湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第10節(2005年5月4日、水曜日)

 

スペースへ!スペースへ!(ジェフ対サンフレッチェ、1-1)・・二列目センターという限りなく自由であるからこそ難しいタスク(ヴィッセル対レッズ、0-1)

 

レビュー
 
 「今日の相手は、ハードワークを積み重ねる強いチーム・・とにかく一人ひとりの(勝負所での)動く距離が長い・・そんなレベルの高い相手に対して、よく頑張って勝ち点を取れた・・」。試合後の記者会見で、サンフレッチェの小野監督がしみじみと述べていました。コメントの内容でも真摯な姿勢を貫く小野さんにシンパシーを抱いたものです。

 このゲーム、観はじめてすぐに、やっぱりスゴイねヤツらのプレーコンテンツは・・なんて、ジェフに対するいつものポジティブなイメージを反芻していました。とにかく攻守にわたって運動量が多いし、勝負所となったら、サンフレッチェの小野監督が言っていたように、決して途中で手を抜かず、最後の最後まで全力アクションをやり通すのです。

 ・・攻撃では、ボール絡みのプレーはあくまでもシンプル&シンプル・・そしてそのプレーが、ほとんど例外なくパス&ムーブのアクションへとつながっていく・・またボールがないところでの複数のパスレシーブの動きも効果的にリンクしつづける・・要は、シンプルなパスリズムを全員が明確にシェアしているということ・・だからこそ、勝負シーンでのボールと人の動きがうまく噛み合いつづける・・もちろんそこでは、追い越しフリーランニングのオンパレード・・シンプルなリズムのボールの動きを、「スペース」を活用しながら維持することは、そんなに簡単なことじゃない・・人とボールが、クリエイティブに、そしてシンプルに動きつづける攻撃・・それこそ、本当の意味での効果的なスペース活用じゃありませんか・・

 ・・また守備でも、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)へのチェイス&チェックだけではなく、次の勝負スポットに対する絞り込みなどのボール奪取勝負もハイレベル・・1対1の勝負でも強さを発揮する・・粘りのチェイシングアクションも素晴らしい・・たしかに前半では、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対するチェックアクションが甘かったけれど、後半では、それをキッチリと修正してきた・・やはりサッカーでは守備が基本・・ディフェンスの機能性がいつものレベルまで高まった後半のジェフは、完全にサンフレッチェを凌駕する強く優れたサッカーへと変身した・・

 とはいっても、そんなジェフの高質サッカーに対抗するサンフレッチェも、攻守にわたって非常にハイレベルな組織サッカーを魅せつづけていましたよ。彼らのサッカーをどのように表現したものか・・。攻守にわたって基本に忠実なソリッドサッカーとかネ。そんな彼らのサッカーでは、やはり安定したディフェンスが特筆。相手ボールホルダーに対する素早く忠実なチェックアクションを基盤に、ボールがないところでの忠実なマーキングやスペースの相互カバーリングなど、なかなかの機能性を魅せていました。ポジショニングバランスからの「ブレイク・タイミング」は早め。そして最後の最後まで忠実にマークしつづけるのです。また、守備から攻撃への移行もスムーズだと感じました。何せ、攻撃の流れに乗ったら、誰でも最後の最後まで「行く」ことを明確にイメージしていますからね。だからフィニッシャー「候補」たちも、スピードを緩めることなく、ラストパス(ラストクロス)をイメージした最終勝負の動きを完遂できるというわけです。もちろん、この吹っ切れた仕掛けマインドは、互いの守備意識の高さに対する相互信頼がベースにあることは言うまでもありません。オレが行ったらヤツが下がってくれる・・。

 とはいっても、やはり総合力ではジェフに一日の長がある。試合の経過とともに、実質的なサッカーコンテンツの差が、実際のグラウンド上の現象(結果)の差となって現れてきます。人とボールが軽快に、そして複合的に動きつづけるジェフのサッカーに、忠実なサンフレッチェの守備ブロックが翻弄されはじめたのです。別な言い方をすれば、ジェフが展開する「常にスペースを突いていく」クリエイティブな仕掛けに、サンフレッチェ守備ブロックのイメージが追いついていかなくなりはじめたとも表現できそうです。

 ポンポンポ〜ンと、軽快に人とボールが複合的に動きつづけるジェフの仕掛け。その、シンプルな組織パスプレーを主体にした攻撃の変化には、特筆の魅力が秘められています。それに対し、その変化に(イメージ描写的に)付いてゆけず、肝心なところでマークを外してしまうサンフレッチェ選手たち。何度、決定的ゾーンでジェフに仕掛けの起点(ある程度フリーでボールを持つ選手)を演出されてしまったことか。そして後半12分、素晴らしい同点ゴールが生まれました。例によっての素早いボールの動きから一瞬フリーでパスを受けた坂本が、ダイレクトで、逆サイドでマークが外れてフリーになっていた阿部へ向けて正確なクロスボールを送り込んだのです。ヘディング一閃!

 でも現実はキビシイ。素晴らしい仕掛けを繰り出しつづけたジェフだったけれど、結局はソレを勝ち越しゴールに結び付けることは叶いませんでした。

 「オシムさんは不満かもしれませんが、ジェフは十分チャンスを作り出したと思います・・でも決め切れなかった・・日本ではよく決定力という表現を使うのですが、オシムさんはそこのところをどのように考えますか・・?」なんていう質問をしたのですが、そこで返ってきたオシムさんの答えを、私なりにこう整理しました。

 ゴールを入れるためには勇気が必要・・勝負ゾーンで横パスをつないでいるようじゃダメ・・たまには、カミカゼのように、直接的に相手ゴールを目指して突進していくような突破プレー(ドリブル突破チャレンジ?!)も必要・・組織パスプレーでの仕掛けだけではなく、そこに個人勝負プレーもミックスしていくことが肝心・・とにかく、リスクを冒すことに積極的でなければゴールを奪えない・・でもウチの選手では、身体的なパワーが乏しいから、ダイレクトにゴールを目指して突進しても、相手にはね飛ばされてしまうのがオチ・・結局最後は、選手の質というテーマに落ち着く・・

 オシムさんが言いたかったことは、多分、「チーム戦術的なレベルが高次平準化してきたら、やはり最後にモノを言うのは個人的な能力や才能だ・・ジェフでは、そんな個の能力レベルが足りない・・」ということなのでしょうネ。それについてはアグリーです。とはいっても、ジェフが、チームとして素晴らしいサッカーを展開していることも確かな事実。それに対しては、オシムさんだけではなく、ジェフ選手たちに対しても、畏敬の念と感謝を込めて心からの拍手をおくっている湯浅なのですよ。

 彼らが目指しているサッカーは(オシムさんが志向するトータルサッカーは!)本当に素晴らしいモノだし、それが(それに取り組むジェフ選手たちの真摯な姿勢とプロセスが)日本サッカーに与えているポジティブな影響は計り知れない。とにかく、数日後のレッズ対ジェフ戦を心待ちにしている湯浅なのです。

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 さてここからは、ヴィッセル対レッズ戦についても、ビデオを観ながら軽くレポートしておくことにします。申し訳ありませんが、今回もレッズを中心にネ・・。

 この試合でのレッズのテーマは、何といっても「二列目のプレーコンテンツ」。そこは、攻守にわたって限りない自由を与えられるポジションです。だからこそ、いつも書いているように、自らの強烈な意志をもって攻守にわたる仕事を探しつづけられなければ務まらない難しいタスクでもあるのです。この試合でも、まず永井雄一郎がそのポジションに就きました。永井については、このところあまり細かなことを書くのは避けていました。期待の方が先行していましたからネ。でもやはり「消えている時間」が長すぎるという事実からは目を逸らせない。たしかにボール絡みでは、誰にも出来ない価値あるプレーを魅せるけれど、全体的な「貢献度」という視点では明らかにモノ足りないのですよ。

 いつも書いているように、特にこのポジションに入る選手は、まず何といってもディフェンスからゲームに入っていかなければいけません。それも、相手ボールホルダー(次のパスレシーバー)に対する忠実なチェイス&チェックアクションという忠実(汗かき)ディフェンスを主体にして・・。それを「しっかりと全力で」遂行する意志さえあれば、その汗かきプレーをベースに、インターセプトも含む実効あるボール奪取アクションにも効果的に絡めるようになるだろうし、攻撃でも、もっと頻繁に自分が得意のカタチで「ボールに触る」ことができるようにもなるものです。でも永井のディフェンスはお座なり。またパスレシーブの動きにしても単発に過ぎる。もっともっと動きまわり、守備に絡んだり、組み立て段階でのパスレシーブとシンプルパスを基調に、自分がイメージする勝負プレーを狙いつづけなければならないのです。

 前節、大量リードを奪ってからの永井は、攻守にわたって解放された実効プレーが出来ていたけれど、この試合では「二列目のフタ」に成り下がるといったシーンの方が目立っていました。私は、レッズのサッカーが(後半の15分あたりまで)寸詰まりになっていたもっとも大きな原因は、二列目が活性化しなかったことにあると思っていました。そんな詰まり気味のサッカーに陥っていた後半22分、今度は長谷部誠が二列目に「上がってきた」というわけです(永井とエメのツートップに変更)。そして中盤の全体的な機能性が明らかに活性化していく・・。

 長谷部は、何度かそのポジションに入ったことがあるけれど、これまでは良いプレーをしたという印象は一つも残っていません。前線からのチェイス&チェック主体のディフェンスに慣れていない?! 後方から、相手ゴールを背にしてタテパスを受けることに慣れていない?! まあ、そういうこともあるでしょう。守備的ハーフとしてプレーしているときは、まさに鬼神といった活躍を魅せるのに、二列目に入った次の瞬間にはピタリと足が止まってしまう・・。

 以前わたしは、長谷部がこのポジションに入る場合、とにかく「タテのポジションチェンジの演出家になる・・」というイメージでプレーすべきだと書いたことがあります。もちろん、まず守備からゲームに入っていくというプレー姿勢を大前提にしてネ・・。そのイメージさえ明確にもっていれば、二列目という難しいポジションに入ってもプレーが縮こまったりしせず、動きにも広がりが出てくるはず・・。

 この試合で魅せた長谷部の二列目プレーコンテンツは、まさにそんなイメージで、かなり良くなったと感じました。もちろんまだまだ課題はあるけれど、以前のような「無為な様子見プレー」は少なくなったし、前線からのディフェンスの実効レベルもかなり好転したと感じたのです。彼が二列目センターにいれば、(彼の守備意識の実効レベルに対する信頼が厚い)守備的ハーフも、より積極的にオーバーラップを仕掛けられるでしょうし、両サイドも、より積極的に二列目とのコンビネーションにトライしてくるに違いない・・。

 ジェフが展開する優れた発想のサッカーを見せつけられていたから、この試合でレッズがみせた仕掛け段階でのスペース活用コンテンツに不満がつのっていました。だからこそ二列目のプレーコンテンツというテーマに絞り込んでコラムを書くことにした次第。さてギド・ブッフヴァルトは、次のジェフ戦では、どのような先発布陣で臨むのでしょう。まあ、ウイニングチーム・ネバー・チェンジという大原則からすれば、長谷部の二列目は固いところですかネ。後は、エメのツートップパートナーと鈴木啓太の守備的ハーフパートナーを誰にするのかという選択だけが残る?! さて・・。

 



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