湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第14節(2003年11月23日、日曜日)

 

またまた「勝ち点システム」が背景のエキサイティングマッチを堪能しました・・ジェフ対トリニータ(1-1)

 

レビュー
 
 降格リーグからの心理パワーと優勝争い心理パワーだったら、やっぱり「サバイバル」の方がエネルギーレベルは上なんだろうな・・。

 立ち上がりの展開を見ながら、そんなことを考えていましたよ。マズローがいう人間の「欲求五段解説」では、まず出てくるのが生理的欲求(食欲や性欲など=サバイバル)ですからネ(次に安全欲求、愛情欲求、社会的な成功欲求などとつづく)。そんなことに思いをめぐらせるほど、立ち上がりに魅せた大分トリニータの勢いが素晴らしかったのです。その勢いを具体的に感じるグラウンド上の現象は、もちろん、抜群に忠実でダイナミックなディフェンスです。それが効果的に機能しているから、相手を押し込むことができる・・。

 とはいっても、やはり・・というか、戦術的な視点では、守備のレベルはまだまだ。チェイス&チェックと、次の予測ディフェンスが、うまく有機的に連鎖しないのです。だから、時間の経過とともに、相手からボールを奪い返す位置が徐々に「下がり気味」になっていくだけではなく、ボールを奪い返す状況も、自分たちが意図的に追い込んだものではなく、ジェフのミス待ちというケースが増えていく・・。ということでトリニータは、立ち上がりの勢いを継続することがままならず、徐々に地力に優るジェフに押し返されてしまうのです。

 その後は、まさに動的な均衡状態という展開がつづきます。そこで目立つのは、何といってもトリニータの積極的なディフェンス。とにかく忠実な「チェイス&チェック」の迫力がすごいのです。そんな忠実ディフェンスを見ながら、それに「次の予測ディフェンス」が有機的に連鎖したら鬼に金棒なのに・・なんてことを考えていた湯浅でした。

 とはいってもゲーム展開は膠着・・というか沈滞気味。(こちらの期待値が大きいから)特にジェフの出来の悪さばかりが目に付いてしまいます。ボールの動きも人の動きも中途半端だから、どうしてもミスのオンパレードになってしまう。「動き」に吹っ切れた勢いがあれば、それぞれのプレーも着実に連鎖してくるのに・・。これでは、いくらボール支配率が高くても簡単にフィニッシュシーンを演出できないのも道理といったところなのですよ。

 切れ味が鈍いジェフ。もちろんそれは、ボールと選手たちの動きの「連動性」に問題があるからです。一つのボールの動き(仕掛けのパス)で、いつもだったら確実に三人目が動き出しているのに・・。まあ、トリニータ守備の勢いに押されっぱなしのジェフといったところでした。

 私は、ジェフが最後の最後まで優勝争いに絡んで欲しかったから、一体何をやっているんだ・・なんて、ちょいと憤っていました。そんなタイミングで、コトが起きてしまいます。前半33分。トリニータが、ワンチャンスを先制ゴールに結びつけてしまったのです。

 サンドロのロングフリーキック・・それを田代(?)がヘディングで決定的スペースへ送り込み、ベストタイミングで走り込んでいた吉田がダイレクトボレーでたたき込んだという素晴らしい先制ゴール。そのとき吉田をマークしていたのは中西でしたが、一瞬ボールを見てしまったことで吉田の動きについていけませんでした。

 その決定的シーンに絡んだトリニータの選手たちのプレーには、チャンスを作り出せるとしたら「それしかない」という絶対的な勢いがありました。ロングボールが上がった瞬間、吉田は決定的スペースしか見ていなかった・・だから走り抜ける勢いもレベルを超えていた・・またヘディングパスを送り込んだ田代にしても、ボールを流し込む方向は「そこしかない」という確信があった・・だから、最高のイメージシンクロ・コンビネーション&ゴールだった・・というわけです。

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 後半は、1点をリードされたジェフが、ガンガン押し込んでいきます。攻撃の起点は、もちろん両サイドの坂本と村井。ジェフ選手たちの攻撃イメージは、いかにこの二人に「良いカタチ」でボールをわたすか・・というポイントに絞られているといっても過言ではない?! もちろんスリーバックと両守備的ハーフ(阿部勇樹と佐藤勇人)が、そのバックアップをしっかりと組織するわけですが、ケースバイケースで、羽生やフォワードも戻ってくるのは言うまでもありません。それこそが、全員守備・全員攻撃を標榜するジェフの真骨頂というわけです。

 まあジェフの場合は、どんな相手と戦う場合でも、両サイドバックのオーバーラップを「必須の仕掛けアイテム」としてゲーム戦術を計画しますからネ。そこでの徹底度の高さもジェフの強さの秘密だとすることができそうです。まあ、守備にしても、次の攻撃における前線への飛び出しにしても、彼らの場合は、すべてにおいて「ハイレベルな徹底度」がキーワードということなのでしょうが・・。

 そんな「レベルを超えた徹底サッカー」を魅せつづけるジェフですが、この試合では、チャンスは作り出すものの、どうしてもゴールを陥れるところまでいけない。何度、ジェフの決定的チャンスに身体が硬直し、直後にため息に変わったことか。

 それでもジェフはやってくれました。後半18分。阿部勇樹の中距離シュートをトリニータGK岡中が弾いたところを、素早く寄ったチェ・ヨンスが落ち着いて蹴り込んだのです。その同点ゴールは、まったく違ったドラマのスタートを意味していました。

 要は、「勝ち点1」では誰もハッピーになれないから、そこからはジェフだけではなくトリニータも積極的に点を取りいくようになったということです。ボールを奪い返したら、すぐに極限のリスクチャレンジを仕掛けていく両チーム。そしてゲームが、ものすごくエキサイティングな攻め合いへと変容していったのです(実際にゲームの流れの変化が急になったのは、後半30分を過ぎたあたりからでしたが・・)。

 人数をかけ、組織的に攻め上がってチャンスを作り出しつづけるジェフ。それに対し、何百倍も鋭く危険になったカウンターを繰り出していくだけではなく、タイミングの良い中距離シュートでジェフゴールを脅かす大分トリニータ。とにかく最後の15分間は、「どうしてアレがゴールにならないの?」なんていうシーンが両チームに連続するのですよ。それでも最後の15分間を総合的に見たら(決定的チャンスの内容をフェアに評価したら=結果ベースの評価ですが・・)、トリニータの方が「勝つチャンス」は大きかったのかもしれません。やはり「勝負」という視点では、しっかり守ってカウンターを狙うという戦い方の方が、より確実に結果を残せるということです。もちろん、美しく強いサッカーという理想型から見れば明らかにアンバランス・・だからそこに、サッカーにとっての(また監督にとっての!)永遠のジレンマが潜んでいる・・?!

 とにかくそれは、「勝ったら勝ち点3で引き分けは勝ち点1≒引き分けはある意味で負けに等しい」というリーグの勝ち点システムが攻撃サッカーを助長するという効果を再認識させられた時間帯でもありました。

 タイムアップのホイッスルが吹かれたとき、グラウンド上にたたずんでいる両チーム選手たちがかもし出す、「ぬるま湯の結果」に対する落胆がストレートに伝わってきたものです。

 



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