湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第21節(2005年8月27日、土曜日)

 

「しつこい」意識マネージメントが復活のキーポイント・・(ヴェルディ対アントラーズ、2-0)

 

レビュー
 
 「湯浅さん、どうですか、バドンの采配は・・?」

 帰り際にはち合わせした北澤豪からそんな声をかけられました。彼のことは、読売サッカーコーチ時代に、中学生チームの選手として指導したことがありました。「いいじゃない・・とにかく選手たちの意識を改革しているよな・・北澤も知っているように、その意識改革っていうのはチームの体質改善ということだよな・・何人かのベテランは、自分たちのペースとやり方でサッカーをしたいんだろうけれど、バドンのもとじゃ、そんなことは許されない・・大事なことは、その事実に対する理解が、徐々にチームに浸透しはじめているということだよな・・」なんて、一気にまくしたてちゃいましたよ。私にとっても、ヴェルディが再生するのは嬉しいことなのです。とにかくバドンは、チーム内の雰囲気(体質)を変えつつあると感じます。そのことが平本や小林大悟、相馬といった若手のマインドを大いに活性化させているということです。

 試合後の記者会見で、バドンさんにこんなことを聞いてみました。「攻撃では、グラウンドを大きく使うために、もっとサイドを活用するという意識を植え付けてきたということですが、たしかに選手たちのプレーからは、その意識が明確に見えるようになっています・・それでも、上手い選手たちが集まっているから、頑固な側面もあるに違いない・・そんな、こだわりの選手たちに、シンプルにプレーさせたりサイドを意識して使わせたりすることのコツは、どんなところにありますか?」。

 「それには二つあります・・一つは、とにかく同じことを言いつづけること・・そして二つ目が、トレーニングにおいて、繰り返しサイド攻撃をくり返すことです・・皆さんがヴェルディのトレーニングに来たら、イヤというほどサイド攻撃をみられますよ・・」なんて、私の質問に即答してくれました。ここで大事なキーワードが「しつこさ」。しつこくサイド攻撃の有用性を説き、しつこく練習させる。このキーワードは、ドイツ希代のスーパーコーチ、故ヘネス・ヴァイスヴァイラーだけではなく、このところ何度もハナシを聞かせていただいた日本サッカーの恩人デッドマール・クラーマーさん等、とにかく優れたプロコーチが常に強調しているファクターです。

 「ヴェルディの選手たちは、優れたテクニックを持っているのだから、優れたチームプレーを支えるための大事なファクターをしっかりと実践させれば素晴らしいサッカーができるようになるということさ・・そのことをバドンが実践させているということだろう・・しつこく、しつこく、言ったり、やらせたりしてネ・・」。北澤に、そんなことも言っていました。

 「ところで湯浅さん・・先日ドイツへ行ってきたんですよ・・バイエルン・ミュンヘンの練習を視察させてもらいました・・スゴイですね、フェリックス・マガート(バイエルン・ミュンヘン監督)・・とにかく妥協せずに、スターたちにハードトレーニングを課していましたよ・・自分自身で、メディシンボールを持って率先して走りながら・・いや、すごい迫力でした・・」。

 そうか、北澤も、世界中のトップサッカーの現場で様々な体感を積み重ねているということか。もちろん優れたプロコーチになるために・・。「そうそう、フェリックス(マガート)も、選手時代は良い監督の下でプレーしたから、選手との闘いという現象の意味を良く理解しているということだよな・・良い監督は、とにかく、継続する忍耐力がある・・」。

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 とにかく、この試合でもヴェルディは、順調に復活ベクトル上にあることを証明してくれました。魅力的なだけじゃなく、勝負にも強いサッカー。ヴェルディ好調の背景要因としては、まず何といっても監督の意識付けが上手いということを挙げなければなりませんよね。そのことで、守備に対する意識が着実に活性化しているだけではなく、攻撃でも、ボールがないところでのアクションが活性化することで、人とボールを、素早く、「広く」動かすことに対する意識が格段に向上したと感じます。

 それに対してアントラーズのサッカーは、相変わらずの「規格サッカー」。以前には、イタリア的なんていう表現も使ったかもしれません。

 「あまり面白くないよネ・・ヴェルディは、勇気のあるドリブル勝負が何度かあったからよかったけれど、アントラーズは、何かこうプランばかりが先行しちゃって、選手たちのプレーも縮こまっていると感じるんですよ・・やっぱり、リスクを冒さなくちゃプロじゃないし、そんなところに観客が魅せられるのにネ・・」。この試合を観戦した知り合いのビジネスマンの方が、前半を見終わった印象を、そんな風に表現していました。この方は、優れたマーケッター。価値交換(市場価値)の意味を深く理解している方です。

 要は、ヴェルディの方が、プロに対する市場の期待値(期待される価値)を、より満たしているということです。それにしても、プランイメージばかりが先行しているといった、この方のアントラーズサッカーに対する表現が上手い。私もそう思いますよ。前後左右のポジショニングバランスを極力最後まで崩さずに相手オフェンスを受け止め・・ボールを奪い返したら、まずロングパス一本か必殺カウンターを狙う・・それがダメなら、バランスを崩さずに全体的に押し上げることで(要は、相手も全体的に下げさせる状態にすることで)、「次のディフェンス」に上手く対処できるように攻撃を組み立てていく・・そして、タメにタメて「最終勝負の爆発アクション」を仕掛けていく・・もちろん、確信レベルが極限まで高められたセットプレーという武器も健在・・それこそ、イタリアサッカー!?・・。

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 とにかくバドンさんの「指導力」に期待ですね。彼によって、上手いベテラン連中も心を入れ替えるかもしれないしね。これからのヴェルディが展開するサッカー内容に注目しましょう。大いなる学習機会が横たわっている気がします。

 明日は一日中所用で外出です。グランパス対レッズの試合については、月曜日にビデオで確認してレポートすることにしましょう。とにかく、やっと優勝戦線が面白くなってきました。さて、これからだ。

 



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