湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第2節(2004年3月20日、土曜日)

 

完全にジュビロの実力勝ちでした(グランパス対ジュビロ、1-3)・・内容でもマリノスを凌駕した立派な勝利(ジェフ対マリノス、3-0)

 

レビュー

 

 04年シーズン開幕ゲームに勝利をおさめた両チーム。優秀なネルシーニョ監督の二年目シーズンという視点も含め、特にグランパスのゲーム内容に注目したい湯浅です。とにかく、優勝争いに参加するチームの数が多ければ多いほど、観察する側の興味レベルが高揚するというものじゃありませんか。だからこそグランパスには、内容的に、「優勝候補」という四文字の称号を獲得してもらいたい湯浅なのですよ。

 さて試合がはじまりました。左サイドでボールを受け、そのまま芸術的なループシュートを決めたマルケスの個人勝負ゴール(前半10分・・左サイドから蹴ったボールが、美しい円弧を描きながらファーポスト側のサイドネットへ吸いこまれるという芸術シュート!)の後は、徐々にジュビロがゲームを支配しはじめ、PKからの同点ゴール(前半22分)、素早いリスタートからの見事なコンビネーションゴール(前半32分)と、たてつづけにゴールを奪い、あっさりと逆転してしまうのです。

 そこでグランパスがゲームを支配されていった要因は、もちろん中盤守備での実効レベルの差。効果的に守備に絡めない・・絡まない岩本輝雄が中盤の二列目に陣取っているのだから、そんな展開の原因も推して知るべしといったところです。

 グランパスの中盤選手たちがマークの受けわたしでオタオタしている?! そうです、ボールがないところでのクリエイティブな積極フリーランニングをベースにした、素早く、広いジュビロのボールの動きに完全に振り回されているのですよ。もちろんその原因は、約一名、そこでの守備アクションに参加していないことです。サッカーは有機的なプレー連鎖の集合体。一人でも、積極的にディフェンスに参加しない選手がいる場合、中盤の全体的な守備ブロックバランスが崩れてしまうというわけです。まあ岩本輝雄には、その意味は分からないでしよう。

 それでも、ボール絡みのプレーには素晴らしいものがある・・だから、正確な評価が難しい(評価が分かれてしまう=期待するプレー内容がブレてしまう?!)。まあ、グランパスのネルシーニョ監督も、徐々に真実を把握してくるでしょう。攻撃と守備での目的を達成するために、この「上手いタイプの選手」が、総体的に、本当に実効ある貢献ができているのか・・。上手い選手と良い選手は、根本的な意味が違うものですからね。

 私は、ネルシーニョが「そんな岩本」を二試合もつづけて先発に起用したという事実の方に興味をそそられる。やはりコーチにとって、チーム内に「レベルを超えた才能」がいることは、様々な意味を包含する「挑戦」であり「脅威」なんだ・・なんてことを反芻していた湯浅でした。

 それにしてもジュビロの同点ゴールと勝ち越しゴールは素晴らしいの一言でした。まず同点ゴール。グラウのPKが楢崎に弾かれたけれど、そこに最初に飛び込んでいたのが中山ゴン! 中山は、グラウがPKを蹴るタイミングに合わせ、ペナルティーエリア際ではなく、その後方から助走をつけてボックス内に飛び込んでいきました。だから最初にこぼれ球に追いついた・・だから、余裕をもってシュートを決めることができた・・。本当に、中山ゴンに対しては(彼のプロ意識高さ・・個人事業主としての誇り・・自分自身のアイデンティティーを深化させようとする積極的なプレー姿勢には)アタマが下がる。

 また二点目のリスタートからのゴールも特筆モノの美しさでした。リスタートから右サイドでボールを持った西が、相手2人を引き連れてドリブルをつづける・・まさにスーパーな「勝負のタメ・ドリブル」・・その左側を中山ゴンが直線的にタテへ突っ走っている・・その状況で、相手のプレッシャーをモノともせず、どんどんとドリブルで突っかけていく西・・素晴らしい自信と確信を感じる・・。日本代表にも選ばれた西のシンガポールでの活躍が目に見えるようです。そして最後の瞬間、マークする相手の一瞬のスキを突いて、右サイドにいたグラウが、逆の左サイドのタテスペースへ向けて爆発スタートを切るのですよ。気が抜けていた(一瞬ボールウォッチャーになった?!)そのグランパスディフェンダーは、完全に置き去り。そしてその決定的スペースへ、スーパー・タメ・ドリブルをつづけた西から、ピタリのタイミング&コースのラストスルーパスが糸を引いたという次第。それにしても素晴らしいイメージ・シンクロプレーでした。それこそ「勝負はボールのないところで決まる」という普遍的コンセプトを地でいったゴール。鳥肌が立ちました。

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 後半、少しパワーアップしたとはいえ、ボールがないところでの動きが連鎖しないことで、ジュビロ守備ラインのウラを突いていけという雰囲気さえ出てこないグランパスの攻撃。対するジュビロは、回数は少ないけれど、その一つひとつの仕掛けの危険度は、もうグランパスの何十倍・・ってな雰囲気なのです。

 そんなじり貧の雰囲気のなか、ネルシーニョ監督がやっと決断しました(見切りをつけた?!)。岩本輝雄に代えて、岡山哲也をグランウドに送り込んだのです。岡山は、第一節のセレッソ戦(アウェー)でも、後半から登場し、ゲームの流れを逆転させただけではなく、結果でも逆転ゲームを完成させた仕掛け人だったとのこと。期待がふくらむじゃありませんか。

 でも結局、大幅なペースアップはかなわず、グランパスの仕掛けの意図がジュビロ守備ブロックに読まれ、効果的に対処されてしまう(前への勢いを効果的に抑制されてしまう)といったシーンがつづくことになります。結局、マルケス、ウェズレイによる個人勝負だけ・・。それに対してジュビロの仕掛けには、まさに必殺のコンテンツが詰め込まれている。そして後半26分、素晴らしいコンビネーションからの仕掛けでグランパス守備陣のファールを誘い、この日二本目のPKを奪ってしまうのです(今度はグラウが直接決めた!)。

 このシーンでも、グランパス守備陣が、ジュビロの「人とボールの動き」に翻弄され、アタックタイミング(マーキングタイミング)が完全に遅れてしまっていました。サッカーは、だまし合いのボールゲーム。相手を騙す(予測させない・・予測のウラを突く)ための、もっもと効果的なツールは、何といっても「人とボールの動き」なのですよ。もちろん最盛期のマラドーナだったら、彼の一挙手一投足で、相手守備ブロック全体を振り回してしまうんでしょうがネ・・。

 ジュビロの見事なゲーム内容に舌鼓を打ちながら、「美しく強いサッカーを体現できていているジュビロが順当勝ちをつづけることに異論はないけれど、でもヤツらがランキングでもダントツになってしまったら、それこそリーグの興味が薄れてしまう・・」なんていう不純なことにも思いを巡らせていた湯浅だったのです。

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 さて次は、ジェフ対マリノス。

 この両チームでは、ボールの動きの意味が・・、もっと言えば、選手たちが描写する基本的なパスのイメージが違うのかも知れない・・。そんなことを考えていました。

 ジュビロ同様、人とボールが動くことで、相手守備ブロックを「騙そう」とするジェフ。まあ、オシム監督がいうように、目指すは全員守備・全員攻撃のトータルフットボールということです。このポイントについて以前オシム監督が、彼が高く評価しているジュビロサッカーをこんなふうに表現したことがあります。あのチームは素晴らしい・・日本で唯一、8人で攻めて10人で守れるチームだ・・ってネ(まあ、もう何度も書きましたが、とにかく素晴らしく重要な表現だから、これからも機会があるたびにリマインドするつもりですので・・)。

 それに対し、相手守備ブロックの薄い部分を突いていくためとか、決定的なフリーランニングと一発ロングパスでウラスペースを突くため、はたまた、自分がドリブルで突っかけられない状況(詰まった状況)を逃れ、次の味方へ安全にボールをわたすためにパスをするというイメージのマリノス。まあ、表現がちょっと極端かもしれませんが、マリノスの場合は、組み立てのための「人とボールの動き」が、かなり省略されていると感じるのですよ。そして高めのサイドゾーンで勝負状況を演出して、そこからのクロスで勝負をかける・・。もちろん、ワンツーやボールの受けわたしなどのコンビネーションは両チームに共通した最終勝負ツールであることは言うまでもありませんがネ・・。

 昨シーズンは、タテパスも含め、組み立てと仕掛けのボールの動きがうまく機能していたというイメージだったのですが、どうもシーズンが終わってみたら、個のドリブル勝負(言うまでもなく、ドゥトラと佐藤由紀彦)による仕掛けとクロス勝負ばかりが目立っていたという印象が固定してしまったマリノスだったのです。

 ゲームは、開幕戦で痛い逆転負けを喫したホームのジェフが、ものすごく気合の入ったダイナミックサッカーでマリノスを押し込んでいくという展開で立ち上がります。それは、それは見応え満点のアクティブサッカー(ダイナミック守備をベースにした組織サッカー)。本当に、人とボールの動きが、有機的に連鎖しているのが目に見える。それだけではなく、ジェフの選手たちは、そんな仕掛けプロセスをしっかりとシュートチャンスへ結びつけてしまうのです。彼らは、プロセスに酔うなんてことはありません(オシム監督の意識付け!)。とにかく、プロセスは結果を残すためのものだという明確な意志を感じます。それこそ、勝者のメンタリティーの絶対的な基盤。昨シーズンの悔しい結果から学習した(オシム監督が、意識させ、学習させた!)ということでしょう。

 たしかにマリノスの守備ブロックは頑強ではあります。それでも、この日のジェフの攻めは、そのイメージのウラを突いていけるだけの十分なパワーを秘めていました。その源は、もちろんボールがないところでの動きと、それを明確にイメージしたパス。だから有機的なプレー連鎖・・。

 そしてシュートチャンスを作りつづけるジェフが、まさに順当という先制ゴールを決めます。羽生の中距離シュート(読者の方から訂正の指摘を受けました・・たしかに得点者は、羽生ではなく佐藤勇人選手・・佐藤選手、ゴメンナサイ!)。こぼれ球がつづいた状況で、よくボールを見て、吹っ切れてシュートを放った・・。蹴られたボールは、見事に、マリノスゴールの左上隅に飛び込んでいきました。チャンスメイクのコンテンツからすれば、まさに順当といえる先制ゴールではありました。ちなみに、前半のシュート数は、ジェフの14本に対し、マリノスは4本だったとか。

 そんな逆風のなか、マリノスの「個の仕掛け人の代表格」ドゥトラまでがケガを負ってしまうのです。実際に交代してのは、後半に入ってから。これでマリノスの仕掛けツールが半減したことだけは確かな事実です。状況は、一点リードしていることも含めで完璧にジェフに傾いている・・でも実際にそれを「結果」につなげることができるのか・・。見かけでは順風が吹いているように見える後半が勝負だと思っていた湯浅だったのです。でも、そんな集中したマインドで後半を観戦しはじめてから2分しか経っていないタイミングで、ジェフが追加ゴールを挙げてしまうのですよ。例によっての素早い展開から、右サイドをオーバーラップした坂本にパスがわたる・・そこで一瞬タメた(勝負イメージを描写した)坂本が、エイヤッと、ファーサイドスペースへ走り込むマルキーニョスめがけてクロスボールを送り込んだのです。素晴らしい意図が込められたクロスが、美しい放物線を描いていく。マルキーニョスにとっては、ヤッタゼ!という満足ゴールだったことでしょう。何せ、自分をマークすべき田中隼磨のウラを完全に突いたフリーヘディングシュートですからね。

 まあ、試合内容からしても、これで勝負はほぼ決着したな・・。とにかく、ボールを奪われてからのジェフ選手たちの戻りが早い・・相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェックが素早く厳しい・・それをイメージの起点にした「次のディフェンス勝負イメージ」が、間合いの空け方や、どちらのサイドからアタックを仕掛けるか等々、これまた高質・・そんなハイレベルな守備に対し、マリノスの攻撃は、まったくといっていいほどスピードアップすることができませんでした。タテへボールを動かすことができないのですよ。これでは、ジェフ守備ブロック全員が「前へ向いて」次の守備イメージを正確に描写できるのも道理・・。

 そんなジェフに対し、ドゥトラのケガ(後半から交代)や佐藤由紀彦の不調などで(いまのコンディションでは清水の方がいいという判断?!)、どうも昨シーズンのようなパワフルなクロス攻撃がままならないというマリノスなのですが、そこは岡田マリノスですからね、いつかは確実に復活してくるに違いありませんし、それが彼らの使命でもありすま。もちろんそこでは、ドゥトラと佐藤、はたまたユー・サンチョルが復調すればというのが絶対条件になるでしょうが・・。

 どうもマリノスについては、その攻撃コンテンツに変化が乏しいことで、コメントがネガティブ方向へ振れてしまう湯浅なのです。チカラ(個のチカラの単純総計力)はハイレベルなのだから、もう少し仕掛けの変化という視点で、選手たちが主体になって(?!)工夫するというプロセスもありだと思う湯浅です。もちろんそこでは、選手たち全員がシェアする「シンクロ・仕掛けイメージ」が重要な意味をもってきますから、うまく編集された戦術イメージトレーニングビデオなんかを駆使するのも一考の価値アリです。とにかく、有機的に連鎖するプレーが見られない今のマリノスが心配です。

 



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