ある程度余裕を持ってサイドチェンジもイメージできる。そしてそれがあるからこそ、村井、坂本、はたまた佐藤という二列目、三列目の選手も、確信をもって最前線スペースへ押し上げていける・・。

 この試合でのベストシーンだったジェフの三点目は、まさに、そんなジェフ選手たちのイメージが見事に結実したというゴールでした。

 右サイドで、二人に囲まれながらもしっかりとボールをキープする羽生。その瞬間、右サイドハーフの坂本が爆発します。後方からペナルティーエリア右サイドスペースへ走り抜けたのです。そこへ、ピタリのタイミングの横パスが羽生から出る。そして例によっての、決定的な「トラバースパス」が、マリノスゴールを横切り、ファーサイドで待っていたチェ・ヨンスが、自身の三点目となる素晴らしいダイビングヘッドを決めたという次第。ほれほれさせられました。

 全体的にはマリノスが押しているという展開なのですが、まあそれも、オシム監督のイメージ通りだったということです。「中盤が大事・・中盤でどんどんと変わってくるところを(相手のポジションチェンジに合わせて?!)しっかりとマークすること・・」。ハーフタイムに、オシム監督がそう指示していたということですが、そのイメージが、選手全員にしっかりと行きわたっていたということです。

 とはいっても、ディフェンスを「より」強調されていたとしても、チャンスとなったときにはしっかりと前への勢いも加速させられる・・。それが、今のジェフの強さの背景にあるというわけです。局面での判断や決断にかかわる戦術イメージ的にだけではなく、どんな逆境においても、そのイメージをグラウンド上で実践していくというテーマにおいても、本当によくトレーニングされたチームだ。だからこそ、押され気味の展開でも(たぶんポゼッションではマリノスの方が上!)、実際のシュート数ではマリノスを上回ることができたのです。「今日は、アタマのいいサッカーができた・・」と、オシム監督。

 「確実に守備をやらなければならないが、それで攻めることを忘れてしまったら元も子もない。チャンスになったら、しっかりと押し上げられることも大事だし、そこでボールを奪われたら素早く戻らなければならない・・。それが良いサッカーだし、だからこそ走ることが大切なんだよ・・」。ゲーム後のインタビューでのオシム監督の弁でした。

 

 

 



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