湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第1節(2004年8月14日、土曜日)

 

内容はさておき、とにかくチカラが上のチームが勝ち切ったというゲームでした・・(ジェフ対サンフレッチェ、2-1)

 

レビュー

 

 先ほど市原臨海スタジアムから帰宅し、軽く夕食をすませたところです。でもね・・さて、書きはじめようかというところで、ギリシャオリンピック男女柔道の準決勝がはじまってしまったのですよ。注目は、もちろん「谷さん」と「野村さん」。とにかく、この二人には優勝してもらわなければいけませんからね(とにかく優勝して欲しい!)。ということで、まず応援に専念することにした次第。そのとき、「ガンバレ!」というマインドの深層心理など探ろうとせず、とにかく単純に勝って欲しいというマインドで応援することに徹していた湯浅だったのです。とにかくこの二人は、日本全国に「感動というスピリチュアルエネルギー」を与えてくれますからね。そこでまたまた出てくる「アイデンティティー」というテーマ。

 アイデンティティーという言葉を広辞苑でひくと、「人格における存在証明または同一性・・ある人の一貫性が時間的、空間的に成り立ち、それが他者や共同体からも認められていること・・自己の存在証明・・自己同一性・・同一性・・」などと載っていました。難しいし分かりにくい。だから私は、「何でもいいから、とにかく誇りに思えるモノを持っていること(誇りを感じている瞬間)・・」なんていうふうに自分なりに定義しているのです。ということで、谷さんと野村さんの見事な決勝進出に、アイデンティティーが高揚しなかった人はいかなったに違いない?! そんな二人の闘いを観ながら、セカンドステージ開幕戦で勝利を収めたジェフユナイテッドも、応援されている方々のアイデンティティー源泉に違いない・・なんてことを思っていたというわけです。とはいってもジェフの試合内容は、誰もが納得するというモノじゃなかったですがネ・・。

 「試合中にアタマが痛くなった・・頑張って勝利したけれど、我々にとっても、観ている観客のみなさんにとってもフラストレーションがたまる苦しい内容だった・・この暑さのなかで十分に走り、闘うのは大変な作業だ・・」。試合後の、オシムさんのコメントです。

 それに対して「1-2」で負けたサンフレッチェの小野監督は、「創造的な(ココゾの場面で決定的を演出できるような)運動量では、やはりジェフの方が上・・またハードワークとタフさでも脱帽する・・」と素直に負けを認めていました。とはいっても、サンフレッチェも大きく発展していますよ。内容も、決して凌駕されたわけではなく、多くの時間帯で互角のサッカーが展開できていたのです。でも、たしかに、決定的な場面での選手たちの「イメージシンクロ・レベル」や、そこで共有されたイメージプレーを実行していくという意志のチカラではジェフに一日の長があるとは感じましたけれど。要は、肝心なところでの「僅差」が勝負を分けたということです。

 そのポイントについて小野監督は、「それは多分に心理・精神的な部分にかかわる・・それを強化するためには、何度も悔しい経験を積まなければならないのだろう・・」という意味のことを述べていました。たしかにジェフは、「勝者のメンタリティー」を強化するために、オシムさんが監督に就任してからの一年半、多大な「授業料」を払いましたからね。だからこそ、このような接戦を確実に勝ち切れるようになった・・。

 まあオシムさんは、「相手が強かったら、最後に同点にされたり逆転されたに違いない・・我々は決して強豪じゃない・・ジェフは、レギュラーが一人抜けても(この試合ではオリンピック代表の阿部とケガの羽生が不在)大きくパフォーマンスを落としてしまうようなレベルのチームなんだ・・」と、例によっての「現実的な」描写をしていましたがネ・・。とはいっても、ジェフが、勝者のメンタリティーも含め、着実にチカラを充填していることも確かな事実。私は、ココゾの勝負所での人とボールの動きのペース&パワーアップや、ドリブル勝負へチャレンジするときの迫力アップに、ジェフの確かな発展を感じていたのです。

 そのことは、ジェフの決勝ゴールのシーンに集約されていました。それは、中盤の高い位置でボールを持った村井と、味方選手たちの爆発アクションがピタリと共鳴したシーンのことです。フリーでボールを持つ村井(仕掛けの起点!)・・その瞬間、上がってきていたミリノビッチともう一人のジェフ選手が、右サイドの決定的スペースへ爆発ダッシュを仕掛ける・・次の瞬間、まさにイメージが正確にシンクロしたロビングのタテパスが、ミリノビッチのアタマに合わせられる・・同時に、逆の左サイドスペースには、ヘディングゴールを決めたマルキーニョスともう一人のジェフ選手が走り込んでいる・・そして最後の瞬間、ミリノビッチのヘディングラストパスが、ピタリとマルキーニョスに合った・・という次第。見事な決勝ゴールでした。

 それに対し、たしかにチャンスメイクの雰囲気は感じさせてくれるけれど、肝心の勝負所で「ボールと人のアクション」をうまくシンクロさせられないサンフレッチェ・・といったところ。それでも彼らが、着実な発展ベクトル上に乗っていることだけは確かな事実です。これからが楽しみじゃありませんか。

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 ところで試合後の記者会見。例によって、オシム監督に質問しちゃいました。

 「昨年と同じ内容ですが、この暑い気候でサッカーをやるのは非常にキツイ・・そこでオシムさんは、クレバーに走るというイメージを選手たちに植え付けたに違いない・・そのクレバーさを、キーワードで表現してくれませんか・・」

 フムフムという表情のオシム監督は、「賢いアクション・・エコノミックな動きの積み重ね・・自分勝手なプレーではなく、あくまでも組織的なハーモニーを意識した動き・・賢く先を読みつづけようとするプレー姿勢・・それがしっかりと機能すれば、40メートルのダッシュを半分にすることも可能・・要は、エネルギーをクレバーに蓄えるということ・・」と答えてくれました。フムフム・・でも、ちょっと概念的に過ぎる・・。

 選手たちが、クレバーに、経済的に走ることをイメージしはじめたら、レベルを超えて彼らの意識が高くなければ、次の瞬間には無為に足を止めてしまう・・そしてサッカー内容が地に落ちてしまう・・。そんな原則からしたら、たしかにオシムさんの言葉は矛盾するように思えないこともないけれど、その発言の背景に、「とにかく日本の暑さは尋常ではない・・ここで言ったクレバーさや経済的な動きとは、そんな普通ではない自然環境でサッカーをすることを大前提にしているんだよ・・もちろんそのベースには、気候的に落ち着いてきたら確実に限界まで走り切れるという自信がある・・我々は、自分たちの能力や自然条件に応じ、とにかく限界まで動くことでサッカーのダイナミズムを極限まで高められる自信があるからこそ、サッカーでは禁句に近い、クレバーさや経済性なんていう表現ができるのさ・・」という確信があるってわけでしょうね。記者会見でオシムさんがかもし出していた雰囲気には、そんな「危険な表現」でも、ポジティブ方向へ持っていってしまう(ポジティブに解釈させてしまう)パワーがあるっちゅうことですかネ。

 その他にも、オシムさんの発言には、メディアの報道姿勢に対する蜂の一刺し(皮肉)も含め、色々と深いコンテンツがてんこ盛りでした。そのことについては機会を改めて・・。まあ、オシムさんとは、ドイツ語で直に話すのがベストなんでしょうがネ・・。

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 こんなことを書いているうちにオリンピック柔道の決勝が行われました。そして、素晴らしい内容のダブルゴールド。谷さんと野村さんには、感動というエネルギーをもらいました。感動、そして感謝・・。

 



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