湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第1節(2004年3月13日、土曜日)

 

やっとレッズが解放された(マリノス対レッズ、1-1)・・やっぱりジュビロは強い(ジュビロ対ヴェルディー、2-0)

 

レビュー
 
 良かった、良かった。やっとレッズが、高い守備意識に支えられたリスクチャレンジマインドを前面に押し出すことで、発展ベクトル上に乗った・・。とにかく私は、勝負の流れよりも、ゲームのコノテーション(言外に含蓄される意味・内容)ばかりに目を凝らしていましたよ。要は、選手たちの攻守にわたるプレー姿勢のことです。そしてゲームがはじまってすぐに「ホッ」と胸をなで下ろしていたというわけです。選手たちのリスクチャレンジの姿勢がいい・・(アレックスも含め!)クリエイティブで強固な守備意識がいい・・それがあるからこそ進化することができる・・。

 マリノスのアン・ジョンファンに、単独ドリブル突破からの見事な中距離シュートを決められる一分前、レッズのカウンターシーンで、右サイドからドリブルで仕掛けていく永井雄一郎を後方からサポートした選手がいました。守備的ハーフの酒井。そこから逆サイドでフリーになっていたエメルソンへボールが回ってビッグチャンスが演出されたというシーンです(結局は、エメルソンへのパスがオフサイドだった・・)。それこそ、レッズが発展ベクトル上に乗ったことの証だと感じていた湯浅でした。守備的ハーフとして、基本的には上がらないという合意ができているはずの酒井が、カウンターチャンスに後ろ髪を引かれない吹っ切れた押し上げを魅せたのですからね。

 それ以外でも酒井は、長谷部と頻繁にタテのポジションチェンジをくり返していました。それができる背景は、もちろん長谷部の攻守にわたる実効プレー。実効がともなった上下動というわけです。攻撃でも、守備でも、まさに一皮も二皮もむけた活躍を魅せてくれた長谷部。マリノスの遠藤が上がれば、タテにマークを受け渡そうなどとは考えず、最後の最後まで自己責任でマークをつづける・・。それこそ、ボールがないところでの最高のクリエイティブな守備プレーじゃありませんか。頼もしい限りです。

 また攻撃でも、自信あふれるリスクチャレンジプレーが目立つこと。その自信はどこから?? 能力の高さは折り紙つきだったわけですが、それを本当の意味で開花させるためには何らかの刺激が必要なのですが・・。もしかしたら「世界のギド」が、怒りや憎しみという人間心理のダークサイドパワーまでも総動員させるような強力な刺激を与えた?! まあ現状からすれば、ちょっとそれは考え過ぎでしょう。長谷部の「ブレイク傾向」は、もちろんライバル関係の為せるワザという視点もありますが、まず何といっても、昨シーズンまでの行き過ぎた「規制戦術」から解放されたというポイントが大きいに違いない・・。ということで、これもギドとゲルト・エンゲルスのコーチングコンビの功績ということです。この解放路線は今後も変わらないでしょうから、長谷部の「本物のブレイク」が楽しみで仕方なくなってきた・・。

 さてゲームですが、前半28分に、アン・ジョンファンのドリブルシュートが決まってから、局面での攻防は見応えあるとはいうものの、全体的にはちょいと膠着状態といった流れになっていきます。レッズがそれまで魅せつづけたタテのポジションチェンジとか、吹っ切れたオーバーラップなどの「縦方向のダイナミズム」にも、ちょいと翳りが見えてきましたしね。まあ、後半勝負ということでしょう。

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 後半、レッズが押し上げてシュートチャンスを作り出すという流れがつづいていた13分にレッズが同点にします。スローインからボールを持ったエメルソンの曲芸ゴール。まあマリノスの先制ゴールも、アン・ジョンファンの「個のチカラ」からのものだったからこれでおあいこ。さてここから勝負です。

 私は、後半はマリノスが実力を発揮してくるかなと思っていました。何といっても総合力ではマリノスの方が明らかに上ですからね。でもレッズが、ゲームの内容で支配されるという時間帯はほとんどありませんでした。だからこそこの試合内容は、高く評価するに値する・・。

 たしかに、ゲーム最後の時間帯は、マリノスの前への勢いを抑えきれない場面もあったけれど(ボールホルダーに対するプレスが不十分・・そこからのミエミエのパスレシーバーに対するマークもいい加減・・そんな気抜けディフェンスが重なった・・等々、この時間帯の反省材料は多い!)、ゲーム全体を通した内容は、高く評価できるものだったと思っている湯浅です。解放されたレッズ・・。観ていて希望を感じさせてくれるのが心地よい。

 とにかく、攻め上がっていても次のディフェンスで大きくバランスが崩れることがないというのが素晴らしい。それこそ選手たち全員の守備意識の高さの証明です。状況的にディフェンスに参加した者は、最後の最後まで「自己責任」でディフェンスをやり通すという意識があると感じさせてくれるのですよ(ミスなしだったかどうかではなく、とにかく選手たちが志向するサッカーイメージは高く評価できる!)。そんな心理ベースがあるからこそ、タテのポジションチェンジイメージも質の高いものになっていく。そんな「善循環」こそが、発展のための唯一のベースなのです。

 それと、アレックスと平川のタテの相互補完関係もうまく機能しはじめていると感じました。まあまだまだ不満はありますが、アレックスがボールのを持ってタメ、そのタイミングを見計らって、平川が長い距離を「走り抜けて」決定的タテパスを受ける・・なんていうタテのポジションチェンジイメージがなかなかうまく機能していると感じます。実際に、そのプレーから、何度もチャンスが生まれましたからネ(平川の突破には、確信という勢いが増している・・それも解放のポジティブ効果!)。

 また、この試合でも例によっての「特異な存在感」を誇示しつづけたエメルソンにしても、人数をかけた攻めの方が楽しいに違いありません。そこでは、単独ドリブル勝負だけではなく、高質なコンビネーションイメージだって実現できるのだから。とにかくレッズの攻めは解放された・・人数をかけた攻め・・そこでは、そのメンツが常に違うというクリエイティブな側面もある・・。

 選手全員の高い守備意識をベースに(それを背景にしたリスクチャレンジ姿勢の進展とともに)、レッズの全体的なサッカーが、大きく発展しようとしていること(心理・イメージ的に解放されたダイナミックサッカー)だけは確かな事実です。それこそギドがイメージする、攻守にわたるダイナミックサッカーということでしょう。たしかにリスクはあるけれど、リスクのないところに発展もなしですからネ。

 グラウンド上の現象は、指揮官(そのマインド)を映す鏡だ・・。そんな普遍的な格言を思い出していた湯浅です。あっと・・、ここでは、ギドとゲルト・エンゲルスコーチは「一体」だというイメージだから、「指揮官コンビ」ということにしましょう。この試合でレッズが魅せたサッカーは、彼ら二人の「共同作業」が上手く進行していることを如実に証明していました。

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 マリノスですが、どうも前回のゼロックススーパーサッカーの印象が深まっただけという結果だったように思います。

 タテへの仕掛けパスは増えた(またタテへ仕掛けていくタイミングもなかなか早く効果的!)・・とはいっても、タテへのフリーランがうまく噛み合わないことで仕掛けアクションが連続しない・・まあ彼らの場合、タテへボールを動かすプレーにしても、サイドからのクロスを上げるための準備というイメージなのでしょう・・もちろん(久保の決定的フリーランニングに合わせた)タテへの一発勝負パスの状況は違いますが・・だから本当の仕掛け状況として、サイドからのドリブル勝負(もちろんドゥトラ!)というイメージが先行する・・でも、レッズ守備ブロックも対処ゲーム戦術を練ってきていたから、うまく仕掛けることができない・・そんな展開のなかで、最後の15分間(後半30分からの15分間)だけは、全員の前への勢いが連鎖し、逆にレッズ選手たちの足が止まったことで、やっと迫力ある仕掛けを連続させられるようにはなったけれど・・。

 もちろんマリノスは(特に守備が強いという意味で)チカラのあるチームです。それでも、クロスからの仕掛けに引っ張られ過ぎるなど、まだちょっと「勝負に対する意識が先行し過ぎるチーム戦術」という傾向にあることも事実。実績は積み重ねているのだから、ここは一つ、サッカーにおける「美しさ(楽しさ・魅力的)の方向性」も意識してみてはいかが・・? 余計なお世話でしょうが・・。

 ここでは、マリノス対レッズ戦だけをアップします。この後、ジュビロ対ヴェルディーという注目カードをテレビ観戦するのですが、それに関しても、加筆するカタチでショートレポートしますので・・。

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 さて、ということでジュビロ対ヴェルディー。このゲームのキーワードは、何といっても活発なボールの動き。両チームともに、しっかりとボールを動かす(パスをつなぐ)という意識が徹底していますからネ。でも、「ボールの動きの本質的な意味」となると、やはりジュビロに一日以上の長がある・・。

 その「差」を生み出しているのは、もちろんボールがないところでのプレー(フリーランニングなどの仕掛けプレーイメージ!)の質。ジュビロの場合は、常に、ボールなしの動きがミックスするなかでボールが動かそうとしているから、決定的シーンも含め、スペース活用のレベルがものすごく高い。だから相手守備のウラをスカッと突くようなクリエイティブシーンをくり返し演出できるのですよ。それに対してヴェルディーのそれは、足許パスが多すぎるから、相手守備ブロックのウラを「パスで突く」というシーンがほとんど演出できず、結局は単独ドリブル勝負で突っかけていくしかない・・。もちろんそんな状況でも周りが動かないから、結局は詰まった状況でのごり押しになってしまう。彼らがボールなしで勝負の動きを仕掛けるのは、ワンツーや、完全にフリーな状況でスルーパスをレシーブするようなシーンくらいですかネ。だから単発。

 ヴェルディー選手たちは、本当に上手いし、オジー(アルディレス監督)の意識付けも徹底してきているから、サッカーの内容は確実に良くなっている。それでも、まだまだということです。それでもあれほどのテクニックを持つ選手たちのグループなのだから、もっと「ボールがないところでのクリエイティブな無駄走り」という発想を活性化することができたならば、それこそ夢のように美しいサッカーも夢ではないのに・・。惜しいですよね、ホント。もちろんオジーは、それを目指しているのだろうから、これからの動向に期待なのですが・・。

 攻撃と守備のイメージは表裏一体。そんなヴェルディー選手たちは、相手のボールなしの動きに対して、本当に頻繁にマークを受けわたしてしまう。世界のチームだったら、もうウラを突かれっぱなしになってしまうだろうけれど、まあそこは「J」ですから、ある程度は効率的に対処できるというわけです。それでも、長いリーグ戦では、その「守備イメージ」がマイナスであることは証明されています(昨シーズンの彼らは失点が多く、年間ではビリ3位!)。やはりここでも、ボールがないところでのクリエイティブな忠実(結果としての無駄)マークが、最後はモノを言うというわけです。

 藤田が本調子になってきた(それにつられて西のライバル意識も格段にアクティブになってきた)ジュビロは、本当に美しくて強いサッカーを展開している。まあ今シーズンの優勝候補の筆頭が彼らであることは、そのサッカーの質からも衆目の一致するところでしょう。「勝負強さ」という視点からは、マリノスもタメを張りますけれどネ。

 もちろん、解放されたレッズがどのくらい発展できるか・・ここのところ(体質的な?!)撞着(どうちゃく)状態に陥っているという印象が強いアントラーズが、堅い殻を破れるか・・ジェフは、コンプレックスの殻を破り勝者のメンタリティーを確立することができるか・・ステディー(安定)度ではリーグ随一のFC東京が、気持ちの良いぬるま湯から吹っ切れることができるか・・等々、様々な「ストーリー」を描くことができるわけですが・・。さて・・。

 



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