湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


第9節(2003年5月17日、土曜日)

個の総体ではトップではないけれど、そのプレー発想と実効あるプレー姿勢に共感します(それにツキにも恵まれて勝ったしネ)・・アントラーズ対ジェフ(0-2)

レビュー

 やっぱり見やすいですね、カシマスタジアムは。本格感のあるサッカー専用競技場。スタンドの「傾斜角度」も最適。選手たちの「動き」が一目瞭然です。そんなスタジアムでの、アントラーズと、いま大注目の「走る」ジェフ・ユナイテッドの対戦ですからね。おのずと観戦モティベーションが高まるというものです。さて・・。

 膠着した状態がつづいていた前半21分。両チームを通してはじめての決定機が訪れます。アントラーズのフェルナンド。まず柳沢が、素早いカウンターから、右に流れてボールを受ける。そのとき私は、中央ゾーンをまったくフリーで上がっていくフェルナンドに目をやっていました。「コイツにパスが出たら、アントラーズの先制ゴールはより確実なものになるな・・でも柳沢だって勝負できる状態だ・・いや、ヤナギは勝負すべきだ!!」。でも「やはり」そこは柳沢でした。自らシュートへ入っていける状況でも、結局は「より可能性が高い味方」へ、スマートなラストパスを回す・・。タイミングといい、強さといい、コースといい、素晴らしいラストパスでしたよ。でもストライカーとしての姿勢としては?!

 私は、フェルナンドへラストパスを送る「フリ」をして、自分で持ち込んでシュートまでいって欲しかった・・。まあ、そこは議論が分かれるところなのですが、「特に」柳沢の場合は、ストライカーとして「イメージ的にブレイク」するため、もっともっとエゴイズム(ポジティブな自分勝手さ・・自己主張)を前面に押し出さなければならないと思っている湯浅なモノで・・。もちろん、前線での仕掛けの起点(パスレシーバー)になるためのフリーランニングや勝負のフリーランニング、「周りのを活かす」仕掛けのダイレクトパスなど、例によって、ハイレベルな発想を基盤にした実効ある組織プレーは展開していました。だからこそ、なおさら、少しでもチャンスがあれば「ソロ勝負」にもチャレンジしていかなければならない・・。

 あっと・・。「スマート」な柳沢が演出した決定的シュート場面ですが、まったくフリーで放ったフェルナンドのダイレクトシュートは、ベストタイミングで飛び出したジェフGK櫛野の伸ばして手に弾かれてしまって・・。

 その後も、小笠原のヘディングシュートや、クロスからの惜しい飛び込みなど、チーム総合力では確実に上回るアントラーズがチャンスを作りつづけます。まあ、試合の流れ(全体的なゲーム支配の内容など、様々な意味が包含されています)を確実にコントロールしているアントラーズですから、順当なゲーム内容です。

 そんなアントラーズに対し、ジェフは、最終勝負を仕掛けるシーンを演出できない。決して下がり過ぎているわけではありませんし、受け身に守っているだけでもありません。ただボールを奪い返してからの「押し上げ」が不十分だから、どうしてもチャンスを作り出すところまでいけないのです。まあジェフには、「個の能力」で打開していけるような才能ある攻撃プレーヤーはいませんからね。だから、村井、坂本、佐藤といったミッドフィールダーが展開するタイミングのよい攻撃参加(攻撃サポート)を主体としたタテのポジションチェンジ(シンプルな組織パスプレー)だけが、チェ・ヨンスとサンドロを中心にしたジェフの攻めに、危険な「変化」を与えられるということです。まあ、アウェーで強いアントラーズと戦うということで、選手たちの意識がより守備に傾倒し、ジェフ攻撃の生命線である後方からの押し上げに十分なパワーを乗せられなかったということです。

 そんな「ゲームの流れ」ですからね、ジェフが挙げたラッキーな先制ゴールと、その1分後の追加ゴールは、まさに「唐突」でしたよ。オウンゴールだった先制ゴールについてはノーコメントですが、二点目は見事に「はまった」ゴールでした。右サイドを駆け上がり、オーバーラップした佐藤のパスを受けたサンドロからのクロスが、うまくアントラーズディフェンダーの頭を越え、ピタリとチェ・ヨンスの足に合ったのです(それは、それは見事なボレーシュートでした!)。もちろんこれも、アタマ越えされたアントラーズ選手の目測ミスだったとするのが妥当なのでしょうが・・。

 これでジェフの「2-0」。とにかく我慢しつづけたジェフが、ワンチャンスを見事にモノにしたという前半でした。

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 さて後半。ここで、ジェフ躍進のキーポイントが明確に見えてきたと思っていた湯浅です。

 ホームで戦う「ソリッドな強さをみせる」アントラーズが2点をリードされている・・。後半の彼らが、ガンガンとジェフを押し込んでくるのは当然の成り行きです。だからこそ私は、ジェフの守備内容に目を凝らしていたのです。そして思っていました。「ヤツらには、自分たちがやっているディフェンスに対する自信と確信がある・・だからこそ、チャンスがある者は誰でも攻撃へ押し上げ、オレが決定的な仕事をしてやるという強い意志をもって最終勝負シーンまで絡んでいける・・」。その自信と確信のバックボーンが、仲間の守備意識に対する相互信頼であることは言うまでもありません。

 中盤選手たちの、忠実でクリエイティブな守備意識(≒相手にボールを奪い返された後の積極的な守備プレー!)。もちろん豊富な運動量が、全てのベースです。

 前述したように、ジェフは、受け身で消極的に守っていたわけではありません。たしかに、柳沢には茶野、エウレルには斎藤、小笠原には阿部勇樹と、基本的なマーキングイメージはあったのでしょうが、そこは流動的なサッカーですからね、柔軟にマークを受けわたすのです。そしてアントラーズが勝負の仕掛けに入ったら、一度決まったマークを、確実に最後までやり遂げる。別な表現をすれば、(必死に戻ることで)基本的なポジショニングバランスを組織し、相手の仕掛けに合わせて臨機応変に「マンマーク」へ移行するだけではなく(そのタイミングは早い!)、その相手に対して最後の最後まで責任を持つ。もっと言えば、ディフェンスでの彼らは、危険な動きをする相手を自らの判断で探し、最後までマークしつづける等、自分自身で仕事を探しつづけているとも言えます。早めに「人」を探し、そして最後の最後まで絶対に離さない! そのことに対する全員に共通する明確な意識。それこそが、本当の意味での「守備意識」だというわけです。

 そんなディフェンスの「発想ベース」があるからこそ、両サイド(坂本と村井)や両守備的ハーフ(阿部勇樹と佐藤勇人)が押し上げていっても(前線プレーヤーを追い越していっても)次の守備でのバランスが崩れにくい。次の守備に対する互いの信頼こそがキーポイント・・なのです。

 佐藤勇人が最前線まで押し上げていく・・ただ途中でボールを奪い返されてしまう・・そこで佐藤の代わりに全力で戻って中盤守備に就いたのが羽生・・もちろん、押し上げた選手たちも必死で戻り、前からのディフェンスに実効あるカタチで参加していく・・等々。

 対するアントラーズですが。決してゲーム内容が悪かったわけではありません。ジェフの忠実ディフェンスに苦労しながらも、前述した前半のチャンスだけではなく、後半には、決定的フリーランニングとラストスルーパスがシンクロして柳沢が抜け出したり(うまく身体を寄せられてシュートがヒットせず!)、ファーポストゾーンにポジショニングする小笠原へラストクロスが通ったり(僅かに外れてサイドネットを叩く!)とか、パスとフリーランニングの高質なシンクロから、何度かは決定的シーンを作り出しましたよ。また守備も、例によって安定していましたからネ。だから、試合結果だけを見て「何らかの」ネガティブ要素を見つけだそうという姿勢の論評は間違いです。もちろん、個人戦術的、グループ戦術的、チーム戦術的な課題はありますよ。でもそれは、この試合に限ったことではありませんから・・。課題を体感するための良い刺激・・という風に捉えましょう。まあ、こんな日もあるさ・・。

 たしかに何度かアントラーズに決定的チャンスを作り出されました。それでも、最後の最後まで、消極的に守るというネガティブマインドに落ち込むことなく、積極的なディフェンスを展開したジェフ。アントラーズが攻め上がったこともあったのですが、後半には、カウンターだけではなく、例によっての素早く、広いボールの動き(もちろんボールがないところでの積極的な動きとのコンビネーション!)をベースにした組み立てからも何本か決定的なカタチを作り出しましたよ。

 選手個々のチカラの単純総計では、明らかにトップクラスにはないジェフ市原。それでも、彼らのプレー姿勢(プレーの発想≒チーム戦術)は一流。オシム監督の素晴らしいパーソナリティーも含め、そんなジェフに共感している湯浅です。



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