湯浅健二の「J」ワンポイント


2005年Jリーグの各ラウンドレビュー


 

第29節(2005年10月30日、日曜日)

 

これからFC東京と当たるチームは大変だネ・・でもまず梶山陽平から・・(FC東京対ガンバ、2-1)

 

レビュー
 「そうですね・・確かに伸びていると思いますよ・・もちろんまだまだ課題も多いけれど、守備意識も充実してきているし、このままのペースで大きく飛翔して欲しいと思っているんです・・」

 試合後の記者会見。ゲームについての雑感は後でまとめるとして、このコラムでは、まず私のメインテーマから入ることにしました。梶山陽平・・。これまでは、FC東京の試合を観戦するたびに溜まるフラストレーションの元凶だった梶山陽平。もちろんそれは、彼が大いなる才能を天から授かっているからに他なりません。才能があるのに全力でプレーしない・・だから発展を加速させられないし、本物のブレイクスルーを遂げられない・・。それほど私の神経を逆なでする現象はありません。そんな梶山だったけれど、ここにきて、徐々に、ブレイクスルーを志向するイメチェンの雰囲気が出てきたのですよ。前節のヴェルディとのダービーマッチでも素晴らしいプレーを披露したとか。だからこそ注目し、原監督に対しても、「梶山は良くなっていると思うのですが、原さんの評価を聞かせてください・・」という質問をしたというわけです。

 私の質問のなかには、「安易にアタックして置き去りにされたりとか、ボールがないところでの守備がまだまだだといった課題も多いけれど・・」というニュアンスも挿入しました。攻守にわたる全体的な運動量とその質・・守備での実効レベル・・攻撃での吹っ切れたリスクチャレンジなどなど・・たしかに課題は山積みだけれど、そんなネガティブ評価がまず私のアタマのなかを占拠してしまうほど、梶山が秘めるキャパシティー(可能性)には「レベルを超えた何か」が内包されているのですよ。要は、「これさえクリアすれば、確実に世界に通用するフットボーラーになれる・・そんなキャパがあるのに、どうも発展スピードが鈍すぎる・・もっと自覚しろよ!!・・等々」ってな熱い感情が沸き立ってしまうということです。

 ボールを持った相手に対するクレバーな追い込みと、相手からボールを奪い取るハイレベルなテクニック・・相手の次のプレーを予測する高い能力(=インターセプトや相手トラップ瞬間のアタック、はたまたボールがないところでの実効マークなどの基盤!)・・攻撃では、抜群のボールキープ能力(相手のアタックエネルギーを逆手に取る切り返しは秀逸!)・・変幻自在のパス能力・・相手に対して脅威の感情を抱かせるに十分なドリブル突破能力・・そして鋭敏なシュート感覚・・等々。本当に、その希有な潜在能力には目を見張らされます。でも、どうも発展に対する意欲が明確に見えてこない・・。たぶん自分の主張を前面に押し出すタイプじゃないんだろうネ。でも「それ」じゃ決して一流にはなれない。サッカーは狩猟民族のスポーツなんだゼ、梶山陽平っ!! もっと自覚をもって自己主張し、攻守にわたるリスキーなプレーにもガンガンとチャレンジしろっ!! まあ私が言うことじゃありませんが、とにかく才能が伸び悩むことほどフラストレーションが溜まる現象はありませんからね。ねえ・・原さん・・。

 さてゲーム。まあ一言で表現したら、FC東京の完勝・・ってなところですかね。もちろんガンバも何度かチャンスは作り出したけれど、東京が演出したチャンスの量と質からすれば、まさに「相手を凌駕したFC東京」という表現がふさわしいゲームコンテンツではありました。

 前半は、大きな動きが起きそうにない展開という流れでしたかね。ガンバがコーナーキックから挙げた電光石火の先制ゴール以降は、両チームのディフェンスの方が目立つばかりだったのですよ。もちろんリードされたFC東京の方が積極的に攻め上がってはいったけれど、どうもチャンスのニオイが薄い・・。そんな膠着状態だったからこそ、馬場のロングシュートが強烈なインパクトをぶちかましたというわけです。その凄いシュートを体感しながら、「そうそう・・近頃のサッカーでは守備が堅くなっているから、最初から中距離シュートをイメージした組み立てがあってもいいよな・・そうすれば、逆にサイドからの仕掛けとか中央突破チャレンジの可能性も広がるはずだし・・もちろんそれしかないというステレオタイプになっちゃったらダメだけれど、一つの確固たる仕掛けイメージを選手たちが共有するのは大事なことだよ・・もちろん、あくまでも一つの攻め手としての中距離シュートであって、攻撃のもっとも大事なコンセプトである変化イメージを減退させない程度にネ・・難しいね、サッカーは・・とにかくサッカーのもっとも大事なコンセプトは、何といっても、様々な意味を内包するバランスという言葉に集約されるからネ・・」なんて、その素晴らしいキャノンシュートを見ながら、そんなところにまで思いを馳せていた湯浅だったのです。

 さて「1-1」で迎えた後半。そこでは、FC東京という暴風が吹き荒れました。チャンスメイクの量と質で、完全にガンバを凌駕するFC東京。サイド攻撃だけではなく、ワンツーからの中央突破やドリブル勝負とか、とにかく攻撃の変化ファクターがテンコ盛りでした。何度、完璧なシュートチャンスを演出したことか。「昨日のマリノス対ヴェルディ戦は、どちらかといったら注意深いサッカーだった(詰まらないサッカーだった)・・ただ俺たちは、とにかく吹っ切れた攻撃サッカーをやるということでチーム一丸になっていた・・」。原さんの言葉にはパワーがみなぎっていましたよ。まさに、どうだ見たか!という自負の塊っちゅう雰囲気。その自負は、まさに勝ち取ったものでした。誰でも、ボールを奪い返したヤツは、仕掛けの最終段階までどんどん行け・・なんていうことでチーム戦術的なイメージが統一されていたということだけれど、とにかく中盤から前へかけての縦横無尽のポジションチェンジは見応え十分でしたね。梶山が上がっていく・・馬場が下がって後方支援に当たる・・同時に金沢がオーバーラップし、戸田とタテのポジションチェンジを敢行する・・ってな具合。また忘れてはならないのが、最前線からのダイナミック守備をベースに、攻守にわたって獅子奮迅の闘い(素晴らしい実効レベル!)を魅せつづけたルーカス。彼には、心からの「レスペクト」を捧げなければいけません。外国人プレイヤーの鑑(かがみ)です。とにかく後半のFC東京が魅せた攻撃は、まさにダイナミズムそのものでした。そしてもちろん、その絶対的なベースは守備意識にあった・・。

 「この試合では、とにかくガンバのスリートップをしっかりと抑えるだけではなく、そこにパスが来ないようにすることが第一のテーマだった・・とにかく、フェルナンジーニョとアラウージョをイライラさせれば大成功だと思っていた・・そして実際に、ガンバの強力な攻めを抑え込むことができた・・」。原監督が胸を張っていました。まさにその通り。この試合でFC東京が繰り広げた守備は、前述したルーカスの、最前線からの全力チェイス&チェック&実効ボール奪取勝負が放散するスピリチュアルエネルギーに代表されていましたよ。もちろん今野が展開する忠実でねばり強いディフェンスも秀逸だったし、茂庭とジャーンがリードする最終ラインも素晴らしいダイナミック守備を展開しました。もちろん阿部も馬場も、戸田も鈴木も・・。

 やっと調子の回復基調がホンモノになってきたFC東京。これから対戦する相手は大変だよネ。それにしても、梶山陽平には、「今の二倍は走れ!」とか「もっとねばり強く守備をしろ!」、はたまた「クレバーなキープのなかに、もっと強引なドリブル突破もミックスしろ!」だとか、もっともっと「喝」をいれきゃ。もちろん、前向きのモティベーションという意味でネ・・。

 



[トップページ ] [湯浅健二です。 ] [トピックス(New)]
[Jデータベース ] [ Jワンポイント ] [海外情報 ]