ではまずヴェルディー対セレッソから。
結局、ヴェルディーが実力の勝利をおさめたという結果に落ち着きましたが、ゲーム経過プロセスでの内容自体は、そんなに褒められたものじゃありませんでした。逆に、大久保やバロン等の主力を三人も欠いたアウェーのセレッソの出来が素晴らしかったとも言えます。そんなセレッソのガンバリが試合を盛り上げたということです。
立ち上がりから、セレッソが展開する、攻守にわたる素晴らしい「組織サッカー」の目立つこと。要は、ボールを奪い返すまでのプロセスと、シュートシーン演出までのプロセスで、セレッソの方が数段高いレベルの(高質なイメージの)サッカーを展開していたということです。ホールホルダーに対する忠実でダイナミックなチェイシング&チェック・・周りのチームメイトたちが仕掛ける、狙いすました勝負所ディフェンスプレー・・それらが美しく連鎖するというわけです。
そしてボールを奪い返した直後からはじまる、素早く、広いボールの動きを基盤にした組織的な攻め上がり。そんな小気味よい攻撃のイメージリーダーは、もちろん森島です。素早いボールの動きが、何度、(特にボールのないところでのマークが鈍い)ヴェルディー最終ラインのウラスペース(決定的スペース)を突いたことか。そんなシーンを観ながら、ヴェルディー最終ラインの、「ヤツらの攻撃なんかポジショニングで抑えられるさ・・」というイージーなプレー姿勢に閉口していました。アタマにきて、「フザケルナよ、何様のつもりだ! 何ゴールかぶち込まれてしまえ! そんなことでもなければ目が覚めない!」なんてネ。まあそれは、例によっての、(私の)観戦時のセルフモティベーションでした。
でも、そんな試合展開とは裏腹に、先制ゴールを奪ったのはヴェルディーの方でした。平本の、追い込まれ、仕方なく放った中距離シュート。それまで、ボールがないところでの動きが極端に鈍く、足許パスのオンパレードという拙攻をつづけていたヴェルディーですから、まさに唐突なゴールではありました。前半22分のことです。
それまで私は、「そんな、斜に構えた思い上がりサッカーじゃ、セレッソ守備のウラなんて突けるはずがない!」なんていうセルフモティベーションの叫びが口をついていたわけですが、そんな怠惰なヴェルディーが先制ゴールを奪ってしまったシーンに、「イタズラも程々にしてくださいよ・・これじゃヴェルディーが、もっと思い上がりというワナの深みにはまってしまう・・ヤツらは高いキャパシティーに恵まれているのだから、日本サッカーのイメージアップのためにも、もっと忠実でダイナミックなサッカーをやらなければならないのに・・」なんて、サッカーの神様にクレームを飛ばしていましたよ。
とはいっても、それもサッカーだから仕方ない・・なんて思っていたら、その6分後には、それまで展開していた素晴らしいセレッソのサッカーからすれば、まさに「順当に勝ち取った」という素晴らしい同点ゴールが飛び出したのです。スコアラーは(これまた順当な)森島。右サイドから、左サイドの決定的スペースへ走り抜けるという素晴らしい決定的フリーランニングと、素晴らしいダイレクトシュートでした。マークを振り切られた三浦淳宏や、他のヴェルディー選手たちも目を覚ましたことでしょう! そしてゲームが、内容的にも(もちろん両チームともに!)白熱していったという次第。
後半は、徐々にセレッソの「守備パフォーマンス」が後退したのに対し、逆にヴェルディーのボールがないところでの(物理的&心理・精神的)ダイナミズムが少しは持ち直し、ヴェルディーが、実力通りにゲームを支配するという展開になっていきます。それでもセレッソが放散しつづけた、ワンチャンスをモノにするという強烈な意志は称賛に値します。それがあったからこそ、最後までゲームが締まったということです。
さて、セカンドステージは何かをやってくれそうな雰囲気を振りまいているヴェルディー。それでも、まだまだ自分勝手な個人プレーが目立ちすぎると感じます。だから彼らの場合、このゲームの前半のように、全体の動きが沈滞してしまうというリスクは常につきまとうというわけです。
個のチカラ(個人の仕掛けプレー)を強調するにしても、そこに至るまでの絶対的なベースは組織パスプレーにあります。それは誰にも否定できない事実。まあヴェルディーの場合は、「個のチカラ」を前面に押し出そうということでチーム内に合意があるから、ここはタメるだろう・・ここはドリブルで突っかけていくはずだ・・ここはシンプルなパスがくる・・等々、仕掛けプロセスや最終勝負のタイミングも、互いにより明確にイメージできることも事実なのですがネ(だから、個の勝負に、うまく組織的なサポートを絡めることもできる!)・・。
まだまだ課題が山積みのヴェルディー。これからのオジー・アルディレスの采配(ウデ)に注目しましょう。とにかく彼らが、豊富な運動量と(クリエイティブなムダ走りが良いサッカーの基盤!)、限りのない闘う意志を前面に押し出すなど、斜に構えず、謙虚にサッカーに取り組むようになったら抜群のチカラ(チーム力)を発揮することだけは確かですからネ。サッカーでは、「効率的」という言葉ほど災いをもたらすモノはないのですよ。
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さて、ジュビロ対アントラーズ。
まず、ジュビロが作り出した決定的チャンスのリプレー(5秒間のドラマ)から。そのシーンは、前半13分のことでした。この試合を通じて唯一ともいえる、完璧な決定的スペースの攻略。見事なウラ突きコンビネーションだったのです。まさに鳥肌が立つ瞬間でした。
直前に得たCKのキッカーだったことで、流れつづけたプレーのなかで(基本の左サイドではなく)右サイドから仕掛けていったジヴコヴィッチ。名波からのタテパスを素早くコントロールし、その前方スペースへ「入ってきた」成岡の足許へパスをつなぎます。厳しいマークに遭っていたとはいえ、マークするフェルナンドをしっかりとスクリーニングしながらボールをコントロールする成岡。キャパの高さを感じさせます。それだけではなく、アタックを仕掛けるフェルナンドを回り込むようにボールをコントロールして、その左前方にポジショニングしていたグラウの足許へ正確なパスをまわすしてしまうのです。まあ大したものだ。
パスを受けたグラウをマークすべきだったのは名良橋。間合いが空きすぎていたことで、慌ててチェックへ向かう名良橋でしたが、最初のマークポジションが悪く、遅れたタイミングで「寄せる」という状況は、ディフェンダーにとってものすごく不利なものです。このシーンでも名良橋は、ビシッとアタックしたり、グラウに身体をあずけてプレッシャーをかけられるわけでもなく、結局は、中途半端に立っているだけになってしまう。これでは、グラウに「回り込まれて」背後スペースを突かれてしまうのも道理。それが勝負の瞬間でした。
この状況で、中央ゾーンをフリーで上がりつづけていたジヴコヴィッチが、アントラーズのセンターバックコンビ、秋田と大岩の「間隙スペース」へ突進していったのです。この時点で、秋田と大岩は、ゴールラインと平行に横並びになっていただけではなく、互いの距離も10メートル近くは空いていた・・。まあ、「どうぞ、抜けていってください」と言わんばかりのポジショニングミスということです。たしかにジヴコヴィッチには、後方から青木が迫ってはいましたが、それにしてもの「中途半端なポジショニング」でした。
そして最後の瞬間、グラウから、抜け出したジヴコヴィッチへ、これしかないというコースとタイミングのラストスルーパスが通されたという次第。アントラーズGK曽ヶ端の飛び出しがなければ完璧な先制ゴールになるところでした(曽ヶ端のタイミングのよい飛び出しが、ジヴコヴィッチのシュートミスを誘発した!)。
どうしてこのシーンを導入部にしたかって? それは、その後のジュビロが、「組織と個」がうまくバランスしたハイレベルサッカーでゲームを支配しながらも、どうしてもアントラーズ守備ブロックを崩し切れなかったからです。要は、しっかりとボールを動かすことで組織的な攻め上がりを魅せながらも、ボールのないところでの選手たちの動きが単調だから(縦横のポジションチェンジがうまく回転しなかったから)、アントラーズ守備ブロックの「発想のウラ」までは突くことができなかったということです。そう、前述のジヴコヴィッチのような「大きな変化」がままならなかったということです。だから、ゲームを支配しながらも、アントラーズ守備ブロックを崩し切るようなシュートチャンスを作り出せなかった・・。
後半のジュビロは、かなり意識してサイドから攻めようとしていました。そんな「意識付け」は正解。前半のジュビロは、中央ゾーンからの直線的な仕掛けと、サイドから「間接的な仕掛け」がうまくバランスしていませんでしたからネ(どうも最短距離の仕掛けシーンが目立ち過ぎていた!)。より高い頻度でシンプルなタイミングのクロス「も」上がりはじめれば、中央で待つ味方も、徐々に最終勝負イメージを明確に描写できるようになるというわけです。でも結局は、アントラーズに守りきられ、ノドから手が出るほど欲しかった「勝ち点3」をゲットするところまでいけなかった・・。
(藤田等の主力がいないことで)たしかにジュビロのサッカー内容は減退しました。それでも視点を変えれば、これほど多くの主力選手たちが抜けても、まだまだハイレベルサッカーに対するイメージを維持できているのは本当に素晴らしいことだとも思っている湯浅なのです。まさに、「高質なサッカー発想」がクラブの伝統というレベルまで深く浸透していることの証だと思うのですよ。
それにしても、この試合の途中で、右足首を負傷して後退した服部が心配。これでまた「伝統の権化」が一人抜けてしまったら、いくら優秀な若手が控えているとはいっても・・。まあ、これからのジュビロの「リカバリープロセス」や、若手を中心にした「チーム再構築プロセス」にも注目しましょう。
さてアントラーズ。アウェーということもあって、しっかりと守備ブロックを固め、素早く、直線的に相手ゴールへ迫るというイメージでプレーしていました。もちろん勝負のロングパスやロングシュートなども積極的にミックスしていきます。例によって、勝負強いことこの上ないアントラーズというわけです。
まあ、「美しさと勝負因子のバランス」という視点では、どちらかといえば「勝負」に力点を置くチーム戦術を前面に押し出す彼らにとっては、してやったりの「勝ち点1」なのでしょう。
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さて最後は、マリノス対エスパルス。観はじめてすぐに「強いなマリノスは・・この強さはホンモノだ・・今シーズンのマリノスが、本当の意味で発展しつづけていることを肌で実感できた・・」なんてことを思っていました。もちろん主力が戻ってきたということもありますが、前節までの主力抜きでの粘勝についても、チーム総合力がアップしていることの証だと捉えるのが自然・・。
とにかく攻守にわたって、選手個々のプレーイメージが、高質にシンクロしていると感じるのですよ。「アイツは、あそこでチェイスする・・オレは、それを前提に次のポジションに入っておこう・・」とか、そんな守備の連携ばかりではなく、攻撃でも、素早く、広いボールの動きをベースに、選手個々が、「アイツの次のプレーは・・」という可能性について、明確なイメージを描けていると感じるのです。もちろんボール絡みのプレーばかりではなく、ボールなしのアクションも含めて。だから、攻めに実効ある危険性が伴ってくる。
例えば、マルキーニョスが前方でボールをもったら、「アイツは、ドリブルで勝負する・・オレは、スペースへ走り込むことでヤツのプレーの可能性を広げてやろう・・」とか、佐藤がボールを持ったら、「ヤツは、次のタイミングでクロスを上げてくる・・よし、ここがニアポストスペースへスタートするタイミングだ・・」等々っちゅうわけです。
ディフェンスについてのコメントが中途半端になりましたが、選手たちが、それぞれの「攻撃の流れ」のなかで、状況に応じて次のディフェンスへ意識を移していると感じられるのが特筆ポイントですかね。「行け」なかったら(仕掛けの流れに乗れなかったら)、決して無理をするのではなく、次の効果的ディフェンスポジションに就く・・。そんなクリエイティブなプレー(判断・決断・実行)ができていると感じるのです。それこそ、実効ある守備意識じゃありませんか。サッカーの原則的なメカニズムに対する理解も含め、本当によくトレーニングされているチームです。
「行く&ステイ」の自分主体のバランシング感覚とも表現できそうな「高い守備意識」が、マリノスが展開する組織的な攻撃のベースにあるということです。それにしても、チームの守備意識を発展させただけではなく、間違った「ボールポゼッション発想」から解放し、タテ方向へも積極的にボールを動かすことで、本当の意味でのクリエイティブなボールの動きを発展させたマリノスの「ベンチ」は良い仕事をしていますよ、ホント。
彼らのサッカーは、確実に「実」が詰まりはじめていると感じます。もちろん、ボールがないところでのアクションの連鎖状態を向上させれば、もっともっと「クリエイティブで厚い攻撃」を仕掛けられるでしょうし、組織プレーと個人勝負プレーのバランス状況も発展するに違いない。いまの彼らの発展方向は、確実にそのベクトル上にあると感じます。
そんなことを書いているうちに、エスパルスのアン・ジョンファンが同点ゴールを決めました(素晴らしい森岡のタテパスと、それを受けたアレックスのスーパークロス!)。それでも、内容的には確実にマリノスが凌駕しているから、このレポートのニュアンスを修正するつもりなんてない・・と思っていたら、その数分後からマリノスのゴールラッシュがはじまってしまって・・。
こうなったら、昨シーズンのジュビロのように、前後期完全制覇をターゲットに(興行ファクターが強すぎるグランドチャンピオンシップをブッ飛ばす意気込みで!)、高い意識でサッカーをつづけて欲しいものです。
大混戦で、いよいよ面白くなってきたセカンドステージ。さて火曜日は、どのゲームを観戦しましょうか・・。