湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第4節(2004年4月10日、土曜日)

 

数的に優位な状況を、限界まで活用できることこそトータルサッカーの真骨頂!・・(ジェフ対アントラーズ、2-1)

 

レビュー

 

 試合を観ながら、前節のジュビロ対レッズの試合を思い浮かべていました。この試合でも選手の退場劇がすべてだった・・。

 ジュビロ対レッズ戦では、エメルソン、このジェフ対アントラーズ戦では、前半33分にGKの曽ヶ端が退場になったわけですが、そこでジェフは、ジュビロと同様に、数的に優位な状況を最大限フルに有効活用したのですよ。それこそ、攻守にわたる組織プレーマインドがハイレベルであることの証・・。

 相手選手の一人が退場になった場合、逆に、数的に不利な相手にサッカー内容で上回られてしまうという不可解なゲームを経験したことはありませんか? その現象は、かなりの頻度で起きていると思いますよ。それこそ、サッカーが本物の心理ゲームであることの証です。要は、人数が足りなくなった方の危機意識が極限まで高揚するのに対し、数的優位に立ったチームのマインドが緊張感を欠いて減退をつづけてしまうということです。受け身の消極ビールスは、すぐさま蔓延してしまう・・。

 ただ、全員攻撃、全員守備というトータルサッカーを志向し、選手たち全員が、自分主体でそれに取り組んでいるジュビロとジェフは違う。彼らの場合、相手が一人足りない状況は、すぐさま「一人分のパフォーマンスアップ」に直結するのですよ。いや、もしかしたら、一人分プラスアルファーのパフォーマンスアップにつなげてしまうだけの心理ダイナミズムをも備えているかもしれない?!

 ジェフ対アントラーズ戦は、両チームともに緩慢なプレーが目立つカッタるい雰囲気で立ち上がりました。前半25分くらいまでは、まさに緩慢な膠着状態といったところ。両チームとも中盤ディフェンスでのプレッシャーが緩いから、どうしてもゲームが締まらないのです。しかし、前半も25分を過ぎたあたりから、徐々にホームのジェフがペースを上げていったと感じていました。だから私は、曽ヶ端が退場しなかったとしても、ジェフは、そこそこのダイナミックサッカーへと高揚していったに違いないと思っていました。そう・・第2節、マリノス戦でのスーパーサッカーのように・・。

 そしてジェフは、後半15分に先制ゴールを奪われたにもかかわらず、ゲームを完全に掌握しつづけ、後半27分、後半36分と、順当にゲームをひっくり返すのですよ。厳しい状況での逆転劇・・。それこそ、勝者のメンタリティーを確たるものにする(自信と確信レベルの高揚!)。

-------------------

 さてそれでは、相手の退場を、一人分を超えたプラスアルファーのパフォーマンスアップへつなげるられる背景は何なのでしょう。簡単にいってしまえば、彼らが、常に自分たち主体で、攻守にわたる積極組織プレーを繰りひろげられているから・・。

 例えば守備では、攻め上がってくる相手が少なくなっているのに対し、ジェフ選手たちは「いつものように」積極的に戻ってくるから、ボールホルダーの抑制や、周りの敵のマークなど、守備ブロックには余裕がある・・また攻撃では、前線に残っている相手アタッカーの数が少ないことで余裕ができた選手は、躊躇なく押し上げていくから(この意識が素晴らしい・・それこそ全員守備・全員攻撃イメージが徹底していることの賜!!)、攻撃でも人数をかけた組織的な仕掛けを展開できる・・なんていうことです。

 それにしてもジェフ選手たちは、よく考えている。走れ、走れ・・という物理的運動イメージばかりが先行してしまったけれど、このコラムでも何度も取り上げたように、サッカーでは、「走るという行為は、考えるという行為と同義」だという事実を、もう一度ここで強調しておきたい湯浅なのです。

 例えば中盤ディフェンスでは、互いのポジショニングバランスを考えながら、しっかりと確実にマークの受けわたしている。もちろん戻るのは当然なのですが、そこで戻りすぎたりすることが少なくなった(走りすぎが少なくなった!)と感じるのですよ。要は、守備意識に対する互いの信頼関係がより発展したということです。だからこそ、効果的なボールホルダーへのチェックや次のディフェンス勝負など、バランスの取れた守備が展開できている。走ることをいとわない(厭わない)からこその、実効ある効率ディフェンス。要は、選手たち全員が、その場で求められる守備プレーを効果的に実行できるまでに発展しているということです。それが、より強い相互信頼を形づくっている。ジェフでは、そんな心理的な善循環が回りつづけていると感じます。

 互いの守備意識と実効ディフェンス姿勢に対する相互信頼。それが、攻撃にポジティブな波及効果をもたらさないはずがない・・。

 ジェフ選手たちは、とにかく忠実にパス&ムーブをくり返します。優れたコンビネーションの基盤ということですが、例えば、その流れのなかで、守備的ハーフの佐藤勇人がアントラーズゴール前の決定的スペースへ飛び出していく・・そんなシーンでは、ワンのパスを受けたサンドロが、二列目のバックアッププレイヤーとして機能する・・また、ワンの横パスを出した羽生が、左サイドから、逆の右サイドまで走りつづけ、最後にフリーになったところで再びパスをもらう・・とか、そんな人とボールがよく動くダイナミックサッカーが展開されるのです。

 だからこそジェフは、数的に有利な状況を、100パーセント以上に活用し尽くすことができるというわけです。

 8人で攻めて10人で守れるような、全員守備・全員攻撃のトータルサッカー(オシム監督の表現)。本物になりつつある今シーズンのジェフ。楽しみで仕方ありません。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]