湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第7節(2003年5月5日、月曜日)

大きな「変化(試合フローの逆流)」があったゲームでした・・アントラーズ対マリノス(1-3)

レビュー

 本当に「変化」に富んだ面白いゲームでした。何せ、前半から後半にかけて、ゲームのペースがガラッと「逆流」してしまったんですからね。

 その現象の背景には、もちろん中盤ディフェンスの内容がありました。

 前半の立ち上がりは、両チームともにペースを奪い合うという展開。ただマリノスは、攻め上がっている状況で二本の決定的カウンターを食らい、その二つ目が失点につながってしまう。その後はマリノスのプレーペースは下りっぱなしで、アントラーズにクルクルとボールを回され、何度もフリーになったトップ選手に良いパスを入れられてしまうという体たらく。一度などは、名良橋からの40メートルはあろうかというスーパースルーパスが決まり、抜け出した柳沢がフリーのシュートチャンスを迎えましたよ。そこでの柳沢の決定的フリーランニングのスタートタイミングの早かったこと。もちろんボールを持つ名良橋との「アイコンタクト」をベースにして・・。でもこの決定的シーンで柳沢は、スペースに入ってくる「だろう」エウレルをイメージして横パスを出してしまうのです。弱気なミスパスといわれても仕方ない・・。アントラーズがゲームを完璧に牛耳っているという試合展開だから、柳沢に心のスキ(イージーな心理)があったということですかね。

 このとき、「これは決めておかなければならなかったな。いつ何時ゲームペースが逆流するか分からないのだから・・」なんて思っていました。何といっても、チカラが拮抗している両チームですからネ、いつ、どんなキッカケからペースが逆流するか分からないということです。サッカーでは、どこか、たった一つの歯車が噛み合ににくくなった瞬間に、選手たちの心理的なダイナミズムが(特に中盤ディフェンスでのダイナミズムが)大きく減退してしまうものですから・・。

 このシーンでの柳沢は、ストライカーとしては決して許されないプレー姿勢でした。それ以外では、例によっての動き出しの早いフリーランニングや、キッチリとしたコントロールからの仕掛けパスなど、素晴らしいプレーを展開していたのに・・。はやく「本物のエゴイスト」になれ、柳沢!

 その後も完全に試合のペースを握りつづけるアントラーズ。それには、奥とドゥトラで構成するマリノス左サイドからの攻撃の起点を抑えられていたことも大きいでしょう。特にフェルナンドが、うまく奥を抑えていたのが効いていた。逆に、アントラーズがボールを奪い返し攻撃に入ったとき、マリノス中盤のディフェンスの甘いこと。それも、自分たちの攻撃がうまく機能しないことが原因の心理的なネガティブエフェクト(悪影響)ということでしょう。全体的に戻りが遅いし、ボールホルダーへのチェックも遅い。だからアントラーズが、余裕をもって組み立てから仕掛けへの「攻めの流れ」を構成できたというわけです。まさにアントラーズがやりたい放題。前半のり35分過ぎまではネ。それが・・。

 前半も押し詰まったあたりから、マリノスの中盤ディフェンスに勢いが戻ってきたのです。やはりペースを奪い返すためには中盤ディフェンスの活性化がキーポイントになるということです。コマンド(指揮権=味方への叱咤激励)を握ったのは誰だったのか・・。遠藤か、最終ラインの松田あたりでしょうか。「もっとしっかりと戻ってこい! もっと前からディフェンスしろ!!」ってな具合ですかね。松田のイライラは、観ている方にも明確に伝わってきていたから、コマンダーは松田だったのかも・・。

 それまでは、戻りはするけれど、ボールホルダーへのチェックや、ボールがないところでのマーキング(次のパス狙いマインド)等がいい加減だったマリノス中盤のディフェンスが、徐々に活性化したことでペースを掴みはじめるマリノス。

 そんな改善した中盤ディフェンスの勢いは、後半がはじまってからも大きく加速していきます。ハーフタイム更衣室の中で、どんな「刺激」があったのか。またそこには、マルキーニョスと交代した坂田大輔の、攻守にわたるダイナミックプレーもありました。明確に、後半のマリノスは覚醒した。佐藤、久保、坂田のスリートップ気味の前線ラインや、流動的に二列目の基本プレーエリアを大きく動きつづける奥、はたまた遠藤と那須の守備的ハーフコンビや両サイドバックが、攻守にわたってマリノスのゲームを活性化させていく。

 逆に、中盤ディフェンスの歯車が微妙に噛み合わなくなり(確信レベルの減退にともなって、選手個々のディフェンスでの活動レベルが落ちていったことで)、マリノスの攻め上がりエネルギーをうまく抑制できなくなってしまうアントラーズ。そして試合フローは、完全にマリノスへと逆流しはじめるのです。もちろんそれには、後半開始早々に飛び出した(ゲームの流れからすれば、まさに理想的なタイミングでブチ込んだ)久保竜彦の同点ゴールも、彼らのエネルギーを倍加させたのでしょうがネ・・。

 攻守にわたるイメージが有機的に連鎖しはじめた(選手たちが、そのことを確信できるようになった)マリノス。守備に入ったときの戻りのダイナミズムの高揚をベースに(前線の三人も、積極的、効果的に守備参加!)、チェックや、次のパスを狙うアクションが効果的にリンクする。もちろん、次の攻めでのスペースへの押し上げの勢い(パスの可能性)も倍加してくる。そしてマリノスが、勝ち越しゴール、追加ゴールと、次々と得点を重ねていったというわけです。

 さて、「J」での初ハットトリックを達成した久保竜彦。

 私だけではなく、彼の「ブレイク」を心待ちにしていた方々は多いに違いありません。昨年のワールドカップで、名波浩とともに彼が代表メンバーから落ちたことには、本当にガッカリされられていた湯浅だったのです。まあそのことについては、様々なメディアで書いたとおりです。

 まだまだチームメイトたちとのコンビネーションイメージ(そのシンクロレベル)に課題を抱えているとはいえ、シンプルで効果的なポストプレーや、この試合の前半で魅せたドリブル突破チャレンジ、はたまたレベルを超えたヘディング等々、徐々に、彼が秘める高い可能性を感じさせてくれるようになっています。

 久保については、この試合のビデオを見直すことで、その可能性を探ってレポートしようと思っています。彼には、それくらいの価値がある。とにかく久保竜彦の発展が楽しみで仕方ありません。

 早くアップしなければ、またまたサーバーが一杯になってしまう。ということで本日はこのあたりで・・。



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