湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第5節(2004年9月18日、土曜日)

 

例によって、文章の構成なんて全く関係ないランダムなテーマピックアップになってしまって・・(ジュビロ対アントラーズ、4-4)(レッズ対アルビレックス、4-1)

 

レビュー

 

 いや、すごいエキサイティングマッチでした。たしかに、鈴木隆行に引っ張られたアントラーズが魅せた執念の同点劇はすごかったけれど、でもこのゲームでの注目ポイントは何といってもジュビロの復調でしょう。

 2002年の絶頂期を演出した鈴木政一監督が復帰したジュビロ。この一週間の鈴木監督は、選手が主体という心理環境の整備(?!)と、ディフェンスの建て直しに全精力を注ぎ込んだとか。まさに大正解。ジュビロが展開する、素早く、広い人とボールの動きの絶対的な(物理的・心理的な)ベースは、何といっても攻守にわたって積極的に仕事を探しつづけるプレー姿勢ですからね。もちろん、そこでのイメージ的なスタートライン(心理的な原動力)は、相手からボールを奪い返そうとする積極的なディフェンスというわけです。守備こそ、全ての出発点・・。このゲームでジュビロが魅せた積極サッカーは、彼らの復調を予感させるに十分なコンテンツを包含していましたよ。フムフム・・。

 そのあたりのメカニズムについて、ジュビロ絶頂期の2002年4月に、サッカーマガジンにこんなコラムを発表しました。タイトルは「中盤のメカニズム・・バランス感覚の本質」。

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(2002年4月19日に仕上げたサッカーマガジン用コラム)

 「誰が攻めにいっても、一人か二人は、次の守備に備えて残っているという約束事がウチの中盤にはある・・」。J第6節、ジュビロ対アントラーズ戦の後に服部が語っていた。たしかに今のジュビロ中盤は、高質なバランスを魅せている。

 ある読者の方からメールをいただいた。「ジュビロは強いチームだから、名波がいなくても勝てます。でも彼が入ると、サッカーが全然違いました。彼がいることでポジションチェンジが頻繁におこなわれ、何故こんなところに服部選手が?っていうシーンが続出。そして見ていて楽しい。私は、ボールばかりに目がいってしまうサッカー素人ですが、名波選手が入るだけで、ジュビロのサッカーが本当に楽しいものに変身してしまうって感じるんですよ」。フムフム、示唆に富んでいる。まさに、そこにサッカーの楽しさ、面白さがあるのだろうな・・。

 イレギュラーするボールを足で扱わなければならないサッカー。状況は瞬間的に変化してしまう。だから最後は、瞬間的な判断と決断で積極的に行動できなければならない。そこに、「自由なリスクチャレンジ」に対する柔軟な支援イメージが確立していれば、それぞれのプレーの「有機的な連鎖」も大きな広がりをみせる。

 美しい機能性を魅せるジュビロのポジションチェンジ。その本質は、何といっても、自分主体のバックアップ意識。それは、高い守備意識とも言い換えられる。守備ができない、やらないミッドフィールダーは、現代サッカーでは通用しない。ボクが言っているのは、「実効」ある守備のこと。アリバイ守備では、味方にとって邪魔なだけの存在だ。特に前気味の中盤。そこには、名波、藤田という「本物の良い選手」がいる。観ていて楽しいはずだ。

 ボールを奪い返した選手が、そのまま攻撃に参加していくのは自然だし、チャンスになる可能性も大きい。でもその選手が、自分の基本的なポジション(タスク)に対して後ろ髪を引かれてしまったら、攻撃が遅れ、相手に守備組織を整える時間的余裕を与えてしまう。だからこそ、互いのバックアップに対する相互信頼が重要な意味をもってくるのだ。

 「このまま攻め上がっても、必ず藤田や名波が後方をカバーしてくれる!」。そんな確信をベースに、ボールを奪い返した福西が、守備アクションの成功によって倍加したエネルギーを、そのまま次の攻撃に傾注していく。そして、相手守備にとって「見慣れない顔」が、最終勝負シーンに唐突に出現してくる。攻撃の変化を演出する、心理的な「相互補完メカニズム」。

 ジュビロの中盤は、互いに「使い、使われる」という中盤メカニズムに対する深い理解をベースに、特にボールに絡んでいない状況での、攻守にわたる「仕事を探す姿勢」が素晴らしい。それこそ、バランス感覚と呼ばれるものの本質なのである。(了)

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 この試合で私が注目したのは、冒頭で述べたように、攻守にわたるイメージが再び有機的に連鎖しはじめたジュビロというポイントでした。試合の立ち上がりではまだサッカーがぎごちなかったジュビロでしたが、積極的なディフェンスを基盤に、一人の例外もない全員が攻守にわたって仕事を探しつづけたことで、ゲームの経過とともにサッカーコンテンツが高揚していったのです。要は、ゲームのなかで自信と確信を取り戻したジュビロ選手たちというわけです。そして彼らは、これまで落ち込んでいた悪魔のサイクルを断ち切り、再び「善循環サイクル」に乗ったのです。そんなジュビロを観ながら、やはり勝負のゲームほど効果的な学習機会(発展機会)はないという事実を反芻していた湯浅でした。

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 さて、レッズ対アルビレックス。結局、内容的にも数字的にもレッズが圧倒したわけですが、そこに至るまでのプロセスには、なかなか興味深いコンテンツもありました。

 もちろんアルビレックスは守備を固めてくる・・最前線に三人(上野、エジミウソン、ファビーニョ)を残し、その他は全員が「戻り気味のディフェンス」を展開する・・戻り気味のディフェンス?・・要は、次の仕掛けをイメージした前でのボール奪取勝負ではなく、とにかく攻め上がってくる「赤い波の勢い」を抑制することに主眼を置いたディフェンス姿勢ということです・・もちろんベンチの意図は、後方を固めることでなるべく中盤で逃げパスを出させ、それをカッさらってカウンターを仕掛けるというイメージなのでしょう・・。

 立ち上がりの時間帯、そんなアルビレックスの意図が殊の外うまく機能します。まあ、立ち上がり数分に偶発的に作り出したチャンスを除き、効果的なカウンターを仕掛けるというところまではいかないにしても、レッズ選手たちのフラストレーションをつのらせ、プレーを注意深く「小さく縮め込める」というアルビレックスの心理作戦は、かなりのレベルうまく機能しつづけていたと思うのですよ。

 試合後の反町監督も、レッズの守備ブロックは、最終ラインと中盤ラインのディフェンスイメージが噛み合わないことがある・・そこがチャンスだから、ガツガツとボールを奪いにくるレッズの中盤ディフェンスを外したりかわしたりできれば(最終ライン前のスペースを活用するような)チャンスになるはずだったけれど・・と、意図を述べていました。もちろん、「でも、そのウラ取りイメージはうまく機能しなかったけれどネ・・」とすぐに付け加えてはいましたが・・。

 この記者会見でも、反町監督の活き活きとしたパーソナリティー&インテリジェンスは、例によって輝いていましたよ。彼は優秀なサッカーコーチです。ところで・・会見場を後にしながら、もう少し喋りたそうだった反町監督。色々と質問すればよかった・・なんて後悔していました。まあ、次の機会もあるでしょうから・・。とにかく、主体的で活きのいいアルビレックスのサッカーを高く評価している湯浅なのですよ。それこそ、監督の優れたウデが明確に感じられる選手たちのプレー姿勢というわけです。グラウンド上の選手たちのプレーコンテンツは、監督(のウデ)を映す鏡・・というわけです。

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 さて、絶好調のレッズ。とはいっても立ち上がりは、上記のように、アルビレックスが展開する忠実でダイナミックな守備に四苦八苦しましたけれどネ。前節の大分戦同様に、攻撃が「前後分断」になってしまっていたのですよ。流れのなかで組織的にチャンスを作り出せず、結局「個の才能」に頼る仕掛けになってしまったのです。

 でも今シーズンのレッズは、そんな悪い流れのなかでもゴールを決められるだけの効果的手段を持っています。セットプレー・・。なかなかよくトレーニングされていますよ。何種類もパターンがあるようですしネ。

 セットプレーは、サッカーのなかで唯一、正確にプラニングできる仕掛けプロセスです。先制ゴールは、小兵の田中達也のアタマを活用したファーポスト勝負。二点目はニアポスト勝負(オウンゴールを呼び込んだ!)。それ以外でも、何度も「危険なセットプレー」を披露していたレッズ。そんなイメージシンクロプレーも、日常トレーニングの賜というわけです。

 そして追加ゴールが決まったあたりから、本来の(今シーズンの彼らがイメージする)ダイナミックなレッズサッカーが観られるようになっていきます。まあそれには、攻めなければいけないアルビレックス守備ブロックが「開いた」ということもありますけれどネ。とにかく縦横無尽のポジションチェンジが冴えわたるレッズ。それこそが、今シーズンのレッズを表現するキーワードなのです。トゥーリオが、長谷部が、ネネが、山田信久が、アレックスが、鈴木啓太が、チャンスを見計らってオーバーラップし、逆に田中達也や山瀬功治が積極的にディフェンスに下がってくる。どんどん繰り出されるタテのポジションチェンジというわけです。それでも次の守備でのポジショニングバランスや人数バランスが崩れることがない・・。フムフム・・。

 ところで、そんな創造的なタテのポジションチェンジをコントロールする演出家でもある山瀬功治がケガで退場してしまった。大事に至らないことを願って止まないのですが、どうも状態は悪いらしい・・。

 中盤から最前線ゾーンへと、幅広く動きつづけながら、攻守にわたって最高の実効プレーを魅せつづけていた山瀬功治。「山瀬、長谷部、鈴木啓太のトライアングルが、いまのレッズの好調を支える原動力・・その中心的な存在の山瀬が抜けたら、かなり大きな痛手ではないか・・サッカーでは、一つの歯車のかみ合わせが少しでも悪くなったら、それがチーム全体の機能性の崩壊に直結してしまうという現象がよくある・・それに対する危機感は?」という私の質問に、ギド・ブッフヴァルト監督が、「たしかにいまの山瀬は、攻守にわたって素晴らしいプレーをつづけている・・いま山瀬には代替はいない・・それでも我々は優れたチームだし、良い選手も多く抱えている・・だから彼の離脱がチーム崩壊に直結することはない・・」と答えていました。

 でも私は、山瀬の離脱は本当に痛い・・それによって、いまは素晴らしく回りつづけているレッズの機能性が大きく損なわれるかもしれない・・と思っているのですよ。それほど山瀬のプレーコンテンツは素晴らしいのです。

 この試合では、山瀬が負傷退場した後を受けて二列目(攻守にわたって限りない自由を与えられるポジション!)に入ったのは山田信久。まだまだ、攻守わたって仕事を探しつづけるというプレー姿勢に課題が見えるし、プレーの実効レベルも山瀬には及ばない。難しいネ。まあ、トライアングルの一角としての「山瀬の穴」を埋められるとしたら長谷部しかいないだろうし、それで空いてしまう長谷部の守備的ハーフポジションを代替できるとしたら酒井しかいない・・とは思うのですが、さて・・。

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 明日は、サッカーマガジンの依頼で、ギド・ブッフヴァルト監督と対談することになっています。ハナシが終わったらその場で原稿書き。ということで、日曜日の試合は(特にジェフのゲーム!)、日を改めてビデオで確認しようと思っています。悪しからず・・。

 



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