湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第17節(2005年7月17日、日曜日)

 

悪魔の連鎖を断ち切ったFC東京・・でも実際のコラム内容はマリノスに集中しちゃったかも・・(FC東京対マリノス、4-0)

 

レビュー
 
 すごいネ。FC東京。何せ、「あの」マリノスゴールに4つもたたき込んじゃったんだから・・。とはいっても実際のゴールの内容は、セットプレーからの二発と、残り5分くらいになった時間帯で「一点くらいは返すぞ!」と前後左右のバランスを「完全に」崩して攻め上がるマリノスの虚を衝いた(それは、それは素晴らしい)カウンターによる二発だったけれどネ。

 試合後の岡田監督もサバサバしたものでした。だからこちらも、こんな質問をすることにした次第。「最近マリノスはフォーバックに変更したわけだが、その手応えは?」。それに対して岡田監督が、「エッ・・こんな結果なのにディフェンスのハナシをするの?」と、会見場に笑いを誘ったりして・・。なかなかの余裕ウイットじゃありませんか。すかさずこちらも、前述した「ゴールの実体」を述べたというわけです。そこで岡田監督の表情が引き締まり、「たしかに流れのなかで崩されていた場面はほとんどなかったと思う・・もちろんまだまだ課題もあるけれど、とにかく、より攻撃的なサッカーを目指したい・・」と真摯に答えてくれましたよ。

 会見ですが、両監督が「同じような、戦術的シーン」について述べていたのが印象的でした。まず岡田監督。「今日のウチは、ちょっと思い上がったプレーをしていたのかもしれない・・もっと相手守備ブロックのウラスペースへ放り込み、同時に忠実に押し上げて、そのこぼれ球を狙うといった泥臭い攻めも必要だった・・」。それに対して原監督。「我々は、マリノスがシンプルな攻めを繰り出してくることが心配だった・・マリノスの素早くシンプルな仕掛けは本当に危険だから・・」。

 要は、今日のマリノスは、自分たちがイメージする、流れるような組織プレーがうまく機能しなかったということです。たしかに、ポゼッションでは上回るマリノスの攻めでは、各ステーション(ボールホルダー)のボール扱いがスムーズではなく、どうもボールの動きが停滞気味でした。普段のマリノスなら、人とボールが、スパッ、スパッと、シンプルに、素早く、そして大きく動きますからネ。もちろんそれには、この試合でのFC東京のディフェンスが素晴らしかったという背景もありますがネ。

 とはいっても、FC東京のディフェンスにも、何度も「穴」が空きました。要は、動きまわる相手マークを受けわたしているうちに、どこかでフリーな相手が出てきてしまうということです。もちろんそこにパスが回らなければ、その「マーク・ミス」が目立つことはないのだけれど(サッカーはミスの積み重ね・・ミスを少なくするためのイメージ洗練プロセスこそが監督のテーマ!)、そこはマリノスですからネ、やはりスパッと「穴」を突いてくるというわけです。

 その典型的な例が、開始数分というタイミングで飛び出した、那須のフリーシュートシーン(ラストパスは山瀬功治!)。前気味のリベロとして、なかなかの機能性を魅せつづけた那須ですが、ここぞ!という状況には、思い切りよく最前線まで飛び出していましたよ。後方からの押し上げをしっかりとマークするのは至難のワザだから、その動きはまさに効果的。前気味のリベロが、攻撃でも、「消えるプレー」で決定的な仕事をしてしまう・・それでも、マリノス守備ブロック(フォーバック)が、流れのなかでトラブルに見舞われるシーンはほとんどなかった(上野と那須のあうんの呼吸!)・・。だからこそ、フォーバックに関する冒頭の質問になったというわけでした。

 あっと・・、テーマを、「攻め切れなかったマリノス」というところに戻しましょう。岡田監督が言うように、たしかに泥臭い仕掛け(≒変化のある攻撃!)が少なかったという側面もあるでしょうが、私は、「効果的な個のドリブル勝負」という攻撃の変化も足りなかったと感じていました。岡田監督が言うように、スマートなパスでの崩しをイメージし過ぎていたマリノス?! まあ・・そういうことなんだろうネ。でも、ドリブルでの切り崩しプレー(リスク・チャレンジ)が足りなかったという側面もある。要は、「フォーバック」ということで、両サイドのドゥトラと田中隼磨の攻撃参加コンテンツが、ちょっと減退気味になったということでしょう。まあ、FC東京に、あれだけ鋭いカウンターを何度も仕掛けられたら、そりゃ注意深くもなるよね・・。その意味でも、この試合は、FC東京の「ツボ」が爆発したということです。PS:フォーバックが「本物」かどうかについては、両サイドバックの攻め上がりの量と質が評価基準になるという視点もあります。それでも次の守備ブロックの前後左右のバランスが大きく崩れることがない(深くクリエイティブな守備意識をベースにした相互カバーリング!)。それこそが、本当の意味でのフォーバックの高い機能性を証明しているのかもしれないということです。岡田監督が言った「課題」にも、後方からの飛び出しに対するしっかりとしたマーキングなどの他に、そのポイントも含まれているに違いない・・。

 吹っ切れたFC東京。数週間前の彼らと比べたら、まさに雲泥の・・。一時期の、(ミスによってピンチに陥ることに対する)心配が連鎖することが原因の消極プレー傾向(心理的な悪魔のサイクル)から完全に脱却したということです。原監督は、「キレイにやろうとするのではなく、とにかく積極的にシュートを打てと言っている・・」そうだけれど、まあシュート場面だけではなく、ボール奪取勝負シーンにしても、その協力プレスのハイテンションを見ていて、以前よりは格段に「確信レベル」が向上していると感じるよネ。良かった・・FC東京が生き返った・・これでリーグがもっと面白くなる・・。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]