湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第15節(2003年11月29日、土曜日)

 

高質なサッカー内容で両ステージを制覇したマリノスに乾杯!・・マリノス対ジュビロ(2-1)

 

レビュー
 
 ウワッ、スゲ〜〜!!

 そのときの素直な感想です。マリノス対ジュビロが「2-1」でタイムアップになった直後に席を立ち、次の仕事(テレビ埼玉のレッズナビ出演)のためにクルマへと急ぎました。とはいっても、スタンドの記者席から記者控え室を経由するから、どうしてもテレビの前を通らなければなりません。もちろん、NHK総合で放送しているマリノス対ジュビロの余韻を映し出している画面が目に入ってくる・・。と、そのとき急に画面が切り替わり、埼玉スタジアムのレッズ対アントラーズのシーンが映し出されたのです。そして・・。

 その瞬間、そこに居合わせたメディアの方々は、私も含めて全員がフリーズ状態になってしまいました。誰も口をきかず、微動だにしない。そして意識と視線が画面にフリーズ・・。そこでは、レッズが「2-2」と追いついたシーンが展開されていたのです。そしてその数十秒後にタイムアップ。「あっ、これでマリノスが両ステージ制覇だ!」。隣の記者の方が小声で叫びました。そう、それは、マリノスが年間の総合王者に輝いた瞬間だったのです。そして私は、心のなかで「ウワッ、スゲ〜〜!!」・・。

 その後すぐにクルマへ移動し、第三京浜から首都高速経由で浦和へ向かったわけですが、競技場の出口では、メディア受付の女性役員の方たちが、目に涙を浮かべてテレビ画面を見つめているという、一種感動的な場面にも遭遇しましたよ。

 結局浦和まで二時間半もかかってしまったのですが、その間、マリノス対ジュビロ戦の内容分析だけではなく、レッズのゲーム内容にもイメージを膨らませていました。レッズについては、例えばこんな感じ・・最初の時間帯は内容で凌駕され、アントラーズに「2-0」とリードされていたレッズ・・その後彼らにどんな「変化」があったんだろう・・それにしても、二点ビハインドからよく追いついた・・まあ、失うモノが何もなくなったということで吹っ切れたダイナミックサッカーを展開できたっていうことなんだろう・・それってレッズのパターンだよな・・とにかくテレビ埼玉に着いたらすぐにビデオを魅せてもらおう・・なんてネ。

 また、マリノス対ジュビロの試合内容につていも、こんなふうにイメージ的に反芻していました。

 マリノスは、一人足りなくなった状況で本当に立派なダイナミックゲームを展開した・・この勝利と年間王者のタイトルは、まさに勝ち取ったものだ・・二年連続で、年間総合トップのチームが両ステージを制して年間チャンピオンの座に着いた・・それは、誰もが納得し望んでいた結果だ・・とにかくマリノスは、岡田監督に率いられ発展をつづけることだろう・・そしてその優れたサッカー(美しく強い、バランスのとれた高質サッカー)が、彼らの伝統というレベルまで深まるに違いない・・。

-----------------

 実は、試合中から下記のような「メモ文章」を書いていました・・。

 立ち上がり、レベルを超えた勢いでマリノスを押し込んでいくジュビロ。もちろん絶対にセカンドステージで優勝するぞという意気込みがグラウンド上に現れたものですが、それを見ながら、「でもな・・あまり行きすぎるのも考えものだぞ・・ジュビロはツキに見放されることが多いから・・」なんてことを思ったものです。でも今回は違いました(前節もネ・・)。ジュビロの前へいく勢いがそのまま先制ゴールにつながってしまったのです。前半2分。左サイドからのクロスが、本当にうまい具合に河合アタマを越えてグラウへ届いた(まあアレは河合の目測マークミス!)・・・・またグラウのシュートも、本当に落ち着いていた・・といった先制ゴールでした。

 私は、各チームのサッカー内容を唯一の評価基準にしています。だから、セカンドステージのジュビロを支持していました。私は、彼らがセカンドステージ優勝にふさわしいチームだと思っていたのです。高原や藤田俊哉がいなくなったにもかかわらず、また中山ゴンがケガで戦列を離れたにもかかわらず、ジュビロは高質なサッカーを展開しつづけました。たしかに全体的レベルは減退していますが・・。要は、過去に蓄積していたモノが大きかったということです。とにかく、そのこともまた、これまでジュビロが展開していたサッカーの質がレベルを超えて高かったこと、そして、サブやユースも含むクラブ全体に、伝統に支えられたと表現しても過言ではない「ジュビロサッカーのコンセプト」が本当に深く浸透していることを如実に証明しているというわけです。

-------------------

 ここで、以前にも書いた、ジュビロの高質サッカーに対するこれ以上ないという「賛辞」を再び紹介します。その賛辞の送り主は、ジェフのイビチャ・オシム監督。ジェフ対ジュビロのゲーム後の記者会見のときのことです。その「表現」からは、本当に深い感銘を受けました。私は常日頃、良いサッカーに対する「分かりやすく、根本に迫る表現」を創作しようと七転八倒しているわけですが、これほど分かりやすく、インパクトある表現は、今まで聞いたことありませんでしたから・・。やっぱりイビチャ・オシムは、素晴らしい監督だ(インパクトある戦術表現を創作するのも、監督の大事な仕事の一つなのですよ!)。

 さて、彼の発言の骨子です。「ジュビロは、リーグのなかでは唯一、8人で攻めて10人で守れるチーム・・リーグのなかでは、もっともモダンなサッカーをやっているチーム・・彼らは、攻撃でも守備でも、常に数的に有利な状況を作り出してしまう・・」。

------------------

 前半15分、マリノスGK榎本が一発退場になってしまいます。そのシーンを見ながら、これで試合はジュビロのものか・・何といってもヤツらは、数的に優位な状況をうまく活用できるからな・・なんてことを考えていました。また同時に、その退場劇をみながら、こんな「一般的なイマジネーション」も膨らみつづけていましたよ・・。

 一人多いという状況になった場合、「一人多くなったからこれで余裕をもってサッカーができるぞ」なんていう具合に、往々にして選手たちの気合が減退していくというケースも多いものだ・・それこそ意識の低さの証明・・一人退場になったチームの危機感は何百倍にも高まるわけだから、とにかく攻守にわたる勢いに覚醒のビッグエネルギーが上乗せされるのは当然のプロセスだと意識していなければならないのに・・数的に不利になり危機感が高まった相手は、守備でのチェイス&チェック、マーク、ボール奪取アタックをより積極的に厳しくするだけではなく、攻撃でも、ボール絡み、ボールがないところでのリスクチャレンジプレーが格段に積極的になるのが当然の流れ・・だから、相手の「総体的な勢い」が、人数が同数のときよりも大きく高揚してしまうというケースも多々ある・・逆に「余裕をもった数的優位チーム」の場合は、スピリチュアルエネルギーはネガティブに落ち着いてしまうケースも多い・・特に日本チームの場合は・・そして一人多いにもかかわらず、ペースを握られつづけ、自分たちでダイナミズムを増幅させられなくなる・・そこに、低級の「セルフモティベーション能力」が明確に見て取れる・・等々。

 もちろんジュビロの場合は違います。たしかに勢いが倍加したマリノスが押し上げはじめますが、ジュビロ守備ブロックが「プレーイメージを凌駕」されるようなケースは希。だから決定的スペースを突かれるケースもほとんどなく、マークを外されたりドリブルで簡単にかわされてしまうようなイージーミスも目立たない。

-------------------

 ただ後半は、マリノスが「イメチェン」の勢いで挑んでくるようになります。後半5分に飛び出した、セットプレーからのマルキーニョスの同点ゴールの後は拮抗状態がつづいたけれど、(アントラーズはレッズに4点差以上をつけられないだろう・・このままドローだったらジュビロが優勝・・そしてヤツらとチャンピオンシップ決定戦を戦わなければならなくなる・・決定戦だったらアントラーズの方が組みしやすい?!・・ということで)どうしても勝ちたいマリノスが、その強烈な意志をぶつけてきたのですよ。

 マリノスが展開した、数的に不利な状況をほとんど感じさせないアクティブサッカー(それも相手はジュビロ!)。私はそこに、「継続的な発展」のために不可欠なファクターが内包されていると強く感じていました。継続的に発展できるという雰囲気を高揚させるためには、指揮官が、サッカーの理想型に対する確固たるイメージをもっていることが不可欠。その意味で「も」、いまのマリノスに「明るい未来」を感じていた湯浅だったのです。

 マリノスが展開したダイナミックサッカー。選手たちの運動量が、前半とくらべて倍加したような印象さえ持ちましたよ。とにかく全員が、攻守にわたって動きつづける・・そして攻守の切り換えがものすごく早い・・また攻撃では、タテへボールを動かすぺすを基調に、その流れに、フリーランニングやパス&ムーブなどで「人も」乗ってくる・・特に、縦方向のパス&ムーブの勢いと忠実さはレベルを超えている・・そして徐々にジュビロ守備ブロックのウラも突いていけるようになっていく・・。

 たしにか、前田と西野の交代(72分)、そしてジヴコヴィッチと川口の交代(76分)は効果的でした。そこでジュビロの勢いが、これまた倍加しましたからね。柳下監督の冴えた采配だと思ったものです。それでも最後は・・。(ここまでが、試合中に書いたメモを仕上げた文章でした)

---------------------

 とにかく、松田からのロングフィードに久保が飛び込んで挙げた決勝ゴールの場面にはビックリさせられましたよ。「えっ? いまロングボールを蹴ったのは誰??」なんて隣に座る記者の方に質問しちゃったりして・・。そしてガッカリするのと同時に(ジュビロの敗退に対する落胆・・この時点では確実にアントラーズがセカンドステージ優勝だと確信していた!)、後半に魅せつづけたマリノスのゲーム内容だったら、この勝利は、確実に「勝ち取った」ものだと表現できる・・と、納得もしていた次第。

 テレビ埼玉のレッズナビですが、今日は、1900時から2時間というスケジュールでした。私は、てっきり1時間だと思っていたのに・・。ということで帰宅したのは2200時過ぎ。そこからコラムを仕上げた湯浅だったのです。今日はここまでにします。何せこれからワールドユースの、日本代表対イングランド代表ですからネ。

 さて、最後に・・両ステージ制覇しての年間王者決定、オメデトウ!! マリノスは、怪我人など、様々な苦難を乗り越えて、良いサッカーへ発展をつづけるベースを確実なものにした。それについても拍手をおくりつづけた湯浅でした。ではまた・・

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]