この試合で入った8ゴールのなかで、もっとも美しく、豊富なコンテンツが詰め込まれていたのがグランパスの三点目。前半35分にウェズレイが挙げたスーパーゴールです。そのプロセスを、さらっとリプレイしてみましょうか。
この流れるようなカウンターのキッカケになったのは、グランパス最後尾のパナディッチによるクリアボール。それに最初に触ったのは、マルケスと二列目コンビを組む岡山哲也でした。彼は、ボールを止めるのではなく、ダイレクトで、最前線のウェズレイに「はたき」、自身はそのまま右サイドのスペースへ飛び出していきます。ここでのキーワードは、「忠実なパス&ムーブ」。岡山からのダイレクトパスを受けたウェズレイもまた、岡山なが走り上がるタテのスペースへ、ダイレクトで「ツーのパス」を送り込み、そしてパス&ムーブで上がっていく。
パスを受けた岡山は、完全にフリーで、ヴェルディーの左サイドバック三浦淳宏へ向けてドリブルで迫っていきます。それに対し、ゆっくりと間合いを詰めていく三浦淳宏。
この時点で、別のゾーンでアクションを起こしたグランパス選手がいました。右サイドバックの海本幸治郎。彼は、自分の目の前15メートルで繰りひろげられている岡山と三浦の「にらみ合い」の前に広がる大きな決定的スペースへ向けて、全力ダッシュをスタートしたのです。もちろん、岡山を追い越すオーバーラップ。次の瞬間、ボールを持つ岡山が、自分の横のゾーンで待ち構えていたウェズレイの足許へ横パスを出します。ウェズレイは、まったくのフリー。あわてて、ヴェルディー最終ラインの米山がチェックへ向かいますが時すでに遅し。完全に余裕を持ってボールをコントロールしたウェズレイには見えていました。最終勝負シーンが、明確に脳裏に描写されていたのです。
米山が当たりにきた鼻先で、ダイレクトのタテパスを送り込むウェズレイ。狙うのは、もちろん、オーバーラップしてきた海本幸治郎が狙っている右サイドの決定的スペースです。海本のオーバーラップスピードは、最初からまったく落ちることはありませんでした。それが素晴らしかった。
もちろん三浦淳宏はタテパスに反応しましたが、わずかにタイミングが遅れたことで、海本に、自分の眼前スペースへ入り込まれてボールをコントロールされてしまいます。そこはもうペナルティーエリア内ですからね、海本の背後から追いかけるカタチになってしまった三浦には、もう何もできない。そして海本から、まさに余裕のラスト・グラウンダークロスが、ヴェルディーのゴール前でまったくフリーになったウェズレイに、ピタリと合わされたという次第。
ウェズレイをマークしていたはずの米山と林は、両人とも、ウェズレイがパスを出した時点でボールとシチュエーションのウォッチャーになり下がっていました。だから、パス&ムーブで忠実に動いたウェズレイが、まったくフリーで、ヴェルディーゴール前ゾーンに入り込んだというわけです。
フ〜〜、美しいゴールだった・・。何せ、ダイレクトパスが三本も四本もスペースへつながっていったのですからネ。もちろん、ボールがないところでのスペースを攻略する動き(決定的フリーランニング)との組み合わせ。またこのシーンでは、「三人目の動き」で決定的スペースへ入り込んでいった海本が決定的仕事をこなしたことも、その美しさが、より際立ったというわけです。
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私は、ネルシーニョ監督になってからのグランパスをジックリと観察するのはこの試合が初めて。そしてすぐに思ったものです。「コイツらは、アッというまにチームになってしまった・・ネルシーニョのウデを感じるな」。
チームになった・・?! もちろんそれは、攻守にわたる「組織プレーと個人プレーのバランス」や「互いの描写イメージの、有機的な連鎖レベル(イメージシンクロ状態)」等々の重要なファクターで、グランパスが大きく発展したことを意味します。
なかでも、彼らが展開する優れた組織ディフェンスには注目! まさに例外なく全員が守備に就くグランパスってな具合。まあ最前線に残るウェズレイは別ですが・・。相手ボールホルダーへのチェック&チェイス、次のパスレシーバーへのマーク、ボールがないところでアクションを起こす三人目、四人目の相手に対する忠実マーク等々、相手からボールを奪い返すという意気込みで、自ら仕事を探しながら「深く」ディフェンスに入り込んでくるのです。それはもう、意識付けの賜としか言いようがありません。だからネルシーニョに拍手!
グランパス選手たちが意識する基本的なプレーイメージはこんな感じでしょうか・・。
9人で守備ブロックを形成する・・そこでボールを奪い返したら、誰でも、前にスペースを見つけた者は確実にタテへ飛び出していく・・そんなオーバーラップ(リスクチャレンジ)の心理ベースは、もちろん、チームに深く浸透している高い守備意識・・厚い中盤守備ブロックが、仕掛けイメージのベースだということ・・それがあるからこそ、誰でも、後ろ髪を引かれることなく最終勝負シーンまで上がっていける・・また、チャンスがある者は誰でも、素早いタイミングでタテのスペースへ飛び出していかなければならないという合意があるからこそ、ボールホルダーにしても、素早いタイミングでタテのスペースへボールを動かすことができる・・等々。
一つの例ですが、こんなシーンがありしまた。一人足りないという状況にもかかわらず(後半10分に、酒井が二枚目イエローで退場!)、最終ライン選手がオーバーラップを仕掛けたということで、「これ」を取り上げておきましょう。後半38分のことです。ボールを奪い返したグランパスの大森(右のストッパー)が、そのままマルケスにポールを預けて、左サイド(彼からすれば逆サイド)の決定的スペースへ飛び出していったのです。
まあそのときは、自分を追い越していったマルケスへのタテパスを出して下がりましたが、その一連のプレーに、ネルシーニョの「意識付け」を強く感じていたというわけです。冒頭の、ウェズレイのスーパーゴールのシーンでは、右サイドバックの海本幸治郎が「行き」ましたし、それ以外でも、追い越しフリーランニングのオンパレードでした。
忠実さと、自分自身で仕事を探す創造性を兼ね備えた中盤での実効ディフェンスを基盤に、次の、素早い攻撃を仕掛けていくグランパス(基本的には、直線的なカウンターイメージでしょう)。そのタイミングとリズムがチーム内に浸透しているから、ボールなしの動き(特にタテスペースへの飛び出しフリーランニング)とボールホルダーが描写するイメージが有機的に連鎖する。だから、スパッ、スパッとタテパスが通る。
まさに、全員の高い守備意識をベースにしたクリエイティブな攻撃サッカー。魅力的です。
とにかく、グランパスが魅せた、攻守にわたる素晴らしい組織プレー(そのなかに個人勝負プレーも効果的にミックスする!)が、いたく気に入った湯浅でした。もう一度観てみたい・・と思わせてくれるサッカーじゃありませんか。
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さて、ヴェルディー。
立ち上がりは、例によっての緩慢なボールの動きでグランパス守備ブロックの餌食になっていました。また特に、その後のディフェンスがいただけない。もちろんそれには、素早いタイミングのフリーランニングスタートでスペースを突いてくるグランパスの攻めが素晴らしかったこともあありますが(そのタイミングのフリーランニングに、高い確率でパスがついてくるから始末に負えない!)・・。
それについて、試合後の記者会見でオジー・アルディレスが、こんなことを言っていましたよ。「守備の出来が本当に悪かった・・ディフェンスが不安定になった要因の一端は、オレが出した指示にもある・・とにかくラインを浅くして(押し上げて)攻撃的にボールを奪いにいけと指示したからな・・それはちょっとやり過ぎだったかもしれない・・それでも、そんな攻撃的な方向性はこれからも変えない・・何といっても、リスクチャレンジがないところに勝利もないのは事実だから・・」。フムフム・・。
たしかに発展ベクトル上には乗っているヴェルディー。オジーは、素早く(広く?!)ボールを動かし、人数をかけて攻めるような攻撃的サッカーを標榜しているとのこと。もちろんその表現は、(グラウンド上の現象では)様々な矛盾ポイントを内包せざるを得ないわけですが、それをオジーはどのように「整理」しているのか・・。そのことも聞いてみたい。もちろん試合後の記者会見じゃ無理ですから、機会を見てアプローチしてみることにしましょう。
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ところで、10月15日に、またまたボランティア講演をすることになりました。
それは、「川崎サッカー市民の会」という市民団体が企画・運営するサッカーイベントです。10月1日から、毎週水曜日の1900〜2030時まで行われるとのこと。その一環として、10月15日に、私も講演することになったという次第。「欧州サッカー事情」という私の講演の後には、浅野哲也さん(サッカー解説者、元日本代表)、植田朝日さん(日本代表サポーター)、大杉さん(俳優)等が参加するパネルディスカッションもあるそうです(私は最初の45分間の基調講演だけ)。
場所や、時間などについては「こちら」を参照してください。また、会場となる幸市民館のホームページもありますので・・。