湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第23節(2005年9月11日、日曜日)

 

高揚しつづけるジェフの勝者メンタリティー・・バドンによって再生・発展を遂げつつあるヴェルディ・・(ジェフ対ヴェルディ、1-0)

 

レビュー
 
 昨日のゲームとは違い、充実した見所コンテンツが詰め込まれたエキサイティングマッチになりました。「負けたときのコメントも用意していたよ・・もちろん今ここでそれを披露しようとは思わないけれどネ・・」。試合後のイビチャ・オシムさんのジョークだったのですが、たぶん半分本気だったに違いありません。まさにその言葉通り、最後まで、どちらに転んでもおかしくないゲーム展開だったのですからね。

 立ち上がり、いきなり攻め込むジェフ。例によって、ボールがないところでのアクションが、抜群の「有機的な連鎖」を魅せつづけます。その有機連鎖に、ボールの動きが効果的に重なり合いつづけることは言うまでもありません。とにかくジェフ選手たちは、全員が、「あのスペースでパスがもらいたい・・」という描写イメージを原動力に、まさに自動的にアクションに入っていると感じるのですよ。走ることは、考え続け、リスクへチャレンジしつづけることと同義・・。イビチャ・オシムさんが描くそんなフィロソフィーの発露・・ってな具合。もちろん、そのほとんどが「ムダ走り」に終わるのだけれど、選手たちは、それを至極当然のこととして受け容れ、何度でも繰り返す。もちろんそれは、その「ムダ走り」に対してオシムさんが格段の価値を置き、それを一つの重要な評価基準にしているからに他なりません。もちろんオシムさんは、そのことを選手たちが実感・体感できるように、様々なカタチで表現していることでしょう。これだからジェフの観戦はやめられない・・。

 とはいっても、その後のゲーム展開は、我々の期待とは違ったモノに変容していったのですがネ・・。「正直いって、ヴェルディの選手たちがこれ程のレベルにあるとは思っていなかった・・選手個々の質からすれば、確実に我々よりも上だろうな・・」。これもまた、オシムさんの興味深いコメントなのですが、まさにその言葉通り、立ち上がりのジェフ攻勢の後、今度はヴェルディが、個人勝負と組織コンビネーションがハイレベルにバランスした高質なサッカーでジェフを押し込みはじめたのです。

 ヴェルディ選手たちが高い個の能力を有していることは衆目の一致するところでしょう。ただこれまでは、「それ」を効果的に表現するためのチーム戦術的なベースに欠けていた。そのもっとも重要なモノが実効ある中盤ディフェンスであることは言うまでもありません。その視点で、戸田和幸の存在は、殊の外大きな価値を誇示していると思います。労を惜しまないチェイス&チェック・・ボールがないところでのマーキングや、インターセプト狙い・・また次の協力プレスに対する忠実なポジショニング等々。その中盤ディフェンス貢献度は群を抜いています。また攻撃でも、後方からのタイミングのよいシンプル展開パスを供給するとか、仕掛けコンビネーションの起点になるとか、実効あるプレーを展開していました。これまでは、まさに「そこ」に、ボールをこねくり回し、攻め上がりのダイナミズムを沈滞させていた後ろ向きの連中がいたわけだから・・。とにかく、戸田が展開するシンプルタイミングの「タテへの展開パス」こそが、ジウ、小林大悟や平本、また両サイドバックの仕掛けプレーに本物のエネルギーを与えていたと感じていた湯浅だったのです。

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 さて、その後の、ヴェルディがイニシアチブを握りつづけるゲーム展開だけれど、私は、後半の半ば過ぎまで、「まあ実質的な勝負の行方はどちらに転んでもおかしくないけれど、チャンスの量と質ではヴェルディに軍配が上がることは確かだな・・そのうちの何本かは、ゴールにならない方がおかしいという決定的なものだった・・とはいっても、ジェフにしても、そんな展開のなかでも、着実にチャンスをシュートへ結び付けているし、決定的なシーンも演出している・・要は、勝てるという確信を心理パワーのリソースに攻め上がりつづけるヴェルディーに対し、我慢のジェフといったところかな・・」ってな、ゲーム展開の表現を考えていた次第。ただそんなゲーム展開が、オシムさんが仕掛けた選手交代によって、ガラッと様相を変化させていくのですよ。

 「あの交代(水野と工藤の投入)によって、試合の流れが大きくジェフに傾いていったと思うのだが・・」。そんな私の質問に対し、最初はちょっとはぐらかしていたオシムさん。でも最後は、「選手たちは、常に良いプレーをやろうと心がけている・・」という貴重なコメントで締めくくってくれました。まさにその発言にこそ、ジェフのチーム内体質に対するオシムさんの自負が込められていたというわけです。健全なライバル関係・・。それによって生み出される心理パワーは、立石の神がかり的なゴールキーピングや、交代出場した選手たちの全力プレー(自己主張!)にも如実に表現されている・・。

 中盤からの爆発的なボール奪取勝負や、目の覚めるようなドリブル勝負など、交代した水野と工藤が主張しつづける「積極的なリスクチャレンジプレー」。それがチームに元気を与えたことは誰の目にも明らかだったでしょう。そして「それ」をキッカケに、ジェフ選手たちの守備と、攻撃でのボールなしのプレーが活性化された。そして、その流れのなかから決勝ゴールが生まれ、その後も、ヴェルディが繰り出す怒濤の攻めを、しっかりと受け止めた・・。まさに自ら奪い取った「勝ち点3」。勝者のメンタリティーを着実に充実させるためのは、大変な忍耐がいるものなんですよネ・・。

 さて、負けたとはいえ、魅力的なダイナミックサッカーという「コンテンツ」で存在感を誇示したヴェルディ。前節のガンバ戦にしても、この試合でも、内容的には納得できない敗戦を喫したバドン監督は、厳しい表情で記者会見に臨んでいました。それでもコメントは、強者のソレでした。「やることが明確で、質の高い、まとまったチームが勝利をおさめた・・それでも、ヴェルディの方が良いチャンスを作り出した・・ただそれをゴールに結び付けられなかった・・」。バドンさんによって確実にサッカーの質が高揚しつづけているヴェルディ。これから彼らと対戦する上位チームは戦々恐々としていることでしょう。

 さて、またまた学習機会の対象チームが増えた・・。これからの展開が楽しみじゃありませんか。

 



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