湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第11節(2003年10月25日、土曜日)

 

後半はエキサイティングな展開に・・ジェフ対ジュビロ(1-1)・・でもまずCLの雑感から・・

 

レビュー
 
 どうも皆さん、一週間のご無沙汰になってしまいました。ビジネスと他メディアの執筆に忙殺されていたという次第。もちろんチャンピオンズリーグも観戦してはいるのですが、その内容を文章に落とす時間がうまく取れなかったというわけです。

 今週の第3節で目立ったところは、アーセナルの危機(アウェーで、ディナモに2-1の敗戦)、好調を維持する・・というか、チャンピオンズリーグでも試合を重ねるごとに明らかな発展を遂げているシュツットガルト、グラスゴー・レインジャーズ対マンチェスター・ユナイテッドが繰りひろげた(まさに代理戦争の様相?!)エキサイティングマッチ・・ってなところですかネ。

 特に、シュツットガルトが特筆ですよ。彼らの場合、選手の質と量で明確な限界がありますから、他チームのように「ターンオーバー(ローテーション)システム」を回せない。彼らは、ブンデスリーガでもチャンピオンズリーグでも、ほぼ同じベストメンバーで戦いつづけるしかないのです。もちろん彼らも自分たちの限界をよく知っている・・それでも行けるところまで行くぞという意気込みが、彼らの実戦を通した発展を支えている・・ということです。それって、心情的にも応援したくなるじゃありませんか(もちろん私の場合は、ドイツ・・ということもありまけれど・・)。とにかく、チーム戦術を徹底しながらも、ドイツ的な積極リスクチャレンジ姿勢もしっかりと前面に押し出す彼らのクレバーサッカーに対し、「ドイツ要素」を除いて(!)強いシンパシーを感じている湯浅なのです。

 あっ!と・・、もう一つ大事なチームを忘れるところだった。レアル・マドリー。いまの彼らで注目すべきは、もちろん守備的ハーフコンビです。今節のCL、パルティザン・ベオグラード戦でデイヴィッド・ベッカムとコンビを組んだのはエルゲラでした。まあ全体的には、そこそこの出来だとすることができそうですが、まあ評価は先送りということにしましょう。

 守備的ハーフにとって重要なディフェンスポイントですが、それは、最終ラインと守備的ハーフの中間スペースに対するケアーです。たしかに「そこ」を使われるというシーンは、一試合に数回あるかないか・・。でも一度そこを活用された(そこにフリーで入り込まれボールを持たれたら!)、確実に決定的ピンチにつながってしまうのです。例えば先々週のリーガ・エスパニョーラ、対エスパニョール戦のようにネ(2-0で勝ったけれど、特に前半では、ベッカム&グティーの守備的ハーフコンビが守備で機能しないシーンのオンパレードで、その穴を突かれて何度も決定的ピンチを迎えていた!)。

 でもこの試合でのパルティザンは、レアル守備ブロックの弱点にチャレンジしていくことすら叶わないなど、その「中間スペース」を活用し切れていなかったということで、レアルの守備的ハーフが機能不全に陥るシーンはほとんどありませんでした。結局1-0という最小ゴールで勝利をおさめたレアルでしたが、内容では、まさに圧倒。何度、パルティザン守備ブロックを完全に振り回すなど、完璧なチャンスを作り出したことか・・。まさに鳥肌が立つようなファンタジーを見せつけられてしまいました。

 チャンピオンズリーグについては、また別の機会にしっかりとレポートすることにして、ここは「J」に集中しなければ・・。さて20日ぶりのジェフ観戦。今日の相手は、まだまだサッカー内容ではトップレベルのジュビロです。ファーストステージでは、欧州出張で観られなかった対戦カードですからネ、試合前から楽しみで仕方なかった湯浅だったのです。さて・・。

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 「見たかい? ジヴコヴィッチが左サイドから右サイドまで行っちまったぜ・・」。隣に座るジャーナリスト仲間にそんな声をかけていました。もちろんジヴコヴィッチは、逆サイドの大外から回り込んで決定的スペースでパスを受けるというイメージだったのでしょう。自分のオリジナルポジションである左サイドバックの位置を離れながら、チラッと、そこを振り返りました。わたしは、その視線を見逃さなかったのですが、そのスペースは、しっかりと服部がカバーしていたというわけです。そのとき、そんな「小さな出来事」にもジュビロの強さのシークレットポイントがあると思っていた湯浅なのです。

 さて試合ですが、最初の時間帯押し込まれていたホームのジェフが、時間の経過とともに徐々にペースを盛り返していきます。私は、どんな立ち上がりの展開でも、10分間はニュートラルに観察することにしています。その後に一度ゲームの流れが「落ち着く」というのが常だからです。そして本当の実力ベースのゲーム展開になる・・。

 立ち上がりは、ゲーム戦術プランのイメージが先行したり(選手たちがアップテンポのアクションに駆り立てられたり)、逆に選手たちの集中状態が散漫でまったく高揚しないというケースも多いですからネ。もちろん、戦術プランとして、立ち上がり時間帯における仕掛けモティベーションレベルが高い方のチームは、最初からガンガンと飛ばしてゲームを牛耳るでしょうし、逆のチームは受け身にまわるというわけです。それでも、時間の経過とともに一度ゲームがおちつき、そこから本物の勝負がはじまる・・ってな具合なのです。

 このゲームもまさにそういった展開になりました。優勝戦線にとどまるために、何としても勝ち点「3」をゲットしたいジュビロが、立ち上がりからゲームを支配したのです。でも結局その勢いは、前半7-8分まで。そしてゲームが拮抗状態に陥ったというわけです。ポゼッションも、仕掛けの内容も、ほぼ互角。まあ強いて言えば、スペースを活用するというアイデアのレベルではジュビロの方が少し上かな・・といったところでした。

 うまいスペースの使い方とは、言うまでもなく、ボールホルダーと、ボールがないところでの味方のアクションが「有機的に連鎖した状態」のことです。複数の選手たちが脳裏に描くコンビネーションイメージがグラウンド上に投影され、それが有機的に連鎖する・・。ジュビロの攻めでは、「あっ、ウラを取った・・」とハッと息を呑むシーンが明らかにジェフよりも多いのですよ。ただそこにボールが送られてくる確率は以前よりも劣る・・。私は、藤田の不在と、低迷する「中盤の底」という事実を見ていました。

 ジュビロ中盤の「低い方」は、右から、西、福西、服部、ジヴコヴィッチ。逆に高い方は、ワントップ気味に張るグラウは抜き、名波と前田のコンビになります(もちろん前田は名波よりも高い位置だから、縦方向のコンビとも言える)。

 そのうち、特に「中盤の低い方」のコンビネーションが今ひとつなのです。また、そこからのパスの質にも問題がある。そこからの「タテパスの質」が良くないから、「次の展開」でスペースパスが飛ばないし、「中盤の低い方」から直接送り込まれるスペースパスも精度がいまひとつ。そんな、ちょっと消化不良のプレーを見ながら、藤田の不在がことのほかネガティブに作用していると感じていた湯浅だったのです。

 藤田がいれば、彼の上下の動きに合わせて名波も移動しますから(この両人が、タテに交互に入れ替わる!)、この二人が、ゲームメイクとチャンスメイクの「起点」に交互に入ることができたと思うのです。もちろんそれは「イメージ的なハナシ」であり、実際には、そうでないシーンも多々あったでしょう。でもこの二人が揃っていたときは、中盤の「下の方」の選手たちのパスも、もっとうまくつながっていたと思うのです。要は、パスの有効性が、出す方と受ける方にかかわる様々な要素によって決まってくるということであり、ここでは、藤田の不在という「現象」が殊の外目立っていたと感じられたわけです。

 また、フリーランニングの「鬼」である(藤田と)中山ゴンの不在も目立つ。要は「スペースメイカー」がいないということです。あれ程ダイナミックなフリーランニングをつづける二人でしたからネ。それがボールの動きと、他の選手たちの動きを活性化していたのは確かな事実だったのです。この試合で先発した前田にしてもグラウにしても、パスを呼び込むフリーランニングに勢いが乗らないから、相手ディフェンスを揺動することでスペースを作り出すことがうまくいかないし、周りの味方も以前のようにうまくスペースを使えない・・だからボールがスムーズに動かない・・。まあ、そんな悪循環が見えていました。

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 それでも後半は、両チームともに良くなり、ゲームが活発なものに変容していきました。まあ、だからこそ、ジュビロの実力がジェフを凌いでいることが、より明らかになったということですがネ・・。

 「ジュビロは、リーグのなかでは唯一、8人で攻めて10人で守れるチーム・・リーグのなかでは、もっともモダンなサッカーをやっているチーム・・彼らは、攻撃でも守備でも、常に数的に有利な状況を作り出してしまう・・」。試合後の記者会見で、ジェフのイビチャ・オシム監督が、そんな風にジュビロのことを称えていましたよ。もちろんその後には、「我々がミッドフィールドで数的に不利になったのは、我々のチームに前線から効果的なディフェンスができる選手がいないから(前線の選手たちがしっかりと守備にもどってこないから?!)・・だから中盤が疲弊してしまった・・我々もジュビロのようにプレーしたいが、それにはまだ時間がかかる・・とはいっても我々が確実に成長していることも確かなこと・・もちろんそれは継続する・・」という冷静な自己分析も忘れませんでした。

 さてこの試合でのジェフ。

 例によっての忠実でダイナミックなディフェンスは健在。またボールを奪い返してから押し上げようとする意志も感じられる。けれど、どうも勢いが乗ってこないのです。まあそれは、選手たちがグラウンド上でジュビロの強さを体感していたからなのでしょう。だからどうしても、サポートプレーが消極的で、全力のリスクチャレンジプレーには入っていけない・・二列目からの飛び出しが見られない・・ということになってしまうのです。まあ、「擬似」の心理的な悪魔のサイクルに入りかけていたジェフといったところです。またチェ・ヨンスにボールが入らないというのも問題。それには、チェ・ヨンスのパスを呼び込む動きが活発ではなかったこともあります。

 そんな展開でしたから、後半19分にジュビロが挙げた先制弾は、まさに順当なゴールだと思ったものです。右から西がクロスにグラウが飛び込む・・そこでこぼれたボールを拾った逆サイドのジヴコヴィッチが、ドカン!と決めたゴール。

 そこからです、ジェフが、攻守にわたって本来の「吹っ切れたプレー」を展開しはじめたのは・・。それでも、どうも本物の勢いが感じられない。私が言う勢いとは、ジュビロ守備ブロックが完全に「置き去り」になってしまうようなレベルを超えたフリーランニングとか、何人もの選手が全力ダッシュで絡んでくるコンビネーションプレーとか(もちろんそこでは縦横のポジションチェンジのオンパレード!)・・そういったものです。どうも、その吹っ切れた勢いが感じられないのですよ。だからジュビロ守備ブロックも、余裕をもって対処できている・・。たしかに後半30分には、CKから、斎藤が惜しいヘディングシュートを放ったりしましたが、全体的なゲーム内容としては、「まあこれは実力の差だから仕方ない・・」なんて、ジェフの敗戦を半分確信していたものです。でもそのジェフが、後半終了間際に粘りの同点ゴールを奪ってしまって・・。まさにそれは執念の同点ゴールでした。

 その同点ゴールを見ながら、ちょっと胸をなで下ろしていた湯浅でした。何といっても、(勝者のメンタリティーも含めて!)発展ベクトル上にあるジェフですからネ、このゴールがそのプロセスを加速してくれれば・・なんて思っていたのですよ。それくらいジェフのサッカーには、活発なリスクチャレンジマインドを基盤にした、攻守にわたるハイレベルな「戦術コンテンツ」が詰め込まれているのです。クリエイティブな学習機会を提供してくれるジェフ市原。これからも、日本サッカー界のポジティブな刺激になる(オレたちが日本サッカーを引っ張る!)という気概をもって積極サッカーにチャレンジして欲しいと願っていた湯浅でした。

 



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