湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第8節(2003年5月11日、日曜日)

パープルの積極サッカーは爽快だったけれど、やはりジュビロとの差は・・ジュビロ対パープルサンガ(5-0)

レビュー

 本当にパープルサンガは良くトレーニングされたチームだ・・。前半立ち上がり10分までに魅せつけられたジュビロの攻勢。それに対しても心理的な悪魔のサイクルに陥ることなく、逆にしっかりと押し返していくパープルサンガ。その攻防を観ていて、まずそんなことを思っていました。

 パープルが押し返せたベースは、もちろん、互いのプレーが有機的に連鎖する優れた中盤ディフェンス。石丸と斎藤の守備的ハーフコンビ、富田と鈴木の両サイド、そして中払と松井の上がり目ハーフ。その六人が、ダイナミックな中盤ディフェンスを魅せつづけるのです。全員が一致団結したアクティブディフェンスだけが、押された状況を逆転させるための心理的なパワーを増幅させられる・・。そんな普遍的コンセプトを思い出していました。全員の積極ディフェンスが機能すれば、相手の攻撃をコントロールできる(相手の攻撃に振り回されないことで、相手の次の仕掛けが『見えてくる』!)。それが選手たちの自信レベルを深め、攻守にわたる(ボール絡み&ボールがないところでの)局面プレーの「質」を高揚させるというわけです。

 また、ゲームの流れが変容したことには、押し込んだ状況でゴールを割ることができず、逆に何度かカウンター気味の素早い攻めを仕掛けられたジュビロが、「ちょっと落ち着こう・・」と、押し上げエネルギー(心理エネルギー)を制御しはじめたという背景もありそうです。

 とはいっても、決定的チャンスを作り出すところまでいけないパープルサンガ。どうしても、ボールがないところでのアクションを有効に活かし切れないのです。それは、動きが、ミエミエで「単発」だから。ボールは、ある程度はしっかりと動くのですが、組み立て段階と仕掛け段階のメリハリがついていないことで(仕掛けイメージをうまくシンクロさせられないことで)、最終勝負に絡むべき周りの選手たちのアクションスタートが遅くなる(またボールがないところでの勝負の動きをスタートする選手の人数も不足気味!)。

 そんな互角の展開のなか、ジュビロが先制点を挙げてしまう。名波のフリーキックを、上がってきた田中が豪快なヘディングで決めたゴール。まあこれは仕方ない。何せ、名波のピンポイントキックと、後方から走り込んで全力ジャンプした田中のヘッドがピタリと合ったのですからネ。あの場面では、マークする選手がいくら身体を「付けて」いても勢いに押されてしまうでしょう。目の覚めるようなヘディングゴールでした。

 そして前半ロスタイムでの追加ゴール。このシーンでは、ペナルティーエリア内の左サイドで抜け出したグラウへの角田のアタックが軽率でした。先にボールに触れたのだから、とにかくスライディングで蹴り出しておかなければならなかった。でも角田は、ボールをコントロールしようとしたために、グラウに身体を「入れられ」てはじき飛ばされ、置き去りにされてしまうのです。まあ、その時点で勝負あり。

 そしてゴールライン際を持ち込むグラウをチェックにきたパープル選手(名波のマークに入っていた選手)の鼻先で、フリーになった名波へラストパスを通したという次第。もちろん、名波がフリーになった瞬間に、他のパープル選手(たぶん富田)がマークへ急行したのですが、時すでに遅し。名波のコンパクトスイングでシュートされたボールは、見事に、パープルゴール右サイドネットに吸いこまれていきました。

---------------

 そして後半は、もう完全にジュビロのペースになっていきます。

 たしかに、攻守にわたる積極プレー(自分主体で仕事を探す姿勢)という視点では、本当によくトレーニングされているパープルサンガ。彼らに対するシンパシー(共感)は、まったく衰えていません。それでも、同じ「方向性」の発想をベースにプレーするジュビロの方が、全ての面で、やはり一枚上手だったということです。

 「個のチカラ」でジュビロが少し上回っているのは周知の事実。それだけではなく、戦術的なプレー発想、その実行内容、そして組み立てプロセスと仕掛けプロセスの「メリハリ」等々、実践面(現象面)でのコンテンツにも僅差がある・・それが積み重なって目に見える差になっていく・・。

 「やっと自分たちのイメージ通りにゲームをコントロールできるようになってきた・・」。シーズン立ち上がりにちょっともたついていたジュビロが調子を取り戻してきた頃、名波がそんなことを言っていました。ゲームコントロール・・?! フムフム。

 ジュビロが展開する活発なボールの動きには、それぞれの「段階」で、微妙に違うニュアンスが織り込まれていると感じます。その「ニュアンス」を、選手たち全員が確実にシェアしているということでしょうかネ。

 組み立て段階での活発なパス回し。足許でもいいから、とにかく素早く、広くボールを動かす。その目標イメージは、相手守備ブロックの足を止まり気味にしてしまい(ボールがないところでのマークを甘くする!)、より効率的に「起点」を作り出すということですかネ。もちろんその段階でもボールがないところでの動きは活発だし、動いた選手へはしっかりとパスが付けられるのですが、あくまでも「準備段階」・・ということです。

 そして起点(ある程度フリーでボールを持つ選手)ができたときや、勝負ゾーンでの味方のボール無しアクションがスタートしたとき、はたまた前線へのロングボールが上手くキープできたときなどに、素早く「仕掛けプロセス」へ入っていくのです。もちろん、パス&ムーブで前線スペースへ押し上げた味方へのリターンパスが通った状況も、仕掛けのキッカケ(イメージ的なスタートサイン)になります。

 仕掛けに入ったときのジュビロは、誰にも止められない勢いがあります。もちろん、その勢いの源泉は、ボールがないところでの動きと素早いパス。そんな、高質な「ボールと選手の動きのユニット(コンビネーション)」が連鎖的にリンクし、相手守備ブロックのウラで完結する。ツボにはまったときには、本当に目を奪われてしまいます。

 ジュビロが展開する見事な組織プレーを見ていて、その「メリハリ」の素晴らしさに感嘆しきりの湯浅でした。それこそが、名波の言う「ゲームコントロール」のこと?! まあイメージ的には、そういうことでしょう。だからこそ、組み立てプロセスでボールが動いている最中に、周りも次の仕掛けスタートに対する感覚を研ぎ澄ませるし、より多くの選手が(ボールがないところで)仕掛けに絡んでいけるというわけです。

 基本ポジションにこだわらず、(チャンスがあるものは)誰でも仕掛けに絡んでいく。それでも次の守備でのバランスが崩れることは希。だからこそ私は、ジュビロが、高い守備意識をベースにした「ポジションなしのサッカー」という理想型へ向かっていると表現するのです。福西が、最前線のグラウを「壁」に使ったパス&ムーブで、彼を追い越して最前線へ押し上げていく・・もちろんその状況で相手にボールを奪い返されたら、そのままグラウが中盤ディフェンスに就く・・。ジュビロのサッカーでは、クリエイティブなタテのポジションチェンジが目白押しなんですよ。選手たち全員が、そんなプレーイメージをシェアしていると感じます。まあ、大したものだ。

 後半のパープルは、明らかにボールの動きに振り回されるようになっていきました。「無理なアタック」を素早いコンビネーションでかわされて置き去りにされたり、パス&ムーブについて行かずにフリーにしてましったりと、ボールがないところで動くジュビロ選手に対するマークが甘い、甘い。それが「次の破綻」につながってしまう。

 逆に、ジュビロ選手たちのボールがないところでのマークの忠実なこと(ポジショニングバランスを基本に、柔軟なバランスブレイクからの確実なマークの受けわたし・・)。

--------------

 この試合でのジュビロは、中盤のダイナモ、藤田が出場停止でした。それでも「あの」パフォーマンスですからね。極端にいえば、最終ラインの三人を除いた七人全員が、常に基本ポジション破り(基本的な役割を超えた仕事)をイメージしている・・。

 彼らの「伝統の深さ」を感じるじゃありませんか。選手たちの脳裏の奥深くまで浸透している共通プレーイメージ(戦術的発想≒ボールの展開イメージ・・パスリズム・・前述の「メリハリ感覚」・・等々)。強いはずだ。



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]