湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第4節(2004年9月11日、土曜日)

 

両ゲームとも、注目すべきコンテンツが満載でした・・(マリノス対ジュビロ、3-0)(ジェフ対ヴェルディー、2-1)

 

レビュー

 

 さて今日はダブルヘッダー。まず国立競技場でマリノス対ジュビロを観戦し、タイムアップと同時に愛車(オートバイ)にまたがって市原臨海競技場へ。天気も秋晴れに近い爽やかさだから、渋滞していたところを除いて、なかなか快適なライディングではあったのですが、でも、どうしても国立でのゲーム内容が頭にこびり付いて離れない・・本当にジュビロはどうしてしまったのだろうか・・。

 昨日(9月10日)発売された雑誌「サッカー批評」で、ここのところ「Jの主役」を張っているマリノスとジュビロを、データに基づいて分析した記事を発表しました(原稿を上げたのは一月以上前!)。その最後のところで、2002年シーズンのジュビロが展開したサッカーこそ、日本が目指すべき本物だと主張し、「ジュビロは、10人で守り8人で攻められる素晴らしいチームだ」という、ジェフの名将イビチャ・オシムさんの至言を紹介したのですが、そのジュビロが、先日のレッズ戦でもレポートしたとおり、完全におかしくなってしまったのですよ。

 その「おかしな現象」をピックアップしましょうか。まず何といっても中盤守備の「抑えが効かない」こと。相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェイス&チェックから演出する「守備の起点」をベースに、ボールがないところでのマークを忠実にこなしながら、次の集中プレスやインターセプト(相手トラップの瞬間を狙ったアタック)を狙いつづける・・という、ジュビロらしい守備プレー(選手たちの守備イメージ)が感じられない。いつもは、そんな守備プレーが、どんどんと有機的に連鎖しつづけるのに、この試合では、まったくといっていいほど受け身で消極的なディフェンスに終始してしまう・・。

 また攻撃でも、(それは守備でのネガティブ現象が現だろうけれど)彼ら特有の「動き」が影をひそめてしまっている・・とにかく人が動いていない・・全盛期から比べたら、まさに雲泥の差・・だからこそ「人とボールの動き」で相手守備ブロックのウラを突いていけない・・といった体たらくなのです。

 人とボールの動きは、本当に「微妙な感覚的バランス」の上に成り立っています。少しでも、本当にほんの少しでも「動きの流れに停滞感」が現れた次の瞬間には、ボールがないところでの動き(人の動き・バスレシーバーのフリーランニング)が悪影響を受けてしまうのですよ。そして、加速度的に人とボールの動きが縮こまっていってしまう・・。そうなったら簡単に相手守備ブロックの餌食になってしまうのも当然の帰結ですよね。ジュビロの動きを簡単に「読める」マリノス守備ブロック。そして、今までだったら考えも及ばない「低いゾーン」において、パスミスでボールを失ったり、相手に奪い返されたりしてしまうジュビロ選手たちは、心理的な悪魔のサイクルのワナにはまり込んでいく・・。

 対するマリノスは、例によって、堅実で勝負強いサッカーを展開します。このことについても「サッカー批評」を参照していただきたいのですが、今シーズンのマリノスは、より積極的で攻撃的なサッカーを展開しています。もちろん積極性のコアは、守備。昨シーズンまでは、より慎重に、どちらかといえば相手が仕掛けてくるのを待ち構えてボールを奪い返すというプレー姿勢だったのが、今シーズンからは、より高い位置でのボール奪取勝負を仕掛けるようになっているのです。

 特に、上野良治のクレバープレーが目立っていました。たしかに「忠実&ダイナミックなタイプ」の選手ではないけれど、この試合では、とにかくクレバーな「読み」が冴えわたっていたのです。もちろんそれには、両サイドだけではなく、遠藤や奥、坂田やアン・ジョンファンといったチームメイトたちが展開するファウンデーション守備プレー(ボールの動きの抑え)が機能的だったということもあります。とはいっても、彼の「読み能力」には特別なセンスを感じる・・。インターセプト(パスカット)によせ、アタックにせよ、彼がボールを奪い返すシーンが多いだけではなく、「そこ」が攻撃の起点になるシーンが続出するのです。上野が上がった場合、確実に「奥」が下がります(奥は、ドゥトラが上がった後のカバーリングもこなしていた)。この二人が展開しつづけた「あうんのタテのポジションチェンジ」は秀逸でした。

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 内容でも結果でもマリノスに凌駕されたジュビロ(シュート数は、16本vs6本!)。つい最近まで魅せてくれていた彼らの高質サッカーがまだ脳裏を占拠しているから、どうしても「このギャップ」に馴染めない。でも考えてみたら、一つの時代(スーパーチーム)の終焉って、本当に唐突に訪れるものだしな・・それこそ、サッカーが本物のチームゲームであることの証明だったっけな・・なんて、ちょいとメランコリックな気分になったりしていた湯浅だったのです。でも、「いやいや、そんなことはない! ジュビロにはもっと頑張ってもらわなければ!」なんてすぐに思い直しましたけれどネ・・。

 とはいっても、本当に一つの時代が終わりつつあるのだったら、この時点で既にやっておかなければならないことがあります。それは、「2002年シーズンにジュビロが展開したスーパーサッカー」を確実に継承していく作業です。そのために、数字データや文章だけではなく、「映像」なども駆使して彼らのサッカーコンテンツを記録し、プロモートしつづけなければなりません。もちろんそれは、サッカー協会ゃJリーグの仕事だと思うのですが・・いかが・・。

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 さて次はジェフユナイテッド対ヴェルディー。

 まず全体的な印象からいきましょう。それは、「チームとして優れたサッカーを展開しているジェフは、徐々に勝者のメンタリティーにも実が充填されはじめている・・」、また「ヴェルディーは、ちょっと良くなる傾向にあるとは思うけれど、それでも、もっともっと人とボールの動きの量と質を改善しなければならない・・」といったものですかネ。

 特にジェフについては、(ちょっと失礼ですが・・)あの才能レベルにしては本当にサッカーの質はいいと思いますよ。まあ、いつも書いていることですが、とにかく、一人の例外もなく全員が、攻守にわたってねばり強く「仕事を探しつづける」など、素晴らしく積極的なプレーを展開しつづけるのですよ。実際には出来なくても、彼らの身体からほとばしる「やろう・・やりつづけるゾ・・」といった強い意志(プレー姿勢)に対して、敬意とともに、最高のシンパシーを感じている湯浅なのです。

 前半は拮抗したゲーム内容。そのなかでも、攻め切る勢い(決定的シュートチャンスを作り出す勢い)では、やはりジェフに軍配が上がります。ジェフが、攻守にわたって、あくまでも組織プレーを前面に押し出すのに対し、ヴェルディーは、あくまでも「個」が主体。ヴェルディー選手たちは、それぞれの「局面勝負プレー」を積み重ねることで最終勝負シーンを演出しようというイメージなのです。

 ヴェルディーの選手たちは、一人ひとりは本当に「上手い」。でも上手さは、やはり組織プレーのなかで発揮されるべきものです(いつも書いているエスプリ組織プレーとして!)。彼らのプレーを観ていると、どうしても、「簡単にパスを出しておけよ、オマエ〜ッ!」なんていう声が出てしまうのですよ。要は、シンプルな仕掛けパスを出し、忠実にパス&ムーブを仕掛ければ確実にチャンスになるという場面なのに、どうしてもボールをこねくり回してしまう傾向が強いということです。でも一人だけ、桜井のイメージだけは「個のプレーと組織プレー」がうまくバランスしていると感じましたけれどネ。それにしても、平本にしても、小林慶行にしても、三浦淳宏にしても、林健太郎にしても、とにかく上手い、上手い・・だからこそ、惜しい、惜しい・・。

 後半の展開は、PKを取られた坂本が退場になるまで、完全にジェフのものでした。それにしても坂本。PKを取られる2分前に魅せた単独ドリブルシュート(2-0となる突き放しゴ〜〜ル!)は見事の一言でした。まさにマラドーナ(ちょいとこの頃マラドーナの引用が多すぎるかも・・マラドーナの価値を下げつづけている湯浅?!)。そしてその2分後の、PKとレッドカードになるファール・・。フムフム・・。

 もうかなり前のことになりますが、ある雑誌のコラムでこんな文章を発表したことがあります。それは、「ゴールや決定的パスなど、結果につながる素晴らしいプレーをした選手は、次の数分間は要注意・・それは気持ちが昂揚しているから、プレーが積極的になり過ぎる傾向があるということ・・特にディフェンスに注意・・オレがボールを奪い返してやるというイメージが強すぎ、つい入れ込み過ぎて不用意なファールをしてしまう・・それがペナルティエリア内だったら・・」ってなことでした。

 でもこの坂本のファールシーンは、そんなにヒドくはなかったから、「気分昂揚の不用意ファール」とは言えないと思いますがネ・・。ビデオで見たのですが、あのシーンは、まあイエローが妥当でしょう・・。

 そしてジェフは、選手一人とワンゴールを失い、その後は10人でプレーしなければならなくなってしまう・・。そこで私が注目していたのが、彼らの勝者のメンタリティーだったというわけです。そこで心理・精神的に不安定になり、自信を失ってやり込められてしまうようでは、セカンドステージ優勝なん望めない・・というわけです。

 たしかに、何度か危ない場面は作られました。それでも彼らは、最後まで立派に守りつづけましたよ。たしかに、何度もミスはあったし、簡単に当たりにいったことで、シンプルなコンビネーションで置き去りされてしまうといったシーンはあったけれど、それでも決して諦めずにターンし、次の守備に就く。そんな「その次の積極プレー」があったからこそ、最後まで自信を失うことなく守り切ることができた。そこでは、アリバイプレーなどとは無縁の、究極のダイナミック守備プレーが展開されたのです。

 試合後のインタビュー。相手はオシムさんですからネ、やっぱり質問したくなる・・。「この試合では、数的に不利になった後の素晴らしいプレー(守備プレー)姿勢に、ジェフ選手たちの勝者のメンタリティーが発展したと感じたのですが、いかが・・? またオシムさんが考える勝者のメンタリティーとは? キーワードで表現できないでしょうか?」。

 それに対してオシムさんが、「メンタリティーは積み上げるもの・・それも、人によって表現の仕方や意味も違う・・それは一朝一夕では出来ない・・」などと、素っ気ない返事。でもつづけて彼が「今日のような試合展開では、自分たちを信じることが(勝者の)メンタリティーにつながるのだろう・・」と言ったから、「そう・・その自信こそが勝者のメンタリティーと同義でしょ・・」と聞いたところ、「まあ・・そうだね・・たしかに自分を信じ、チームを信じることは大事だ・・でも信じすぎても(過信は)ダメだよ(逆効果だよ)」だって・・。とにかくオシムさんは、面白いし深い。

 あっと、私が聞いた最初の部分(数的に不利になった後の素晴らしいプレー姿勢にジェフ選手たちの勝者のメンタリティーの発展を感じた・・という部分)に対し、オシムさんはこんなことも言っていたっけ。「周りの人は、いろいろ褒めてくれるけれど、監督の仕事は、常にチームを前進させることなんだ・・満足してしまったら、そこで進歩が停滞してしまう・・監督は、常に問題点や課題を探し、それを選手たちに明確に示すことが仕事・・良い部分は、良く見え過ぎることもある・・それを(確実な評価基準で?!)抑えるのも監督の仕事なのさ・・」。

 



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