湯浅健二の「J」ワンポイント


2003年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第2節(2003年8月24日、日曜日)

 

高質なコンテンツが詰め込まれたエキサイティングゲームになりました・・ヴェルディー対アントラーズ(1-1)

 

レビュー

 

 いやホントに、高質なコンテンツが詰め込まれたエキサイティングゲームになりましたよ。見ていて、「ハッ」とさせられてしまう場面のオンパレード・・。やはり、お互いに調子を取り戻しつつある実力チーム同士の戦いだ。本当に来てよかった。

 両チームともに、カタチとしてはフォーバックの前に四人の中盤が配置する同じフォーメーション。それでも機能性には大きな違いがある・・。

 まず中盤から最終ラインにかけての「ディフェンスの組織イメージ」。例によって、早めのブレイクから忠実マンマークに入るというイメージのアントラーズに対し、ヴェルディーは、「4-4」のラインを出来るかぎり維持しようとします。

 最終ラインと中盤ラインで作り出す「ボックス守備陣形」。指揮するのがアルディレス監督ですからね、もちろん、危険因子の方が多いオフサイドトラップを仕掛けさせることはありません。それでも、最終ラインは、基本的には高い位置を保ちます。自分たちが主体になった、積極的なオフサイドラインのコントロール。そしてボックスを(前後左右のディスタンスを)維持しながら、相手攻撃を効果的に「追い込んでいく」というイメージなのでしょう。

 そこでは、最終ラインが積極的にラインをコントロールするというわけではなく、基本的には、中盤ラインとの「距離イメージ」が主導でしょう。それでも、最終ラインを高めに維持する彼らは、「最終勝負のラインコントロール」を、うまく機能させています。その、フラットライン守備システムについては、以前発表した「長〜〜いコラム」を参照してください。

 ということで、相手の次の仕掛けに対する「読み」を主体に、よりクレバーに、より効率的にという意図が強く感じられるヴェルディーの「チーム守備戦術」。とはいっても、それは難しいやり方です。何が難しいかといえば、縦横に動きまわる相手選手たちへのマークを受けわたしながら、「ここぞの勝負所」でしっかりとタイトにマンマークできるかどうかというのがテーマだということです。それは瞬間的な勝負・・そのために、一瞬たりとも集中を切らせてはならない(ボールウォッチャーになることなく・・常にボールがないところでの相手の勝負の動きまでも強烈に意識する・・等々)。そりゃ、難しいやり方ですよ。

 私は、ちょっと不安でした。中盤ラインのセンターに控える小林慶行とラモン。どうも、タテに走り抜けた相手選手を「行かせて」しまうというイージーマインドが見え隠れする・・。アントラーズの攻撃が(選手たちの仕掛けイメージが)、うまく噛み合わないから(ボールのないところでの決定的動きとパスが噛み合わないから!)助かっているようなもの・・というシーンを何度目撃したことか。

 中盤ラインの中央の選手は、基本的なイメージとしては、どちらかが「前気味のリベロ」として、決定的な場面では、味方最終ラインを追い越してまでも勝負所へ急行するという「忠実プレーのイメージ」がなければいけません。でもヴェルディーの二人には、その意識がちょっと希薄・・。そして、そんなイメージ的なウイークポイントが、結局は失点につながってしまうことになります。

 アントラーズ同点ゴールの場面。そこでは、後方から押し上げた本山(最終的なゴールシューター)に対するマークをタテに受けわたしたわけですが、最後の三浦淳宏が、マークを徹底できていなかったことでフリーになった本山にシュートを決められてしまったというわけです。タテ方向の「マークの受けわたし」は難しい・・特に、最終勝負シーンでは、ほとんど不可能・・だからこそ、臨機応変な(味方最終ラインを追い越してしまうような)忠実マークが勝負を分ける・・。

 この不安は、後半になって、ラモンが前線へ上がり、林が中盤ラインのセンターに入っても解消されることはありませんでした(後半にも何度か、アントラーズのタテへのフリーランニングとパスがシンクロした決定的ピンチがあった!)。まあ、とはいっても、そんなクリエイティブなチーム守備戦術は、観ている方にとっては、。彼らが、どのようにピンチを迎えるかを観察することも含めて、見所豊富だから面白いのですがネ。

 前半のゲーム展開は、こんなところでしょうか・・全体的にゲームを支配するアントラーズ・・でも、どうも最後の仕掛けがうまく回転せず、逆に、ヴェルディーのカウンター気味の攻撃を浴びて何度か決定的ピンチを迎えるてしまう・・それは、実質的には「隠れヴェルディーペース」の内容だった・・。そんな展開のなか、リードしたヴェルディーが、柳沢、飯尾、桜井が絡んだ見事なワンツースリーのダイレクトコンビネーションで、アントラーズ守備陣のウラに広がる決定的スペースを攻略してしまったりする(でも最後の飯尾のシュートは、飛び出してきた曽ヶ端が、見事なセーブ!!)。フ〜〜、これは本当にヴェルディーのペースだ・・。

 たしかに、前半12分にケガで交代してしまったエムボマは大誤算でしたが、その後もヴェルディーは、常に「相手のウラ」を意識したコンビネーションなど、危険な攻めを繰り出しつづけました。何らかのキッカケ(もちろんオジー・アルディレス監督のことですよ!)で、大ブレイクの予感・・なのです。

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 後半は、アントラーズの、基本的なプレーイメージがピタリとはまるゲーム展開になっていきます。ヴェルディーが押し上げてゲームを支配し(見かけ上のゲームコントロール!)、アントラーズが、薄くなったヴェルディー守備ブロッのウラへ必殺カウンターを仕掛けていく・・。何本ありましたかネ、アントラーズの決定的チャンス。右から、左からと、ヴェルディー守備ブロックの薄い部分を突いたクロスが、これまた薄くなったゴール前センターゾーンへ送り込まれました。もっとも決定的だったのは、右サイドの名良橋から上がったクロスを、エウレルが完璧フリーでヘディングシュートした場面でしょう。「なんでゴールにならないの??」ってな具合です。

 対する、見かけ上のペースを握っているヴェルディーの攻め。まあ、まだまだですネ。何といっても、組み立て・展開段階においても「個の勝負」が主体なんですから(ボールのないところでの動きをベースにした活発なボールの動きはみられず!・・オジーは、選手たちに意識付けしているはずですが・・)。まあ、この日の厳しい気候条件(蒸し暑さは昨日以上?!)を考えれば、個人のチカラで局面を打開し(ドリブルでの局面突破!)、そこから最終勝負を仕掛けていくというイメージも分かります。まあ彼らの場合は、選手全員が、その仕掛けイメージで統一されていたし、その基盤になる「高い個の能力」を備えていますからネ。だからこそ、「個に偏り過ぎているにもかかわらず」のチャンスを作り出せたというわけです。

 そこで目立っていたのは、やはり「サイド・コンビ」による崩し。中央ゾーンは、ラモンと、後方からバックアップしてくる林と小林のコンビ(久しぶりの、リンリン・コンビ!)が絡みますが、やはりアントラーズの厳しいセンター組織を崩せる気配はない・・。それに対し、サイドからの仕掛けは十分に危険なニオイを放っていました。後半は、特に左サイド。平野孝と三浦淳宏の「才能コンビ」です。特に三浦淳宏が危険きわまりない。

 以前彼について(とはいっても2000年のシドニーオリンピックのときでしたかネ)、「天才よ、覚醒せよ!」なんていうコラムを書いたことがありました。とにかく、彼の才能が、このレベルで停滞してしまうことほど、日本サッカーにとって悔やまれることはない・・。今からでも遅くはない。アツヒロよ! 覚醒せよ!! そしてジーコにアピールせよ!!!

 まあ、そんな「個の仕掛け」が目立つヴェルディーだからこそ、エムボマの不在が残念で仕方ありませんでした(こっちは、もっと足しのみたかったのに・・)。

 とにかく、コンテンツ豊富な、素晴らしいエキサイティングマッチだったヴェルディー対アントラーズ。以前の「頂上対決」を思い出していましたよ(ちょっと言い過ぎですがネ・・)。

 

 

 



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