湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第11節(2004年5月22日、土曜日)

 

どうもメンタリティーがブレイクしないジェフ・・解放サッカーが完全に発展基調に乗ったレッズ・・(ジェフ対セレッソ、1-1)(ヴェルディー対レッズ、1-3)

 

レビュー

 

 どうもジェフはスロースターターだな・・ちょっと考えすぎているのか、立ち上がりの時間帯の彼らは、総じて攻守にわたってボールなしの動き出しが鈍い・・中盤守備でのチェイス&チェック&マーキング&勝負プレスアクションも鈍い・・だから次の攻撃に勢いを乗せることができない・・要は、サポートの動きが緩慢だから、人数をかけた仕掛けがままならないということ・・さて・・。

 既に何度か書いたように、ちょっとこのところ気になるジェフ選手たちの「妙な落ち着き」が気になっている湯浅なのです。走りを、より効果的・効率的なものへレベルアップしようという意図が空回りしているという印象も残ります。効率的に・・なんてことを意識した瞬間に、体力的にも心理・精神的にも厳しいボールなしのアクションが勢いを失ってしまうのは当然の流れ。もちろん考えることは大事だけれど、とにかくまずは動き出すことが大前提なのです。考えるのは走りながら・・。何せ人間は「弱い」ものだから、一度でも楽な方向に気付いたら、次の瞬間には元へは戻れなくなる・・そして、優れたサッカーはクリエイティブなムダ走りの積み重ねでしか実現できないという絶対的な事実が忘却の彼方へ・・。まあ、だからこそ、インテリジェンスという魅力的ファクターにも注目が集まるわけですがネ。そんなサッカーの深いメカニズムを理解し、常に強く意識しつづけ、そして実こうあるカタチで行動に移していくためには「アタマと強い意志」が必要なのですよ。

 ちょっと心配が先に立つようになっていたわけですが、そんなジェフも、前半の半ばを過ぎたあたりから徐々に調子を上げていきました。攻守にわたって、ボールがないところの動きが連鎖しはじめ、彼ら特有の攻守にわたる「ダイナミズム」がグランウド上に充満しはじめたのです。特に後半は、ジェフの独壇場になります。だからこそセレッソの先制ゴールが、あまりにも唐突だった・・。それは、ボールがないところでの選手たちの動きとボールの動きが連動し、そこにダイレクトパスが何本か重なるという素晴らしいゴールではあったのですがネ・・。それにしても素晴らしい一瞬のカウンターでした。そのゴールをみながら、「そうだよな・・そこは理不尽なサッカーだからな・・それでも、ここからジェフは勢いを倍加させるに違いない・・」なんてことを思っていました。

 そしてその7分後、今度はジェフの山岸が同点ゴールを叩き込みます。これまた、選手たちのダイナミックな走りをベースにした素晴らしいボールの動きから、最後は山岸の「個の勝負」がツボにはまったというゴールでした。組織プレーと個人勝負プレーが、得も言われぬほど美しいハーモニーを奏でたというわけです。でも結局、チャンスの「内容」ではジェフに軍配が上がるものの、決勝ゴールをたたき込むまではいけなかった・・という、ジェフにとって残念な結果に終わりました。

 内容で凌駕していたジェフにとっては悔しい引き分け。これで5月に入ってからの戦績は、0勝4分け1敗ということになり優勝戦線から完全に脱落してしまいました。やはりまだメンタリティーで甘いところがある?! 良いサッカーだと高い評価を受けることに慢心してしまい、ツイてないだけさ・・と、その評価に逃げ込んでしまうような甘えの構造にはまっている?!

 ちょいとハナシを変えましょう。いまハンブルクの高原直泰は、こんな状況に陥っています。プレー内容は決して悪くないけれど、チャンスにゴールを決められない・・。誰の目にも、絶対に決めなければならない場面でシュートをミスってしまうという現象がつづいているのです。これは、やはりメンタル的な部分がもっとも大きな背景要因でしょう。アチラのプロ選手たちは、社会的な生活文化環境も結果重視ということで、ユース時代から、本当に血反吐を吐くくらい厳しい環境でシュート練習を積みます・・だからチャンスでの確信レベルが違う・・だから、どんな状況でどのようなシュートを打つのが正解かを、考えることなく自然と身体が表現してしまうというレベルまで到達している・・だからシュート動作のブレの範囲も小さい・・なかには、シュートモーションに入ったときから、ゴールに入っているボールが見えるなんていう有名なゴールゲッターもいる・・そんなだから、より高い確率でシュートを決められるのも道理・・っちゅうわけです。シュートトレーニングにしても、社会的な生活文化を背景に、そのシリアス度が違うし、そこでの緊張感を演出する監督・コーチのウデも違いますからね。本場のプロたちは、子供のころから、そんなメンタル環境に身を置いているのです。それに対して日本選手は・・。

 まあとにかく、「高原は、芸術的にシュートを外した・・」なんて次の日の新聞に大見出しが載るような物理的・心理・精神的な環境だから、高原も、否応なく成長していくことでしょう。今日の夜中のブンデスリーガ最終ゲーム(ハンブルク対フランクフルト)が楽しみです。何せ相手のフランクフルトは、勝てば残留できる確率がものすごく高くなりますからね。まさにフランクフルトにとっては、肉を切らせて骨を断つ闘いというわけです。そんな厳しい環境で高原が活躍できたら・・なんて期待がふくらむのですよ。そしてそこで自分自身のウチに潜む甘さに打ち勝つことができれば、確実に闘いのメンタリティーは、一段階ステップアップすることでしょう。

 ジェフ選手たちが陥っている状況とオーバーラップするように感じたから、高原の例をあげてみました。でも、ちょっと違うかな?! とにかく言いたかったことは、たしかに最も大事なことは、まずプレー内容を充実させることだけれど(結果は後から付いてくるという前向きな背景意識!)、それがある程度のレベルまできたら、今度は死にものぐるいで結果を残すというサッカーができなければならないのもプロだということです。

============

 さて次はヴェルディー対レッズ。

 とにかくレッズが、成長ベクトル上に載っていることを明確に証明してくれたといった試合コンテンツでした。イメージとしては、先日帰国してからビデオ観戦したアントラーズ戦に通ずるものがある?!

 ヴェルディー戦は、個のチカラがあり、チーム戦術レベルも高い相手との対戦というだけではなく、エメルソンとアレックス抜きで戦わなければならないという興味もありました。そんな厳しい状況のなかでも彼らは、攻守わたって解放されたダイナミックサッカーを展開しつづけたのです。そこでは、誰一人として「アリバイプレー」にはしることなく、一人ひとりが、主体的に、積極的に仕事を探しつづけていました。

 その絶対的な背景要因は、選手全員の、忠実でクリエイティブな守備意識の高揚。チェック&チェイス&マーキング&インターセプトチャレンジ&集中プレス・・。そんな守備ファクターが有機的に連鎖しつづけます。

 一時期のレッズでは、ちょっと中盤守備が甘くなったことがありましたが、そんな逆境での刺激マネージメントがうまく機能したのでしょう、ここにきて、選手たちが仕掛ける自分主体の守備プレーが格段にアクティブになっていると感じました。様子見になることなく、常に、次、その次と、状況を予測して仕事を探しつづけるのです。

 サッカーでは、守備こそが全てのベース・・それがアクティブならば、次の攻撃も自然と活性化され、リスクチャレンジプレーもどんどんと飛び出すようになる・・なんていう原則を再認識していた湯浅でした。

 もちろんミスはあるけれど、それが次のプレーにネガティブな影響を及ぼすことがない・・いや逆に選手たちは、ミスを、自分たち主体で進歩するための有意義な学習機会にしてしまっている・・。ギド・ブッフヴァルトとゲルト・エンゲルスのコンビがよい仕事をしている証です。

------------------

 ミスですが、レッズ最終ラインのラインコントロールで、こんなシーンを目撃しました。前半の立ち上がり、つづけざまに二本も、決定的スペースへ抜け出したヴェルディー森本へのスルーパスを通されてしまったのです。レッズ守備ブロックが完璧にウラを取られた瞬間でした。抜け出してパスを受けた森本は完全にフリーで、レッズGKと1対1ですからね。レッズGK都築のファインプレーがなければ大変な劣勢に落ち込んでしまうところでした。

 これは、最終ラインを高く保とうとするトゥーリオと周りの呼吸が合わなかったために起きたミスでした。トゥーリオが、ウラを狙っている森本の動きをオフサイドにしようと、ちょっとポジションを上げたにもかかわらず、またトゥーリオの近くにいた味方も一緒に上げたにもかかわらず、遠いところにいたもう一人の味方選手が上げ切れなかったというわけです。だから、走り抜けた森本はオフサイドに引っかからなかった・・。

 これは、レッズ守備ブロック(最終ライン)のイメージ的なコンビネーションのミスだったわけですが、でもそこから選手たちは、オフサイドトラップが慎重になり、結局、疑わしい状況には「忠実さ」で対処・・というふうに調整してしまうのですよ。微妙なタイミングで走り抜けようとする相手選手は、しっかり最後までマークしつづけるという守備プレーを徹底するようになったのです。それも、選手たち主体で・・。素晴らしいことじゃありせんか。

 それにしても、トゥーリオが主導するオフサイドトラップ。それは、無闇に仕掛けない方が無難でしょう。もちろん、最後の瞬間に、スッと自分たちの位置を押し上げるオフサイドトラップと、最後の瞬間に対処の動きを「止める」という最終勝負のラインコントロールとは別物ですがネ。ラインコントロールの原則については、以前書いたコラム「フラットライン守備を語り合いしましょう」を参照してください。長いコラムですが、読んでご理解されれば、確実にあなたも「通」としてサッカーを深く語れるようになること請け合い?!

 たしかに、ラインコントロールは選手たちのなかで調整してしまいましたが、このことについては、ビデオを用い、再度チーム内で合意をとっておく必要がありそうです。

-----------------

 もう一つ、レッズが成長ベクトルに乗っていることを証明する事実があります。それは、ヴェルディーに「1-2」になる追いかけゴールを決められた後に、再び彼らを突き放す3点目をたたき込んだことです。

 たしかにヴェルディーの追いかけゴールを決められた前後の時間帯、レッズの守備ブロックは受け身の傾向が強くなりました。グラウンド上の現象としては、ヴェルディーにガンガン押し込まれているということになります。その現象の背景には、もちろん二つの側面があります。一つは、ヴェルディーが、脇目もふらずに全員で攻め上がり、人数をかけたパス回しを仕掛けてきたこと・・。もう一つは、その勢いに押されて、レッズ選手たちの足とアクション(意識と視線)が止まり気味になってしまったこと・・。

 とはいってもレッズ選手たちは、以前とは別人というところまで成長していました。思考停止状態で押し込まれつづけるのではなく、常に鋭い感覚を研ぎ澄ましながらチャンスを狙い、何度も危険なカウンターを仕掛けていったのですよ。守りに戻るだけではなく、味方がボールを奪い返しそうになった状況で、「ビシッ!」という鋭い音を発しながら守備ブロックから飛び出していくレッズの選手たち。平川が、酒井が、山瀬が鈴木啓太が・・。そしてボールを持ってからの、まさに後ろ髪を引かれることのない吹っ切れたリスクチャレンジ勝負。特に、最後尾から飛び出してタテパスを受け、そのままドリブルでシュートまで行った平川のリスクチャレンジプレーは、チームメイトたちに限りない元気と勇気を与えたことでしょう。拍手!!

 「あの状況で勇気をもって闘いつづけ、追加ゴールでヴェルディーを突き放せたことは本当に称賛に値する・・私は選手たちを誇りに思う・・」。ギドが試合後の記者会見でそう言っていました。シーズン当初と違い、受け答えする彼の態度にも本格感がそなわってきていると感じます。

-----------------

 さて最後に、気になって仕方ない山田暢久。このゲームでは、アレックスが不在ということもあって先発フル出場を果たしました。彼と、ヴェルディーの「元」天才、三浦淳宏とのバトルは見応え十分でした。山田は、相手が強くなればなるほどチカラを発揮しますからネ。逆に、相手を甘く見たときの気抜けプレーには猛省を促したいけれど・・。

 この試合での山田の出来はまあまあ。でも彼の場合は、「それ」で満足してしまうという甘えマインドが元凶ですからね。とにかく彼は、フザケルナよ! オマエの今日の出来じゃどうしようもないぞ!! なんていう刺激を必要としているのです。

 この試合でも、ビデオを何度もみせつづけることで、それも彼の「思考停止の無為な様子見状態」だけをピックアップして見せるのが、よい刺激になるでしょう。一瞬たりとも考えることを休まずに行動しつづける・・。それこそが、いまの彼の課題なのです。

---------------

 あっと・・ヴェルディーについてもちょっとだけ。

 試合後の監督会見で、オジー・アルディレスがこんなことを言っていました。「我々は、前半の半ばころからゲームを牛耳っていた・・それは、我々が標榜するパスゲームで中盤を完全に支配していたこと、そして後半だけで17本もシュートを打ったことでも証明されている・・」なんて言っていました。

 それに対して私は、思わず、「いま中盤を支配していたとおっしゃいましたが、その目的って一体何だったのですか?」と質問しちゃいましたよ。何せ、彼らの場合は、ボールを支配すること、パスを回すことの方が目的のように思えて仕方なかったものでネ。鈍重な動きのなかで足許パスをいくらつないでも、決定的なカタチでのシュートチャンスなど作り出せるはずがない。そして無理な状況からのゴリ押しシュートを放つのがオチ・・。

 あれだけ高い個人能力を揃えているのだから、もっとクリエイティブな無駄走りを積み重ね、人とボールの動きを連鎖させていけば、確実にインターナショナルレベルまでいけるのに・・。彼らには、それだけの潜在力が備わっているのです。しかし実際は・・。だから惜しくて仕方ない。

 高いキャパシティーを備えた個人事業主たちが、限界を追求しようとするのではなく、周りのレベルに合わせて「まあこの程度でいいや・・」と安易に妥協する姿勢には、常日頃言いつづけているように、まったく納得できない湯浅なのですよ。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]