湯浅健二の「J」ワンポイント


2004年J-リーグ・セカンドステージの各ラウンドレビュー


 

第9節(2004年10月17日、日曜日)

 

レッズにとっては、現状を正確に把握するための有意義な学習機会・・その意味で、素晴らしいサッカーを展開したマリノスに感謝しなければ・・(レッズ対マリノス、0-0)

 

レビュー

 

 「たしかに怪我人は多いけれど、とにかく前向きにプレーするという意識を高揚させることに努力した・・前半に耐えていれば、必ず後半にはチャンスがめぐってくる・・ただ、実際にめぐってきた決定的チャンスを決め切れなかったのは本当に残念・・とにかく選手たちが、チーム一丸となって頑張っていたプレー姿勢を誇りに思っている・・」。試合後の、マリノス岡田監督の談話です。

 まさにその通り。松田、那須、遠藤、上野、久保という主力を欠いたマリノスでしたが、決してレッズの勢いに呑み込まれることなく、最後までしっかりと主体的に闘い抜いただけではなく、後半には、素早く組織的な仕掛けをベースに何度も決定機を作り出しもしました。まさに立派な闘い。たしかに強いチームです。

 この試合でのキーポイントは、マリノスが、忍耐強くレッズの良さを抑制しつづけたこと。要は、レッズ得意のカウンター気味の仕掛けの流れを断ち切るだけではなく、エメルソンや田中の個のドリブル勝負を効果的に抑えつづけたということです。

 マリノスの忠実でクレバー、そしてダイナミックなディフェンスを観ながら、セカンドステージでレッズが唯一負けたFC東京戦の記者会見において、FCの原監督が「今日の試合は、とにかく攻守の切り換えのせめぎ合いになる・・」という上手い表現を使っていたのを思い出していました。この試合でも、まさに「それ」が絶対的なキーポイントになったというわけです。

 マリノス選手たちが魅せつづけた、ボールを奪われた次の瞬間における効果的な局面ディフェンス・・。それがうまく機能したからこそ、レッズ得意のカウンター(タテ方向への素早いボールの動き)がうまく機能しなかった。逆にマリノスからすれば、エメルソンや田中がパスを受けて振り向き、そのままドリブルで勝負を仕掛けていけるような状況を作らせなかったということです。マリノス守備ブロックは、忠実なタイトマークをつづけることで常に彼らのプレーを「遅らせ」、そこに素早く味方が協力プレスに駆けつける(効果的なカバーリング網を敷いてしまう!)。素晴らしく効果的な局面ディフェンスでした。

 それにもう一つ。マリノスのディフェンダーが、エメルソンや田中のプレーのクセ(勝負ドリブルのクセ)をしっかりと把握していたことも大きい。まあここで具体的には述べませんが、とにかくエメや田中はやりにくいことこの上なかったことでしょう。それもまた事前のイメージトレーニングの勝利というわけです。

 そのことについて、試合後の記者会見で、ギド・ブッフヴァルト監督にこんな質問をしてみました。「どうもこの頃のレッズの攻めでは、個のドリブル勝負が目立ち過ぎる・・だから、この試合のようにソコを抑えられてしまったら、うまく仕掛けが回らなくなってしまう・・個のドリブル勝負がだめなら組織パスプレーで崩していくという柔軟な発想が足りないように思うのだが・・」。

 それに対してギドが、「組織的な仕掛けについては、もちろんイメージさせているけれど、この試合でのマリノスの守備ブロックが非常にうまく組織的に守っていたこともあって、いまく抑えられてしまったシーンの方が多かった・・もっとサイドを使って攻めようとは言っていたけれど・・とにかくマリノスは、素晴らしいディフェンスを展開した・・」と答えていました。

 要は、抜群の個の勝負能力という「レッズが抱える両刃の剣」が、素晴らしいコーディネーターだった山瀬が抜けたことで、それに偏り過ぎる(才能たちのドリブル勝負に頼り過ぎる)という傾向が強くなってしまったということです。二列目にコンバートされた山田暢久も、攻守にわたって素晴らしくアクティブなプレーは展開しているけれど、どうも「タテのポジションチェンジの演出家」というポイントでは、「まだ」うまくリーダーシップを発揮できていない・・だから、ココゾ!の場面で、仕掛けの人数を十分にかけられず、組織的なパスでの崩しがままならない・・。

 「頼り過ぎ」の傾向が強くなったのは、もちろん「それ」で大成功したゲームがつづいたからに他なりません。強力な最終守備ラインに支えられた中盤ブロックの積極的なボール奪取から素早く繰り出されるタテパス・・そしてエメルソンと田中だけではなく、両サイドの永井とアレックスが仕掛ける危険なドリブル勝負・・。そのイメージが深く浸透していることは、仕掛けのイメージシンクロという側面ではポジティブだけれど、攻撃の変化という視点では、ネガティブなところもあるというわけです。だから、自らもボールのないところで走り回ることでシンプルなボールの動きをリードできるような優秀なコーディネーターが必要になるというわけです。決して山田暢久のプレーが悪いわけではありません。ただ、いつも書いているように、攻撃の変化を演出するというイメージトレーニングは、もっと積むべきなのです。

 とにかく、この、強いマリノスとの魅惑的なダイナミックゲームは、レッズにとって、ものすごく重要な「次の段階へ進むための試金石」となりました。何せ、これまでの成功体感が否定されたのですからネ。人はネガティブな経験からしか学べないのです。だからこそ、このマリノス戦は、素晴らしく有意義な「学習機会」だった。何を学んだかって・・? 攻撃における最も重要なキーファクターは、「変化」であり「個と組織のバランス」だという事実のことです。

 これまで絶対だと思っていた武器がうまく通用しなかった・・でも、それに代わる武器をすぐに用意できなかった・・。現実を、より確実に把握できたレッズ。だからこそ、次の段階へ進むための課題も見えてきた。『理想』 マイナス 『現状』 イコール 『課題』・・というわけです。

 



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