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ところでレッズ。本当によくドローまで持ち込みました。そのとき、これはもうダメかな・・なんてネガティブな心理に落ち込みながら市原へ向かう準備をしていた湯浅だったのです。もちろん「前半最後の20分間に魅せたサッカー」を展開できていれば別だったけれど・・。
立ち上がりのレッズは、本当によくなかった。誰も仕掛けていかない(仕掛けていけない)受け身で消極的な雰囲気がどんどん増殖していったと感じたモノです。もちろんそんなネガティブな雰囲気はディフェンス姿勢に如実に現れてきます。チェイス&チェックが甘く鈍足だから次のボール奪取勝負の狙いも鈍くなる・・だからフロンターレにつけこまれてしまう・・そして先制ゴールを奪ったフロンターレが、自信レベルを増大させつづける・・。そんな体たらくだから、ちょっと不安にかられたものです。やっぱり山田暢久では、中盤ダイナミズムの活性化をリードできないのかもしれない・・そんな沈滞ムードを打破するのは、二列目センターという、攻守にわたって限りなく自由なタスクを与えられているキャプテン山田しかいないのに・・。
でも前半も15分を過ぎたあたりから徐々にレッズのサッカーに活気が戻ってくるのです。その原動力になったのは、例によって「積極的なタテのポジションチェンジ」。その先陣を切っていたのが、言わずと知れた長谷部でした。彼も、山田のリードが十分ではないと感じていたのかもしれません。チどんどん山田を追い越して最前線へ飛び出していく長谷部。また、そんな中盤のダイナミズムに触発されるように、長谷部の守備的ハーフパートナー酒井のアクションラディウス(活動半径)も拡大の一途をたどります。もちろん山田は、この二人が飛び出していった後の穴を効果的にカバーしていましたよ。要は、機能性の高いタテのポジションチェンジによって、やっとレッズのサッカーが活性化しはじめたということです。このタテのポジションチェンジは山田がマネージしたのか、それとも長谷部と酒井の飛び出しが主導したのか・・。まあ意見が分かれるところでしょうが、私は、長谷部と酒井の「意志」が主導したとみています。
ところで長谷部。特に前半の半ば以降の時間帯では、「もしこの試合に勝ったらヤツしかMVPはいない・・」と思わせるような素晴らしいプレーを魅せつづけていました。効果的なディフェンスを絶対的な基盤に、攻撃では縦横無尽に動きまわって、シンプルパスを回したり、自分がコアになったコンビネーションを仕掛けたり、単独ドリブル勝負にチャレンジしたり、もちろんシュートにもトライしたり・・。
そんな長谷部のプレーを観ながら考え込んでいました。「何度かヤツは、はじめから二列目センターに入ったことがある・・でもそのときは、ボールがないところでの動きの量と質が低落してしまっていた・・たぶんそれは、攻撃的ハーフの場合は相手のマークが厳しくなるからだろう・・最前線からのディフェンスにしてもうまく機能していなかった・・やっぱり長谷部の基本ポジションは守備的ハーフがいい・・そこで、中盤ディフェンスをベースに、積極的に攻撃に参加していく(後方から飛び出していく)というプレースタイルの方が格段に効果的だ・・そうすれば、このゲームのように、守備でのチーム貢献という自信を背景に、後方から自由自在にゲームとチャンスをメイクできるじゃないか・・」なんてネ。
もう一人、坪井についても一言。最初は彼が、レッズの低調な立ち上がりの元凶の一因になっていると感じたものです。勝負を焦るからマークを外される・・相手のドリブルについていけない・・カバーリングも自信なさげだし、パスも不確実・・等々、とにかく彼の不安定心理プレーは、チームメイトたちに悪影響を及ぼしていると感じたのですよ。私も経験あるけれど、大きなケガをして復帰したときは、さまざまな心理的な壁を乗り越えなければならないものです。もちろんそれには、「エイヤッ!」という吹っ切れた(また冷静な!)心理状態になることも必要になります。にもかかわらず、ゲーム立ち上がりの坪井のプレー姿勢はあまりにも中途半端。これは時間がかかるかもしれない・・なんて不安に思ったものです。
でもそんな彼が、「ある一つのプレー」で見事に蘇るのですよ。それは、前半35分のこと。ジュニーニョのドリブルにねばり強く食らいつき、最後は得意の安定アタックでジュニーニョの仕掛けを確実に潰してしまったのです。オッ! そのとき心のなかで声を出していました。そして実際に、そのシーンをキッカケにして、彼のプレーが格段に安定してきたのです。焦らずにまず安定した守備ポジショニングを取る。そんな安定守備プレーなかで、クレバーなポジショニングで相手の勝負コースに入り込んでボールをクレバーに奪ってしまうというシーンまで演出してしまう坪井。そんな自信の高揚が攻撃に好影響を及ばさないはずがない。後方からのパスに自信が乗る・・スペースをタテにつなぐドリブルにも勢いがある・・だから周りも、次のパスを受けるためのアクションを起こす・・。
この試合は、様々な意味で、レッズにとっての良い学習機会になったと思っている湯浅なのです。山田暢久にとっても、長谷部にとっても、酒井にとっても、坪井にとっても、坪井同様に、この試合のなかで自信を回復させはじめたエメルソンにとっても・・。エメルソンは、完全に勝負プレーの感覚を鈍らせていました。ボールの運び方も中途半端だし、相手が届くところにボールをコントロールしてしまったりする・・等々。でも徐々に、ボールの「コントロール範囲や方向」の効果レベルが上がっていったと感じたのです。だからこの史相手は、エメにとってもよい学習機会になった・・?!
さて、後半最後の時間帯に、私が「これはダメかもしれない・・」と感じていた理由。それは、その時間帯でのレッズのサッカーが、ごり押しの力づくになっていたからです。それでは、フロンターレ守備ブロックを崩し切るところまでいけないのも道理。勢いよく攻め込んではいたけれど、前半の半ば過ぎに魅せたような(相手守備ブロックのウラを突いていけるような)質の高い仕掛けが消え失せてしまったのですよ。もちろんそれは、スペースを使えていないからに他なりません。要は、ボールがないところでの動きが、攻めの人数がたくさんいるということで(?!)止まり気味になっていたということでしょう。何度も、山田やアレックスが、パスが出てから相手ディフェンダーと一緒に反応するなんていうシーンを目撃させられましたよ。それも、完璧な最終勝負シーンですからね。そこでは、スペースへ動くしかないだろう・・なんて憤ることしきりの湯浅だったのです。そんなこともあって、これはダメかもしれないなんていう心理になってしまった・・。
またその他でも、パスのリズムが悪いということもありました。要は、ボールをもったときの「こねくり回し」が多いから、そこでボールの動きのリズムが途切れてしまうということです。ドリブルでタテへ勝負していくのならば、最終勝負のリズムはあるけれど、それが仕掛けの組み立て段階だったら、ちょっと興ざめだということです。あっと・・、その視点で、ジェフ市原・千葉は、本当によくトレーニングされたチームだと思いますよ。
私は、「スゴイナ〜〜・・タイシタモンダナ〜〜」なんて、ジェフのサッカーを観ながら感じていたモノです。何人もの才能を放出したにもかかわらずの、相変わらずの高質サッカーですからね。ンプルなリズムの組織プレーをベースに、基本ロジックに忠実な攻守にわたる積極アクションを積み重ねていくジェフ。だからこそ、攻守アクションが有機的に連鎖しつづける・・。いや、本当に大したものです。
ヴェルディーのオジーさん(アルディレス監督)は「タッチ&パス」という表現をしますが、要は、素早く広くボールを動かすという「組織プレーリズム」が、相手守備ブロックのウラスペースを突いていくのにいかに大事かということです。そのリズムが安定していれば、確実に、ボールがないところでのアクションも活性化し、スペースでの勝負も格段に効果的なものになるでしょう。パスが出てくるリズムが安定しているからこそ、パスレシーブの動きも活性化するというわけです。そのメカニズムに対する理解がジェフには深く浸透しているのですよ。もちろんそれは、安全な横パスをつなぐといった消極的なものじゃなく、積極的に(安定した素早いタイミングで)タテパスを出すなど、リスクへのチャレンジも含めてネ。
「主力を何人も放出したにもかかわらず、チームのサッカー内容自体は、いまでも高いレベルで維持できている・・その秘密はどこにあるのですか?」。試合後の記者会見で、イビチャさん(オシム監督)にそんな質問をしてみました。「ウチのサッカーが良いというのはアンタの評価だろ・・それが一般的なものかどうかは分からないからね・・ジェフは、選手を高く売らなければマネージメント的にうまく回らない(経済的に弱小の)クラブなんだよ・・まあ、アンタが言うようにサッカーの内容がうまくいっているとして、その背景には若い選手が伸びているということもあるな・・もちろん絶対的な選手の質は不足気味だというのは確かなことだよ・・リーグは発展しているから、このままでは、ジェフの置かれているポジションはどんどん厳しいものになっていくだろう・・」。
本当は、「最高の才能たちを、攻守にわたって一生懸命に走らせ、組織プレーにも精進させることは、どんなコーチにとっても一番やりたい仕事だと思うのですが・・」という質問をぶつけてみたかったのですが、結局「そこ」までたどり着けませんでした。まあ、イビチャさんにそんな質問をしても、「いまある才能レベルに最高の組織パフォーマンスを発揮させるという作業も、素晴らしく魅力的な仕事だよ・・」と答えるに違いありませんけれどね。とにかくイビチャ・オシムさんは、日本サッカーの将来にとってものすごく大事な存在です。その貴重なノウハウを確実に正確に記録し、継承していくことが、これからの日本サッカーにとってものすごく重要な意味を内包していると確信している湯浅なのです。
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ところで、今度「BSジャパン」ではじまる新しいサッカー番組(正確な番組タイトルなどはまだ知りませんが・・)において、私が、各クラブや日本代表の監督と対談するという企画が進行しています。まあ、まだどうなるか分かりませんが、実現したら面白い。とにかく、常にポジティブなマインドが全面に押し出されるような楽しいディベートに発展させられれば、それほど嬉しいことはありませんし、日本サッカーにとってもプラスになるモノに出来るかもしれないと期待しているのです。もちろん監督さんたちが、その対談企画を受け容れてくれればのハナシですがネ・・。