湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第10節(2003年10月18日、土曜日)

 

コンテンツ満載のエキサイティングマッチになりました・・またレッズにも発展の兆しが感じられて・・FC東京対浦和レッズ(1-1)

 

レビュー
 
 本当に楽しみにしていた試合です。ナビスコの準決勝は見られませんでしたからね。その試合も含む、レッズ攻撃の爆発シーン(大勝したゲーム)を見てみたかったのですよ。もちろん、その現象の裏側にあるファクターも含めてネ・・。

 さてゲームがはじまりました。拮抗した展開です。両チームともに守備がしっかりとしていることは衆目の認めるところですからね。まあ、FC東京が展開するディフェンスの方が、クリエイティビティー(創造性)という意味では、レベルは少し上かな・・。何といっても彼らは、スリーラインをタテに縮めるなど(コンパクト)、ボール周りゾーンの囲い込み(相手の組み立ての追い込み!)がうまいですからね。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)への忠実なチェイス&チェック・・そこを「ディフェンス起点」として、次、その次と、うまく連鎖するクリエイティブな組織ディフェンスっちゅうわけです。

 それに対してレッズの守備は、例によってマンオリエンテッド・・。言葉を換えれば、レッズ選手たちの場合、守備のチーム戦術(基本的なディフェンスのやり方)に忠実だと言えるでしょう。それに対してFC東京は、互いの「イメージ連鎖」のために(組織ディフェンスの優れた機能性を維持するために)、選手個々が考えつづけるという姿勢に対して忠実だ・・なんて言えるのかもネ。

 それでも、ファーストステージでは失点数(11失点)でダントツのトップだったFC東京も、ここにきて少し「前へ重心移動」しているみたいで、セカンドステージでは失点が増えてはいます(この試合が終了した時点で既に14失点!)。もちろんゴール数も大きく伸びています(ファーストでは、総合で14点・・セカンドでは、ここまでで既に20ゴール!!)。攻撃と守備のバランス感覚・・?! これもまた興味深いテーマです。もちろんサッカーの場合は、ほとんど全てのディスカッションが「バランス」という言葉に収斂されていくわけですがネ・・。

 そんな守備(やり方は違うけれど、実効レベルは互角!)ですが、攻撃では、確実にレッズの方が危険度で上回ります。何せ彼らは、「これでやる!」ということで全員の仕掛けイメージが統一されていますからね。総体的なサッカーの質という視点では問題ありなのですが、どんな攻め方でも、徹底すれば効果レベルは上がる・・。徹底度を高いレベルに維持すれば、より効果的に、シュートを打つという攻撃の目的へ近づけるという見方もできるというわけです。

 シュートシーンの演出が、より高い確率(実効性)で回りはじめているレッズ。主な演出ツールは、言わずと知れた「個のドリブル勝負」。まあ、それしかないとも言えるわけですがネ・・。とはいっても、周りの味方がボールホルダーの意図を明確にイメージできていますから、ドリブル勝負が詰まったときの逃げパスのレシーブポジションに入ったり、そこからコンビネーションにチャレンジしていけるようなパスレシーブポジションに付くなど、周りのチームメイトたちが、確実にそれなりのサポートアクションに入っていけるというわけです。

 さて、「これでやる!」の象徴であるエメルソンと田中。本当に凄いね。あれだけのドリブル力&シュート力があれば、(いつも書いているように・・)やっぱり活かさない手はありません。もちろん、周りの「それを活かす意識」の向上に伴って、シュートへ向かう最終勝負の実効レベルが高揚していくのも道理というわけです。

 特に、田中達也が完全にブレイクスルーを果たしたことが大きい。これまでは、守備イメージのメインターゲットとして、エメルソンのドリブル突破の比重が大きかったわけですが(それさえ抑えていれば?!)、ここにきて、田中達也という、守備ブロックの意識の集中を分散させてしまう存在が出てきたというわけです。

 それが、レッズ躍進の大きな要素だとすることに異議を唱える方は少ないに違いない・・。もちろん「山瀬効果」もあるし、長谷部の発展もあるし、ニキフォロフとゼリッチのディフェンスコンビがうまく機能しはじめたこともありますがネ・・。

 そんなことを考えていた前半40分、まさにレッズのツボが炸裂しましたよ。エメルソンが、一度タメてから、爆発的なドリブル突破を魅せたのです。それにしても凄かった。相手は、日本代表の茂庭ですよ。その彼が、完璧に置き去りにされてしまったのです。ちょっと左にフェイク動作を入れ、次の瞬間には、ボールを浮かして(茂庭の足を越え)右のスペースへ爆発カットして抜け出してしまう!! そして、まさにキャノン(大砲)と呼ぶにふさわしい弾丸シュートを決めたという次第。

 「そんなシーン」を見せつけられたら、レッズ選手たちの徹底度がアップするのも当たり前・・?! まあそういうことでしょう。

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 さて試合ですが、後半の2分にFC東京が同点に追いつきます。

 たしかに、攻撃の実質的な危険度ではレッズの方が少しは上だとは思いますが、時間を経るにしたがってFC東京の攻めにも「勢い」が乗るようになっていきました。私は、この同点ゴールが(CKからの得点とはいえ)そんな勢いの増幅が報われたものだとするのに躊躇しません。

 ここで言う「FC東京の攻めの勢いの増幅」の意味ですが、それは、ボールがないとろでのサポート内容の向上に他なりません。それが出てきたからこそ、FC東京の組織的なサイド攻撃が効果的に機能するようになったというわけです。何せそれまでは、サイドでの、詰まったカタチでのドリブル突破チャレンジとか、本当に単発の仕掛けアクションをくり返すばかりだったのですからネ。それが、前半も押し詰まった時間帯に入ってからは、中盤ディフェンスの機能性が向上するとともに(=中盤守備の機能性向上によって試合の流れに対する自信レベルも増幅した=やはり守備が全てのスタートライン!)、人数をうまくかけた組織的な攻撃が見られるようになったというわけです。

 もちろんその後は、両チームともに一歩も引かないエキサイティングな展開になっていきます。それを観ながら、この試合は面白くなると思っていたんだ・・なんて悦に入っていた湯浅でした。

 そんなエキサイティングな展開のなかでまず感じたのは、レッズの攻めの内容が好転しているということです。ドリブル突破チャレンジが主体の最終勝負という傾向は変わらないものの、そのなかに、鈴木や長谷部の効果的オーバーラップが見られるなど、ダイナミックな前後の(タテの)ポジションチェンジが出てきたのですよ。「それ」を演出していたメインパーソンは山瀬かな・・?! とにかく何度も、「オレが後ろをカバーしているから、前へ突っかけて行け!」と、彼らを前線へ送り出すシーンを目撃しました。

 また右サイドでは、山田も、うまく鈴木を最前線へ送り出していましたし、左サイドでも平川が、長谷部との「あうんの呼吸」を高めていました。それこそ、本物の攻めのダイナミズム。それが感じられはじめてからは、田中にしてもエメルソンにしても、より強くコンビネーションでの最終勝負を意識しはじめたと感じました。要は、レッズの攻めに「本物の変化」が出てくる雰囲気が目に見えるようになってきたということです。

 山瀬効果・・?! まあ、次のレイソル戦をしっかりと観察することにしましょう。もしベンチが描く戦術イメージが「その現象」にシンクロしていたならば、(今のレッズの調子だったら!)確実に「それ」を発展させ、攻撃の変化を増幅させられるに違いありません。それに、もしハンス・オフトが「最初から」そんな発展プロセスを意図していたならば・・という観察視点もありますしネ。

 とはいっても、組織パスプレーで相手守備ブロックのウラを突くという発想が連続するというところまではいかなかった。それもあるから次節のレイソル戦が楽しみなのです。良くなっている今だからこそ、チームとしてブレイクするチャンス(そのキッカケを確実につかむチャンス!)。個の勝負ばかりでは限界はミエミエですからネ。

 



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