湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・ファーストステージの各ラウンドレビュー


 

第8節(2004年5月12日、水曜日)

 

素晴らしい内容になった後半・・両チームともに見所が豊富でした・・マリノス対エスパルス(1-1)

 

レビュー

 

 「まあ・・一つのキーワードで、われわれが目指すサッカーを表現するのは別にして、とにかく、守りを固める相手に対しても、しっかりと点を取っていけるようなサッカーを目指したい・・」

 いつのことだったか・・。試合後の監督会見で、岡田監督にこんなことを聞いたことがありました。「どうですかネ・・マリノスが目指すサッカーをうまく表現したコンセプトワードなんてアタマに浮かびませんか? ジェフのオシム監督は、全員守備・全員攻撃を意味するトータルサッカーというキーワードを挙げているのですが・・」。それに対して岡田監督が、例によってソツなく、冒頭のように答えてくれました。マリノスは優れた選手を多く抱えている強いチーム・・だから相手がしっかりと守りを固めてくるケースも増えてくるだろう・・だからこそ、相手守備ブロックをこじ開けられるだけのハイレベルな戦術的アイデアと積極的な忠実サッカーを追求する・・?! とにかく、岡田監督の真摯な回答姿勢にシンパシーを感じたものです。

 どうしてその記者会見のことを思い出したかって? それは、この試合コンテンツに、マリノスが目指すコンセプトイメージが明確に見えたと感じられたからです。

 ボールの動きが遅くなってもいいから(?!)しっかりとボールをキープし、フリーな味方へ確実に展開していく・・そして、味方の前線選手のマークが甘くなるなど、相手守備ブロックのスキを突いて素早くタテパスを出し、そこを起点にサイドへ展開し、クロスでの最終勝負をイメージしながら攻め込んでいく・・。

 もちろん、ボールの動きはジュビロの方が上だし、仕掛けの流れも、強引なドリブル勝負も多いから、どうしてもギクシャクした印象があります。それでも、クロスでの仕掛けやセットプレー勝負など、ツボにはまったらもの凄い迫力なのですよ。特にこの試合では、意図的なサイドチェンジが、何度も、何度も決まりまっていましたからね。

 ホームゲームにもかかわらず、相手に一点リードされているマリノス。後半の彼らが、すべてを賭して攻め込んでいったのは当然の展開でした。それでも猪突猛進というわけではなく、そこに洗練された意図が明確に見えていた・・。明確な仕掛けの意図。その一つが、決定的スペースを突いていく一発タテパスだけではなく、しっかりと準備された状況から仕掛けていくサイドチェンジだったのです。

 そんな仕掛けプロセスに対する選手たちのイメージシンクロレベルは、本当に高みで安定しています。トレーニング・コンテンツの質の高さが伺える・・。そしてそれが、同点ゴールにつながるのだから堪えられないっちゅうわけです。

 後半44分。右サイドで、サイドチェンジ気味の展開パスを受けてフリーになった奥が、迷うことのないスムーズな動作で振り返りながらクロスボールを送り込みます。狙うは、もちろんファーポストスペース。そこに坂田が飛び込んでいたという次第。この最終勝負プロセスもまた、基本的にはサイドチェンジですからね。右サイドにエスパルス守備ブロックの視線と意識を集中させ、逆サイドにスキを作り出す・・。マリノス選手たちにとっては、サイドチェンジという発想と、ファーサイド勝負というイメージが限りなく連動しているということでしょう。もちろん、ニアポストスペースでの勝負にも強いからこそ、ファーポスト勝負が活きるわけだけれど・・。

 何度も決定的チャンスを作り出した後半のマリノス。そこには、全員の意志が一点に集中するようなイメージ・ハーモニーがありました。

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 対するエスパルス。良くなっているとは聞いていたのですが、聞きしにまさる素晴らしい積極サッカーを展開しましたよ。もちろんそのベースは中盤ディフェンスの活性化。

 相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)への、忠実で厳しいチェイシング&チェック・・それを守備の起点にした周りの連動アクション・・それが、ボールの動きが停滞したときの集中プレスや、次のパスレシーバーへの効果的アタックのベースになる・・ってな具合なのです。彼らの中盤ディフェンスは、まさに有機的なプレー連鎖の集合体といった雰囲気でした。観ていて心地よいことこの上ない・・。

 シーズン当初は、外国人を軸にチーム戦術を組み立てていたアントニーニョ監督。でもそれがうまく機能しないとみると、すかさず若手を起用してチームを立て直した・・?! ジックリと時間をかけてエスパルスを観察していたわけではないから明言はできないけれど、このゲームでのサッカー内容を見て、エスパルスの好調さが、中盤に起用された若手選手たちの、特に守備でのダイナミズムが原動力だとすることに躊躇しない湯浅なのです。

 太田圭輔(右サイド)、和田拓三(左サイド)、杉山浩太と伊東輝悦の守備的ハーフコンビが形成する、強力な「中盤フォーの守備ブロック」。それに前線からアラウージョや久保山がどんどんと守備に参加してくるというわけです。特に、攻守にわたる太田、和田、杉山の若手トリオのプレー内容は特筆でした。私には、守備的ハーフとして鬼神の活躍をしたにもかかわらず、イエロー二枚で退場になってしまった杉山の積極プレーが強く印象に残っています。

 後半には押し込まれましたが、たまに繰り出すカウンターの鋭いこと。その仕掛けの中心は、やはりアラウージョのキープ力と展開力ですが、それに、太田や和田のオーバーラップが重なり合って相乗効果を発揮するのです。彼らが後半に作り出した3本のカウンターチャンスは、まさに絶品でした。とはいっても、やはりマリノス最終ラインの壁は厚かったですけれどネ・・。

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 高みで安定したチカラを発揮するマリノスに対し、チャレンジャブルな積極プレーを展開するエスパルスといった構図のゲーム。マリノスのサッカー内容が安定しているからこそ、彼らに対してどのくらいのサッカーが出来るのかが、相手チームのパフオーマンスレベルを測るうえでの評価基準になる・・なんて思っている湯浅なのです。

 この試合でエスパルスが魅せたサッカーには、まさに昇り竜の勢いがありました。その原動力になっているのが、若手選手たちの、攻守にわたる吹っ切れたチャレンジプレーなのだから観ていて気持ちがいい。

 内容的にも、様々なコンテンツ満載のエキサイティング&イントレスティングマッチでした。この日スタジアムに足を運んだ1万3千人あまりの方々は本当に得をした・・。

 



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